「会田誠 展」 ミヅマアートギャラリー

ミヅマアートギャラリー目黒区上目黒1-3-9 藤屋ビル2、5階)
「会田誠 展 - ワイはミヅマの岩鬼じゃーい!! - 」
9/3-10/4



タイトルからしていかにも会田らしいぶっ飛んだ内容を期待してしまいますが、実際には随分とまとまった、言い換えれば至極真っ当な展示で拍子抜けしました。国内では3年ぶりとなる会田誠の個展です。ミヅマでの展示を見てきました。

お出迎えは何とも可愛らしく両手を振り、来場者に挨拶するようにしてそそり立つ、「モコモコ」(2008)ですが、それに続くのは浜美の源氏物語展の出品作でも連想させるような『風雅』な書画、「日本語」です。金砂子の舞うような美しい紙上を、あたかも光悦が手がけたような風雅な書体にて、もはやかの世界では『古典的』とも言えるような単語がつらつらと描かれています。またこのような換骨奪胎を思わせる作品としては、額装された紙片が壁一面に整列する「判断力批判批判」も挙げておくべきでしょう。こちらは言うまでもなくカントの大著、判断力批判の日本語訳を素材にしたものですが、それが各ページ毎に切り取られ、その上にはカントのテキストに『相応しい』イメージが色鮮やかに描かれています。率直なところ、以上二点とも、元々の素材自体が持っている存在感を超えた部分を見いだせませんでしたが、そのような控えな切り口でそれこそ『批判』するのも会田の持ち味なのかもしれません。見ていてどこか照れくさくなってしまうような作品でした。

5階の段ボールのオブジェの世界は、むしろ意外感さえ受けるほど統一感のとれたインスタレーションです。結局、一番楽しめたのは、2階の少女の作品でした。この手の画題をとると、さすがに有無を言わさない迫力が感じられます。

満員の観客を期待させつつ、会田はあえて「三振」(公式HPより。)を狙っていたのかもしれません。ただし一観客から言わさせていただければ、岩鬼ではなく殿馬なら、もう少し『秘打』を見たいところでした。

10月4日までの開催です。
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「津村陽子 展」 青山|目黒

青山|目黒目黒区上目黒2-30-6
「津村陽子 展」
9/13-10/4



2006年のVOCA展以来、初の個展となる津村陽子の新作展です。抽象と具象の間に揺れる独特の景色が、のびやかでかつ颯爽としたタッチと、統一感のある色遣いにて示されていました。

展示されているのは、青山|目黒のあっけらかんとした空間にも似合う、「エクストラ」や「サイレン」などと名付けられた、大小様々な計15点のペインティングです。大振りのタッチが様々な色面を象り、そこへ時折アクセントを与えるかのような謎めいた線によるモチーフが散らばっています。それらは例えば雪原や森林、それに氷山とも言えるような多様なイメージを想起させますが、画面からわき上がる色の渦は何やら野見山暁治のようでもありました。直感的に入り込める雰囲気は悪くありません。



過去作品が紹介されている冊子を見る限りでは、以前よりも色や形に統一感が生まれてきているようです。率直なところ、やや絵から突き抜けないもどかしさを感じましたが、あまり冒険しない、比較的押さえられた色味やイメージなどに緩やかな光を見るような気もしました。

10月4日までの開催です。
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「北斎DNAのゆくえ」 板橋区立美術館

板橋区立美術館板橋区赤塚5-34-27
「北斎DNAのゆくえ」(前期)
9/6-10/13



希代の絵師、北斎とともに、その一門を形成した多数の弟子たちの業績を辿ります。板橋区立美術館での「北斎DNAのゆくえ」へ行ってきました。

紹介されている絵師は以下の通りです。(約30名。)さて何名ご存知でしょうか。

葛飾北斎、蹄斎北馬、魚屋北溪、葛飾応為、辰女、菱川宗理、柳々居辰斎、昇亭北寿、柳川重信、抱亭五清、卍楼北鵞、二代葛飾北斎、二代葛飾戴斗、北泉戴岳、葛飾北明、葛飾北岱、大山北李、斗雷、戴雅堂一僊、雷山、葛飾北一、安田雷洲、蛟斎北岑、本間北曜、一昇、北鼎如蓮、岳亭春信、葛飾北雲、春好斎北洲

門人が全部で80人以上いたと推測される北斎のことです。実際、ずらりと並ぶ絵師の名を覚えるのも大変ですが、そこはいつも観客の目線に立つ板橋区立美術館なので余計な心配はいりません。今回『北斎DNA度』まで記した、かの名物キャプションをはじめ、北斎の絵の特徴と門人の関係を文章で記す特設コーナーなど、その全貌を明らかにする工夫がいくつかとられていました。もちろん門人の中には生没年不詳、さらには言われも不明といったような謎な人物も多く含まれていますが、北斎に影響され、模倣、時には全く異なった画業へと進展した、実に多様な『汎北斎』の世界を楽しむことが出来ます。ありそうでなかった好企画です。



