2016年 私が観た展覧会 ベスト10

年末恒例、独断と偏見による私的ベスト企画です。私が今年観た展覧会のベスト10をあげてみました。

2016年 私が観た展覧会 ベスト10

1.「恩地孝四郎展」 東京国立近代美術館



恩地孝四郎について何も知らなかったことを思い知らされました。一口に木版といえども、表現は驚くほどに多様です。まるで油画のような「氷島の著者(萩原朔太郎)」の質感も素晴らしい。時に音楽や詩作と交差しては常に新しい地平を切り開きます。そのいわば挑戦的な姿勢にも惹かれました。20年ぶりの回顧展、海外からも作品が多数やって来ました。また思索の有り様を追うような会場構成も効果的だったのではないでしょうか。ひたすら版画の魅力にとりつかれ、今年一番、時間を忘れて見入った展覧会でした。

2.「鈴木其一 江戸琳派の旗手」 サントリー美術館



其一単独の大規模な回顧展がようやく開催されました。何よりは「朝顔図屏風」です。2004年のRIMPA展以来の里帰り。そして私自身、かの展覧会で本作と抱一の「夏秋草図屏風」を見て、琳派を好きになったものでした。それからおおよそ12年。再会の喜びもひとしおです。ほか全国各地からも作品を網羅。質だけでなく量も不足ありませんでした。まさしく史上初、そして史上最高の其一展でした。

3.「カラヴァッジョ展」 国立西洋美術館



絵画そのものの熱気に包まれ、心奪われた展覧会でした。カラヴァッジョ作だけで国内最多の11点。もちろん作品の同定については議論あることでしょう。ただそれでも「果物籠を持つ少年」はあまりにも艶やかで、「法悦のマグダラのマリア」はあまりにも劇的でした。絵に痺れるという感覚は久々です。元々、好きだったバロック絵画、ないしカラヴァッジョをこれまでにない規模で見られて満足でした。

4.「吉田博展」 千葉市美術館



吉田博は木版の画家と思っていた先入観が見事に覆されました。木版はもとより、油彩、水彩のいずれのジャンルおいても成果を残しています。油画の戦争画も異様なまでに迫力がありました。また自らを売り込むために渡米。各地を練り歩いては自作を売り、資金を獲得していったエピソードも凄い。とても行動的でかつ研究熱心、さらに情熱的な人物です。黒田清輝を殴ったというのも無理はなかったのかもしれません。

5.「ジョルジョ・モランディ展」 東京ステーションギャラリー



国内では17年ぶりの大規模なモランディ展でした。「すこし、ちがう。すごく、ちがう。」とありましたが、チラシに確かに似たような構図、ないしモチーフにおいても、それぞれは異なっていることが見て取れます。有名な一連の静物画はもちろん、風景画にも大いに惹かれました。そしてざわめく筆触。実に繊細です。初めてその魅力に気がつきました。

6.「ルノワール展」 国立新美術館



「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」がまさかあれほどに素晴らしい作品だとは思いませんでした。図版では度々目にした有名作ではありますが、実物の色彩の躍動感と言ったら比類がありません。光が全て色で表現されています。まるで白昼夢です。それこそ夢見心地で見入ってしまいました。またほかのルノワール作も粒揃い。これまで見てきたルノワール展の中で圧倒的に充実していました。

7.「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankArt Studio NYK



柳幸典の表現がBankArtの空間を見事なまでに支配していました。中でも驚いたのは3階での展開です。太陽に追われ、光に導かれたと思いきや、突如、リトルボーイが現れます。そしてその先に放射性廃棄物と瓦礫をまとったゴジラが鳴りを潜めていました。日本の近代史を回顧した目はあまりにも凶暴で恐ろしい。黙示的です。これほど戦慄なまでの体験をした展覧会もありませんでした。

8.「旅するルイ・ヴィトン」 紀尾井町ルイ・ヴィトン特設会場



ヴィトンの歴史と世界観を見事に伝えていたのではないでしょうか。いわゆる美術展というジャンルではないかもしれませんが、フランスよりやってきた貴重な歴史資料も多数。構成自体も良く練られていました。そして何よりは展示空間です。これが素晴らしい。部屋を移動するごとに新たな発見があります。気がつけば1時間半、夢中で見ていました。

