「山口晃展 画業ほぼ総覧」 群馬県立館林美術館

群馬県立館林美術館
「山口晃展 画業ほぼ総覧ーお絵描きから現在まで」
2013/10/12-2014/1/13



群馬県立館林美術館で開催中の「山口晃展 画業ほぼ総覧ーお絵描きから現在まで」を見てきました。

『かつてないほどに網羅的な山口晃展。』

本展の特徴を一言でいえばこう表せるのではないでしょうか。


「TOKIO山水 東京圖2012(部分)」2012年

画家の山口晃は群馬県の桐生市生まれ。高校までを同地で過ごした群馬県人でもあります。つまりは故郷での回顧展です。出品は旧作から近作、絵画や立体にインスタレーションなど全80点弱。また基本的に時系列での展示ですが、途中に澱エンナーレの総集編を挟み、大作「TOKIO山水」へと流れるという構成は一つのストーリーを紡ぐようでもある。山口ワールドをいくつかの視点から俯瞰する内容ともなっています。

それでは展示のポイントを。まず驚かされるのは出品作で一番古いのが3歳の頃だということ。もちろんそれは『作品』ではなく『お絵描き』ですが、その中にも今の山口の画風を思わせる要素があります。メカにロボットに骸骨とオバケ。いずれも細かな線です。こうした関心が幼少期からあったことが伺い知れます。

また高校の卒業アルバムの表紙を山口が描いたそうですが、それも参考資料として展示。さらに同じく高校時代の文芸誌まであります。まさに故郷ならではの試み。3歳まで遡るとは思いもよりませんでした。


山口晃「深山寺参詣圖」1994年 仙庄館

さて展示では90年代の初期作も見どころです。例えば「深山寺参詣圖」(1994年)に「神鳥図」(1996年)。時空を超えての伽藍と人間模様。現代と江戸と古代の混在した一枚。ちなみに両者とも初公開の作品です。(深山寺は美術館としての初公開。)

「中西夏之氏公開制作之圖」(2003年)も初めて見ました。いうまでもなく画家、中西氏の制作の様子を表した作品。イーゼルにキャンバスを立てて筆をとる中西氏。それを追っかけながらメモを取る観客の姿。画家に特徴的な紫色の絵具が画面を覆います。

澁澤龍彦の「貘園」(2004)の挿画も見慣れないシリーズです。露骨な性描写も登場しますが、そこはある方法でカモフラージュされている。山口の機知を感じます。


山口晃「三浦しをん『風が強く吹いている』表紙原画(部分)」2006年

なお展示では「江戸しぐさ」や三浦しをんの「風が強く吹いている」の他、ドナルド・キーンの「私と20世紀のクロニクル」などの挿画の原画が多数出ているのも嬉しいところです。かなりのスケールでした。

「こたつ派」(1997年)のDM原画も目を引きました。これは会田誠の呼びかけの元、ミヅマで開催されたグループ展のこと。山口晃の実質的デビューとなった展示でもあります。


山口晃「フランス重騎兵」(日清日露戦役擬畫より)2002年

少なくとも都内近辺の山口展はそれなりに目を通しているつもりですが、今回は未見のものも多く、新鮮味もありました。


山口晃「百貨店圖 日本橋 新三越本展(部分)」2004年 三越伊勢丹

現在、上毛かるたをテーマとした新作を鋭意制作中です。ご本人によればもう間もなく出来上がるとか。またカタログは予約での受付。完成は12月下旬だそうです。

「ヘンな日本美術史/山口晃/祥伝社」

館林は北千住から伊勢崎線の特急に乗ってしまえば50分弱。駅からのアクセスにやや難がありますが、最寄りの多々良駅から歩けないこともありません。都内からは意外と近い美術館です。



2014年1月13日まで開催されています。

「山口晃展 画業ほぼ総覧ーお絵描きから現在まで」 群馬県立館林美術館
会期:2013年10月12日(土)~2014年1月13日(月・祝)
休館:月曜日。但し祝休日の場合は開館し、翌日休館。群馬県民の日10/28は開館。及び年末年始。(12/29~1/3)
料金:一般800(640)円、大高生400(320)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *群馬県民の日(10/28)は観覧無料。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) 
住所:群馬県館林市日向町2003
交通:東武伊勢崎線多々良駅から徒歩約20分。伊勢崎線館林駅からバス多々良巡回線にて「県立館林美術館前」からすぐ。バス停「西高根町」からは徒歩約15分。
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「光悦ー桃山の古典」 五島美術館

五島美術館
「特別展 光悦ー桃山の古典」 
10/26-12/1



五島美術館で開催中の「特別展 光悦ー桃山の古典」を見てきました。

宗達との金銀泥のコラボから楽茶碗、また漆工芸などで多彩な技を見せる本阿弥光悦。その卓越したデザイン感覚は、どこか今に通じるものさえある。ともかく光悦の作品からただならぬセンスを感じないことはありません。

しかしながら果たして光悦がどのような事績を辿ったのか。もちろん時代もあるやもしれませんが、例えば同じ琳派の光琳や抱一ほどに良く知られているというわけではありません。

そこを狙うのが本展の「光悦ー桃山の古典」。彼がいつどこで何を表現しようとしていたのか。それを作品を参照しながら読み解いていきます。


「赤楽茶碗 銘 乙御前」 個人蔵

出品は光悦の書・陶芸・出版、漆芸など150点。後述するように途中で展示替えがあります。また150点というと大変なボリュームに思えますが、実のところ出品作中においてかなりの割合を占めるのが書状や歴史的資料です。

つまり光悦の記した書状をふまえながら、その当時に置かれた境遇や制作背景などを見ていくという仕掛け。またこうした書などを素人が読むのは困難ですが、そこは充実したキャプションがフォロー。光悦がいつ誰にどういった内容の書状を送ったのか。事細かな説明が付けられていました。


「書状 寿命院様宛」 徳川美術館 展示期間:10/26~11/17

一例を挙げましょう。まずは「書状 吉左殿宛」。楽家の二代常慶に送ったものとされる書状ですが、そこには茶碗を制作するので、白土と赤土を持ってきて欲しいとの文言が。光悦と楽家との関わりが伺えます。

前田利家の次男に送った「書状 羽孫四様宛」はどうでしょうか。中には「中風にて不自由」との記載が。そして文字や行に若干の乱れも見られる。この頃の光悦は重い中風に懸かっていたそうです。

面白いのは「書状 宗徳老宛です」。宗徳の人物は特定されていませんが、文中には「宗達」か「宗遅」とも読める人物名が記されている。かつては宗達との関係を示すものとして注目されていたそうです。本展では「遅」と読んでいますが、ともかくこうした書状を丹念に読んでいくと、断片的なれども、光悦の人となりなどが伝わってきます。


「光悦町古図写」(部分) 個人蔵

また資料として本阿弥家の家系図から光悦町の古地図、さらには光悦の印章や刀剣の銘書などもあわせて展示。そもそも光悦の本業は刀剣の鑑定でした。

書状や資料から光悦の人間像を浮かび上がらせる試み。かなり学究的です。またカタログ(2500円)の論考も読み応えがあります。光悦受容の新たなる歴史を切り開く展覧会と言えるのかもしれません。


「黒楽茶碗 銘 時雨」 名古屋市博物館 森川コレクション

さてこうした資料を少し離れて今度は作品を。まず目立つのは陶芸。赤楽に黒楽。国内各地の美術館や個人所蔵の重要な作品がずらり。約15点ほどが展示されています。

中でも魅惑的なのが「黒楽茶碗 銘村雲」です。どこかシャープな光悦ならではの造形感覚。手前に低く奥に高い口縁の緩やかな曲線。豊かな表情を見せてくれます。


「白楽茶碗 銘 冠雪」 個人蔵

茶碗では重文作が4点、香合は1点と名品揃いですが、個人所蔵の中でも趣き深い作品があるのも嬉しいところ。「白楽茶碗 銘冠雪」のうっすらと薄緑色を帯びた味わい。柔らかい雪の中で仄かな桃色が灯る。見惚れます。


「舟橋蒔絵硯箱」 東京国立博物館 展示期間:10/26~11/10

そして漆芸からは「蒔絵絵唐櫃」に「舟橋蒔絵硯箱」なども。いずれも国宝です。また光悦は熱心な法華信者でもあったそうですが、菩提の本法寺に経典とともに寄進したとされる「花唐草螺鈿経箱」も目を引きます。見事な曲線美を描く螺鈿の唐草文に軽快な「法華経」という文字。鮮やかでした。


「四季花鳥下絵新古今集和歌色紙帖」 五島美術館

装飾料紙では「鹿下絵新古今和歌巻断簡」なども見どころです。また金銀泥にて竹や桜、千鳥などを描いた「花卉鳥下絵新古今集和歌巻」は美術館での初公開とか。銀泥の焼けが少なく色味も抜群。まだまだこうした優品が眠っているものです。


「蔦蒔絵唐櫃」 厳島神社

会期中の展示替えの情報です。冊子、巻子作品は前後期での頁替。主に書状、断簡などが入れ替わります。ちなみに茶碗に関しては全期間での展示です。

前期:10月26日(土)~11月17日(日)
後期:11月19日(火)~12月1日(日)



「蓮下絵百人一首和歌巻断簡」 個人蔵

全面改装を終えての五島美術館、一新した照明などは実に効果的。蒔絵なども映えて見えました。ただ一つ、ケースの都合でやむを得ないのかもしれませんが、茶碗の展示位置が低いのが気になりました。かなりのぞき込まないといけません。茶碗を正面を見るにはしゃがむ必要がありました。

