「ピエール・ボナール展」 国立新美術館

国立新美術館
「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」
9/26~12/17



国立新美術館で開催中の「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」のプレスプレビューに参加してきました。

フランスの画家、ピエール・ボナールは、日本の浮世絵にも影響を受けつつ、のちにフランス各地を転々としては、身近な風景や人物を鮮やかな色彩で描きました。

オルセー美術館より、ボナールのコレクションが多くやって来ました。油彩は全72点に及び、ほか素描17点、版画・挿絵本17点、写真30点も交え、ボナールの画業を様々な角度から紹介していました。


ピエール・ボナール「庭の女性たち」 1890-1891年 オルセー美術館

はじまりは日本との関係でした。1890年、国立美術学校で開催された「日本の版画展」で衝撃を受けたボナールは、浮世絵の輪郭線や遠近表現を取り込む作品を制作しました。その一例が、「庭の女性たち」で、掛軸を思わせる縦長のパネルに、女性と動物のモチーフを描いていました。見返り美人ならぬ、頭部のみが正面を向く姿勢や、遠近感のない画面に、浮世絵の画風を見ることが出来るかもしれません。


ピエール・ボナール「黄昏(クロッケーの試合)」 1892年 オルセー美術館

「黄昏(クロッケーの試合)」も、初期のボナールを代表する作品で、遠近感に統一性を持たず、画面には複数の視点が導入されていました。フランス南東部にあったボナールの別荘の庭を舞台としていて、当時、流行していたクロッケーを楽しむ人々や、走り回る犬などを、手前の樹木越しから見やるように描いていました。格子模様の服もボナールの好んで採用した模様で、いわば人物から立体感を取り払い、装飾性を高めていました。そもそも世紀末のパリは、アール・ヌーヴォーが隆盛し、至る所に装飾が溢れていて、ボナールなどのナビ派の画家も、絵画に装飾的なモチーフを取り入れていました。


左:ピエール・ボナール「男と女」 1900年 オルセー美術館

ミステリアスな人物関係を表したような、「男と女」も魅惑的ではないでしょうか。おそらくボナールと妻のマルトとされる男女は、中央の衝立を隔てていて、室内のベットという極めてプライベートな空間ながらも、どことなく心理的な距離感があるように思えてなりません。


左:ピエール・ボナール「大きな庭」 1895年 オルセー美術館

「大きな庭」は、ボナールの別荘にあった果樹園の光景を表していて、犬や鶏が遊ぶ中、果物を2人で収穫する子どもたちの様子を描いていました。ここで興味深いのは、画面右へ立ち去ろうとする女性の姿で、もう一人の子どもに至っては、画面からはみ出し、半身しかありませんでした。この空間の右側には、一体、どのような光景が広がっていたのでしょうか。


左:ピエール・ボナール「浴盤にしゃがむ裸婦」 1918年 オルセー美術館

ボナールは、一貫して女性の身体を主題とした画家でした。中でも興味深いのが「化粧台」で、室内の鏡の写った、マルトと思われる裸婦を描いていました。また「浴盤にしゃがむ裸婦」もマルトをモデルとしていて、ちょうど浴盤の上で盥に水を注ぐ姿を表していました。背景の床は無地で、黄色い光を反映していて、ここに装飾性云々ではない、ナビ派から脱却したボナールの一つのスタイルを見ることが出来ました。


右:ピエール・ボナール「猫と女性 あるいは 餌をねだる猫」 1912年頃 オルセー美術館

チラシ表紙を飾る「猫と女性 あるいは 餌をねだる猫」も、マルトがモデルで、食卓を前に、物静かな様子で座る姿を描いていました。そして白い猫が、マルトを注意深く横目で見据えながら、今にも皿の上の魚を奪わんとばかりに身を乗り出していました。また黄色を帯びた食卓とマルトの緑の服、そして背景の赤い壁の色彩も美しいコントラストを成していました。


右:ピエール・ボナール「桟敷席」 1908年 オルセー美術館

ボナールの絵画の最大の魅力をあげるとすれば、ニュアンスに富んだ色彩にあると言えるかもしれません。オペラ座での一場面を描いた「桟敷席」に魅せられました。ともかく間仕切りのワイン色が鮮やかで、その向こうでは劇場内の明かりが満ちているのか、オレンジ色に染まっていました。


ピエール・ボナール「ボート遊び」 1907年 オルセー美術館

一辺が3メートルにも及ぶ大作もお目見えしました。それが「ボート遊び」で、犬を連れた女性が、子どもたちとともにボートに乗り、川の上に浮かぶ光景を表していました。ちょうどボートの少し上から見下ろすような構図で、舟先も切り取られているからか、さもボートが手前へ進むような動きも感じられました。ただし後景の野山の形などは曖昧で、人の姿こそ見られるものの、全ては判然とせず、色彩は互いに溶け合うように広がっていました。


左:ピエール・ボナール「トルーヴィル、港の出口」 1936-1945年 オルセー美術館(ポンピドゥ・センター、国立近代美術館寄託)

風景画にも優品が少なくありません。「トルーヴィル、港の出口」では、港町を俯瞰した構図で描いていて、黄色の光に輝く空のゆえか、幻想的な光景にも映りました。ほか一面の水色に染まった海を捉えた「アルカションの海景」や、黄色い夕陽の光が川面を照らす「日没、川のほとり」なども印象に残りました。


左:ピエール・ボナール「南フランスの風景、ル・カネ」 1928年 オルセー美術館(ポンピドゥ・センター、国立近代美術館寄託)

ボナールが最後に辿り着いたのは、南仏のカンヌに近い都市、ル・カネでした。「南フランスの風景、ル・カネ」は、同地に特徴的な起伏のある地形を描いていて、手前の坂道の向こうに野山が広がっていました。1926年にはル・カネに家を購入したボナールは、フランス各地を歩いては絵を制作していたものの、第二次世界大戦の戦火を避けるため、1939年以降はこの地に留まりました。結果的に戦後、数回パリに滞在したことを除いては、1947年に亡くなるまでル・カネに住み続けました。


右:ピエール・ボナール「花咲くアーモンドの木」 1946-1947年 オルセー美術館(ポンピドゥ・センター、国立近代美術館寄託)

ラストは絶筆の「花咲くアーモンドの木」でした。ル・カネの自宅の庭にあった木で、ボナールも何度か描いていて、1930年以降に制作した3点の作品が確認されています。

ともかくアーモンドの白い花が、空の青に引き立っていて、オレンジ色の地面しかり、全ての色彩は生命感に満ちていました。眩しいほどに美しく、ボナールの一つの到達点と捉えても差し支えないかもしれません。


右:ピエール・ボナール「地中海の庭」 1917-1918年 ポーラ美術館

さて会期も残すところ半月超となりました。初めはかなり空いていましたが、現在は土日を中心に、それなりの人出で賑わっています。西洋美術の大規模展としてはスローペースかもしれませんが、今月19日には、入場者数が10万人を突破しました。

これまでに入場規制は一切行われていません。おそらく会期末に向けても、比較的スムーズに観覧出来るのではないでしょうか。私もまた改めて出向きたいと思います。

ボナールの絵画を東京で見る機会は少ないわけではなく、国立西洋美術館の常設展にも充実したコレクションがあるほか、過去の西洋絵画の展覧会、例えば「オルセーのナビ派」(三菱一号館美術館)などでも複数の作品が出展されました。


右:「ル・グラン=ランスの庭で煙草を吸うピエール・ボナール」 1906年頃 オルセー美術館

ただし今回ほどのスケールでボナールの作品を味わえる機会は滅多にありません。ともかくオルセーのコレクションが粒揃いで、ボナールの絵画、特に色彩の魅力を存分に堪能することが出来ました。主催者の「日本におけるピエール・ボナールの最も充実した展覧会のひとつ」の言葉に偽りはありません。


12月17日まで開催されています。遅れましたが、おすすめします。

「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」 国立新美術館@NACT_PR
会期:9月26日(水)~ 12月17日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金・土曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *11月14日(水)~11月26日(月)は高校生無料観覧日。要学生証。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「ブルーノ・ムナーリ―役に立たない機械をつくった男」 世田谷美術館

世田谷美術館
「ブルーノ・ムナーリ―役に立たない機械をつくった男」 
2018/11/17~2019/1/27



世田谷美術館で開催中の「ブルーノ・ムナーリ―役に立たない機械をつくった男」を見て来ました。

20世紀のイタリアを代表する美術家のブルーノ・ムナーリ(1907〜1998)は、単に美術に留まらず、デザイン、絵本、著述のほか、子どもへの造形教育などの領域で幅広く活動しました。

ムナーリの原点は、イタリアの未来派にありました。未来派とは、20世紀初頭にイタリアを中心に興った前衛芸術運動で、伝統を否定し、工業化社会に基づく機械美やダイナミズムを賞賛しては、美術のみならず、写真や建築、それに音楽や文学などで展開しました。ムナーリ自身も1926年、「未来派宣言」を発表した詩人フィリッポ・マリネッティに出会い、同派の一員として活動をはじめました。都市の建物を幾何学的に構成した「風景」などは、この時期のムナーリの画風を示す典型的な作品かもしれません。

「動き」も未来派の重要なテーマの1つでした。それを反映したのは、「役に立たない機械」で、紙片や板などを糸で繋ぎ、天井から吊り下げたオブジェでした。僅かな風に靡いては、紙片が緩やかに回転する光景は、まるでおもちゃのように楽しげでした。

第2次世界大戦が終わると、ムナーリはミラノで結成された「具体芸術運動」(MAC)の創設メンバーになりました。その頃に発表したのは「陰と陽」で、全ての色彩や線に等しい役割を設け、人の目の中で色彩の運動を起こすことを目指しました。一例が、板に青や黒の色面が配された「陰と陽」で、ちょうど右に切り込みがあり、作品の向こうの白い壁が、さもキャンバス地のように開いていました。作品は確かに静止しているものの、しばらく眺めていると、不思議と色面が前後や左右に動き出すかのような錯覚を覚えました。頭の中で回転させた姿をイメージして見るのも楽しいかもしれません。