9.「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 埼玉県立近代美術館



フランスの大富豪の家に生まれ、自由気ままに写真を撮り続けたラルティーグ。確かにどの写真からも幸福感、ないし愉悦感が伝わってきます。2度の大戦があった時代ながらも、その気配は微塵も感じられません。日本初公開となった戦後のカラー写真がまるでInstagramのように見えたのも面白いところでした。作品よりもラルティーグという人物に強く興味を覚えました。

10.「若冲展」 東京都美術館



今年、最も話題となり、事実上、最も多くの人を集めたのが若冲展でした。動植綵絵と釈迦三尊像の揃い踏み展示は圧巻の一言。東京では初めての邂逅でした。ほか菜蟲譜、鹿苑寺の襖絵など代表作もずらり。確かに動植綵絵を含めた展示としては空前絶後のスケールでした。ただし人気は沸騰し、会期途中には最大で5時間待ちもの行列が発生。物議を醸しました。大規模展の開催や運営のあり方について色々と考えさせられました。

次点.「ロバート・フランク展」 東京藝術大学大学美術館・陳列館

いかがでしょうか。ロバート・フランクについては、教育的プログラムと、作品をあえて安価な新聞用紙に印刷する手法に、写真展の新たな方向性も垣間見えたことから、次点にしました。またベスト10以外で特に印象に残った展覧会は以下の通りです。(順不同)

「小田野直武と秋田蘭画」 サントリー美術館
「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」 埼玉県立近代美術館
「マリー・アントワネット展」 森アーツセンターギャラリー
「デトロイト美術館展」 上野の森美術館
「ゴッホとゴーギャン展」 東京都美術館
「浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術」 千葉市美術館
「柳根澤 召喚される絵画の全量」 多摩美術大学美術館
「禅ー心をかたちに」 東京国立博物館
「円山応挙 『写生』を超えて」 根津美術館
「ラスコー展」 国立科学博物館
「クラーナハ展」 国立西洋美術館
「さいたまトリエンナーレ2016」 さいたま市内各会場
「速水御舟の全貌ー日本画の破壊と創造」 山種美術館
「大仙厓展ー禅の心、ここに集う」 出光美術館
「ダリ展」 国立新美術館
「小川信治ーあなた以外の世界のすべて」 千葉市美術館
「トーマス・ルフ展」 東京国立近代美術館
「驚きの明治工藝」 東京藝術大学大学美術館
「宇宙と芸術展」 森美術館
「伊藤晴雨 幽霊画展」 江戸東京博物館
「燃える東京・多摩 画家・新海覚雄の軌跡」 府中市美術館
「メアリー・カサット展」 横浜美術館
「木々との対話」 東京都美術館
「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 国立新美術館
「古代ギリシャ展」 東京国立博物館
「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」 国立歴史民俗博物館
「大妖怪展」 江戸東京博物館
「観音の里の祈りとくらし展2」 東京藝術大学大学美術館
「ポンピドゥー・センター傑作展」 東京都美術館
「ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像」 東京国立博物館
「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」 東京藝術大学大学美術館
「国吉康雄展」 そごう美術館
「ポンペイの壁画展」 森アーツセンターギャラリー
「高島野十郎展ー光と闇、魂の軌跡」 目黒区美術館
「原安三郎コレクション 広重ビビッド」 サントリー美術館
「黄金のアフガニスタン」 東京国立博物館
「開館50周年記念 美の祝典1~3」 出光美術館
「六本木クロッシング2016」 森美術館
「安田靫彦展」 東京国立近代美術館
「俺たちの国芳 わたしの国貞」 Bunkamura ザ・ミュージアム
「馬鑑 山口晃展」 馬の博物館
「村上隆のスーパーフラット・コレクション」 横浜美術館
「没後100年 宮川香山」 サントリー美術館
「原田直次郎展」 埼玉県立近代美術館
「国芳イズム」 練馬区立美術館
「気仙沼と、東日本大震災の記憶」 目黒区美術館
「佐藤雅晴ー東京尾行」 原美術館
「夷酋列像ー蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」 国立歴史民俗博物館
「ボッティチェリ展」 東京都美術館
「英国の夢 ラファエル前派展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
「初期浮世絵展」 千葉市美術館

毎年のことながらかなり多くなってしまいました。ここからあえてピックアップするなら、「東雲篩雪図」の美しさに驚いた「浦上玉堂と春琴・秋琴」。写真表現の多様性を見せつけられた「トーマス・ルフ」。まさにタイトルに偽りなし、状態の良い壁画ばかりが揃った「ポンペイの壁画展」。過剰なまでに膨大で、館内を覆う熱気にものまれた「村上隆のスーパーフラット・コレクション」。ボッティチェリのみならず、リッピ親子の3人の関係を優品ばかりで辿った「ボッティチェリ展」。そして浮世絵の成立史を極めて綿密に検証した「初期浮世絵展」なども深く印象に残りました。