12月1日まで開催されています。

「特別展 光悦ー桃山の古典」 五島美術館
会期:10月26日(土)~12月1日(日)
休館:月曜日。但し11/4(月・休)は開館。翌火曜日は休館。
料金:一般1200円、大学・高校生900円、中学生以下無料。
時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで) 
住所:世田谷区上野毛3-9-25
交通:東急大井町線上野毛駅より下車徒歩5分。
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「バルビゾンへの道」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「山寺 後藤美術館コレクション展 バルビゾンへの道」
10/20~11/18



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「山寺 後藤美術館コレクション展 バルビゾンへの道」へ行ってきました。

山形市は山寺にある後藤美術館。平成6年、実業家の後藤季次郎氏が収集したヨーロッパ美術品を公開するために開館。とりわけバルビゾン派絵画やアールヌーボーのコレクションで知られています。

その後藤美術館から西洋絵画が渋谷へとご出張。17世紀から19世紀、宗教画に風俗画まで。全部で約80点です。何もバルビゾン派の展覧会というわけではありません。


ジョン・エヴァレット・ミレイ「クラリッサ」1887年

また時系列ではなくテーマ別での展示です。神話や肖像、風景、静物などといったモチーフに沿いながら、ヨーロッパ絵画の系譜を辿っていました。


ジャン=バティスト・ユエ「羊飼い姿のヴィーナス」制作年不詳

ともかくジャンルも時代も様々。気になった画家なり作品はいくつかありましたが、特に惹かれたのはカバネルとエンネルの二人。ともに19世紀フランスのアカデミックな画家です。

カバネルでは「デズデモーナ」(1871年)が秀逸です。言うまでもなくシェイクスピアの「オセロ」における悲劇のヒロインですが、ここでは上目遣いで不安げな視線を向ける姿を正面から捉えています。瞳からは涙が流れ、顔の上半分は影にも覆われている。彼女の運命を暗示するかのような表現です。

エンネルの「荒地のマグダラのマリア」はどうでしょうか。サロン出品作の別ヴァージョンといわれる本作、横たわるのはマグダラ。確かに目を瞑って祈りを捧げているのかもしれませんが、単に眠っているようにも見える。香油壺がなければマグダラだとは分かりません。まるで風俗画です。

またエンネルではもう一作、「栗色の髪の少女」も魅力的です。青白い顔色をした女性。目は虚ろにも前を見据えている。エンネルは時に象徴派とも呼べる幻想的な女性を描きますが、その一例とも言えるような作品でした。

さて本展、決して有名とはいえない画家も多く登場しますが、その中にも興味深い作品があるのもポイントかと。例えばジョアッキーノ・パリエイの「夜会」です。金の装飾が艶やかな邸宅の広間での宴会。左奥の通路からは主役の貴婦人がご登場。何やら卑猥なまでの笑みを浮かべて興じる姿はどこか頽廃的です。軽薄とも言える18世紀の貴族趣味を巧みに表していました。


ジャン=バティスト・カミーユ・コロー「サン=ニコラ=レ=ザラスの川辺」1872年

チラシ表紙を飾ったコローの「サン=ニコラ=レ=ザラスの川辺」(1872年)はさすがに魅せるものがあります。画家の個性を表す『霧と靄の幻想のコロー』を体現したような一枚でした。


コンスタン・トロワイヨン「小川で働く人々」制作年不詳

なおやはりドービニーにトロワイヨンなどのバルビゾン派に優品が目立ちます。中でもデュプレの「月明かりの海」(1870年代)は異彩を放つ作品です。月明かりが雲に反射した夜の海。青白い闇が海岸線に立つ家屋を照らしている。そこには微かに人影も。どことなく不穏でかつ物悲しい印象を与えます。


モデスト・カルリエ「花といちごのある静物」制作年不詳

館内には余裕がありました。ゆっくり鑑賞出来ます。

会期は短く一ヶ月間です。11月18日まで開催されています。

「山寺 後藤美術館コレクション展 バルビゾンへの道」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:10月20日(日)~11月18日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生900(700)円、中学・小学生600(400)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要電話予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分
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「東美貴子ーCirculation」 アルマスギャラリー

アルマスギャラリー
「東美貴子ーCirculation」 
9/7-10/26



アルマスギャラリーで開催されていた東美貴子個展、「Circulation」を見てきました。

一枚の上記DMの図版、何やら色鮮やかなモザイク状の模様。余白を取り込んで美しく広がっている。しかしながらこれが一体、果たしてタブローなのか版画なのかそれとも別のものなのか。実のところ、作品を前にするまで見当もつきませんでした。

というわけで会場のアルマスへ。モザイクは何で出来ていたでしょうか。



ずばり答えは紙。つまり紙片です。しかもその大きさを見て驚愕、何と1ミリ四方。つまりこのモザイクは1ミリの紙片が無数に張り合わされて生まれたものだったのです。

作家の東美貴子は多摩美術大学の版画科を卒業。版の表現を手がけるともに、素材の紙に注目した作品を発表してきました。



その一つの中間地点であり、到達点でもあるのが紙片によるモザイク画です。また紙片はくり抜かれたものではなく、作家自らの手で切り取られたものだとか。それこそシュレッダーよりも細かな紙の粒。紙は比較的厚手で既成のもの。DMなどを用いることもあるそうです。確かに目を凝らすと印刷されていた文字の一端を見ることが出来ました。



さて今度は紙片からモチーフに注目を。一見、抽象にも受け止められる図像、しばらく眺めていると何やら心象風景とも言うべきものが浮かび上がってきます。



これらはいずれも東が見てイメージしたものだそうです。飛行機から見た都市の風景であり、また旅先の寺院から得たインスピレーションであったり、はたまた植物の種や貝であったりします。多様です。

抽象と具象の狭間。パステル調の色彩は印象派絵画も連想させます。

図版では分からなかった紙片による美しき風景。思いがけないほどに魅力的でした。

展覧会は既に終了しました。

「東美貴子ーCirculation」 アルマスギャラリー
会期:9月7日(土)~10月26日(土)
休館:月~木曜日。*金・土・日のみオープン。
時間:12:00~19:00
住所:江東区清澄2-4-7
交通:東京メトロ半蔵門線、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩5分。
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「江川純太 選択が迫る。後ろはみえない。僕は掴んだ右手を眺める。」 eitoeiko

eitoeiko
「江川純太 選択が迫る。後ろはみえない。僕は掴んだ右手を眺める。」
10/19-11/9



eitoeikoで開催中の江川純太個展、「選択が迫る。後ろはみえない。僕は掴んだ右手を眺める。」を見てきました。

変わらない部分と変わった部分。江川のまさに今の制作を知ることの出来る展覧会。

本展の特徴を簡単に表せば、そうした言葉でもまとめられるかもしれません。

2003年に多摩美術大学絵画学科日本画専攻を卒業した江川は、主にここeitoeikoで個展を重ねながら、シェル美術賞や本年のVOCA展にも出品。また最近では8月にTWS本郷でも展示を行ってきました。

eitoeikoでは昨年春以来となる個展です。作品は約20点。網羅的です。


右:「僕がいて、彼がいて、あなたがいる。」油彩、キャンバス 2012年

というのも江川は度々作風を大きく変えるのが魅力でもあるところ。これまではどちらかと言えば各々、統一感のある作品を並べて展示を行ってきました。しかしながら今回は前回展で見せた鍵穴のようなモチーフから、ストライプを取り込んだもの、そしてどこかオールオーヴァー的なイメージが半ば混在するかのように並んでいるのです。


中央:「あなたの過去を想像する。」油彩、キャンバス 2013年

いずれもがここ1~2年、つまり2012年と本年の作品ばかりです。それでいてこのヴァリエーション。確かに抽象とは一言で表せるのかもしれませんが、絵画に沈みこみ、また散り、或は解き放たれるイメージは実に多様。絵具も厚く塗られたり、また延ばしり、削いだりと変化を見せている。もちろんそれらが一枚の絵画作品の中でも展開されています。


右:「彼は言った。しかし、声にならなかった。」油彩、キャンバス 2012年

一見、捉え難いかもしれない江川の絵画。鍵穴を思わせるシリーズは確かに内省的です。しかしながらいずれも色彩はクリアで美しく、絵具の質感、それ自体の重み、そこから生み出される迫力は並大抵のものではありません。

今回は素直にオールオーヴァー的な作品に惹かれました。流れる水の如くに縦にゆらゆらと靡くストローク。そこに色とりどりの宝石のような絵具が散っていく。絵具同士は時に溶け合い、またせめぎあう。即興的。どこか心地よいリズムを感じます。


「目を逸らし、もう一度見る。」油彩、キャンバス 2013年 他
 
江川の作品を見ていて常に感じるのが筆致なり絵具が非常に肉感的で生々しいということです。

時に頭部にもとれるようなモチーフ。絵具は肉片でも表すかのようにせり上がっている。ふとベーコンの絵画を思い浮かべます。


「あなたはまた安心する」油彩、キャンバス 2012年

個展を伺うたびに「変化」に驚かされますが、今回は網羅的に展示することにより、作家の個性なりが際立ったようにも思えました。

11月9日まで開催されています。

「江川純太 選択が迫る。後ろはみえない。僕は掴んだ右手を眺める。」 eitoeiko@eitoeiko
会期:10月19日(土)~11月9日(土)
休廊:日月祝
時間:12:00~19:00
住所:新宿区矢来町32-2
交通:東京メトロ東西線神楽坂駅より徒歩5分、都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅より徒歩10分
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「上海博物館 中国絵画の至宝」 東京国立博物館