「ムナーリの機械/河出書房新社」

ムナーリでよく知られるのは、やはり絵本の仕事ではないでしょうか。1945年、5歳の息子に与える絵本がないと感じたムナーリは、自ら絵本を作ることを決め、絵本シリーズ10冊を考案しました。同年には、早くも7冊が出版されたそうです。

ただしムナーリの絵本は、一般的なそれとはかなり異なっているかもしれません。例えば本の中に小さな紙がとじ込まれていて、めくると別の場面が現れたり、そもそも紙だけでなく、フェルトや木、トレーシングペーパーを用いるなど、素材も多様でした。もちろん展示品に触れることは叶いませんが、おそらくは絵本の鑑賞に際して、視覚だけでなく、触覚も重要になるのではないでしょうか。ムナーリは「子ども自身の経験で物語を変化させる必要がある。」(解説より)と考え、読み手の想像力を刺激するような絵本を作り上げました。

ともかく多彩に展開したムナーリの活動を一括りにすることは出来ません。「旅行のための彫刻」では1枚の紙を用い、旅先に持ち運べるようにした作品で、ともすると石や木材などを素材とした彫刻に軽さや運動を取り入れました。ムナーリは、誰もが最小限の方法で美術を創造し得るべきだと考えていました。

デザインとしては、カンパリの広告や、ダネーゼとのプロダクトや遊具の仕事があげられるかもしれません。一枚のアルミ板による「灰皿」は、シンプルながらも、古さを感じないモダンなデザインで、機能性も兼ね備えていました。


いわゆる「見立て」も、ムナーリの自由な発想を示す一つの例と言えるかもしれません。「おしゃべりフォーク」では、フォークの歯を指に見立て、人の仕草を表した作品で、まるでフォークが語りかけるようなジェスチャーを見せていました。

ほかにもムナーリが生涯を通して扱った文字に関した仕事も重要ではないでしょうか。作品は計300点にも及びます。その膨大な業績と高い創造力に圧倒されるものがありました。

「ブルーノ・ムナーリ/求龍堂」

カタログも380ページと重量級でした。ムナーリの子で、ジュネーヴで大学の名誉教授も務めるアルベルト・ムナーリもテキストを寄せるなど、論考も充実していました。ムナーリの全貌を捉えるのに有用な一冊となりそうです。



なお本展は、今年の4月に神奈川県立近代美術館葉山で開催された巡回展の最後の会場になります。



2019年1月27日まで開催されています。

「ブルーノ・ムナーリ―役に立たない機械をつくった男」 世田谷美術館@setabi_official
会期:2018年11月17日(土)~2019年1月27日(日)
休館:毎週月曜日。但し2018年12月24日(月・振替休日)、2019年1月14日(月・祝)は開館、2018年12月25日(火)、2019年1月15日(火)は休館。年末年始:12月29日(土)~1月3日(木)。
時間:10:00~18:00 *最終入場は17時半まで。
料金:一般1000(800)円、65歳以上800(600)円、大学・高校生800(600)円、中学・小学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *リピーター割引あり:有料チケット半券の提示で2回目以降の観覧料を団体料金に適用。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
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「大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで」 足立区立郷土博物館

足立区立郷土博物館
「文化遺産調査特別展 大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで」 
2018/10/30〜2019/2/11



足立区立郷土博物館で開催中の「大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで」を見てきました。

江戸時代、宿場町として栄えた千住には、隅田川を挟んだ下谷や吉原などの文人墨客が集い、様々な芸術文化が花開きました。

そうした千住に関した芸術を俯瞰するのが、「大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで」で、酒井抱一にはじまり、同地で活動した建部巣兆や村越其栄に向栄、さらに明治以降の柴田是真や河鍋暁斎らの作品が紹介されていました。いずれもが千住の地にて近世後期より続く医家、名倉家のコレクションで、そもそも「大千住」の名も、名倉家と親交のあった森鴎外が、小説「カズイスチカ」の中で用いた、千住地域を示す言葉でした。


建部巣兆「吉野山桜竜田川紅葉図屏風」 江戸時代後期 足立区郷土博物館(名倉家寄贈)

建部巣兆の「吉野山桜竜田川紅葉図屏風」が華やかでした。右に桜の咲く吉野山を描き、左に紅葉に染まる秋の竜田川を表した屏風で、濃淡を活かした色彩にて、野山の景色を牧歌的に示していました。


建部巣兆「吉野山桜竜田川紅葉図屏風」(部分) 江戸時代後期 足立区郷土博物館(名倉家寄贈)

全体としては大らかでありながらも、目を凝らすと、意外なほど緻密で、人の姿を細かく表すだけでなく、桜の花びらの一枚一枚を色の粒で描いていました。建部巣兆は、千住の関屋に庵を構え、下谷の亀田鵬斎や酒井抱一らの文人と交流し、俳画を多く残しました。


村越其栄「紅葉鹿図屏風」 江戸時代後期 名倉家資料(足立区郷土博物館寄託)

村越其栄の「紅葉鹿図屏風」にも目を引かれました。二曲一隻の屏風の中央には、鳴き声をあげる大きな牝鹿がいて、右手には葉を紅色に染めた大樹があり、足元には水が流れていました。樹木にはたらし込みが用いられている一方、水には金泥の紋様も描かれていて、どこか抱一の「夏秋草図屏風」に近しいかもしれません。なお画面はやや黒ずんでいましたが、素地は銀であり、同じく銀を得意とした江戸琳派の系譜を伺えるものがありました。村越其栄は其一の門弟で、元は下谷で活動していたものの、のちに千住へ移り、琳派の絵師として活動しました。


村越向栄「月次景物図」 明治時代 足立区郷土博物館(名倉家寄贈)

其栄の子、向栄にも美しい作品がありました。それが「月次景物図」で、抱一の「十二ヶ月花鳥図」ならぬ、一年の四季を、12枚の軸画に描いていました。(前期は7〜12月、後期は1〜6月を展示。)


村越向栄「月次景物図」(部分) 明治時代 足立区郷土博物館(名倉家寄贈)

いずれの草花も色鮮やかで、情感も豊かでしたが、例えば鳥居を大胆にトリミングしたり、竹の立体感を強調するなど、随所に其一の画風を思わせる面もありました。


村越向栄「月次景物図」(部分) 明治時代 足立区郷土博物館(名倉家寄贈)

この「月次景物図」は、古くから名倉家にあったものの、表装されることなく、全てはまくりのまま保管されていたそうです。実際、同家の作品はまくりの状態が多いため、特別な貴重品としてではなく、日常的な作品として扱われていたのではないかとも指摘されています。


歌川国芳「渡辺綱図」 江戸時代後期 足立区郷土博物館(名倉家寄贈)

千住には、国芳をはじめ、北斎門下の昇亭北寿らの浮世絵師も足跡を残しました。中でも名倉家に多く伝わるのは役者絵で、国芳の「渡辺綱図」や豊原国周の「新古歌舞伎十八番」などが展示されていました。名倉家は接骨医として名高く、役者との直接的な繋がりがあったと考えられています。


右:「名倉彌一像」 明治時代 名倉家資料(足立区郷土博物館寄託)

展示は江戸時代だけに留まりません。明治時代に入ると、名倉家では、代々の号した「素朴」の名と医業を継承した四代彌一が、画壇や俳壇だけでなく、政財界の人物と関わっては、多くの人脈を築きました。

その一人が岡倉天心で、彼が評議員を務めた1893年のシカゴ万国博覧会では、「鳳凰殿」の国内での事前公開に彌一を案内しました。また是真も名倉家と関係が深く、いくつかの作品を残しました。戯画題の墨合戦を、六歌仙の喧嘩に置き換えた「六歌仙墨戦図」が目立っていたかもしれません。


「名倉素朴翁還暦祝賀色紙帖」 明治32(1899)年 名倉家資料(足立区郷土博物館寄託)

彌一の幅広い交友関係は、「名倉素朴翁還暦祝賀色紙帖」からして明らかでした。これはタイトルが示す通り、彌一が還暦に際し、多くの友人が書画を寄せた色紙帖で、そこには横山大観、菱田春草、川端玉堂らといった日本画家が画を提供している上、歌舞伎役者の五代目尾上菊五郎が俳諧を記し、さらには時の大蔵大臣を務めた松方正義も書を認めました。


「大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで」会場風景

手狭なスペースではありますが、そもそも資料考証が大変に綿密で、解説も細かく、千住に築かれた文人ネットワークを良く知ることが出来ました。カタログも論考、図版ともに充実しています。好企画と言えそうです。


河鍋暁斎「鴉図」 明治4(1871)年以降 名倉家資料(足立区郷土博物館寄託)

一部の作品と資料に展示替えがあります。

「大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで」出展リスト(PDF)
前期:2018年10月30日(火)〜12月23日(日・祝)
後期:2019年1月4日(金)〜2月11日(月・祝)

本展は、2011年より足立区の区政80周年記念事業の一環として進められた文化遺産調査に因んだもので、これまでにも「足立の仏像展」(2012年)、「大千住展 町の繁栄と祝祭」(2013年)、「美と知性の宝庫 足立」(2016年)などが開催されてきました。また今回の名倉家の資料については、2014年より調査がはじめられ、現在も続けられているそうです。


「足立区郷土博物館」正面風景

最後にアクセスの情報です。足立区郷土博物館は区内東部の大谷田に位置します。最寄りは東京メトロ千代田線の北綾瀬駅ですが、1.7キロほどあり、歩くと20分超はかかります。よってJR常磐線の亀有駅から東武バスが便利です。北口から八潮駅南口行きバスに乗車すると、おおよそ10分弱で、博物館の目の前にあるバス停に到着します。(1時間に3〜4本程度。)


博物館裏の東淵江公園。回遊式の日本庭園です。

台数が限定されるものの、駐車場もありました。そちらを利用するのも良いかもしれません。


撮影が出来ました。2019年2月11日まで開催されています。

「文化遺産調査特別展 大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで―」 足立区立郷土博物館
会期:2018年10月30日(火)〜2019年2月11日(月・祝)
休館:毎週月曜日。但し月曜が休日の場合は開館、翌火曜は休館。年末年始(12/25〜28)。
時間:9:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人(高校生以上)200円、団体(20名以上)100円。
 *70歳以上は無料。
 *毎月第2・第3土曜日は無料公開日。
場所:足立区大谷田5-20-1
交通:JR亀有駅北口から東武バス八潮駅南口行、足立郷土博物館下車徒歩1分。もしくは東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。東京メトロ千代田線綾瀬駅西口から東武バス六ツ木都住行、東渕江庭園下車徒歩4分。駐車場有。
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「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」 目黒区美術館