既に前期展示は本日で終了していますが、北斎が15点ほど出品されていました。その中では、あの伝説的な東博の北斎展での記憶も新しい「西瓜図」をはじめ、ぎょろりと睨む鷹の目に、北斎らしい力強さと剽軽さを感じる「粟に鷹図」、さらには燃え盛る炎の上を全裸女性が逆さ吊りになっている「拷問の図」などが印象的です。ちなみにこれらの三作は全て館外のコレクションによっています。板橋というと館蔵作品の展観というイメージもありますが、今回は全体のうち約6割ほどが東博、尚蔵館、MOA、千葉市美、熊本県立美術館などの作品で占められていました。(出品リスト)その辺も見所の一つです。



メインはやはりバラエティーに富んだ門人たちの作品にあるのでしょう。北斎の娘とされる辰女の「盛夏娘朝顔を眺める図」は、キャプションに北斎DNA度100%と認定された、まさに北斎の画風をそのまま伝える作品です。また一風変わったものとしては、ろうけつ染めで着物と萩を染め抜き、そこへ手彩色を加えたという抱亭五清の「粧い美人図」がおすすめです。金色にも輝く着物の柄が、まるでダイナミックに流れる滝壷のようにうねり落ちています。足元にのぞく赤い衣装もまた小粋でした。



変わり種と言えばもう一点、安田雷洲の「赤穂義士報讐図」も見逃せません。安田は詳細こそ不明ながらも安政期に活躍した画家とのことで、既に西欧画の影響も受けていますが、上記図版画像を参照しても明らかなように、この奇怪極まりない表現を前にした時にはしばし言葉を失いました。画題は赤穂義士、ようは忠臣蔵とのことで、この作品でも吉良の首を挙げて喜ぶ浪士たちの様子が描かれていますが、その背景の暗鬱感の漂う夜空と木立はもとより、劇画風の人物、またはその陰影などは、明らかに明治以降の近代日本画を先取りしたような描写を見て取ることが出来ます。ちなみにこの作品は新約聖書の一節、「羊飼いの礼拝」の場面を置き換えて描かれたのだそうです。これは不気味でした。

30日よりの後期展示ではMOA所蔵の重文、「二美人図」の出品も予定されています。あの空いた環境で北斎の名品を楽しめる機会などそうないかもしれません。

板橋区立美術館では恒例の記念講演会も絶賛開催中です。10月には小林忠や辻惟雄の各氏といった、豪華な講師陣が北斎について講演します。私も出来れば聞きにいきたいです。

10/5(日) 14:00~15:30 「私の好きな北斎」 小林忠
10/11(土) 14:00~15:30 「私の北斎観」 辻惟雄

10月13日までの開催です。
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都響定期 「ブルックナー:交響曲第6番」他 ストリンガー/デュメイ

東京都交響楽団 第667回定期演奏会Aシリーズ

ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲
ブルックナー 交響曲第6番

指揮 マーク・ストリンガー
ヴァイオリン オーギュスタン・デュメイ

2008/9/25 19:00 東京文化会館5階



世界的ヴァイオリニスト、オーギュスタン・デュメイが東京都交響楽団と共演します。当日券で行ってきました。文化会館での定期演奏会です。

コンサートやCDリリースなど、積極的な音楽活動でその名を轟かせるデュメイですが、彼の演奏を端的に示せば、実に即物的で、若干の音程を除けばほぼ完璧だったと言えるのではないでしょうか。音の中央を太い鋼の棒が貫いているのではないかと思ってしまうほど逞しく、また輝かしい中音域をはじめ、オーケストラを簡単に圧倒してしまう超ど級のフォルテッシモから、棘の生えるかのように研ぎすまされた怜悧なピアニッシモなど、その長身の体躯を生かして、ベートーヴェンのコンチェルトなど全く相手とせずと言わんばかりに、難なく弾ききってしまいます。ここにオーケストラとの対話や掛け合いを楽しむ協奏曲の妙味はなく、もはや完全なるデュメイの独奏会と化していました。率直なところ、好き嫌いの観点から述べれば、私は今回こそ心に響かないヴァイオリン独奏を聴いたのは初めてですが、逆にその完全性において極めて高度な位置に指し示され、圧倒的な演奏に接したのも初めてでした。ただしデュメイの名誉のために、演奏後の拍手は割れんばかりのものであったことを付け加えておきます。聴衆の反応は良かったようです。

さて一曲目では完全にデュメイの陰に隠れてしまった感もある指揮者、ストリンガーですが、失礼ながらも、メインのブル6を見通しのよい、いわば清涼感のある演奏で思いのほか楽しませてくれました。月刊都響によれば、ストリンガーはブル6において、ボウイングや強弱をかの巨匠、ヨッフムの指示を加えたとのことでしたが、確かに総じて素朴で、また全く奇をてらうことのない、安心感のあるブルックナーが実現していたと思います。またそもそもこの第6交響曲自体が前半部分、ようは1、2楽章に重きの置かれるような構成をとっていますが、ストリンガーもその部分の良さを素直に引き出すようなアプローチであったのではないでしょうか。白眉はもちろんアダージョです。テンポを落とし、一つ一つの旋律を熱意をもって、しかしながら決して浪花節になることになく、落ち着きを払って奏でていきます。また音楽の四隅をきっちりと揃えるストリンガーは、ブルックナーの緩徐楽章からどこか都会的で整然とした響きを引き出すことにも成功していました。幽玄さ、または大自然を思わせる雄大さとは反対の方向にありますが、私は彼のアプローチを支持します。あえて言えば、スケルツォ以降はやや先を急いだ感も受けましたが、フィナーレまで一貫した音楽作りが出来ていました。