東京国立博物館・東洋館
「特別展 上海博物館 中国絵画の至宝」
10/1-11/24



東京国立博物館・東洋館で開催中の「上海博物館 中国絵画の至宝」へ行ってきました。

普段、なかなか親しみがあるとは言い難い中国絵画。宋元から明清まで千年。長い歴史の中で多様に展開した画風を追いかけるのも簡単ではありません。

そこを狙うのが「中国絵画の至宝展」です。しかも全て中国は上海博物館からの来日品。つまりは特別展、東博の館蔵品ではありません。

さて何かと展覧会でも良く見聞きする「至宝」、今回はあながち誇張とも言えないのではないでしょうか。

というのも作品は粒ぞろいです。全40件のうち、日本の国宝に当たるという一級文物が18件。中国本土でも滅多に公開されない作品も少なくないそうです。

それではいくつか印象深かった作品を挙げてみましょう。まずは宋元画から。王しん筆の「煙江畳嶂図巻」(北宋時代)です。


一級文物「煙江畳嶂図巻」王しん(おうしん)筆 北宋時代・11~12世紀 上海博物館 展示期間:10/1(火)~10/27(日)

まさに雄大でかつ深淵。広がる水面に切り立つ岩山との対比。一見無人かと思いきや、何と小さな小さな舟や人の姿も見え隠れしている。この細部を描くことへの徹底したこだわり。肉眼では判別不能なほどでした。

そうした細部の描写で圧倒的なのは「閘口盤車図巻」(五代時代)です。


一級文物「閘口盤車図巻」五代時代・10世紀 上海博物館 展示期間:10/1(火)~10/27(日)

かつて東博にやってきて大変な話題となった「清明上河図巻」を思わせる細密表現。中央には水門があり、水車を回して粉を挽いている。周囲には粉を計ったり、また持って運ぶ人の姿も。それらが神の眼ならぬ、全てクリアに描かれている。写実とはこのことを言うのでしょうか。どこか描くことへの執念すら感じられました。

また「滕王閣図頁」(元時代)も同様の作品です。楼閣がこれまた細かい描線で示されています。絹一本に線一本の世界。賛も小さ過ぎてまるで読めません。ちなみにこうした建築を描いた作品を界画と呼ぶのだそうです。単眼鏡必須の作品でした。

奇妙奇天烈、奇岩の連続、春から冬の山々の光景を一枚の巻物に仕立てた呉彬筆の「山陰道上図巻」(明時代)も強い印象を与えます。


「山陰道上図巻(部分)」呉彬(ごひん)筆 明時代・1608年 上海博物館

こちらは細密ではなく、むしろ素朴画を連想させるような筆致。ともかく天を突き、また地を這うような岩山の形が実に個性的です。秋の風景では木々が色づき、冬では山々が寒々と白んでいる。まさに奇景でした。


一級文物「琴高乗鯉図軸」李在筆 明時代・15世紀 上海博物館

『奇』繋がりで、日本の奇想を思わせる一枚を。李在筆の「琴高乗鯉図軸」(明時代)です。鯉に昇る仙人とそれを見送る仙人たちの姿。一見、温和な作風のようですが、画面には大風が吹いているのか、波は立ち、また木々も揺られている。そして興味深いのは仙人たちの衣の表現。象る線描がそれこそ蕭白画のように震えているではありませんか。


一級文物「花卉図冊」惲寿平(うんじゅへい)筆 清時代・1685年 上海博物館

びっくりするくらい美しい花卉画も展示されています。それが惲寿平の「花卉図冊」(清時代)。輪郭線を描かない没骨法による四季の花々。色鮮やかな色彩感覚。日本の江戸の花卉にも通じるものがあるかもしれませんが、花の様態、ようは植物学的な特徴も克明に捉えているのもポイントです。あたかも実際の花を前にしているような感覚も。見事でした。

細密に写実、そして情緒しかり、実に様々な顔を見せる中国絵画の奥深き世界。画家の名を知らずしても見入るような作品ばかりです。思いの外に惹かれました。

なお出品の計40点のうち、13点ほどが会期途中で入れ替わります。(出品リスト

前期:2013年10月1日(火)~10月27日(日)
後期:2013年10月29日(火)~11月24日(日)


実のところ、私自身、見る前は一度で終えるつもりでしたが、この充実ぶりです。後期も追っかることにしました。

11月24日までの開催です。おすすめします。

「上海博物館 中国絵画の至宝」 東京国立博物館・東洋館(@TNM_PR
会期:10月1日(火)~11月24日(日)
休館:月曜日。但し10/14(月・祝)、11/4(月・休)は開館。翌火曜日は休館。
料金:一般600円(500円)、大学生400円(300円)、高校生以下無料。
 * ( )内は20名以上の団体料金。特別展との共通券あり。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) 
 *毎週金曜日及び、11/2(土)、3(日・祝)は20時まで開館、11/4(月・休)は18時まで開館。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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「スペイン・アンフォルメル絵画の二つの『顔』」 国立西洋美術館

国立西洋美術館
「ソフィア王妃芸術センター所蔵 内と外ースペイン・アンフォルメル絵画の二つの『顔』」
2013/10/3~2014/1/5



国立西洋美術館で開催中の「ソフィア王妃芸術センター所蔵 内と外ースペイン・アンフォルメル絵画の二つの『顔』」を見てきました。

20世紀美術の一潮流として知られるアンフォンメル。そのスペインにおける展開とは如何なるものなのか。

そもそもアンフォンメルは二次大戦後のパリで勃興、50年代にはスペインへと渡り、60年代に最も盛んとなった。

本展ではそうしたスペインのアンフォルメル絵画を紹介。画家は4名、出品は14点です。会場は新館展示室の一部。つまり常設展のスペースです。点数は多くありませんが、大作揃いでかなり見応えがありました。

さてアンフォンメルの二つの顔。内と外とは一体何を意味するのでしょうか。

それはスペインの内か外。つまりスペイン国内で活動した画家と、海外、アメリカで活動した画家のことです。それぞれ2名ずつ。展示ではそれらが対照的に見られるよう工夫されています。

まず国内の画家。アントニ・タピエス(1923~2012)とアントニオ・サウラ(1930~98)です。

フランコの独裁体制下にあった二次大戦後のスペイン。彼らはその中にあっても国内に留まり、時に批判精神を持ちながら作品を制作。激しい物質感を伴いながら、具象と抽象の狭間とも言えるような画風を展開していきます。

チラシ表紙を飾るサウラの「大群衆」(1963年)の迫力といったら比類がありません。荒々しい描線が全体を覆い尽くす。まるで身震いするポロックばりの筆致ですが、そのモノクロームの画面には無数の顔がひしめき合っている。そして彼ら彼女らの瞳からはグレーの涙が滴り落ちる。痛々しい。心の奥底の叫びが聞こえてくるような作品です。

サウラは身体の造形を取り込み、内的な衝動ともいうべき何かを絵画に表現しました。

では同じくスペインに留まった巨匠タピエスはどうでしょうか。目立つのは「木の上の大きなニス」(1982年)、2枚の木のパネルを連ねた、横3mにも及ぶ大作です。


「木の上の大きなニス」1982年 ミクスト・メディア/カンヴァス ソフィア王妃芸術センター

黒に広がる朱色、そして傷跡のように書き込まれた白い線。絵具が画面でせめぎあう様はどこか水墨を連想させる面も。ちなみにこの朱色は木の地の色。タイトルにもあるようにニスを塗り込むことで生まれている色なのです。そう捉えてみると実に繊細な画肌であることも分かります。

一方でスペインを離れたのはエステバン・ビセンテ(1903~2001)とホセ・ゲレーロ(1914~91年)。ともにニューヨークへ渡り、アメリカの抽象絵画を引き受けながら、独自の活動をした画家たちです。


エステバン・ビセンテ「ミッドウェスト」1953年 油彩/カンヴァス ソフィア王妃芸術センター

ビセンテの「ミッドウェスト」(1953年)は様々な色面が緩やかに連環。そこへ黒い線やなぞるように広がる白が入り込む。グレーのトーンなど、様々な色が錯綜していますが、どこか軽快で心地良い印象を与えられます。


ホセ・ゲレーロ「赤い土地」1955年 油彩/カンヴァス ソフィア王妃芸術センター

ゲレーロの作品から連想したのはミロでした。ところでこのゲレーロしかり、アメリカの抽象美術に影響されている面はあるかもしれませんが、いずれもプリミティブでかつ神秘的な気配を感じさせているのも興味深いポイントです。タピエスの内面へ沈み込むような重みにサウラの激しい叫び。そしてビセンテとゲレーロの遊び心も感じさせる色や形の展開。スペイン・アンフォルメルは一言で語れません。

今からもう7~8年前、原美術館でタピエスの個展に圧倒されて以来、心の中にあったスペイン・アンフォルメルへの想い。確かに点数は足りません。それでも久々に絵画から発せられる熱気のようなものに打ちのめされました。

それにしても現在、本館部分で行われているル・コルビュジエ展しかり、西美の常設は極めて充実した展示となっています。

「ル・コルビュジエと20世紀美術」@国立西洋美術館(拙ブログ)

もちろんその分、松方コレクションの作品は少なくなっていますが、コルビュジエ+スペイン・アンフォルメルを常設観覧料金のみで楽しめるとは大変にお得。(もちろんミケランジェロ展のチケットでも観覧出来ます。)見応え満点です。