目黒区美術館
「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」 
10/13~12/6



目黒区美術館で開催中の「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」を見てきました。
 
1938年に生まれた村上友晴は、東京藝術大学の日本画科を卒業後、黒を基調とした絵画を制作し、独自の「静謐」な「精神世界」を築き上げました。*「」は解説より。

1階のエントランスからして黒の絵画が待ち構えていました。タイトルは「無題」で、まさに黒一色に塗り込められていましたが、よく見ると画肌は思いの外に分厚い上に力強く、まるで雲が湧くかのようにうごめいていました。素材は顔料と油彩で、1964年のグッゲンハイム国際展へ選抜された際に出品した作品でした。村上はかねてより黒の絵具を素材にしていて、筆を持つことはなく、終始、ペインティングナイフで絵具を置き、画面を構成してきました。

一方で絵具を用いることなく、鉛筆を素材にした紙の作品にも目がとまりました。例えば「無題」では、グレーを帯びた四角形が描かれているように見えましたが、近づくと極めて細く、断片的な線が無数に引かれていて、それが一面の形を浮き上がらせていました。

39歳でカトリックの洗礼を受けた村上は、日々に祈りを捧げるだけでなく、いわば絵画の制作の根幹としても、深くキリスト教を信仰しました。「psalm I 」した作品は、詩篇をテーマとしていて、小さな紙に黒い面を連ねていました。ほかにも「聖夜」など、キリスト教に関した作品がいくつも出展されていました。

いわゆる抽象ながらも、時折、何らかの景色が立ち上がって見えるのも、村上の制作の興味深い点かもしれません。黒が白とせめぎ合う「無題(礼文)」では、黒が海、白が氷を示した、流氷の海のようにも思えました。また黒とは一転して、赤を取り込んだ作品もありました。

端的に黒とはいえども、作品の表情は時に大きく異なっていて、一括りにすることは出来ません。画肌はフラットであったかと思うと、かなり凹凸のある作品もあり、見比べると、同じ黒にも関わらず、明度がかなり違って見えました。さらにアスファルトの表面を思わせるように荒々しい質感を伴っているなど、一言で「静謐」とは言い切れない、どこか熱気を帯びた作品もありました。

その際たるのが、赤と黒が拮抗した「無題」でした。まるでタールで強く塗りつぶしたように黒が広がる中、赤が炎のごとく立ち上がっていて、さも全てを焦がすようにうように、激しくぶつかり合っていました。ともかく大変な迫力で、しばらく画面から離れられないほどでした。

また1980年代後半、村上が度々参籠したとされる、東大寺二月堂の修二会をモチーフとした作品も、黒と赤がせめぎ合っていました。赤は修二会の松明を表すのか、まさしく燃えるように広がっていました。

ラストは比較的近年の紙の作品が紹介されていました。中央に油彩の「ICON」を置き、左右に紙の「十字架への道」を配した展示は、それこそ礼拝堂を思わせる空間で、一見、真っ白の「十字架への道」の中には、作家が細かに加えたであろう、手の痕跡が確かに刻まれていました。


一部のカーペットを剥がし、コンクリートむき出しの床を用いたり、幾つかに区切りを作っては、細かく展示室を分けるなど、会場内で変化する「景色」も魅惑的だったのではないでしょうか。これまでにも単発的に作品を見たことはありましたが、また一人、深く印象に残る画家と出会うことが出来ました。



村上はかねてより目黒区内に在住しているそうです。いわばご当地での展覧会でもあります。

12月6日まで開催されています。

「村上友晴展―ひかり、降りそそぐ」 目黒区美術館@mmatinside
会期:10月13日(土)~12月6日(木)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
 *入館は17時半まで。
料金:一般800(600)円、大高生・65歳以上600(500)円、小中生無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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「ムンク展―共鳴する魂の叫び」 東京都美術館

東京都美術館
「ムンク展―共鳴する魂の叫び」
2018/10/27~2019/1/20



東京都美術館で開催中の「ムンク展―共鳴する魂の叫び」を見てきました。

ノルウェーの画家、エドヴァルド・ムンク(1863〜1944)は、20世紀の表現主義の先駆けとして、人間の内面的な感情を表した作品を多く描きました。

そのムンクの作品が、母国ノルウェーより100点ほどやって来ました。ほぼ全てがオスロ市立ムンク美術館のコレクションで、「叫び」などの代表作をはじめ、初期から晩年までの作品を網羅していました。

はじまりは自画像でした。「地獄の自画像」では、オレンジ色に焦げた背景を前にした姿を描いていて、あまり明らかでない表情ながらも、眼光だけは鋭く、強い意志を感じさせていました。ムンクは生涯において自画像を多数制作していて、「私の絵は、自己告白である。」との言葉も残しました。


エドヴァルド・ムンク「病める子 I 」 1896年 オスロ市立ムンク美術館

1863年に軍医を父に持つ家庭に生まれたムンクは、5歳の時に母を結核により亡くし、9年後には1つ上の姉も同じ病気で失いました。また自身も病弱で、同年の春には、吐血と高熱で死の恐怖に苛まれました。「死と春」や「病める子 I 」は、死に接した一連の経験を思わせる作品で、後者では、蒼白な顔の少女が、まるで死を悟ったのか、どこか虚ろな表情で横を見つめていました。


エドヴァルド・ムンク「夏の夜、人魚」 1893年 オスロ市立ムンク美術館

オスロのフィヨルドをのぞむ地で暮らしたムンクは、夏の白夜の中、月明かりの照らす海辺の景色を繰り返し描きました。一例が、「夏の夜、人魚」で、黄色い月明かりが縦にのびる岩場の岸で、水浴びをする人魚を表しました。僅かに波打つ海は濃い水色に覆われていて、丸石は月の光を受けたのか、美しくきらめいていました。人魚の表情はぼんやりとしていて、幻想的な光景が広がっていました。

1892年、パリ留学後に故郷で個展を開いたムンクは、ベルリン芸術家協会の招待を受け、同地で展覧会を開催しました。しかし印象派も浸透していなかったベルリンでは、ムンクの絵画は受け付けられず、1週間余りで個展を終えることになりました。また1902年、かねてより「愛憎半ばしながら」(解説より)連れ立っていたトゥラ・ラーセンとの間で銃の暴発事件を起こし、左手中指の一部を失いました。その後、アルコール依存症や神経症に悩まされるものの、次第に作品は評価され、ヨーロッパ各地で個展を開きました。


エドヴァルド・ムンク「叫び」 1910年? オスロ市立ムンク美術館

「叫び」は会場中盤での展示でした。数ある西洋絵画の中でも、とりわけ有名な作品で、ムンクは1893年以降、4作(版画を除く)を描き、うち2点をムンク美術館、1点をオスロ国立美術館、そして1点は個人がそれぞれ所蔵しています。今回来日したムンクはムンク美術館のコレクションで、油彩やパステルではなく、唯一、テンペラが加えられた作品でした。

縦83センチほどと、決して大きくない画面の中で、極端にデフォルメされた人が、幻聴に耐えかねて、耳を押さえる姿を捉えていて、背後のフィヨルドは、もはや原型をとどめないほどに屈曲していました。まさに画中の人物の不安や孤独が反映されていて、渦巻く景色は、今にも崩壊してしまうかのようでした。


エドヴァルド・ムンク「絶望」 1893-94年 オスロ市立ムンク美術館

その隣の「絶望」にも心惹かれました。空と大地とが渾然一体、同じようにうねりを伴う中、一人の男が諦念に達したのか、肩を落としては、俯いていました。「叫び」の人物がかなり崩れているのに対し、「絶望」はむしろはっきり描かれていて、後ろの人物の歩く男にも、実在感がありました。オスロ市立美術館の「叫び」が来日するのは、もちろん初めてのことでもあります。

接吻、吸血鬼、マドンナなども、叫びと同じく、ムンクの手がけた連作「生命のフレーズ」の中心を占めるモチーフでした。「月明かり、浜辺の接吻」は、得意の縦にのびる月明かりの下、海辺の木立で男女が接吻する姿を捉えていて、二人はもはや一体であるかのように、強く、激しく密着していました。装飾性を帯びた構図も魅惑的と言えるかもしれません。


エドヴァルド・ムンク「生命のダンス」 1925年 オスロ市立ムンク美術館

私が今回、最も魅せられたのが、代表作の1つでもある「生命のダンス」でした。例の月明かりの海辺で、複数のカップルが抱き合いながら、ダンスをしていて、ともかくドレスの白や赤はもちろん、海の群青に空の紫など、力強く、鮮烈な色彩美に見惚れました。油彩に特有な絵具の迫力を感じたのは私だけでしょうか。

1908年、アルコール依存症によってコペンハーゲンの病院へ入院したムンクは、心身こそすぐれなかったものの、同年に勲章を授与され、国立美術館に作品が買い上げられるなど、40代にしてノルウェーでの画家としての地位を確立しました。翌年に退院すると、ノルウェーへ戻り、アトリエを構え、壁画などの大規模なプロジェクトにも取り組みました。肖像画家としても人気を集めていたそうです。


エドヴァルド・ムンク「太陽」 1910-13年 オスロ市立ムンク美術館

輝かしい光が画面から溢れていました。それが「太陽」で、黄金の光をリングを描くように放つ太陽が、フィヨルドの大地と海をあまねく照らしていました。また「星月夜」も力作で、ムンクの家の玄関先から眺めたとされる夜の景色を捉えていました。七色に変化する空はもとより、黄色い星の瞬きなど、やはり色彩の美しさに感心させられました。


エドヴァルド・ムンク「星月夜」 1922-24年 オスロ市立ムンク美術館

1927年にはベルリンとオスロで、油彩画が200点超も出展された大規模な回顧展も開催され、ノルウェーの国民的画家となりますが、ドイツでナチスが台頭すると、同国では退廃芸術の烙印を押されてしまいました。さらに1940年にナチスがノルウェーを占領すると、親ドイツ政権の懐柔にも応じることなく、アトリエに引きこもりました。