都響がまた充実しています。やや不安定なホルンをはじめ、金管はストリンガーの指示にもよるのか、やや伸びやかさが足りないような気もしましたが、木管の表情は細やかで、瑞々しいヴァイオリンとともに無理ないスケールでまとまっていました。

ところで既に都響公式HPでも告知されていますが、会場でも来年度のスケジュールを記載したビラが配布されていました。ともかく注目したいのは年度後半、11月から3月です。デプリーストのブルックナーの第7交響曲をはじめ、人気のインバルが同じくブルックナーの第5、第8、さらにはマーラーの第3、第4交響曲を披露します。(その他にはインバルのベト3、5、またはチャイ4も予定されています。)これはチケットの人気も高くなるに違いありません。争奪戦は厳しくなりそうです。

*関連リンク(都響HPの速報。ともにpdf。)
2009年度定期演奏会(Aシリーズ&Bシリーズ)
2009年度プロムナードコンサート&東京芸術劇場シリーズ「作曲家の肖像」
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「塩保朋子 - Cutting Insights」 SCAI

SCAI THE BATHHOUSE台東区谷中6-1-23
「塩保朋子 - Cutting Insights」
8/29-9/27



今年見たSCAIの展示の中では間違いなく一番です。ゆらめく一枚の紙が、光と風を大胆に演出します。塩保朋子のSCAI初個展へ行ってきました。

ともかく圧巻なのは、奥の展示室にて天井からぶら下がる、高さ6メートル、横3.5メートルにも及ぶ一枚の紙のインスタレーションです。薄い紙はカッターナイフによって細やかに切り刻まれ、それが木々の葉とも、また水の流れとも表せるような独特な図像を生み出しています。まずはその丁寧な手仕事に感心させられました。

オブジェとしてのカッティング作品の魅力は、これ以外にも、例えば何枚かの紙を重ね合わせ、同じくカッターで切りこんだそれにも見ることが出来ますが、今回の個展が見事なのは、上の大作における演出、ようはイメージの無限大な表出にあります。効果的なライティングによって現れた図像の影は、作品とその背後の壁にだけでなく、床面、さらには側面へと溢れるようにのび、そこにあたかも燃え盛る炎のようにダイナミックでかつ、はたまた大地の斑紋とも、きらめく宇宙の星屑とでも言えるような深淵な世界が浮かび上がっているのです。作品と壁の間には、細やかで美しい光とエネルギーの粒子に満ちあふれています。見る喜び、そして感じる喜びを知るかのような、いわば神秘的な空間が生まれていました。

明日までの開催です。今更ながらも強力におすすめします。
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「パラレル・ワールド もう一つの世界」 東京都現代美術館

東京都現代美術館江東区三好4-1-1
「パラレル・ワールド もう一つの世界」
7/26-9/28



日仏の現代美術シーンを代表する実力派が揃います。(ちらしより引用。)東京都現代美術館で開催中の「パラレル・ワールド」へ行ってきました。



出品作家は以下の通りです。
ユーグ・レプ、ミシェル・ブラジー、フランソワ・キュルレ、ロラン・フレクスナー、ダニエル・ギヨネ、ジャック・ジュリアン、内藤礼、名和晃平、アラン・セシャス、曽根裕



この手のグループ展ではいつも以上に作品との相性で評価が定まってしまいますが、今回は名和晃平、内藤礼をはじめ、曽根裕のクリスタルのオブジェやフレスクナーのシュールな平面作品、その他『春雨』のブラジーと、何名かの興味の惹かれる作家が登場していて楽しめました。特に、これまで個展などに接する機会の少なかった内藤礼は、瞑想を誘うような木製の建築物が実に魅力的です。しゃがみ込んで入る部屋には外光が仄かに差し込み、水の静かに流れ続ける蛇口の先には、あたかもビーカーの中で住まう水の妖精のようなオブジェがゆらゆらとゆらめいています。やや歪んだ手すり、そして包まれるような箱自体と、どことない居心地の良さを感じる作品でした。



その素材を知ると驚きは何倍にもふくれあがります。内藤の建築物の先に見えるのは、長さ数メートルにも及ぶ全身が毛むくじゃらの奇怪な生き物でした。実際、これらの『毛』は全て細かな春雨を彩色したものであるそうですが、その生々しい質感はもとより、これだけの量の食べ物を用いて一つの大きなオブジェを作り上げるセンスに感心させられるものがあります。そもそもミシェル・ブラジーは植物の種子など、自然界に存在する物を使って様々な作品を作り出しているそうですが、是非その他も見てみたいと思いました。