ちなみにコルビュジエ展は11月4日まで。以降は通常の常設に戻ります。いつもとは趣きを一変させた西洋美術館の常設展示。期間限定です。お見逃しなきようご注意下さい。

2014年1月5日までの開催です。これはおすすめします。

「ソフィア王妃芸術センター所蔵 内と外ースペイン・アンフォルメル絵画の二つの『顔』」 国立西洋美術館
会期:2013年10月3日(木)~2014年1月5日(日)
休館:月曜日。但し10/14、11/4、12/23は開館、翌火曜日休館。年末年始(12/28~1/1)。
時間:9:30~17:3
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *上野公園の「創エネ・あかりパーク2013」開催にあわせ、11/2(土)、11/3(日)は20時まで開館。
料金:一般420(210)円、大学生130(70)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *毎月第2・第4土曜日、文化の日(11/3)は観覧無料。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成電鉄京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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「ジョルジュ・ルオー展/現代美術と祈り」 千葉市美術館

千葉市美術館
「ジョルジュ・ルオー展/現代美術と祈り」 
10/1-11/17



千葉市美術館で開催中の「ジョルジュ・ルオー展」(同時開催:現代美術と祈り)へ行ってきました。

「本国フランスを除けば、(略)最も多くのルオー展が開かれているのが日本である。」(リーフレットより引用)確かにルオーの展示を目にする機会が少なくないのも事実。あながち誇張だとは言えないかもしれません。

そもそもルオーは日本人の画家やコレクターと交流した人物でもあります。最初にルオーの作品を購入したのは画家の梅原龍三郎だと言われていますが、ともかく白樺派しかり、他の文人や画家たちにも影響を与えました。日本は比較的早い段階でルオーを受容してきたわけです。

日本のルオーで良く知られるのは出光美術館のコレクションです。かの出光佐三が連作版画集「受難」を購入したことが切っ掛けに始められた収集活動。結果的に現在では400点ものルオー作品を収蔵するに至りました。

またルオーと言えばもう一つ忘れてはならないのがパナソニック汐留ミュージアム。まさに現在、ルオーの名を冠した「モローとルオー」展を開催中ですが、ここでも出光と並んで充実したルオー作品を所蔵しています。

前置きが長くなりました。本展はそうした日本国内にあるルオー作品を展観。とりわけルオーの人物表現に注目し、どのようにして「人間洞察」(チラシより引用)を行っていたのかに迫っていきます。


ジョルジュ・ルオー「曲馬団の娘」1905年頃 出光美術館

出品元は出光美術館にパナソニック汐留ミュージアムの他、清春白樺美術館や群馬県立美術館、そして富山県立美術館など。全84点です。またいわゆる回顧展形式ではなく、例えば道化師やピエロにキリストといったモチーフ毎に作品が並んでいるのも特徴。ルオーを言わば横軸で読み解いています。

さて冒頭はサーカス。ルオーが少年時代から没頭し、終生描き続けたモチーフです。


ジョルジュ・ルオー「小さな家族」1932年 出光美術館

登場するのは曲馬師や道化師たち。一見、華やかなサーカスという舞台ながらも、ルオーの描くそれはどこか孤独でもある。「正面を向いた道化師」(1939年)はどうでしょう。正面とありながらも、視線はうつむき加減で、疲れた様子を見せている。またサーカス団の一家を描いたであろう「小さな家族」(1932年)はまるで聖家族です。画家の独特の眼差しが伺えます。

ルオーはサーカスに出演する人々、そして何よりも彼ら生き様なり境遇に関心がありました。またそれは貧しい労働者や避難民といった人々を積極的に取り上げたことにも繋がります。


「ミセレーレより『自分の顔をつくらぬ者があろうか?」1923年 富山県立近代美術館

版画集「ミセレーレ」もハイライトの一つです。熱心なカトリック教徒であったルオーは、受難や戦争をテーマにして、この連作に取り組みました。

ここでは版画と並びヴァリアント作がいくつか展示されているのもポイントです。例えばミセレーレの10巻、「悩みの果てぬ古き場末で」(1923年)では、同じモチーフによる油彩画をあわせて紹介。昼と夜か。油画では太陽も輝き、色彩にも満ちた光景が示される一方、版画では陽も沈み、モノクロームの闇に包まれた景色が描かれている。印象は大きく変わります。


ジョルジュ・ルオー「聖顔」1939年 パナソニック汐留ミュージアム

キリストもルオーが描き続けた重要なモチーフの一つです。イコン、ヴェロニカの布などを彷彿させる「聖顔」(1939年)などが目を引きます。

またユビュおじさんのシリーズなど、風刺的、戯画的な作品があるのもルオーの興味深いところ。人の内面をどう捉えるのか。それにルオーは裁判にも関心を抱き、法廷に立つ人の姿も描きました。


ジョルジュ・ルオー「優しい女」1939年 出光美術館

展示は千葉市美術館の二つのフロアのうちの8階部分のみ。出品数も80点余。ともすると量でも攻める同館にしてはやや少なめですが、ルオー好きにはたまらない展示だと言えそうです。

さてもう一つのフロア、7階部分では何か行われているのか。それが所蔵作品展の「現代美術の祈り」です。ここでは村上友晴、宮島達男、松尾藤代の三名の現代作家を紹介。大作のペイントに大掛かりなインスタレーションが中心のため、点数こそ多くありませんが、「祈り」をキーワードにしての三者の邂逅。実に個性的な展覧会となっています。


宮島達男「地の天」1996 年 千葉市美術館

宮島達男の「地の天」(1996年)は久々のお目見えではないでしょうか。暗室に沈むプールの中の星空。直径は同館所蔵の作品でも最大級の10mです。デジタルカウンターこと青色LEDダイオードで変わりゆく1~9の数字。その瞬きはまさに星の煌めきを連想させます。星へ祈る人々の願い。そうしたイメージも浮かび上がるかもしれません。

一方で村上友晴では「無題」と題した4点の絵画の存在感が圧倒的です。展示室の奥に3点、手前に1点、向かい合うようにして並んでいる。色は黒一色。いわゆる抽象です。また油彩とありますが、その画肌は極めて独特。まるでタオル地を固まらせたかのような質感。何でも絵具をナイフで少量ずつ塗り重ねて出来たものとか。ちなみに村上自身、カトリック教徒だそうです。ドローイングの「ピエタ」しかり、どこか瞑想を誘うような世界が広がっていました。


松尾藤代「TOTAL LOSS ROOM」1997年 千葉市美術館

またラストの松尾は絵画上に十字架を現出。光眩しき空間を平面へ落とし込む。神々しい雰囲気も漂っていました。

ルオーに続き、「祈り」から現代美術へと至る企画。最近、やや控えめな感もありますが、実はコンテンポラリーでも定評のある千葉市美ならでは試みだと言えそうです。

11月17日まで開催されています。

「ジョルジュ・ルオー展/現代美術と祈り」 千葉市美術館
会期:10月1日(火) ~11月17日(日)
休館:第1月曜日。(10月7日、11月5日)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *パナソニック汐留ミュージアムの「モローとルオー」展との提携割引あり。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「カイユボット展」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館
「カイユボット展ー都市の印象派」 
10/10-12/29



ブリヂストン美術館で開催中の「カイユボット展ー都市の印象派」のプレスプレビューに参加してきました。

モネやルノワールとともに印象派展(計5回)に参加した画家、ギュスターヴ・カイユボット(1848-1894)。自らの作品を出品するとともに、仲間の作品も購入。印象派の活動を経済的にも支援した。

裕福な生活をしていたこともあり、作品はあまり売却されず、没後も遺族の元へと収蔵。また45歳という短い生涯のゆえか寡作です。結果的に現在も多くの作品を個人コレクターが所有。例えばフランス本国のオルセーですら5点しか持っていません。

これでは再評価する機会すらないとないというもの。当然ながら知名度は低い。国内でもブリヂストン美術館の「ピアノを弾く若い男」をあわせて3点しかありません。

日本初の回顧展です。知られざる印象派の画家、カイユボットの展覧会が始まりました。

さて錚々たるは印象派のメンバー。ともすれば埋没してしまう中でカイユボットの特徴とは何か。まずはタイトルにもあるように都市、つまり当時のパリの都市風景を描き続けていたということです。

都市といえばドガも同じように描いていますが、カイユボットの視点はどちらかというともっと冷めたもの。変貌する大都市パリを有り体に、どこかストレートフォトのように捉えて描きます。彼の作品、特に構図において写真的とも指摘されますが、確かにそうした面があるかもしれません。


左:「ヨーロッパ橋にて」1876-77年頃 油彩、カンヴァス キンベル美術館 *展示期間:10/10~11/10

代表的な作品を挙げましょう。まずは「ヨーロッパ橋にて」(1876-77年頃)。パリのサン=ラザール駅にかかる橋を描いた一枚。チラシ表紙の「ヨーロッパ橋」(1876-77年)と制作時期が近く、ほぼその別バージョンと言って良い作品です。

画面全体を覆わんとばかりに描かれているのは橋の巨大な鉄柵。その前を3人の男が橋の向うを見たり、通り過ぎようとしている。立ち位置はバラバラで、各々の関係性は希薄。一方で彼らがどのような階級に位置するのかは身なりなどから判断出来ます。


「建物のペンキ塗り」1877年 油彩、カンヴァス 個人蔵 第3回印象派展

「建物のペンキ塗り」(1877年)もカイユボット独自の視点が表れてはいないでしょうか。長く延びた街路の一番手前の店先で行われるペンキ塗り。脚立を組んでペンキを塗ろうとしているのは3人の男。歩道側で見やるのは注文主か親方か。労働を主題としながらも、もはやファッショナブルといえる風景。近代都市パリの一コマを冷静な眼差しで見つめています。