エドヴァルド・ムンク「自画像、時計とベッドの間」 1940-43年 オスロ市立ムンク美術館

「自画像、時計とベットの間」は、最晩年に描かれた作品で、赤と黒のストライプのベットの横で、ムンクが手をだらんと垂らしながら、直立する姿を表していました。その表情は幾分と寂しげ絵もあり、自身の境遇を憂いているようにも見えなくはありませんが、背後の黄色しかり、輝く色彩はいささかも失われていません。結局、ムンクは戦争の終結を見ることなく、1944年に亡くなりました。

最後に会場内の状況です。会期早々、10月28日(日)のお昼過ぎに行ってきました。



またはじまってから2日目だったのにも関わらず、既に入場規制がなされていて、「10分待ち」の案内もありました。



ただし実際に入口へ行くと、特に規制はなく、そのまま入れましたが、中は相当の人出で、初めの展示室に関しては、絵の前に立つのもままならない状況でした。「叫び」のコーナーも同じように混み合っていました。ただしほかの展示室に関しては、人の流れも比較的スムーズで、列に沿えば、どの作品も最前列で鑑賞出来ました。


会期も半月ほど過ぎ、さらに混み合っています。平日こそ入場に際しての待ち時間は殆どありませんが、最近では11月10日(土)に30分、11月11日(日)には最大で40分の待ち時間も発生しました。おおむね午前中の早い時間から待機列が生じ、午後にかけて段階的に縮小し、夕方には解消しているようです。



都内各地で大規模な西洋美術展が立て続けに開催されていますが、おそらく最も混み合うのが、「ムンク展」に違いありません。会期末は長蛇の列も予想されます。当面は金曜の夜間開館日が狙い目となりそうです。



どうやら私にとってムンクは「叫び」のイメージが強すぎたのかもしれません。確かにメランコリックな面も見え隠れはしていましたが、そもそも先の「生命のダンス」をあげるまでもなく、絵自体は時に色彩に輝き、それこそ目がさめるほどに美しいのではないでしょうか。初めて画家の魅力を知ったような気がしました。



2019年1月20日まで開催されています。おすすめします。

「ムンク展―共鳴する魂の叫び」@munch2018) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日、及び11月1日(木)、3日(土・祝)は20時まで。 
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日、12月25日(火)、1月1日(火・祝)、15日(火)。11月26日(月)、12月10日(月)、24日(月・休)、1月14日(月・祝)は開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、65歳以上1000(800)円。高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *高校生は12月無料。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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「フィリップス・コレクション展」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「フィリップス・コレクション展」
2018/10/17~2019/2/11



三菱一号館美術館で開催中の「フィリップス・コレクション展」のプレスプレビューに参加してきました。

アメリカのペンシルベニア州の鉄鋼王を父に持ち、コレクターでもあったダンカン・フィリップス(1866~1966)は、印象派や当時のモダン・アートを収集し、膨大な西洋絵画コレクションを築き上げました。

1921年にはニューヨーク近代美術館よりも早く、アメリカで初めて近代美術を扱う美術館として開館し、今では全4000点以上もの作品を有する、世界でも名高いプライベートコレクションとして人気を集めています。

そのフィリップス・コレクションが一号館美術館へとやって来ました。出展作品は全部で75点で、一定数まとめて東京で公開されるのは、2005年に森アーツセンターギャラリーで開催された、「フィリップス・コレクション展 アートの教科書展」以来のことでもあります。


クロード・モネ「ヴェトゥイユへの道」 1879年

まず最初に出迎えていたのが、モネの「ヴェトゥイユへの道」でした。1878年に同地へ移住したモネは、同じ景観を異なった季節や時間帯で同じ景観を描くなどして、複数の作品を制作しました。水色の空の下に伸びるのが、サーモンピンクを帯びた道で、村のはずれにあったモネの旧居へと通じていました。ともかく美しい色彩が際立っていて、淡い光が一面を覆っていました。


アルフレッド・シスレー「ルーヴシエンヌの雪」 1874年

そしてドワクロワ、ドーミエ、クールベと続く中、シスレーの「ルーヴシエンヌの雪」にも目が留まりました。雪の降りしきる村の小道を捉えていて、強い風が吹いているのか、歩く人物は傘を斜めにして差していました。僅かなピンク色の混じる雪は、冷ややかというよりも、むしろ温かみがあり、雪の柔らかな質感が伝わってくるかのようでした。フィリップスは、シスレーを天才と捉え、「第一級の風景画家」であると考えていて、同作も最後まで手放すことはありませんでした。


オノレ・ドーミエ「蜂起」 1848年以降

作品の展示の順に一工夫ありました。キャプションの番号に注目です。というのも、左上に番号があり、右下に丸字の番号の2つがありますが、例えばドーミエの「蜂起」では、前者が11で後者が7と一致しません。一体、どういうわけなのでしょうか。

答えはコレクションの順番にありました。つまり左上の番号はカタログのナンバーで、端的に作品の制作年代順を表していますが、一方の丸字の番号は、フィリップスが購入した順を示しています。

よって「蜂起」に関しては、出展中、11番目に制作年代が古い作品であり、同じく出展中において、フィリップスが7番目に取得した作品を意味しているわけでした。そして会場では作品が丸字の番号順に並んでいるため、それを追っていくと、フィリップスのコレクションの形成過程の一端も伺い知ることが出来ました。


ダンカン・フィリップスの言葉 *解説パネル

またもう1点、「ダンカン・フィリップスの言葉」なるパネルも見逃せません。ここではフィリップスの残した言葉を幾つか紹介し、彼がどのように画家を評価していたのかが分かるようになっていました。


メイン・ギャラリー、1930年。左からドーミエ「蜂起」、シャルダン「プラムを盛った鉢と桃、水差し」、マネ「スペイン舞踏」。 *写真パネル

さらにあわせてフィリップスの時代のギャラリーの展示風景の写真もあり、当時、作品がどのように並んでいるのかについても知ることが出来ました。今回の「フィリップ・コレクション」は、単に作品を見せるだけでなく、フィリップス本人のコレクターとして活動にかなりフィーチャーしているのも、大きな特徴と言えそうです。


ピエール・ボナール「開かれた窓」 1921年

フィリップスはモダン・アートの良き理解者でもありました。当初は印象派以前の作品も購入していましたが、時代が下りにつれ、嗜好も変化し、ボナール、ブラック、スーティン、ココシュカ、モランディなどを購入し、アメリカの美術館として初めて公開しました。


ニコラ・ド・スタール「北」 1949年

ロシアに生まれ、フランスで移動したニコラ・ド・スタールも同様で、「北」は、アメリカの美術館に最初に入ったスタールの作品でした。1953年の終わりまでに6点のスタールを購入したフィリップスは、同年にアメリカにおけるスタールの初個展も開催しました。


ラウル・デュフィ「画家のアトリエ」 1935年

さらに時代は前後するものの、1926年にはボナールがフィリップス・コレクションを訪れたほか、デュフィも「画家のアトリエ」を描いた2年後の1937年、フィリップス家に招かれました。フィリップスは、同時代の美術家をサポートした最初のアメリカの美術館長の1人で、時に金銭を援助しては、画家の重要な買い手となりました。


ジャン・シメオン・シャルダン「プラムを盛った鉢と桃、水差し」 1728年頃

美術館を「実験場」と位置付けたフィリップスは、全ての時代の良きものをまとめて見せることが重要と考えていて、印象派と存命中の画家の作品を、同時に見られるように工夫していました。ロココの画家であるシャルダンの「プラムを盛った鉢と桃、水差し」を、セザンヌやブラックと並べて展示していたそうです。


ジョルジュ・ブラック「フィロデンドロン」 1952年

フィリップスが高く評価した画家の1人にブラックがいました。1927年にはじめてブラックを購入したフィリップスは、「フランス的センスにあふれて、論理的で、均整がとれている」(解説より)と評し、「ブドウとクラリネットのある静物」や「レモンとナプキン」、「円いテーブル」などを取得しました。そして今回の展覧会においても、実に出展中1割弱がブラックの作品で占められていて、もはやハイライトと捉えても差し支えありません。


ポール・ゴーガン「ハム」 1889年

一枚の肉厚なハムに出会いました。その名もまさに「ハム」で、コレクションが唯一、所有するブラックの絵画でした。フィリップスはゴーガンのプリミティヴィズムについては評価を保留し、タヒチの風景画を手放すこともありましたが、ロマン主義者としては称賛していました。それにしてもうっすらとワイン色を帯びたハムはジューシーで、美味しそうではないでしょうか。


フランツ・マルクの「森の中の鹿 I」 1913年

フランツ・マルクの「森の中の鹿 I」も魅惑的でした。断片的な色面で構成された森の中には、5頭の牝鹿が体を休めていて、マルクは牝鹿に無垢や、傷つきやすさ、それに優しさの暗喩として表していました。フィリップスは1953年、マルセル・デュシャンを通じて、コレクターであるキャサリン・ドライヤーの遺品の寄贈を受けていて、本作のほか、同じ青騎士のメンバーである「白い縁のある絵のための下絵」や、カンペンドングの「村の大通り」などをコレクションしました。


エドゥアール・マネ「スペイン舞踏」 1862年

マネにも見逃せない作品がありました。それが「スペイン舞踏」で、手を振り上げては踊る、マドリード王立劇場のダンサーたちが描かれていました。ダンサーは正面を向きながら、音楽に合わせるようにポーズをとっていて、まるで公演の最中のようにも見えますが、実際にはアトリエで構成された作品でした。また本作は、三菱一号館美術館のオープニングを飾った2010年の「マネとモダン・パリ」で出展の叶わなかった作品で、同館としてはゆうに8年越しに公開が実現しました。


エドガー・ドガ「稽古をする踊り子」 1880年代はじめ〜1900年頃

すでに定評があるとは言え、ともかく想像以上に充実した作品ばかりで感心させられました。プレビュー時に、三菱一号館美術館の高橋明也館長から、「世界で最も素晴らしい個人コレクション。」との発言がありましたが、あながち誇張ではないかもしれません。