MOTの常設展示がこのところ好調です。今企画展に続く「サヴァイヴァル・アクション」がまた大変に優れていました。加藤美佳、石川直樹、小谷元彦、小林孝宣、奈良美智と言った、まさに今の日本のアートシーンを牽引する方々が揃っています。また既知の収蔵品も、例えば菊畑茂久馬の「奴隷系図」の『大砲』の先に白髭一雄のペインティングがのたうち回るなど、作品を巧みに組み合わせる演出も見事でした。渋谷に移設の決まった岡本太郎、または長らく常設のラストを飾っていた宮島のカウンターがなくなったのは寂しい気もしますが、新収蔵品も加わった美術館の強い意欲を見るようなコレクション展示が実現していたのではないでしょうか。満足できました。

ジブリ効果は不明ですが、意外と集客も好調のようです。次の日曜、28日まで開催されています。(サヴァイヴァル・アクションは10月5日まで。)
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横浜トリエンナーレ+THE ECHO@ZAIM

昨日、横浜トリエンナーレと、合わせて開催中のTHE ECHOへ行ってきました。個々の展示の感想はまた次回にまわすとして、まずは見て気になった点を独断と偏見にていくつか挙げたいと思います。少しでもご参考いただければ幸いです。



1.メイン三会場(新港ピア、日本郵船海岸通倉庫、赤レンガ倉庫)間の移動はレンタサイクル「ハマチャリ」(一日800円)が便利です。

 会場間を周回する無料シャトルバスは毎時2本しかありません。またメイン三会場間をすべて徒歩で移動(馬車道駅起点)すると全部約30分強、さらにはZAIMや大さん橋へ向かうとそれ以上の時間がかかってしまいます。ここは横浜中心街四カ所での乗り捨てが可能なハマチャリが効果的です。ちなみ私は駅から一番近い馬車道のハマチャリステーションで借り、返却時間制限が17時までと遅い日本丸ステーションで返却しました。(馬車道→ZAIM→新港ピア→赤レンガ→日本郵船→大さん橋でのパフォーマンス→日本丸)

2.「THE ECHO」(10/5まで。500円。)はおすすめです。是非ご観覧下さい。

 横トリは外国人作家メインです。日本人の若手オールスターはZAIMに揃っています。はっきり申し上げてこれを見ないと話は始まりません。
 (参考エントリ:もう一つのトリエンナーレ 「THE ECHO」@ZAIM

3.前回のトリエンナーレよりエンターテイメント色は相当に薄められています。

 良く言えばアーティステック、裏を返せばかなり衒学的です。参加型など、いわゆる感覚的に楽しめるような作品はあまり見受けられませんでした。

4.長編の映像アートの出品が目立ちます。

 じっくり見ればとても一日で廻りきれませんが、さらりと飛ばしながら見るのであれば大して時間はかかりません。移動時間を含め、三会場で半日あれば十分ではないでしょうか。

5.赤レンガ倉庫の展示は、他と比べると質量ともに見劣りします。時間に余裕がなければパスしても良さそうです。

 私としては、かつて同会場で開催されたC-DEPOTの方がずっと楽しめました。

6.日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)会場は大変に『濃密』です。いわゆるグロテスク系の映像作品がいくつか展示されていました。

 出品ブースに注意書きがありますが、血などが苦手な方は難しそうです。ただ逆に、神秘主義を連想させる悪魔系、またグロテスク好きの方にはたまらない内容かもしれません。

7.混雑のため、一部作品に入場制限がありました。

 全体的に余裕がありましたが、勅使河原三郎、マシュー・バーニー(ともにBankART)、もしくは「H BOX」(大さん橋ターミナル)のブースに行列が出来ていました。(マシューなどは観覧時間が約1時間ほどかかります。)混雑はおそらく土日限定かと思われますが、上記作品をストレスなくご覧になるのであれば朝イチでのお出かけをおすすめします。

8.会場内の飲食スペースは手狭です。また三会場のショップの運営主体は全て異なっています。

 前回のような屋台の出店はありません。食事などは外ですませたほうが無難です。またハマチャリなら一度、市街地へ出て食事というコースも可能です。
 ショップに関してはそれぞれアーツセンター、ナディッフ、スパイラルが出店しています。横トリとは無関係のグッズも多く販売されているので、見比べるのも良さそうです。

9.会場内はフラッシュを用いなければ撮影が可能です。

 原則、展示全作品の撮影が出来ます。カメラ片手に歩く方を多く見かけました。

10.新港ピアは「通路」です。

 今回の開催に合わせて建設された新港ピアですが、内部の展示スペースに用いられている各ブースは、MOTで開催された「川俣正 通路」のベニヤ板を一部再利用して作られています。

*会場配置関係図

メイン三会場(番号の1、2、3)で展示作品の9割5分を見ることが出来ます。ちなみにスペース、作品の量ととも「1>2>3」の順です。また青丸はレンタサイクルの貸出場所です。場所がややわかりにくいので、ハマチャリHPでもご確認下さい。

三渓園まで行けませんでした。機会があれば再度そちらまで足を伸ばしてみるつもりです。

全体的な印象を一言で表せば、今回の横トリはつかみ所がなく、作品も難解なものが多いように思えました。久々にしかめ面をしながら現代アートと言われるモノと向き合った気がします。

最後になりましたが、横浜在住のlysanderさんとご一緒することにより、効率よく見て廻ることが出来ました。改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
横浜トリエンナーレ2008 (本丸篇)@徒然と(美術と本と映画好き...)