左:「ピアノを弾く若い男」1876年 油彩、カンヴァス ブリヂストン美術館 第2回印象派展

一方で室内画はやや趣が異なり、モデルとの親密感を演出します。何故なら描いたのは家族や親戚、それに友人といった近しい人ばかり。「ピアノを弾く若い男」(1876年)でピアノに向き合うのは弟のマルシャル。音楽家で兄のギュスターヴと大変に仲が良かったとされる人物です。ちなみに本展ではカイユボットの油画の他に、この時代のパリや郊外の風景などを写した写真も多数出ていますが、それらはいずれもマルシャルの手によるものです。


「エラール社グランドピアノ」1877年

なお展示で嬉しいのは「ピアノを弾く若い男」の前にこの時代のピアノが置かれていることです。ピアノは画中と同じくエラール社で1877年制作のもの。大きさも形もほぼ同じとのことでした。見比べてみましょう。

ところでカイユボット、確かに都市の風景画をいくつも残していますが、何も郊外や田園を描かなかったわけではありません。

大富豪のカイユボットです。一時はパリ郊外に11ヘクタールにも及ぶ別荘を構えてバカンスを楽しみます。またとりわけボート遊びを好み、自らボートの設計や製造まで行いました。画家でありながら趣味人でもあります。


右:「ペリソワール」1877年 油彩、カンヴァス ワシントン・ナショナル・ギャラリー 第4回印象派展

そうしたボート好きのカイユボットならではといえるのが「ペリソワール」(1877年)です。明るい陽光の差し込む川を進むのは3~4隻のボート。帽子とオールの黄色と川面のエメラルドグリーンが対比的。室内画とは異なった荒めの筆致と色の強さが際立ちます。


右:「プティ・ジュヌヴィリエの菜園」1882年 油彩、カンヴァス 個人蔵
左:「花咲く林檎の樹」1885年頃 油彩、カンヴァス ブルックリン美術館


カイユボットの自然を描いた作品、やや作風に変化なりバリエーションがあり、一言で特徴を表すことは出来ませんが、広々とした田園や農地などを描いたものはピサロ風。それでいて時にモダン・アメリカンを連想させるものも。また晩年になるにつれて言わば色は溶解し、次第にモネを志向するようにもなります。


右:「向日葵、プティ・ジュヌヴィリエの庭」1885年頃 油彩、カンヴァス 個人蔵

そうした中で印象的な一枚といえば「向日葵、プティ・ジュヌヴィリエの庭」(1885年頃)。前景には向日葵が乱れ咲き、背後に家屋が描かれている。もちろん建物はカイユボットのもの。セーヌ川沿いの高級住宅地にあった邸宅です。向日葵を象るうねるような筆致が目を引きます。

ちなみにカイユボット、ガーディニングにも関心を抱き、別荘に家庭菜園を設けたとか。この向日葵もその一つです。また晩年には花そのものを取り上げた装飾的な作品も描いています。


カイユボット展会場風景

近代都市パリに生き、悠々自適のブルジョワ生活を送ったカイユボット。画風は意外と幅広いものがあります。強烈な個性を見出すのは難しいかもしれませんが、その他、マネを思わせる静物画なども見応えがありました。

さてここで私がカイユボットで興味深いと感じたポイントを一つ。それがともすると写真的と称される構図感です。

しかしながらカイユボットの構図は必ずしも写真と同じというわけではない。そもそも本展であわせて展示されている弟マルシャルの写真、兄の絵に見られる半ば奇異な構図もなく、ごく一般的なもの。しかもマルシャルの写真はカイユボットの没後に撮られたものが多く、構図に影響を与えたとは必ずしも言い難い。(中にはボートの作品など良く似たものもあります。)ようはカイユボットの作品と写真についてはあまりよく分からないわけです。


左:「昼食」1876年 油彩、カンヴァス 個人蔵 第2回印象派展

今、奇異とも表した構図、その一つの例として挙げたいのが「昼食」(1876年)です。奥で執事の給仕を受けるのは母のセレスト、右でナイフとフォークを手にとるのは弟のルネという、文字通りカイユボット家における昼食の光景を描いたものですが、一番手前の白い皿にナイフの向きに注目。何とこちらを向いている。つまりここには少なくとも母や弟を見る視点と皿を見下ろすそれの2つがある。半ば画家の目線の動きを一つの空間に落とし込んでいるわけです。


右:「室内ー読む女性」1880年 油彩、カンヴァス 個人蔵 第5回印象派展

またもう一つ、「室内」(1880年)はどうでしょう。おそらくはカイユボットの知人をモデルとしたいわれる本作、いかにもブルジョワといった室内に男女の姿が描かれていますが、前景で椅子に座る女性と後のソファで横になりながら本を読む男性の大きさの比率が異様。女性があまりにも巨大なのか、男性が小さいのか、それともソファがとてつもなく大きいのか。もはや歪みとよぶべき遠近感覚が存在しています。


「見下ろした大通り」1880年 油彩、カンヴァス 個人蔵 第7回印象派展

もちろん自邸から歩道を見下ろして描いた「見下ろした大通り」(1880年)など、構図に卓越したセンスも見られるカイユボットではありますが、彼の捉える空間は時に不自然なほど歪んでいる。それは先に触れた「ピアノを弾く若い男」(1876年)でも少し見られるかもしれません。ここでもピアノが左奥の壁の方へ延びています。

一見、温和で、印象派にしてはアカデミックとも言えるカイユボット絵画に潜んだ歪み。時に前景と後景は極端に対比され、驚くほど遠近感の際立った空間が作られています。彼の構図感覚をどう評価して捉えていくのか。あえてそこに焦点を当てるのも面白いかもしれません。


インタラクティブマップ「カイユボットと19世紀のパリ」

最後にブリヂストン美術館の新たな試みをご紹介しましょう。それがDNPの技術によるデジタル展示です。中でも「カイユボットと19世紀のパリ」は展示室の一部のスペースを用いてのインタラクティブなシステム。当時のパリの地図と端末が連動。カイユボットの歩いた地点を参照しながら、作品の解説や現在の風景などを閲覧出来ます。


インタラクティブマップ「カイユボットと19世紀のパリ」

ちなみにデジタル展示は全部で5つです。いずれもシンプルな仕掛けながらも展覧会を掘り下げています。楽しめました。


弟マルシャル・カイユボットの写した写真

それにしてもカイユボット、次にこのスケールで見られることはいつになるのでしょうか。信じ難いことに巡回が一切ありません。まさに一期一会。これは見ないわけにはいきません。


カイユボット展会場風景

ところで本エントリでも触れた「ヨーロッパ橋にて」は11月10日までの出品です。つまりチラシ表紙の「ヨーロッパ橋」と2点並んで見られるのもそれまで。早めの観覧がベストです。

記者内覧日に続いて、会期早々の祝日に再度見に行きました。会場内はそれなりの人出でしたが、混雑というほどではありませんでした。

12月29日までの開催です。まずはおすすめします。

「カイユボット展ー都市の印象派」 ブリヂストン美術館
会期:10月10日(木)~12月29日(日)
時間:10:00~18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日。但し12月16日(祝)は開館。
料金:一般1500(1300)円、65歳以上シニア1300(1100)円、大・高生1000(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は前売及び15名以上団体料金。
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口徒歩5分。東京メトロ銀座線・東西線、都営浅草線日本橋駅B1出口徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「森万里子 Infinite Renew」 エスパス ルイ・ヴィトン東京

エスパス ルイ・ヴィトン東京
「森万里子 Infinite Renew」 
2013/9/28-2014/1/5



エスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中の森万里子個展、「Infinite Renew」を見てきました。

現在、NYを拠点に活動するアーティスト森万里子。2002年には東京都現代美術館で個展を開催、さらに2005年にはヴェネツィア・ビエンナーレに参加。近年では宇宙の生成や輪廻転生などをテーマとしたインスタレーションを発表。国内外で注目を集めてきました。

その森が表参道のエスパスの空間に挑戦。「無限の再生」をテーマに、光を用いた大小8点の彫刻によるインスタレーションを展開しています。

まずは百聞は一見にしかずです。展示室に入ってみましょう。


「Infinite Energy」2013(無限のエネルギー)ファイバーグラス、ミラー、LED、リアルタイム制御システム

すると目に飛び込んで切るのは天井まで連なるスパイラル状のオブジェ、「Infinite Energy」。素材はファイバーグラスで高さは8m弱です。下からブルー、シアン、パープルのライトが投影。そして色は時におもむろに移り変わります。

この色の変化はインタラクティブ。つまり観客に反応して動きます。明かりを制御するシステムにはセンサーが内蔵。展示空間を歩く人の立ち位置などによって色が変わるわけです。


「Infinite Energy」2013(無限のエネルギー)*部分

それにしても美しきスパイラル。森はここに宇宙を見出している。何でも最新の物理学の仮説の宇宙論を投影しているのだそうです。

下から見上げると確かに無限の宇宙に吸い込まれるような感覚も。最上部にはミラーが仕込まれ、作品が映り込む。つまりこの螺旋は永遠に続いています。


手前:「Renew」2013(再生)ファイバーグラス

また永遠といえば東洋の輪廻転生に基づいた「Renew」なども展示。素材や質感こそ異なりますが、どこかイサム・ノグチの彫刻を思い起こさせます。そして台に置かれたのは「Butterfly」、つまり蝶。フェニーチェ歌劇場で上演された「蝶々夫人」の舞台装置の模型だそうです。(森は衣装と装置を担当しました。)