ダンカン・フィリップスと妻マージョリー、ブラック「フィロデンドロン」 の前で、1954年。 *写真パネル

最後に会場内の状況です。プレビューに次いで、会期1週目の日曜日に改めて行って来ました。さすがにはじまったばかりから、入場規制等もなく、館内もスムーズで、どの作品も好きなペースで観覧することが出来ました。


しかし何かと混雑が後半に集中する一号館美術館のことです。年明け以降、入場待ちの列が発生することも考えられます。

会期も残すこと90日となりました。ロングランの展覧会ではありますが、早めに観覧されることをおすすめします。


「フィリップス・コレクション展」会場入口

2019年2月11日まで開催されています。おすすめします。

「フィリップス・コレクション展」 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:2018年10月17日(水)~2019年2月11日(月・祝)
休館:月曜日。
 *但し、祝日・振替休日の場合、会期最終週とトークフリーデーの10/29、11/26、1/28は開館。年末年始(12/31、1/1)。
時間:10:00~18:00。
 *祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1700円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *アフター5女子割:毎月第2水曜日17時以降/当日券一般(女性のみ)1000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。作品は全てフィリップス・コレクション。
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「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」 出光美術館

出光美術館
「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」 
11/3~12/16



出光美術館で開催中の「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」を見てきました。

「古くより不可分の存在」(解説より)であった文芸と絵画は、江戸時代になってさらに進化を遂げ、多くの作品を生み出しました。

そうした文芸をキーワードにしたのが、「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」で、主に館蔵品を中心とした文人画、琳派、浮世絵の作品が約50件ほど展示されていました。

冒頭からして蕪村の傑作が待ち構えていました。それが国宝の「夜色楼台図」で、雪がしんしんと降り積もった夜の町並みを表していました。既に雪は長く降っているのか、屋根はおろか、山々も白く染めていました。ほぼモノクロームながらも、窓から漏れる明かりを示すのか、建物には朱も加えられていて、人々の息遣いも見ることが出来ました。また空は完全に闇ではなく、雪の夜に特有の明るさをたたえていて、仄かな光をたくわえていました。蕪村は胡粉の白を下塗りし、その上から淡墨を施し、さらに濃墨を重ねることで、夜の雪雲を巧みに表しました。私も何度も目にした作品ですが、これほど情景の豊かな雪景色をほかに知りません。

なお近年、本作の題が中国の明代の詩の一節であることから、蕪村は北京の雪景色を、京都の東山に見えるように描いたと指摘されています。さらに画中で一番大きな楼閣を、蕪村も通った料亭に例え、その奥に、芸妓と雪見を楽しむ蕪村の姿を想像する向きもあるそうです。しばらく絵を眺めていると、いつしか中に入り込み、蕪村と同様に楼閣に立っては、雪景色を見渡しているような錯覚に陥りました。

蕪村と並び称する文人画の大家、池大雅では、「十二ヶ月離合山水図屏風」に惹かれました。十二ヶ月の四季の移ろいを、一幅一幅、独立した図に描いていて、「離合山水」の名が示すように、各幅を繋げると、一つの大画面として風景が立ち上がるように出来ていました。大らかな線と点、さらに淡い緑や青の色彩にて、野山や水辺を表していて、舟に乗る老人など、人の姿も見ることが出来ました。特に印象深いのは点の用い方で、それこそ細かに樹木の葉を象ったかと思えば、山の際などは、かなり粒の大きな点で示していて、大小に変化を付けて景色を表していることが良く分かりました。

琳派にも見逃せない作品がいくつかありました。その1つが伝宗達の「果樹花木図屏風」で、中央に緑の丘を描き、手前に柑橘類の樹木や椿、奥に朴などを描いていました。金地から丘、また金地、さらに奥へと至った、4つの場面の構成も特徴的で、丘の緩やかな曲線は、「蔦の細道図屏風」を思わせるかもしれません。

深江芦舟の「四季草花図屏風」も興味深い作品で、金地に土筆や蕨、躑躅に海堂など、四季の草花を表していました。そして金地は、黒に近い灰色と斑模様になっていましたが、これは何も金が剥落しているわけではなく、元に銀地を交錯させたからこそ表現でもあるそうです。今でこそ銀が変色していますが、制作当初は、金と銀とが共にまばゆい光を放っていたのではないでしょうか。極めて独特な光景が生み出されていました。

禅画では大雅の「瓢鯰図」が見逃せません。有名な如拙の「瓢鮎図」を、大津絵風に表していて、大津絵では猿は鯰を捕らえるところを、大雅は禅僧に置き換えて描きました。丸々とした鯰と禅僧、そして大きな瓢箪の姿は、大変に滑稽で、親しみ易さを感じる作品でもありました。

勝川春章の「美人鑑賞図」も目を引きました。11人の女性が、絵を鑑賞したり、軒先で談笑する姿を表していて、春章は、横幅120センチ超にも及ぶ、単体の美人画と異例の大きさの画絹に描きました。着物の鮮やかな色彩も鮮烈で、まさに華やかでかつ妖艶な光景と言えるかもしれません。

ラストは文晁に玉堂、そして岸駒に呉春、森狙仙でした。ここでは森狙仙の大作、「猿鹿図屏風」が目立っていましたが、私としてはもっと小さい玉堂の「籠煙惹滋図」の方に心惹かれました。色紙大サイズの小品ながらも、細かく、震えるような墨線で描いた山水の光景は、思いの外に雄大で、目を凝らして絵の中へ入り込めば込むほど、景色が臨場感をもって立ち上がってきました。山水の魅力が小画面に濃縮された一枚と呼んでも良いかもしれません。


作品と文芸との関係については、解説パネルなどで記載がありましたが、そもそも作品が想像以上に優品ばかりでした。土曜日の午後に出かけて来ましたが、館内は大変に余裕がありました。自由なペースで鑑賞出来ます。

蕪村の「夜色楼台図」は11月18日までの展示です。以降、休館日を挟み、11月20日からは同じく蕪村の「龍山落帽図」と「寿老四季山水図」が出展されます。それ以外の展示替えはありません。ご注意下さい。

12月16日まで開催されています。

「江戸絵画の文雅─魅惑の18世紀」 出光美術館
会期:11月3日(土・祝)~12月16日(日)
休館:月曜日。但し月曜日が祝日および振替休日の場合は開館。
時間:10:00~17:00
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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「中国近代絵画の巨匠 斉白石」 東京国立博物館・東洋館

東京国立博物館・東洋館8室
「中国近代絵画の巨匠 斉白石」 
10/30~12/25



東京国立博物館・東洋館8室で開催中の「中国近代絵画の巨匠 斉白石」を見てきました。

1864年に湖南省の農村に生まれた斉白石は、大工や指物師として生計を立てつつ、絵の才能を開花させ、画家の道を歩みました。そして40歳の頃に全国各地を旅行し、60歳になって北京に拠点を定めては、大家として成功を収めました。今では、中国で最も有名な画家の1人とも呼ばれています。

その斉白石の作品が、北京画院よりまとめてやって来ました。北京画院とは、1957年に設立された中国で最も古く、規模の大きい近代美術アカデミーで、斉白石は初代名誉院長に迎えられました。


「桃花源図」 1938年 北京画院

冒頭から魅惑的な作品が待ち構えていました。それが「桃花源図」で、深い山の連なる光景を、清代の文人山水画の形式で表現していました。山の合間には草庵もあり、水辺には小さな橋も架かっていましたが、人の気配は感じられず、静寂に包まれていました。ともかく樹木の紅が瑞々しく、色彩感に秀でていて、全くジャンルは異なるものの、まるで印象派絵画を前にしているような感覚に陥りました。


「墨梅図」 1917年 北京画院

「墨梅図」は水墨のみで白梅を表した一枚で、細い枝に無数の梅を咲かせていました。身をよじらせた幹の表現も特徴的で、白石は同郷の篆刻家であった友人の誕生日を祝って描きました。


「菊花図」 20世紀 北京画院

華やかな黄色が目を引くのが「菊花図」で、素早く、力強い墨線で花弁や葉を描いていました。ちょうど奥の垣根より菊が飛び出してくる構図も躍動感があり、花の生気も感じられました。


「雛鶏出籠図」(部分) 20世紀 北京画院

白石は水墨の名手と呼んでも差し支えありません。それを示すのが「雛鶏出籠図」で、竹籠から鶏の雛が逃げ出す様子を墨で描いていました。よちよちと歩く雛は実に可愛らしく、墨の滲みを重ねては、ふわふわとした羽毛の質感までを巧みに表していました。


「葡萄松鼠図」(部分) 20世紀 北京画院

また「葡萄松鼠図」も愛らしい一枚で、葡萄の房から実を採っては、互いに奪い合おうとする栗鼠を、瑞々しい墨で表現していました。葡萄の実は淡い紫で塗られていて、墨による葉と絶妙なコントラストを描いていました。葡萄はツルを伸ばし、実を多くつけることから、子孫繁栄を意味したおめでたい植物として知られています。


「松鷹図」 20世紀 北京画院

中国で英雄の象徴とされる鷹を描いた「松鷹図」も力作で、激しい動きを伴う墨で示された松の枝の上に、一羽の鷹が羽を休めていました。やや上目遣いで見やるような仕草も面白く、どことなく人懐っこい表情に見えるかもしれません。実際に白石は師から鳥の描写に際し、「活」、すなわち「躍動感」が大切と教わっていたそうです。それを上手く反映した作品とも言えるのではないでしょうか。


「草蟹図」 20世紀 北京画院

蝦や蟹も白石の得意とした画題でした。その1つが「草蟹図」で、重なり合いながら群れる蟹を、輪郭線を用いず、墨の滲みのみで表現していました。こうした技法は明代の文人画家を継承するとされていて、目をこらすと蟹には青色も加えられていました。農村に生まれた白石は、幼い頃から生き物に親しんでいて、ひしめく蟹はまるで実際に動いているようでした。