トリエンナーレ、ZAIMの感想はまた別エントリでまとめるつもりです。
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「ICHIKENTEN 2008」 東京藝術大学大学美術館・陳列館、正木記念館

東京藝術大学大学美術館・陳列館、正木記念館台東区上野公園12-8
「ICHIKENTEN 2008 - 東京藝術大学日本画第一研究室発表展 - 」
9/20-28



昨年もほぼ同時期に開催されていた展覧会です。東京芸大大学院、日本画第一研究室の教員、生徒、計15名がともに自作の日本画を出品します。ITIKENTENへ行ってきました。



会場は、ちょうど芸大アートプラザを正面に向かって左右に見える建物、正木記念館(左)と陳列館(右)です。特に正木記念館の方は純和風の畳敷きで、日本画とも相性の良いような魅力的なスペースとなっています。以下、撮影が可能ということで、展示風景を何枚かあげてみました。



まずは正木記念館です。ここでは大竹寛子の黒を艶やかに用いた大作と、今村雅弘の抽象的とも蝶が舞う姿を捉えたとも言えるような屏風が印象に残りました。

  

続いて日頃の展示でもお馴染みの陳列館です。向かって正面、左右と奥へと広がる空間が美しい近藤隼次の「記憶」と、まるでアクリルと見間違うかのような鮮やかな色彩感が興味深い、大塚世士明の「感情の垣間と風景」が秀逸でした。何やらホッパーの風景画を見ているような気分にもさせられます。



  

  

会期が僅か一週間程度と短いのが難点ですが、時にオーソドックスながらも日本画の今を見られる展覧会です。

28日までの開催です。入場は無料です。
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「シュウゴアーツショー 池田光弘、小林正人、中平卓馬」 シュウゴアーツ

シュウゴアーツ江東区清澄1-3-2 5階)
「シュウゴアーツショー 池田光弘、小林正人、中平卓馬」
9/6-10/4



シュウゴアーツ所属作家、計3名によるグループ展です。「シュウゴアーツショー 池田光弘、小林正人、中平卓馬」へ行ってきました。

ともかくも一番の目当ては、先だっての個展の記憶も鮮やかな池田光弘です。今回、出品されている池田のペインティングは計3点。カウンター越しに掲げられた、深い闇夜を目映い雷光が引き裂く作品や、建物の中の暗がりより、陽の光も眩しい外を覗き込むこむようなそれは、全体に配されたかの星屑や光と闇との激しいコントラストなど、いつもの池田のイメージが展開されていますが、奥の小部屋の作品はやや一風変わっていて驚かされました。殆ど黄色ともいえる草むらと、その前景にのびる有刺鉄線越しには、木目のグラデーションも鮮やかな一軒の家が建っています。緑色の空が何とも平面的です。のしかかるようにして広がっています。

その他、このところキャンバスより『形』と『色』を解放し続ける小林正人も印象に残りました。率直なところ、やや迷走気味な感も受けますが、さらにミニマルで抽象的な世界へと深化しています。

10月4日までの開催です。

*関連エントリ
「池田光弘 - 宙を繋ぐ - /小林正人 Light Painting」 ともに昨年、シュウゴアーツで開催された個展の感想です。
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「狩野芳崖 - 悲母観音への軌跡 - 」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館台東区上野公園12-8
「狩野芳崖 - 悲母観音への軌跡 - 」
8/26-9/23



絶筆「悲母観音」へと至った狩野芳崖(1828-1888)の画業を、初期よりの絵画、下図、模本、それに資料などによって概観します。藝大美術館での「狩野芳崖 - 悲母観音への軌跡 - 」へ行ってきました。

展覧会の構成は以下の通りです。出品は約80点ほどでした。

1.「芳崖の画業1 下関と江戸・東京」
 1828年、御用絵師の子として下関に生まれる。19歳の時に江戸遊学を果たすも、幕末の動乱が迫り下関へと戻った。維新後、全ての身分を失うが、50歳になって再び上京。苦難の末、画家としての生計をたてる。主に初期より維新までの作品、約30点。
2.「芳崖の画業2 フェノロサとともに」
 明治16年、フェノロサに弟子入りし、西洋画の造形、明暗法などを学んだ。フェノロサとの出会い以降の絵画、約20点。
3.「悲母観音へ」
 絶筆「悲母観音」へ至る軌跡。重文「悲母観音」とその下絵、または「悲母観音」とほぼ同一モチーフをとる「観音図」(複製)との比較など。
4.「悲母観音の周辺」
 悲母観音が与えた影響など。他作家の絵画、計6点。
5.「資料、模本」
 芳崖が取り組んだ模写一覧。または使用した印章、デスマスクなど。

前もってちらしを見た際には、せいぜい芳崖の「悲母観音」を取り上げた一点豪華主義の展示かと思っていましたが、会場へ行くとそれは大変な誤解であったことが良くわかりました。今展観は、もはや点数こそ少なめではあるものの、芳崖の全貌を詳らかにする充実した回顧展です。生誕180年、没後120年というメモリアルにも相応しい内容でした。