「Butterfly」2013(蝶)ポリウレタン

こちらも永遠を象徴、リングは循環していました。


「Birds」2012(鳥)ルーサイト

コンセプトはいささか難解ですが、オブジェとして素直に美しいのもポイントかもしれません。また宇宙や輪廻転生云々よりも、ゆるやかに曲線を描くフォルムには、女性の優美な身体を連想させる面もあります。

なお8回目を数えるエスパス ルイ・ヴィトン東京、日本人アーティストの単独の個展は今回が初めてだそうです。少し意外でした。


「Infinite Energy」2013(無限のエネルギー)*部分

夕方の観覧でしたが、日没後であると、より作品の光が映えるかもしれません。幸いなことに同スペース、連日20時までオープンしています。

2014年1月5日までの開催です。

「森万里子 Infinite Renew」 エスパス ルイ・ヴィトン東京
会期:2013年9月28日(土)~2014年1月5日(日)
休廊:不定休
時間:12:00~20:00
住所:渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7階
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A1出口より徒歩約3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩約10分。
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「モローとルオー」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「モローとルオー 聖なるものの継承と変容」
9/7-12/10



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「モローとルオー 聖なるものの継承と変容」展へ行ってきました。

一見するところ、画風しかり、接点がないようにも思えるギュスターヴ・モローとジョルジュ・ルオー。モローはフランス象徴主義を代表する画家であり、またルオーは20世紀の宗教画家として名を残した。

その二人に実は深い関わりがあった。ずばり本展の目的はそれを明らかにすることです。油彩、水彩、素描、また書簡などの70件の展示品を通してモローとルオーの交流を辿っていきます。

では早速、両者の接点とは何か。答えはパリの国立美術学校です。19歳のルオーは1890年、同美術学校へと入学しますが、その2年後の1892年、今度はモローが教授として着任します。

つまりモローとルオーは師弟関係にあったわけです。そもそもモローはマティスやマルケを育てた『名教授』でもありましたが、学生時代から才能を示したルオーに注目。ルオーのローマ賞(当時のフランス政府の奨学金付留学制度。若手芸術家の登竜門でもあった。)への挑戦にもサポートします。


ジョルジュ・ルオー「石臼をまわすサムソン」1893年 油彩/カンヴァス ロサンゼルス・カウンティ美術館

ローマ賞の最終選考にルオーが出品したのは「石臼を回すサムソン」(1893年)です。高さ1.5m弱、幅1m超の大作、盲目のサムソンが今にもむち打たれようとする姿が描かれていますが、それをモローがデッサンで模写したというのも興味深いポイント。師が弟子の作品を描いていた。ちなみにサムソン、残念ながら受賞は逃してしまいますが、ルオーは制作のために数ヶ月間アトリエで生活していたそうです。力の入れようが伺えます。


ジョルジュ・ルオー「トゥリウスの家におけるコリオラヌス」1894年 油彩/カンヴァス パリ国立高等美術学校

またフォルタン・ディヴリ・コンクール(着彩画のコンクール)にルオーが出した「ウォルスキ王トゥルスの館のコリオラヌス」(1894年)も重要な一枚です。ローマの将軍をモチーフとした歴史画ですが、その色調や細部の精緻な筆致、また奥行きのある空間構成などは、モローの作風を思わせるものがあります。


ギュスターヴ・モロー「ユピテルとセメレ」 油彩/カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館

そのモローでまず目を引くのが「ユピテルとセメレ」です。正面に構えて堂々たるは全能の神、ユピテル。射抜くような目線も印象的。高さ1.5mほどの大作。その迫力には思わず後ずさりしてしまうほどでした。

さてモローとルオー、画題においてとりわけ重要なのはキリスト教。展示において「聖なる表現」と紹介された主題です。

ここでは会場の造りからして秀逸。ほぼ六角形の独立した展示室を設営し、右にモロー、左にルオーという仕掛け。それぞれが半ば向き合うように並んでいるのです。


ジョルジュ・ルオー 「聖顔」1933年 油彩、グワッシュ/紙 ポンピドゥーセンター国立近代美術館

象徴的なのはモローの「ピエタ」とルオーの「聖顔」(1933年)。またともに十字架やマグダラのマリアを主題とした作品も展示されています。モローは聖書から題材をとる一方、ルオーはともかくキリストを描く。しかもその存在を時に農夫や道化師に投影して表しました。

ルオーに独特のマチエールの一端が、モロー画にも由来しているとは知りませんでした。

モローが美術学校で教えた「色彩の解放」と「美しい材質感」。それをルオーは混合技法によって探求。ステンドグラスとも称されるマチエールを生み出しました。


ギュスターヴ・モロー「パルクと死の天使」1890年頃 油彩/カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館

一方でのモローは晩年へ至ると形を半ば溶かし、色はより強烈。フォーヴを思わせる展開へと深化。その両者の結実とも言うべきなのがモローの「パルクと死の天使」(1890年頃)にルオーの「我らがジャンヌ」(1948~1949年)。会場では隣り合わせに並んでいます。

「バルク」では運命の糸を断つ女神アトロポスの引く馬に死の天使が乗る光景が示され、「ジャンヌ」は文字通りジャンヌ・ダルクが軍旗を掲げた馬に股がっている姿が描かれている。ともに厚塗りながらも異なった印象を与える作品。モロー画における激しい筆致はもはや抽象とも呼ぶべき平面を作り上げています。


ギュスターヴ・モロー「ヘレネ」油彩/ボール紙 ギュスターヴ・モロー美術館

ちなみにこのようなモローの色彩感、油彩習作の「ヘレネ」にも顕著です。ここでは形が色彩の中に溶け出している。実験的な作品と言えるかもしれません。


ギュスターヴ・モロー「ヘラクレスとレルネのヒュドラ」 油彩/カンヴァス ギュスターヴ・モロー美術館

ラストは「幻想と夢」と題しての名品セレクション。モローの「ヘラクレスとレルネのヒュドラ」が目を引きます。また話題の4K映像でモロー美術館を紹介するコーナーも。今回のために新たに撮影されたものだそうです。

二人の往復書簡でも明らかなように、ルオーはモローを「偉大なる父」と呼び、深い感謝と尊敬の念を表します。そしてモロー亡き後は、遺言によってモロー美術館の初代館長に就任。生涯にわたりモローを慕って止みませんでした。

それにしても本展、モロー作品の殆どがパリのモロー美術館からやって来たもの。またルオー作も汐留ミュージアムに加えてオルセーにポンピドゥー、さらにはロサンゼルスの美術館などの海外所蔵がずらり。しかもフランスからの作品の半数以上が日本初公開というから驚きです。


ジョルジュ・ルオー「我らがジャンヌ」1948~1949年 油彩/紙 個人蔵(パリ)

師弟関係にはじまり、二人の画家としての特質までを浮かび上がらせた本企画。明確なテーマに効果的な構成、そして作品も充実。そもそも監修は現在、改修中というパリのモロー美術館の館長、フォレスト氏が務めています。日本巡回(松本市美術館へ巡回。)の後は、モロー美術館でもリニューアル記念展として開催。まさに小さくともキラリと光る展覧会です。感服しました。

「モローとルオー: 聖なるものの継承と変容/淡交社」(本展図録)

なお現在、千葉市美術館でもルオー展が行われていますが、観覧券を持参すると相互割引が受けられるそうです。(ブリヂストン美術館のカイユボット展も同じく割引制度あり。)

「モローとルオー展 相互割引」@パナソニック汐留ミュージアム

12月10日まで開催されています。強力におすすめします。

「モローとルオー 聖なるものの継承と変容」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:9月7日(土)~12月10日(火)
休館:水曜日
時間:10:00~18:00
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
 *65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。
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「ターナー展」 東京都美術館

東京都美術館
「ターナー展」 
10/8-12/18



東京都美術館で開催中の「ターナー展」のプレスプレビューに参加してきました。

英国の国民的画家として人気の高いジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775~1851)。今、その一大回顧展が上野の東京都美術館で行われています。

構成は実にオーソドックス。ターナーの人生を時系列で辿りながら、画風の変遷を見ていくもの。また彼は旅する画家でもあります。イギリスはもとより、イタリアやヨーロッパ各地で描いた風景にも着目。また得意の海景画や晩年の展開についても触れられています。


左:「パンテオン座、オックスフォード・ストリート、火事の翌朝」1792年 鉛筆、水彩、紙

出品元は世界屈指のターナーのコレクションで知られるテート美術館。点数は全116点、うち油彩は36点。もちろん全てターナー画です。それがずらりと都美館の三フロアに並んでいる。壮観でした。(東京展のみ国内所蔵の2点を特別出品。)


ターナー展会場風景

さて光り眩しき、また時に色に溶けゆく美しきターナーの風景画。水彩はもちろん、油彩においても繊細な画肌。図版では到底伝わりません。その魅力を知るには実際の作品を前にするのが一番ですが、ここでは簡単にいくつかイントとなりうる作品を挙げてみましょう。


右:「バターミア湖、クロマックウォーターの一部、カンバーランド、にわか雨」1798年 油彩、カンヴァス

まずは「バターミア湖、クロマックウォーターの一部、カンバーランド、にわか雨」(1798年)から。この神々しいまでの景色。ターナー23歳の時の佳作、湖に大きくかかる虹が一際印象に残ります。

水辺と空、そして大きな山々と小さく散らばる家屋(また手前の湖上には小さな小舟も。)などの対比的な表現も見どころかも知れませんが、ターナーはこの作品にミルトンとトムソンの詩を添えている。後の「チャイルド・ハロルドの巡礼」しかり、ターナーは詩を引用することによって、こうした単なる風景に一種の文学的情感を吹き込もうとしているのです。