「借山図」(第十一図) 1910年 北京画院

山水では「借山図」も目を引きました。白石が中国各地を旅して描いた作品で、様々な景勝地が、余白を多く用いた構図にて表現されていました。こうした余白のある作風は、白石山水画の特徴でもあり、のちの「双肇楼図」でも見ることが出来ました。なお「借山」とは、白石の故郷の湖南省に構えた書斎の号に因んでいるそうです。


「蝉図(画稿)」(拡大) 20世紀 北京画院

大らかとものびやかとも受け取れる白石の作風ですが、一転して実に細密な描写を見るものもありました。それが昆虫を描いた作品で、熊蜂やバッタ、はたまた蝉などを極めて写実的に写していました。


「飛蝗図(画稿)」(拡大) 20世紀 北京画院

その視点はもはや博物学的と言っても良いほどで、まるで図鑑の1ページを前にしているかのようでした。白石は常に虫を観察し、触覚の形状や羽の文様などを捉えては、写すことを楽しんでいたと伝えられています。


左:「故郷無此好天恩」朱文印 1930年 北京画院

白石は、詩、書、画、印の4分野に通じた、「四絶」と称さました。中でも篆刻には若い頃から興味を持っていて、先人に学びながら、独自の字体や刀法を確立しました。そこにはかつての大工や指物師の経験も活かされていて、力強い刻刀を用いつつ、剛直な刻線を特徴としていました。


「篆書五言聯」 20世紀 北京画院

最後に展示替えの情報です。出展は120点超にも及びますが、一部の資料を除き、前後期で全ての作品が入れ替わります。

「中国近代絵画の巨匠 斉白石」
前期:2018年10月30日(火)~11月25日(日)
後期:2018年11月27日(火)~12月25日(火)


「中国近代絵画の巨匠 斉白石」会場風景

会場は東洋館4階の第8室です。平成館の特別展ではありません。よって総合文化展の入場料で観覧出来ます。またデュシャン展と大報恩寺展会期中は、特別展チケットでも観覧可能です。


写真では、墨や色彩の細かなニュアンスが伝わりませんが、全作品の撮影も出来ました。


「中国近代絵画の巨匠 斉白石」会場入口

後期も行くつもりです。12月25日まで開催されています。おすすめします。

「中国近代絵画の巨匠 斉白石」 東京国立博物館・東洋館8室(@TNM_PR)
会期:10月30日(火) ~12月25日(火)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜、10月31日(水)、11月1日(木)は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し12月24日(月・休)は開館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *特別展チケットでも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「超おさらい!日本美術史。」 Pen(2018/11/15号)

縄文時代から戦前へと至る日本美術の歴史を、一挙におさらい出来る特集が、雑誌「Pen」11月15日号に掲載されています。



「完全保存版 超おさらい!日本美術史。」 Pen(ペン) 2018年11/15号
https://www.pen-online.jp/magazine/pen/463-nihonbijyutsushi/

それが「完全保存版 超おさらい!日本美術史。」で、縄文、飛鳥、平安、桃山、江戸(前〜中期、後期)、明治、そして戦前の順に、各時代の核となる作品を参照しながら、美術の大まかな通史を紹介していました。



はじまりは縄文時代で、東京国立博物館での「特別展 縄文」でも記憶に新しい十日町の「火炎型土器」のほか、有名な「遮光器土偶」を見比べながら、土器の文様の変遷、また土偶における造形美を踏まえ、縄文人の生活などについて触れていました。



また、基本的に通史ながらも、利休の「わび」や南蛮美術、それに若冲や蕭白、蘆雪などの18世紀の京都の絵師に着目したコーナーもあり、それぞれの特質や各絵師の個性を見比べることも出来ました。



私として特に面白かったのは、「美人」や「かわいい」などをキーワードに、時代を横断して作品をピップアップしていることで、「美人」では奈良時代の「鳥毛立女屏風」に起源を辿りつつ、平安時代の「源氏物語」、さらには清長や歌麿の美人画から、黒田清輝の「智・感・情」などを取り上げ、時代ごとに移り変わる「美」の様相、ないしトレンドを追っていました。

現代美術に関しては、「現代のアートシーンに現れた、日本美術のDNA」と題し、美術史家の山下裕二先生のインタビュー記事が掲載されていました。ここでは山下先生が注目する現代アーティストを取り上げ、それぞれの作品から見られる、日本美術の影響について触れていました。

来年2月より開催予定の「奇想の系譜」展にも関した特集、「奇想をキーワードに、非凡なる美を再発見」も興味深いのではないでしょうか。ここでは奇想を「奇なる発想に基づく、既知や諧謔、エンターテイメント性に富んだ芸術表現」と捉え、奈良から明治時代までの奇想的な作品を紐解いていました。また各時代の監修者が作品を選出しているのも特徴で、推薦コメントならぬ、解説も付されていました。新たな視点で作品を理解することができるかも知れません。

さらに「日本画の味わいをつくり出す、伝統的な画材」では、顔料、筆、また絹や和紙など日本画の画材の特徴についても踏み込んでいて、時代を経て、どのように使われていたのかを紹介していました。



【縄文時代から戦前までの日本美術史を、各時代の出来事とともに学ぶ】(特集より一部紹介)
縄文時代:1万年もの定住生活から生まれ出た、美の原点。「火焔型土器」「遮光器土偶」etc.
飛鳥時代:仏教が伝来し、日本で初めて仏像がつくられた。「法隆寺 釈迦三尊像」「中宮寺菩薩半跏像」etc.
平安時代:往生を切望する貴族が欲した、華麗なる仏画。/スクロールする絵巻の楽しさ。『仏涅槃図』『伴大納言絵巻』(常盤光長)etc.
桃山時代:天下人に愛された、永徳と等伯がしのぎを削る。『檜図屏風』(狩野永徳)『松林図屏風』(長谷川等伯)etc.
江戸時代(前~中期):美意識の継承によって、育まれていった琳派。『風神雷神図屏風』(俵屋宗達)『風神雷神図屏風』(尾形光琳)etc.
江戸時代(後期):江戸の風俗を生き生きと描いた、浮世絵の盛栄。『高島おひさ』(喜多川歌麿)『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』(東洲斎写楽)etc.
明治時代~戦前:西洋の写実表現に学びを得た、近代の日本画。『班猫』(竹内栖鳳)『落葉』(菱田春草)etc.



見開きの図版が精細でかつ大きく、それを見るだけでも楽しめますが、テキストの記述が詳細で、かなり読み応えがありました。しばらく楽しめそうです。

「Pen 2018年11/15号[超おさらい! 日本美術史。]CCCメディアハウス

雑誌「Pen」、特集「超おさらい!日本美術史。」は、11月1日に発売されました。

「Pen(ペン) 2018年11/15号 [超おさらい! 日本美術史。]」(@Pen_magazine
出版社:CCCメディアハウス
発売日:2018/11/1
価格:700円(税込)
内容:燃え盛る炎のような模様の縄文土器、力強い肉体を表した仏像、金を貼った豪華な屏風……。誰もが知る名作でも、なぜそれが生まれ、どんな意味をもったかを案外知らないものだ。今回Penの誌上には、縄文時代から現代まで、日本美術史上の傑作が勢揃いした。パリやモスクワで日本美術の展覧会が相次ぐなど、海外からも注目される日本の美。その歴史を作品誕生のエピソードや背景となる当時の情勢を交えながら、時代別に振り返ろう。
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「生誕110年 東山魁夷展」 国立新美術館

国立新美術館
「生誕110年 東山魁夷展」
10/24~12/3



国立新美術館で開催中の「生誕110年 東山魁夷展」を見てきました。

日本各地やドイツ、北欧などを旅し、風景を描き続けた画家、東山魁夷(1908~1999)は、今年で生誕110年を迎えました。

それを期して行われているのが、「生誕110年 東山魁夷展」で、唐招提寺御影堂の障壁画を含む、全70件の作品が展示されていました。


「残照」 1947(昭和22)年 東京国立近代美術館

冒頭は、魁夷が33歳の時に描いた、「自然と形象 雪の谷間」でした。同名の「秋の山」や「早春の麦畑」などに連なる作品で、雪に覆われた渓谷を、どこか図像的に表していました。続くのが、1947年の第3回日展で特選を受けた「残照」で、千葉県の房総丘陵に位置する鹿野山から望んだ景色を俯瞰的に描いていました。彼方に太陽の沈む夕方の光景で、折り重なる九十九里谷の尾根が淡い光に包まれていました。まさにパノラマと言って良く、壮大な光景に、思わず深呼吸がしたくなるほどでした。

「たにま」は「自然の形象 雪の谷間」をより単純化した作品で、雪の谷間に流れる小川をトリミングするように描いていました。画面は継ぎ紙がなされている上、水流も加えられていて、琳派的な表現も伺うことが出来ました。

おそらく近代日本画で最も有名な道を表した「道」の舞台は、八戸の種差海岸に並走する県道でした。当初のスケッチでは馬や灯台を描いていたものの、本画の段階では省き、まさに一本の道のみを表しました。道は緩やかに登っていて、頂点で右へ曲がり、さらに奥へと連なっていました。あまりにもシンプルな光景ながらも、力強さも感じる作品で、魁夷の代表作と呼んでも良いかもしれません。

1962年、北欧へと旅立った魁夷は、同地の風景をスケッチしては、帰国後、数多くの連作を発表しました。そして「清澄な画風」(解説より)は大いに評価され、作品に青を多用したことから、「青の画家」と呼ばれるようになりました。

うち「映象」は水辺越しのシラカバの林を描いた作品で、水面に反射したシラカバは、まるで地中に根を張るように広がっていました。また「冬華」は雪に包まれ、氷に閉ざされた一本の大樹を正面から捉えていて、空には太陽が灯っていました。しかしながら実に寒々しい光景で、樹木は凍りつき、必死に耐えているようにも見えました。大自然の厳しさも感じられるかもしれません。

この一連の北欧の作品で最も惹かれたのが、フィンランドのクオピオの湖を表した「白夜光」でした。タイトルが示すように白夜を描いていて、湖は白銀の光を放っていました。先の「残照」と同様、雄大な自然をパノラマ的に示していて、無限の彼方にまで続くかのようでした。