「晩年の日本画革新時代」(ちらしより引用)を知るばかりの私にとって、狩野派の伝統も色濃い初期作は非常に興味深いものがあります。応挙の写実を連想させる表現にて生誕の地、長府前田を俯瞰的に捉えた「馬席真景図巻」(1842)や、さながら南蘋派のように細やかな線描が光る「牡丹図」、さらには狩野派の伝統を良く伝える「山水図」などは、芳崖の優れた画力を見るにな十分な作品と言えるでしょう。またこの時期、彼は後の「悲母観音」へも通ずる女性崇拝の精神をとった「八臂弁才天図」を描いています。流れる水を表現する筆さばきもまた見事でした。



フェノロサと出会ってからの芳崖は、まさに近代の夜明けとも言えるような、西洋との奇妙な融合を遂げた、どこかエキゾチックな近代日本画を次々と生み出していきます。ここでは西洋の顔料を用いたピンクの眩しい「仁王捉鬼図」(1886)が見事です。西洋画風の遠近法に則ったひし形文様の舞台の上を、鬼を握りつぶした仁王がアニメーション的な表現によって描かれています。また猛々しい「不動明王」(1887)の下で光るオレンジ色にも目を奪われました。これまでの日本人があまり目にしなかった色を使うことで、また絵にさらなる新鮮味を与えたのは間違いなさそうです。

 

展示のハイライトは、やはり「悲母観音」へと進む芳崖の制作の過程を紹介した「悲母観音へ」のセクションです。ここではフェノロサと出会う以前に描いた、ほぼ「悲母観音」と同じ構図をとる「観音図」の複製を元に、本画に至るまでに描かれた何枚もの下絵が紹介されています。ハーフトーンを用い、独特な透明感のある色彩が美しい本画の「悲母観音」はさすがに見応え十分ですが、下絵、もしくは「観音図」との比較も楽しめました。この部分だけでも、この展示の企画が如何に優れているかが良くわかります。芳崖の制作の有り様を丹念に追うことが出来ました。



展覧会とは直接関係ありませんが、日暮里駅からSCAIを経由して芸大へと向かった際、芳崖の墓のある谷中は長安寺(地図)へ少し立ち寄ってみました。ここでは芳崖と、彼が「観音様」と呼び、そのモデルともなったという最愛の妻ヨシが仲良く一緒に眠っています。しばし手を合わせて来ました。

 

「狩野芳崖 - 悲母観音への軌跡 - 」は今月23日までの開催です。また10月からは、芳崖の生地、下関の市立美術館(10/4-11/5)へと巡回します。
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「渋谷奈緒 - passage - 」 TWS本郷

トーキョーワンダーサイト本郷文京区本郷2-4-16
「渋谷奈緒 - passage - 」
8/30-9/21



クレーの断片を思わせるような線描に、子犬や猫などの動物のモチーフが仄かに浮かび上がります。「人と人の集合体が作る景色を形にしている」(TWSより。)という、渋谷奈緒の個展へ行ってきました。

上記、リンク先(TWSの公式サイト)にある、作家と展示の様子を紹介した動画を参照いただきたいのですが、まず目に飛びこんでくるのは、刺繍とも、例えばネックレスに挙げられる細密な装飾品を施したような、黒いドローイングによる抽象的な世界です。クリップなど、壁へ殆ど無造作に張られた白い紙の上を舞うようにしてのびゆく線が、緩やかにつながりながら、先にも触れたクレーを思わせる幻想的な一つの景色を作り上げています。さながらまだ行ったこともない街、そして出会った場所の人の記憶が、夢の中のように断片的なイメージをとって表されているかのようです。一枚一枚をじっくり見入っていると、あたかも自分のその場に入っていくかのような錯覚にさえ陥りました。

そのような図像の上に、別個のモチーフがダブルイメージ風に見えてくるのもまた魅力の一つでしょう。童話の一シーンのような景色から開けてくるのは、可愛らしい犬や猫の姿でした。薄いピンクや黄色などの彩色が線と絡み合い、イメージをさらなる複層的なものにすることに成功しています。余白が形になる瞬間です。その世界全体が一つの動物へと変化していました。

細やかな線は、見る者を捉えて話さない、いわばイメージの触手のようなものなのかもしれません。ぐっと掴まれる心の『居場所』が、作品のどこかに見つかります。

明日、明後日、21日までの開催です。
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読響次期常任指揮者にシルヴァン・カンブルランが就任

率直なところ、やや意外感がありましたが、この人選なら大歓迎です。読響のスクロヴァチェフスキの後任の常任に現在、バーデンバーデン・フライブルクSWR交響楽団(南西ドイツ放送)の首席指揮者を務める、シルヴァン・カンブルランが就任します。期間は2010年より3年間。来春には就任に先立ち、同楽団の定期公演にて、「幻想交響曲」やベートーヴェンの第4、第5交響曲を披露する予定があるそうです。