「グリゾン州の雪崩」1810年 油彩、カンヴァス

自然への畏怖を思わせる「グリゾン州の雪崩」(1810年)はどうでしょうか。ターナーの描く山岳風景の中でもとりわけ劇的な一枚。実際に起きたアルプスの雪崩に着想を得た作品です。パレットナイフを用いたという雪の筆致は非常に激しい。また左から右へと流れる風、さらには下から突き出る岩石とせめぎ合い、実に緊張感をもった景色が作り上げられています。


「スピットヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」1808年 油彩、カンヴァス

そしてターナーを代表する海景画では「スピットヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」(1808年)が白眉です。ナポレオン戦争に取材した作品、英国海軍の船がデンマーク船を曳航する様子が描かれていますが、黒々とうねる波の荒い筆致と、どこか写実的なまでの帆船の描写の対比も特徴的。マストの線の細さと言ったら並大抵ではありません。

ターナーがアルプスを越えてイタリアへと至ったのは1819年のこと。意外と遅く44歳になってからのことです。そして1828年にも再度イタリアへ。彼の地の輝かしい光を経験してか、色鮮やかな作品を次々と生み出します。


「レグルス」1828年 油彩、カンヴァス

そこで「レグルス」(1828年)です。この強き光。古代ローマの将軍、レグルスが陽光を浴びて失明したというエピソードを題材とした作品ですが、ここにはレグルス本人は描かれておらず、その光だけが言わば暗示している。つまり絵の前の立ち位置、言い換えれば絵の光を浴びる鑑賞者こそレグルスそのものなのです。何とダイナミックな演出でしょうか。


「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」1832年 油彩、カンヴァス

「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」(1832年)がやってきました。このバイロンの物語詩の主人公、ハロルドこそ、拙ブログの名付け親。それはともかくも情緒溢れる美しき風景。高くそびえる松、そして人々の集う台地から望んだ渓谷に丘。ポイントは廃墟です。バイロンの詩作においてもよく現れる廃墟。この絵画においても左に朽ち果てた古城、そして右に崩落してしまった橋が描かれています。

さて本展、いわゆるよく知られた作品だけでなく、構図や色彩など、ターナーの言わば実験的な試みを紹介しているのも特徴です。中でも興味深いのは「三つの海景」(1827年)。思わずロスコでも連想してしまうような作品です。


「三つの海景」1827年頃 油彩、カンヴァス
 
まるで帯のようにして色の重なる平面。そこにはタイトルの如く「海景」が3つ。一番下と真ん中。そして一番上の面は上下反転しています。これには驚きました。

さて晩年のターナー。もはや朦朧体とも言うべき色彩表現。それは時に批評家から嘲笑をもって受け止められます。また多作でもある故か、未完の作品も少なくありません。それにもはや抽象的なまでの最晩年の未発表作は、そもそも彼が意図して残したものかどうかはっきりと分かっていないのだそうです。

そうした晩年の作で重要なのが「戦争、流刑者とカサ貝」(1842年)と「平和ー水葬」(1842年)。かのナポレオンとスコットランドの画家、ウィスキーの運命を対比したと言われるものです。


左:「戦争、流刑者とカサ貝」1842年 油彩、カンヴァス
右:「平和ー水葬」1842年 油彩、カンヴァス


前者、何とも不自然、まるで人形のように立つのがナポレオン。セントヘレナ島に流された彼を象徴していると言われていますが、その周囲を取り巻く血のような赤しかり、一見するところの明るい色調の反面、実に不穏な気配が漂っています。

一方での「平和ー水葬」はどうでしょうか。画面を強く印象づけるのは漆黒。蒸気船の帆と影、また水面上を飛行する鳥です。ここには水葬された友人の画家ウィスキーの『死』が強く反映されています。


右:「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」1820年 油彩、カンヴァス

いわゆるピクチャレスクなターナ画。一種の理想的風景です。ターナーほど観る者のイマジネーションなりが入り込む余地のある風景画はないかもしれません。自然を感じ、歴史を鑑み、詩を想う。風景と行き来しながら楽しむことが出来ました。

なお報道内覧日に加え、第一週の日曜日(午後2時頃)に改めて行きましたが、会期早々にしては予想以上に賑わっていました。水彩の小品も多く、混雑していると大変です。毎週金曜日の他、10月31日、11月2日、11月3日の夜間開館(20時まで)は狙い目となるかもしれません。


ターナー展会場入口

国内では1997年の横浜美術館以来となる回顧展です。ターナーは私が美術に感心を持ち始めた頃に好きになった画家の一人。100点超のスケールで見たのは初めてです。感無量でした。

「美術手帖 2013年11月号増刊 ターナー英国風景画の巨匠、全貌に迫る」

早めの観覧をおすすめします。12月18日までの開催です。*東京展終了後、神戸市立博物館(2014/1/11~4/6)へと巡回。

「ターナー展」 東京都美術館
会期:10月8日(火)~12月18日(水)
時間:9:30~17:30(毎週金曜日、及び10月31日、11月2日、3日は20時まで開館)*入室は閉室の30分前まで。
休館:月曜日。但し10月14日、11月4日、12月16日は開館。10月15日、11月5日は閉館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。作品は全てテート美術館蔵。
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台風26号に伴う首都圏の主な美術館の休館情報

大型の台風26号が関東に接近しています。最新の予想では16日朝には暴風域を伴って関東に最接近、上陸の恐れもあるそうです。

そこで首都圏の主な美術館の臨時休館情報をまとめてみました。

[東京]

・「松本かつぢ展/小林かいち展」  弥生美術館、竹久夢二美術館
 16日(水)は台風接近の影響に伴い午前11時より開館。

・「国宝 興福寺仏頭展」 東京藝術大学大学美術館
 16日(水)の開館時間を変更。開館時間は午後1時~午後5時(入館は午後4時30分まで)。午前10時~午後1時は臨時休館。
 今後の気象状況により予定を変更する場合もあり。ハローダイヤル(03-5777-8600)で開館状況を確認。

・「特別展 京都」 東京国立博物館
 「洛中洛外図3Dプロジェクションマッピング上映」は台風の影響により中止。夜間開館は予定どおり開催。
 16日(水)のチケットで17日(木)に振り替え可。詳細はWEBサイトへ。

・「ミケランジェロ展」 国立西洋美術館
 ミケランジェロ展は10時より開催。コルビュジエ展、常設展、スペイン・アンフォルメル絵画展は準備が整い次第開場。

・「アメリカン・ポップ・アート/印象派を超えて」 国立新美術館
 16日(水)は開館時間を変更する場合あり。最新情報は16日(水)午前7時30分以降、WEBで更新予定。→通常開館

・「国宝 卯花墻と桃山の名陶」 三井記念美術館
 16日(水)は台風による影響が予想されるため臨時休館。

・「描かれた都  開封・杭州・京都・江戸」 大倉集古館
 10/16は大型台風の影響により臨時休館。

・「伊万里 染付の美」 泉屋博古館分館
 16日(水)は気象警報発令時に臨時休館。→13時より開館

・「13人のドイツ・コミック作家展/向井周太郎展」 武蔵野美術大学美術館・図書館
 16日(水)に気象庁が多摩北部に「暴風」の気象警報を発表した場合、美術館・図書館の開館スケジュールを以下の通りに変更。
  当日の午前6時00分において発表されている場合は午前閉館。
  当日の午前9時00分において発表されている場合は午後閉館。

・「特集展示 生誕100年記念 キャパ・ビンテージコレクション他」 東京富士美術館
 16日(水)は台風接近のため臨時休館。

明治大学博物館
 16日(水)は台風26号接近に伴う交通機関等の混乱が見込まれるため午前10時~午後12時30分まで臨時休館。
 午後の開館状況についてはWEBサイトで案内。

[神奈川]

・「横山大観展」 横浜美術館
 16日(水)は臨時閉館の可能性とのアナウンス。臨時閉館する場合は、横山大観展公式サイトなどで告知。
 当日午前9時30分頃に決定の予定。→通常開館

[千葉]

・「コレクション♪リコレクション VOL.2」 DIC川村記念美術館@kawamura_dic
 16日(水)は台風接近のため休館。

・「磯辺行久ー環境・イメージ・表現」 市原湖畔美術館
 午前中臨時休館。13時より開館。併設レストランPizzeria BOSSOは臨時休業。

[群馬]

・「原六郎コレクションの名品」 ハラ ミュージアムアーク(@HaraMuseumARC
 午前中臨時休館。午後より開館。

なお本情報は16日(水)12時現在のものです。今後、台風の進路如何によっては更なる臨時休館の他、休館時間の変更なども考えられます。

「台風第26号 (ウィパー)進路予想」@気象庁

最新の情報については各美術館のWEBサイトをご確認下さい。
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「日産アートアワード2013」 BankArt Studio NYK

BankArt Studio NYK
「日産アートアワード2013」
9/18~11/4



BankArt Studio NYKで開催中の「日産アートアワード2013」を見てきました。

本年より日産の主催、次世代のアーティストを支援するために創設された「日産アートアワード2013」。森美術館の南條館長や横浜美術館の逢坂館長らといった5名の審査委員により、8名のアーティストをファイナリストとして選抜。横浜のBankArtにて展示が行われています。