「花明り」 1968(昭和43)年 株式会社大和証券グループ

京都も魁夷が積極的に描いたモチーフの1つでした。うち「京洛四季スケッチ」は、川端康成の勧めにより描いた連作で、京都の四季の景色を表していました。「祇園まつり」では、鉾の巡行の場面を捉えていて、祭りの華やいだ雰囲気が伝わってきました。


「晩鐘」 1971(昭和46)年 北澤美術館

魁夷は旅する画家でした。一連の京都シリーズを公表した翌年、ドイツ・オーストリアへと渡った魁夷は、現地の建物や街並みを描きました。「窓」では、窓を中心とした石造りの建物を正面から描いていて、「晩鐘」では、ドイツのフライブルクの大聖堂を表していました。雲の合間からは、さながら街を祝福するかのような淡い光が差し込んでいて、どことなく幻想的な光景が生み出されていました。


「御影堂障壁画 濤声」(部分) 1975(昭和50)年 唐招提寺

ハイライトを飾った「唐招提寺御影堂障壁画」は、全てケース無しの露出での展示でした。御影堂内部をほぼそのままに再現していて、正面から宸殿の間の「濤声」、次いで上段の間の「山雪」があり、桜の間の「黄山暁雲」、松の間の「楊州薫風」、梅の間の「桂林月宵」と続いていました。


「御影堂障壁画 濤声」(部分) 1975(昭和50)年 唐招提寺

何よりも圧巻であるのは、冒頭の「濤声」で、エメラルドグリーンに染まった大海の広がる中、白波が右手上方より打ち寄せ、岩を洗い、また飛沫をあげながらも、細かに砕けては、静かに消えゆく光景を表していました。ともかく大変に美しく、臨場感のある作品で、展覧会のハイライトとしても過言ではありません。なお一連の障壁画は、2015年より始まった大修理のため、今後数年間は御影堂でも拝観することが叶いません。ほかの展示室とは異なり、暗がりの中、LEDでライトアップされた演出も効果的で、思わず見惚れてしまいました。

「東山魁夷 青の風景/求龍堂」

ラストは1980年以降、晩年に制作した風景画の展示でした。中でも趣深いのは、最晩年、90歳の時の「有星」で、青く染まる夜の中、水辺越しに望む4本の杉を描いていました。空には星が輝くものの、水面に映り込むことはなく、物悲しいほどの静けさに満ちていました。魁夷の絶筆として知られています。

一部の作品に展示替えがあります。

「生誕110年 東山魁夷展」
前期:10月24日(水)~11月12日(月)
後期:11月14日(水)~12月3日(月)

本画の入れ替えは数点ですが、「京洛四季習作」と「京洛四季スケッチ」はかなりの数が入れ替わります。

最後に館内の状況です。今回はタイミング良く、平日の夕方前に行くことが出来ました。よって、思ったり賑わってはいたものの、特に並ぶこともなく、どの作品もスムーズに見られました。



ただし、先行した京都展(京都国立近代美術館。8/29~10/8。)は、中盤以降、かなり混み合ったと聞きました。東京でも、会期は約1ヶ月強に過ぎず、土日を中心に混みあうことも予想されます。現に11月3日には、一部の時間帯で入場規制もかかりました。夜間開館も狙い目となりそうです。



ぼんやりと魁夷の風景画を前にしていると、構図や表現云々ではなく、いつしか風景の中に吸い込まれている自分に気がつきました。見終えたあと、気持ちが晴れるような気がしたのが不思議でなりません。「国民的風景画家」と称されますが、あながち誇張とは思えませんでした。



12月3日まで開催されています。

「生誕110年 東山魁夷展」 国立新美術館@NACT_PR
会期:10月24日(水)~12月3日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00
 *毎週金・土曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *11月23日(金・祝)、24日(土)、25日(日)は高校生無料観覧日。要学生証。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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トークイベント「『フェルメール会議』DNPプラザ」が開催されます

美術史家、画家、女優、学芸員、さらにはブロガーなどが、フェルメールについて語り合い、一冊の本としてまとめた「フェルメール会議」(双葉者スーパームック)。既に発売より1ヶ月を過ぎ、電子版も発売されました。ご覧になった方も少なくないかもしれません。



先だっては、荻窪6次元にて「フェルメール会議ナイト」と題し、第1回目のトークイベントも開催されました。6次元のナカムラクニオさんや、本の監修を務めた「青い日記帳」のTakさんによる、和気藹々とした、楽しいフェルメール・トークとなりました。

会議は現場で起こっていた!?ブックカフェ6次元で『フェルメール会議』ナイトに参加!(gooいまトピ)

リアル・フェルメール会議の第2弾です。市ヶ谷のDNPプラザにて「フェルメール会議」が行われます。



【11/28(水)「フェルメール会議」DNPプラザ】
出演:青い日記帳Takさん・熊澤弘さん(東京藝術大学大学美術館准教授)
会場:DNPプラザ 2F イベントゾーン
住所:東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル
交通:東京メトロ有楽町線・南北線市ケ谷駅6番出口から徒歩1分。JR線市ケ谷駅より徒歩5分。都営新宿線市ヶ谷駅1番出口から徒歩6分。
時間:19:00~20:30(18:30受付開始)
料金:無料。
定員:100名。(先着順)
内容:現在開催中の「フェルメール展」(東京・上野の森美術館)をより楽しむことができる知識や新しい見方の発見。
受付URL:https://peatix.com/event/455841

出演は「青い日記帳」の@taktwiさんと、東京藝術大学大学美術館准教授の熊澤弘さんです。言うまでもなく熊澤先生は、オランダ美術がご専門で、「フェルメール会議」にも参加されました。また誌面においては、フェルメール展にも出展されているメツーに関したテキスト、「メツー:フェルメールよりも高額な画家」を執筆されました。専門的な見地はもとより、メツー愛にも満ちた、熱のこもった内容で、大変に読み応えがありました。



日時は11月28日(水)。夜7時からです。はじめにTakさんと熊澤先生のトークセッションが行われ、その後、質疑応答を交え、会場の参加者を交えてのディスカッションとなります。

【タイムテーブル】
18:30 受付開始
19:00 オープニング挨拶
19:10 トークセッション(アートブロガーTakと専門家のトークセッション)
20:00 質疑・応答
※会場の参加者を交えてのディスカッションになります
20:30 終わりの挨拶

またゲストブロガーとして、いずれもフェルメール会議に参加した、「アートの定理」の@Akina_artさん、「あいむあらいぶ」のの@karub_imaliveさん、フェルメールFacebookページ管理人のKAKKOさんが加わる予定です。末席ながら、私ことはろるども参加します。

【ゲストブロガー】
・明菜:美術ブログ「アートの定理」管理人
 http://theory-of-art.blog.jp/
・齋藤久嗣:ブログ「あいむあらいぶ」管理人
 http://blog.imalive7799.com/
・KAKKO:フェルメールFacebookページ管理人
 https://www.facebook.com/JohannesVermeer
・はろるど:美術・音楽ブログ「はろるど」管理人
 https://blog.goo.ne.jp/harold1234

フェルメールはもとより、メツーを含む、オランダ絵画全般に関したトークイベントとなるのではないでしょうか。なお当日は「フェルメール会議」の本が会場内で販売されるほか、DNPメディアアートの協力により、複製画の展示も行われます。

イベントは入場無料です。一切の料金はかかりません。ただし事前の申込が必要です。

受付URL:https://peatix.com/event/455841

定員は100名で、既に70名近くの方が申し込まれております。それでは皆さまのお越しをお待ちしております。

「フェルメール会議/双葉社スーパームック/双葉社」

「フェルメール会議」双葉社スーパームック
監修:青い日記帳
出版社:双葉社
ムック:113ページ
発売日:2018/10/2
価格:1400円(税込)
内容:「青い日記帳」のもとに集まった識者たちが会議形式で徹底討論。フェルメール作品への新たな扉が開く!美術の専門家はもとより、画家、政治経済の研究者、歴史研究者など、フェルメールをこよなく愛する方々に集まってもらい、会議から生まれた新しい知見や新鮮な解釈をまとめた一冊です。
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「XYLOLOGY~起源と起点」 旧平櫛田中邸アトリエ

旧平櫛田中邸アトリエ
「XYLOLOGY~起源と起点」
10/27〜11/11



旧平櫛田中邸アトリエで開催中の「XYLOLOGY~起源と起点」を見て来ました。

東京の谷中の住宅街の一角に、彫刻家、平櫛田中がアトリエを構えた、大正8年築の古民家が残されています。

そこで行われているのが、「XYLOLOGY~起源と起点」で、比較的若い世代の木彫作家、計15名が、グループ展の形式で自作を公開していました。


中里勇太「つながれたひ」 2018年

可愛らしい芝犬が待ち構えていました。中里勇太の「つながれたひ」で、まるで飼い主を前にしたかのように、穏やか眼差しを向けていました。ピンと立った耳から、尻尾に至る毛並みも細かに象られていて、柔らかい質感までが伝わってくるかのようでした。


中村恒克「白象」 2018年

同じく動物をモチーフとした中村恒克の「白象」も魅惑的な作品で、大きく口を開けつつ、牙を前にしては、笑うように立つ象を表現していました。古びた箪笥の上に載っているのも面白いところで、ご覧のように、多くの作品はケース無しの露出で展示されていました。


灰原愛「原因は意外なことかもしれない」 2018年

怪訝な表情で前を向く少女に出会いました。それが灰原愛の「原因は意外なことかもしれない」で、肩に鳥をのせた少女が、首を傾げながら、何やら考え込むような仕草を見せていました。


佐々木誠「沙々禮石」 2017年

巨大な石を木で表現したのが、佐々木誠の「沙々禮石」で、1.5メートルはあるさざれ石の塊を、一つ一つ丁寧に彫り上げていました。その質感はまさしく石のようで、重厚感があり、目を凝らさなければ、木彫とは分からないほどでした。


TENGAone「Fabrication」 2017年

TENGAoneの「Fabrication」も面白いのではないでしょうか。ニコニコマークことスマイリーフェイスを表した作品で、顔の一部が剥がれ、中からダンボールのような構造が姿を現していましたが、実際は木彫でした。驚くほど精巧に作られていて、おそらく多くの人がダンボールと信じて疑わないかもしれません。