読売日響「第9代常任指揮者」にシルヴァン・カンブルラン氏読売日本交響楽団

ともかく彼の名を聞いて思い出すのは、2年前の冬、驚くほどの名演を聞かせて強烈にアピールして見せた、読響定期のトゥーランガリラです。元々、現代音楽に定評のある指揮者とは聞いていたものの、その実力を知らなかった私にとって、この日の演奏はまさに目の覚めるような『凄演』で印象に残りました。実際、拙ブログの感想でも、「国内で望み得るベストパフォーマンスのトゥーランガリラが聴けた」とか、「力強く自信に満ちあふれたカンブルランの至芸を楽しむことが出来る」などの駄文を並べていますが、まさか最後の「是非また共演していただきたいです。」の願いが、このような形で実現するとは夢にも思いませんでした。もちろんこのコンサートは読響との初共演とのことで、一回性の名演に過ぎないという見方もありそうですが、あのレベルが今後も続くとしたら、それは現在のミスターSとの充実した読響をさらなる高みに引き上げること間違いありません。実に楽しみです。

H. Berlioz : Les Troyens 1

*カンブルラン指揮、パリ管によるベルリオーズの「トロイの人々」。2000年のザルツブルク音楽祭の公演です。

カンブルランはかつてベルギー王立歌劇場、もしくはフランクフルト歌劇場の総監督を務めたオペラ畑の指揮者です。在京のオーケストラでは比較的オペラに縁のない読響に、また新たな方向性を与えることにもなるのではないでしょうか。また独墺系に地力のある同楽団に、どこかマッチョなカンブルラン流のフランスの風を吹かせることにも期待が持てます。ちなみにカンブルランの公式HPによれば、今年の11月にパリ国立オペラで「フィデリオ」を振るそうです。先だって日本で行われたデュカスの評判は不明ですが、またオペラの面でも何かアクションを起こしていただければと思いました。

「Berlioz: Romoet Juliette - Messiaen: L'Ascension/Sylvain Cambreling」

就任披露公演には、ストラヴィンスキーの「春の祭典」が予定されています。真っ向勝負すると聴かせるのがより難しくなる曲だけに、それを彼がどう個性的に料理するかに期待したいものです。
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N響定期 「マーラー:交響曲第5番」他 

NHK交響楽団 第1625回定期公演Aプログラム

バッハ 組曲第3番から「アリア」(ホルスト・シュタインを偲んで)
デニゾフ 「絵画」(1970)
マーラー 交響曲第5番

指揮 ハンス・ドレヴァンツ
管弦楽 NHK交響楽団(コンサートマスター 堀正文)

2008/9/14 15:00 NHKホール2階



ドイツの名匠、ハンス・ドレヴァンツが10年ぶりにN響の指揮台にたちました。得意とする現代音楽とマーラーの第5番を並べた意欲的なプログラムです。定期公演、Aプロへ行ってきました。

シュタインを偲んで急遽追加された「アリア」を挟んでの、デニゾフの「絵画」がなかなか優れています。この作品は1970年、モスクワの画家、ボリス・ビルゲルに献呈されたものだそうですが、複雑なオーケストレーションをとりながらも、時に温かみのある音の心地よい、フランス印象派を思わせる色彩感に満ちた音楽でした。ちなみにデニゾフはこの後、「水彩画」(1975)、「パウルクレーの3つの絵」(1985)といった、同じく絵画に着想を得た音楽を作曲しています。クレーの絵を音楽に仕立てたとは俄然興味がわいてきます。是非聴いてみたいものです。

メインのマーラーは言ってしまえば楷書体です。横への流れ、いわゆるマーラー的なうねりとダイナミズムは殆ど追求されることなく、縦への意識、ようは各フレーズを一つ一つの箱のような塊として捉え、それを積み上げて全体を構築していくかのようなアプローチがとられていました。結果、例えば公演冊子に記載されているような第1楽章の「物悲しい旋律」などの主観的な表情は消え、もっと純音楽的な、音そのものの塊があるがままに響いてきます。もちろんこれはこれで一つの解釈ではありますが、最近、良く耳にするような細部へ手を突っ込み、これまで見えてこなかった新しい『景色』を披露するものでも、またもっとどっしりと構え、慟哭から勝利へと流れる激しいマーラーでもないので、どこか冷めた、いささか平板な演奏になってしまっていたのは事実でした。ただしこの辺は好き嫌いの問題も多分にありそうです。

N響の出来はまずまずと言ったところではないでしょうか。第5楽章冒頭でのミスなど、言われがちなホルン云々は完璧とまではいきませんでしたが、特に破綻もなく、ドレヴァンツの解釈にもよるのか、終始、淡々と曲を進めていたと思います。ただ一つ気になったのは、トゥッティの際などにおける、全体の音の緩みです。ティンパニは他から完全に分離したかのようにがなり立て、逆に弦は内側へ引きこもるかのようにしてこじんまりとまとまってしまいます。先に今回の演奏を「平板」と表しましたが、ひょっとしたらそれはN響側にも問題があったのかもしれません。

適切ではないかもしれませんが、ドレヴァンツは例えば東京シティや東響のような、棒へダイレクトに食らい付いてくるオーケストラの方が持ち味を発揮するのではないでしょうか。このところどうも体温のあがりきらないN響には、ドレヴァンツのような真面目な指揮ぶりがあまり合わなかったかもしれません。