[ファイナリスト]
安部典子
小泉明郎
篠田太郎
鈴木ヒラク
西野達
増山裕之
宮永愛子
渡辺英司


9月25日にはグランプリに宮永愛子、また審査委員特別賞に西野達を選出しての表彰式も開催。宮永氏には日産のゴーン社長から直接トロフィーが授与されました。

会場内は撮影が可能です。というわけで特に印象深かった展示を簡単にご紹介します。


宮永愛子「手紙」2013年 ナフタリン、樹脂、封蝋、トランク、ミクストメディア

まずはグランプリの宮永愛子から。作品は「手紙」。お馴染みのナフタリンを用いた作品です。


宮永愛子「手紙」2013年 ナフタリン、樹脂、封蝋、トランク、ミクストメディア

トランクは旅を、またナフタリンの変化する姿などは時間も表現。手紙というテーマは貿易港横浜を意識してのことだそうです。海を望むテラスには型になったのか、実際のトランクも積み上げられています。またトランクによって閉じ込められつつ、いつかは取り出されるであろう鍵の存在など、いつもながらにどことなく儚い印象を与えるのもポイントです。


宮永愛子「手紙」2013年 ナフタリン、樹脂、封蝋、トランク、ミクストメディア

時に床面へ半ば転がるように置かれたトランク。その持ち主、そして旅の記憶はどこにあるのか。作品の向うに見える海との関係。倉庫跡のバンカートという場所も効果的に活かした展示でした。


西野達「ペリー艦隊」2013年 ミクストメディア

さて会場でともかく目立つのは西野達の「ペリー艦隊」です。ペリー?それは何のことやら、そしてこのパイプの階段なり木材が剥き出しになったボックス、一体どのような作品なのか。訝しく思う方もおられるかもしれません。


西野達「ペリー艦隊」2013年 ミクストメディア

しかしながらパブリックな空間へプライベートを介入させる西野のことです。ここでも半ば強引なまでに、人の言わば最もプライベートな空間を現出させています。


西野達「ペリー艦隊」2013年 ミクストメディア

それがトイレ。ようするに展示室の中にトイレを構築しているのです。しかも張りぼてはなく本物。つまり利用可能なものです。当然、水も流れます。


西野達「ペリー艦隊」2013年 ミクストメディア

そうして見るとボックスの下から伸びる配管がポイントになります。トイレの写真なのでここでは控えますが、配管を追いかけると展示室裏手のトイレへとぶち当たる。実際のトイレの配管と繋がっているのです。


西野達「ペリー艦隊」2013年 ミクストメディア

さらに既存のトイレへ行くと便器が外されていることが分かります。つまり便器はトイレから持ち込まれたものです。ちなみに公衆トイレは横浜が発祥だとか。またタイルにはペリー来襲のイメージも。立ちこめる何とも言い難い臭気がこれまで『あるべき場所」で使われていたことを物語ります。

展示室へと闖入、まるで茶室のように現れたトイレ。いつもながらに刺激的な作品でした。


増山裕之「FRANKFURT-TOKYO」2003/2013年 ライトボックス

さて大掛かりな作品を少し離れて興味深い展示を。それが増山裕之の「FRANKFURT-TOKYO」。澄み切った青の輝く帯状のライトボックス、空から望んだ様々な景色が写されていますが、何とそれはフランクフルトから東京までの11時間のフライト中、20秒毎に撮影した写真とのこと。枚数は900枚です。


増山裕之「01.01.2001-31.12.2001」2002年 DVD

一方で1年の時を一つの映像に落とし込む試みも。長大な時間や広大な空間をどう捉えるかに挑戦した作品。それぞれがぐっと凝縮されていく。増山といえば、ベルファストをテーマとしたαMの展示も思い出しますが、また違った展開で感心しました。


安部典子「渚にて-At the edge of the sea,2013」2013年

安部典子のビデオインスタレーション、「渚にて」もしばし時間を忘れます。穴が奥へと連なっている三層のスクリーン、そこには女性の姿が断片的に映し出されていく。また厚紙で波を象った立体も空間を引き立てていました。


小泉明郎「彼女の祈りが通じた時」2013年 2チャンネル・ビデオ他

バンカートの特徴的なスペースを用いての展示です。どうしてもインスタレーションが映えるのは否ません。(また作家によって展示のボリュームがやや異なるのも気になりました。)ただそれでも会場最奥部でひっそりと上映されている小泉明郎の映像はずしりと重たい作品。深い余韻とともに、考えさせられる面が多分にあります。じっくり構えたいところでした。


宮永愛子「手紙」2013年 ナフタリン、樹脂、封蝋、トランク、ミクストメディア

アナウンスに「第一回は現代アートを対象」とありました。開催は隔年です。二回目以降はどのようなジャンルが対象となるのでしょうか。今後の展開にも要注目です。


「日産アートアワード2013」展示室風景

会期中は無休、入場も無料です。11月4日まで開催されています。

「日産アートアワード2013」 BankArt Studio NYK
会期:9月18日(水)~11月4日(月・祝)
休館:無休
時間:11:30~19:00
料金:無料
住所:横浜市中区海岸通3-9
交通:横浜みなとみらい線馬車道駅6出口(赤レンガ倉庫口)より徒歩5分。
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「ミュージアムカフェマガジン」が創刊されました

お馴染み美術館・博物館・展覧会の情報サイト「ミュージアムカフェ」


「ミュージアムカフェマガジン」vol.1表紙

WEBページではもちろん、アプリも徐々に充実。とりわけ様々な展覧会のチラシを閲覧出来るポスターギャラリーはとても重宝。展示の重要な情報が詰まったチラシをそのままスマートフォン上で見せるという仕掛け。シンプルながらも、実に良く出来ています。


「ミュージアムカフェ」アプリ TOP画面

その「ミュージアムカフェ」が今度は紙媒体に進出です。名前はずばり「ミュージアムカフェマガジン」。フリーペーパーです。この10月に創刊しました。

さて「ミュージアムカフェマガジン」の最大の特徴とは何か。それは一つの展覧会を大きくクローズアップしているということです。

というのもこれまで同じく美術系のフリーペーパーである「tokyo art map」しかり、美術手帳の付録でもある「ART NAVI」などは、あくまでも開催中、もしくは開催予定の展示情報が中心。もちろんコラムなどもありますが、基本的にはどの展覧会がどの美術館なりでいつ行われているのか。それをチェックすることが殆どでした。

しかしながら「ミュージアムカフェマガジン」は一線を画している。もちろん展示情報を網羅した「展覧会カレンダー」も付いていますが、あくまでも展覧会を掘り下げる記事がメイン。ページ数で見ても全15ページ(広告含む)のうち9ページを占めています。

一つの展覧会に絞るといういさぎよさ。あっぱれです。では少し中をのぞいてみましょう。



創刊号の特集は表紙からして一目瞭然、芸大美術館の「興福寺仏頭展」です。既に会期も1ヶ月ほど過ぎましたが、「ミュージアムカフェマガジン」では仏頭だけでなく、出品の「国宝十二神将像」から仏像全般までも注目。それも「3分でわかる仏像基本の『き』」や「仏頭さまのガードマン十二神像、上野に見参」などなかなかキャッチー。簡潔なテキストながらも読ませます。



もちろん視点はオリジナル。有りがちなリリースを載せているのではありません。親しみやすいイラストを組み合わせた「奈良仏像MAP」などは、展覧会から離れて、仏像に関心を持つ一つの切っ掛けにもなり得る記事。久しぶりに奈良を廻りたくなりました。

なお「ミュージアムカフェ」アプリでも新たな展開が始まりました。これまでのiPhone版に加え、Anrdoid版でもアプリ(β版)がリリース。ポスターギャラリーも利用可能です。さらに「ミュージアムカフェマガジン」をiPhoneアプリ内でも読めるようにする試みも進展中だとか。紙とWEBの両方で楽しめる日もそう遠くないかもしれません。



配布はこの連休から。全国約200館の美術館に博物館、及び主に都内のカフェで配布されます。発行部数は35000部です。



創刊号の目印は仏頭。また毎月10日の発行ということで、今後のコンテンツの充実にも期待したいところです。(WEBと連動する企画があると面白いかも。)まずは是非ともお手にとってご覧ください。

【フリーマガジン】「ミュージアムカフェ マガジン」
創刊:2013年10月10日
発行頻度:月刊(毎月10日発行)
発行部数:35000部 
設置箇所:全国の美術館・博物館(創刊号設置約200館)
設置箇所:都内を中心としたカフェ(創刊号設置約120店舗)
主な設置場所:東京藝術大学大学美術館、東京国立近代美術館、奈良国立博物館、国立国際美術館、兵庫県立美術館、横浜美術館、東京ステーションギャラリー、千葉市美術館、金沢21世紀美術館 ほか各美術館・博物館
WIRED CAFE 渋谷QFRONT店、宇田川カフェ、LOTUS、A971 lounge、WIRED CAFE 360°、WIRED CAFE SHINJUKU LUMINE、Marunouchi cafe ease ほか飲食店



美術館・博物館情報サイト「ミュージアムカフェ」
URL:http://www.museum-cafe.com(Web・モバイル共通)
ミュージアムカフェ事務局:@museumcafe

【Androidアプリ】「ミュージアムカフェ」
価格:無料  対応機種:Android OS 3.0以降
ダウンロード:Google Playからダウンロード
ジャンル:ライフスタイル
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.kosaido.musiumcafe

【iOSアプリ】「ミュージアムカフェ」
価格:無料  対応機種:iPad、iPhone、iPod touch
ダウンロード:AppStoreからダウンロード
ジャンル:ライフスタイル
http://itunes.apple.com/jp/app/id321825497?mt=8
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