金巻芳俊「マドイ・カプリス」 2018年

テラスで陽の光を浴びながらポーズを構えるのが、金巻芳俊の「マドイ・カプリス」で、チェックのシャツにカーディガンを着た若い女性をモチーフとしていました。ともかく顔がたくさん連なっているのが特徴で、笑っていたり、驚いていたり、悲しそうであったりと、まさに喜怒哀楽ならぬ、多様な表情を見せていました。


前原冬樹「一刻」

前原冬樹の「一刻」も忘れられません。熟れに熟れ、枝のついた柿を表していましたが、質感は金工のようで、おおよそ木とは思えませんでした。


小畑多丘「KAYAMARO」 2018年

小畑多丘の「KAYAMARO」もユニークな作品でした。ショッキングピンクの服をまとったダンサーが、両手を伸ばし、足を屈めては、奇妙なポーズをしていて、頭の上には丸い円盤が乗り、目にはゴーグルのようなものを装着していました。SFのキャラクターのように見えるかもしれません。


小畑多丘「KAYAMARO」/「BUTTAI」 2018年

その「KAYAMARO」の置かれた机の下を見ると、同じく小畑の「BUTTAI」が姿を現しました。カラフルな立方体の作品で、おそらく上下で1つなのかもしれません。


ねがみくみこ「夜の大三角」 2018年

現代の木彫が、古民家へ馴染んでいるのにも感心させられました。詳細な展示リストも用意されていますが、それこそ小畑多丘の「BUTTAI」のように、屈んで覗きこまなければ、分からないような作品もあります。思わぬ場所に出現する彫刻を、探して歩くのも面白いかもしれません。


「XYLOLOGY~起源と起点」会場風景

会場の旧平櫛田中邸の最寄は鶯谷駅ですが、上野駅からも徒歩圏内です。東京国立博物館を越え、寛永寺の横を抜けた先、ちょうど谷中霊園の手前に位置します。おおよそ15分から20分弱でした。博物館や美術館へのお出かけの際に、足を伸ばすのも良いのではないでしょうか。


ねがみくみこ「ネコのダンス」 2018年

会期中は無休ですが、入場時間が13時から18時までに限られています。また展示は、古民家の1階と2階に展開し、やや急な階段を行き来する必要があります。ご注意下さい。


旧平櫛田中邸アトリエ

素材は、楠、檜、榧、朴、樫、楡、黄楊、はたまた合板から木材原料を樹脂で固めたMDFなどと、実に多岐に渡ります。表現も様々で、一括りには出来ません。現代の木彫表現のさらなる可能性も感じられました。


入場は無料です。11月11日まで開催されています。

「XYLOLOGY~起源と起点」 旧平櫛田中邸アトリエ(@kigaku_xylology
会期:10月27日(土)〜11月11日(日)
休館:会期中無休。
料金:無料。
時間:13:00~18:00。
住所:台東区上野桜木2-20-3
交通:JR線鶯谷駅北口より徒歩8分。JR線上野駅公園口より徒歩16分。
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2018年11月に見たい展覧会〜さわひらき・辰野登恵子・ロマンティック・ロシア

関東では朝晩も冷え込み、ようやく秋の気配が濃くなって来ました。10月の展覧会では、「ムンク展」(東京都美術館)が開始早々より人気を集め、土日には入場待ちの列も発生しました。そのほか、口コミなどで話題となったのか、間もなく会期を終える「小原古邨展」(茅ヶ崎市美術館)が、かなりの盛況となっているようです。

11月に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「MOTサテライト 2018秋 うごきだす物語」 清澄白河エリアの各所(~11/18)
・「白磁」 日本民藝館(~11/23)
・「林原美術館所蔵 大名家の能装束と能面」 渋谷区立松濤美術館(~11/25)
・「超えてゆく風景」 ワタリウム美術館(~12/2)
・「生誕110年 東山魁夷展」 国立新美術館(~12/03)
・「村上友晴展 ひかり、降りそそぐ」 目黒区美術館(~12/6)
・「開館15周年 ジョルジュ・ルオー 聖なる芸術とモデルニテ」 パナソニック汐留ミュージアム(~12/9)
・「さわひらき 潜像の語り手」 KAAT神奈川芸術劇場(11/11~12/9)
・「駒井哲郎―煌めく紙上の宇宙」 横浜美術館(~12/16)
・「江戸絵画の文雅―魅惑の18世紀」 出光美術館(11/3~12/16)
・「新・桃山の茶陶」 根津美術館(10/20~12/16)
・「田根剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」 東京オペラシティアートギャラリー(~12/24)
・「神々のやどる器―中国青銅器の文様」 泉屋博古館分館(11/17~12/24)
・「言語と美術―平出隆と美術家たち」 DIC川村記念美術館(~2019/1/14)
・「エキゾティック×モダン アール・デコと異境への眼差し」 東京都庭園美術館(~2019/1/14)
・「列島の祈り―祈年祭・新嘗祭・大嘗祭―」 國學院大學博物館(11/3~2019/1/14)
・「生誕135年 石井林響展 千葉に出づる風雲児」 千葉市美術館(11/23~2019/1/14)
・「カタストロフと美術のちから展」 森美術館(~2019/1/20)
・「霧の抵抗 中谷芙二子」 水戸芸術館(~2019/1/20)
・「辰野登恵子展」 埼玉県立近代美術館(11/14~2019/1/20)
・「皇室ゆかりの美術―宮殿を彩った日本画家」 山種美術館(11/17~2019/1/20)
・「吉村芳生 超絶技巧を超えて」 東京ステーションギャラリー(11/23~2019/1/20)
・「扇の国、日本」 サントリー美術館(11/28~2019/1/20)
・「建築 × 写真 ここのみに在る光」 東京都写真美術館(11/10~2019/1/27)
・「ブルーノ・ムナーリ―役に立たない機械をつくった男」 世田谷美術館(11/17~2019/1/27)
・「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア」 Bunkamura ザ・ミュージアム(11/23~2019/1/27)
・「いわさきちひろ生誕100年 Life展 作家で、母で つくる そだてる 長島有里枝」 ちひろ美術館・東京(11/3~2019/1/31)
・「大千住 美の系譜―酒井抱一から岡倉天心まで」 足立区立郷土博物館(~2019/2/11)
・「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」 21_21 DESIGN SIGHT(11/2~2019/2/24)

ギャラリー

・「木学 XYLOLOGY 起源と起点」 旧平櫛田中邸・アトリエ(~11/11)
・「匠の森」 ポーラ ミュージアム アネックス(11/9~11/18)
・「日本のアートディレクション展 2018」 クリエイションギャラリーG8(~11/22)
・「Art Direction Japan 2018展」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(~11/22)
・「森淳一展 山影」 ミヅマアートギャラリー(~11/24)
・「吉野石膏美術振興財団在外研修助成採択者成果発表展 めざめるかたちたち」 スパイラルガーデン(11/14~11/26)
・「名和晃平 Biomatrix」 SCAI THE BATHHOUSE(~12/8)
・「風間サチコ 予感の帝国」 NADiff a/p/a/r/t(11/9〜12/9)
・「桑山忠明」 タカ・イシイギャラリー東京(11/22~12/22)
・「田根剛|未来の記憶」 TOTOギャラリー・間(~12/23)
・「絵と、 vol.4 千葉正也」 ギャラリーαM(11/10~2019/1/12)
・「鈴木理策 写真展:知覚の感光板」 キヤノンギャラリーS品川(11/28~2019/1/16)
・「それを超えて美に参与する 福原信三の美学」 資生堂ギャラリー(~2019/3/17)

まずは現代美術です。KAAT神奈川芸術劇場にて「さわひらき 潜像の語り手」がはじまります。



「さわひらき 潜像の語り手」@KAAT神奈川芸術劇場(11/11~12/9)

同展は、KAAT神奈川芸術劇場の「美術とパフォーミングアーツの新たな交差点『KAAT Exhibition』」(公式サイトより)の一環として行われるもので、期間中、映像作家のさわひらきの作品を中心に、ダンサーの島地保武・酒井はなの新作ダンスや、パフォーマンスイベントなどのプログラムが展開されます。


よって単なる個展ではありません。11月23日から25日にかけては、「KAAT EXHIBITION 2018」と題し、「さわひらき×島地保武『siltsーシルツ』」(別料金)が開催されます。また11月17日には、展覧会チケットのみで観覧可能な「島地保武×環ROY×鎮座DOPENESS」も開かれます。そのタイミングを狙って出かけるのも良いかもしれません。

一度、回顧展に接したいと思っていました。画家、辰野登恵子の展覧会が、埼玉県立近代美術館で開催されます。



「辰野登恵子展」@埼玉県立近代美術館(11/14~2019/1/20)

1950年に長野県の岡谷に生まれた画家は、1970年代にドットやストライプなどのパターンを用い、版画を制作し、のちに油彩へ移っては、独自の抽象表現を追求し続けました。


その辰野の画業を、油彩30点を含む、約220点の作品にて俯瞰する展覧会です。中でも版画やドローイングなどの紙の仕事に着目していて、あまり見る機会の少なかった初期のシルクスクリーン版画連作も多く出展されます。辰野の油彩画は、国立新美術館の「与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」(2012年)でも見る機会がありましたが、今回の展示では、辰野の知られざる制作を見ることが出来そうです。

おおよそ4ヶ月間の施設改修工事を終え、再び文化村に展覧会がやって来ました。Bunkamura ザ・ミュージアムにて「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア」が行われます。



「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア」@Bunkamura ザ・ミュージアム(11/23~2019/1/27)

これは約20万点もの所蔵作品を誇る、ロシアの国立トレチャコフ美術館より、主に19世紀後半から20世紀にかけてのロシアの絵画を紹介する展覧会で、クラムスコイ、シーシキン、レヴァタン、レーピンらの作品が約70点ほど公開されます。


中でもクラムスコイの女性をモチーフとした「忘れえぬ女」や「月明かりの夜」、それにともにロシアの自然を表したシーシキンの「雨の樫林」やバクシェーエフの「樹氷」に注目が集まるのではないでしょうか。また初来日作品も多く出展されるそうです。ロシア絵画の魅力に接する良い機会となりそうです。

それでは11月もどうぞ宜しくお願いします。
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