Adagietto - Mahler 5th - Eschenbach/Philadelphia

(こちらは細部を抉りにえぐる、エッシェンバッハのドロドロしたアダージェットです。)
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「松江泰治 - Nest - 」 TARO NASU GALLERY

TARO NASU GALLERY千代田区東神田1-2-11
「松江泰治 - Nest - 」
8/29-9/20



松江の目は細部にこそ宿っています。世界各地のあらゆる地表を独特なフラットな世界にまとめあげる、松江泰治の未発表作による写真展です。名高いモノクロの世界から一転、光に包まれた色鮮やかな都市や緑が、俯瞰的な構図にて写し出されていました。

まず松江の風景写真を見て感心するのは、一枚におさめられた情報量の多さです。高い場所から見下ろして撮られた都市の作品では、その延々と続くビルや家々の屋根や窓が単なる形と色へと還元され、何らかの抽象絵画のような幾何学模様へと変化しています。実際、展示室正面右手に並ぶ三枚の大作は、それぞれスペイン、メキシコ、それにパリの街を写したものだそうですが、あえてモニュメント的な建築物や街路、さらには水面を避けたその光景は、全く匿名な架空の都市のようにも見えてきました。言い換えれば、CGを処理して出来た、濃密な人工都市とでも表せるかもしれません。

風景を出来るだけ均一に捉え、故に生まれる細部の徹底した表出こそが松江の魅力の一つでもありますが、当然ながら細部と全体が対立することは決してありません。くっきりと浮き出た遠景の建物の角の線が、例えば隣のビルの面と組み合わさり、さらにはまた別の建物のそれへと連なっていきます。都市の最小単位は細やかなモザイクでした。松江の目は都市に思わぬ装飾さえ与えているようです。

彼の細部への関心は、これらの大作以外にも見て取ることが出来ました。ちょうど展示室へ向かう階段を降りた先にある、赤い女性を写した一枚に注視してください。そこにはどこかで全体を構成していた細部が、また新たな魂をもって提示されているのです。

次の土曜、20日までの開催です。
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「浮世絵 - ベルギーロイヤルコレクション展」(前期) 太田記念美術館

太田記念美術館渋谷区神宮前1-10-10
「ベルギー王立美術歴史博物館 ベルギー王立図書館所蔵 浮世絵 ベルギーロイヤルコレクション展」(前期)
9/2-28(前期9/2-15、後期9/17-28)



ベルギーの二つの王立の施設より、保存にも優れた珠玉の浮世絵を展観します。太田記念美術館で開催中の「浮世絵 - ベルギーロイヤルコレクション展」へ行ってきました。

率直なところ、昨年の「Great Ukiyoe Masters」(ミネアポリス美術館コレクション@松濤美術館)ほどの衝撃は受けませんでしたが、それでも「群を抜く素晴らしい保存状態」というチラシのうたい文句は全く大げさではありません。色味にかけては浮世絵師最高の繊細さを誇る春信をはじめ、歌麿による壮麗華美な美人画、または世界に一枚しかないというレアな作品の公開された写楽など、見所を挙げればきりのない展覧会です。会期途中にて、大半の出品作が入れ替わるところがまた『太田流』ですが、確かにこの内容なら前後期追っかけたいと思うのも無理はないでしょう。まずは何とか、前期最終日の前日に駆け込みで見てきました。

 

「Great Ukiyoe Masters」の主役が春信であったとするならば、今回のそれは間違いなく歌麿です。とりわけ展示順路最後に並んだ連作、「高名美人見立て忠臣蔵 十二段つづき」には感服しました。前期は十二段のうち七段目までの出品でしたが、忠臣蔵の作中の女性が歌麿一流のグラビアアイドルとなって艶やかに表されています。(後期では残りの八段以降を公開。)また歌麿ではその他、水玉の布地を空かして見やる女性を捉えた「針仕事」、さらには彼としては実に珍しい妖怪画なども印象に残りました。どこか稚拙とも思える線描が、美人画の歌麿に見せる迫力とは違った滑稽さで楽しませてくれます。



色に線に細やかな神経の通う春信では、「五常 義」が見事な一枚でした。仄かな桃色の窓と朱色の襖、それに芝色の畳がちょうど三面に交じるようにして広がり、そこを細密画の如く精緻に示された紋様を纏う女性が二人、目を合わせて話し込む様が描かれています。左の女性の帯にはエンボスが仕掛けられているのでしょうか。もはやケース越しの肉眼で確認するのが困難なほど細やかでした。

ベルギーロイヤルコレクション展は、今回の太田記念美の他、時間を開けて来年には京都高島屋(2009/1/7-19)、さらには日本橋(東京)の高島屋(2009年5月)への巡回が予定されています。何とその3会場全てで出品作が異なるという、まるで鑑賞者に優しくない展示ではありますが、ベルギーへ行くことを考えればそう難しくはないということになるのでしょうか。ちなみに図録はテキスト、図版共々充実しています。全会場の出品作が網羅されているので、どうしても見られない部分はこちらで補完するのも悪くなさそうです。

チラシ裏面に100円引きの割引券が付いていました。後期展示は次の木曜、17日よりの開催です。(前期は終了。)
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