日本、西洋、そして現代美術と分け隔てなく見ているつもりですが、何となしに日本美術に心に留まる展覧会が多かったような気がします。露出の多い国芳、国貞を、言わばキャッチーな切り口で見せた「俺たちの国芳 わたしの国貞」も面白かったのではないでしょうか。妖怪ウォッチ云々だけでなく、さりげなく貴重で珍しい作品も多かった「大妖怪展」もワクワクしながら見入りました。

近代の洋画家に充実した回顧展が目立ちました。約100年ぶりという「原田直次郎展」をはじめ、福武コレクションが一堂に会した「国吉康雄展」、そして初期から晩年までの画業を総覧した「高島野十郎展」も大変に見応えがありました。特に高島はかつて三鷹での個展で知って以来、より多く作品を見たいと思っていただけに、またとない機会となりました。

「燃える東京・多摩 画家・新海覚雄の軌跡」も好企画ではなかったでしょうか。作品はもとより、社会運動と深く関わった画家の生き様が伝わるような内容でした。無料のリーフレットも理解を深めるのに役立ちました。

震災から5年。被災と復興について踏み込んだ企画も行われました。それが「気仙沼と、東日本大震災の記憶」と「いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興」の2つの展覧会です。

前者では気仙沼のリアス・アーク美術館の被害状況を丹念に紹介。学芸員らが実際に収集した被災物にレポートをつけていたのが殊更に印象的でした。後者では復興の様子だけでなく、東北全般の美術に目を向けた構成が特徴的でした。戦前、戦後の展開のみならず、まさしく今、震災後の現代美術についての言及もありました。

皆さんは今年一年、どのような美術との出会いがありましたでしょうか。心に残った展示などについてコメントかTBをいただければ嬉しいです。

このエントリをもって年内の更新を終わります。今年も「はろるど」とお付き合い下さりどうもありがとうございました。それではどうか良いお年をお迎え下さい。

*過去の展覧会ベスト10
2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年2007年2006年2005年2004年その2。2003年も含む。)
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「小田野直武と秋田蘭画」 サントリー美術館

サントリー美術館
「世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画」
2016/11/16~2017/1/9



江戸時代中期、通称、秋田蘭画と呼ばれる絵画を生み出した絵師がいました。

それが小田野直武、秋田藩の藩士です。蘭画の由来はもちろんオランダ。秋田藩士の描いたオランダ風絵画ということから、秋田蘭画の名が付けられました。

直武の生まれは角館です。若い頃から絵を嗜みます。当初は狩野派に学びます。冒頭の「花下美人図」に目がとまりました。文字通りに花の下に女性が立っています。華麗です。端的に絵がうまい。18歳の作とは思えません、まるで春信画のような趣きがあります。

「鍾馗図」は英一蝶の模写です。「柘榴図」も見事でした。カゴに入った柘榴は熟れに熟れています。果実の粒が露わになっていました。写実性も高い。さも南蘋派の絵画のようですが、柘榴自体は狩野派の画題でもあったようです。

小田野直武という名こそ今に知られていないかもしれませんが、彼が成した業績の一つはあまりにも有名でした。かの解体新書です。


杉田玄白ら訳、小田野直武画「解体新書」(部分) 安永3(1774)年 国立大学法人東京医科歯科大学図書館 *全期間展示

切っ掛けは秋田藩を訪ねた平賀源内です。西洋に詳しい源内には直武も好奇心を触発されたことでしょう。しばらくして藩主の命によって江戸へ移ります。そこで源内の知人である杉田玄白の解体新書の挿絵を担当しました。つまり直武は解体新書の絵師でもあるわけです。

挿絵は扉絵を含めて全41ページ。解剖図も事細かに描いています。と同時に、ヨンストン動物図譜や西洋の銅版画も模写しました。ともかく新しい表現に対して貪欲です。バイタリティのある人物だったのかもしれません。

その頃の江戸では南蘋派が流行していました。ここでも学びの姿勢です。直武も宋紫石から技法を摂取します。いわゆる秋田蘭画の源流には西洋画法と南蘋派の手法の2つがありました。

この南蘋派が一定数まとめて紹介されています。宋紫石はもちろん、松林山人、佐々木原善らの作品です。松林は長崎に生まれ、江戸で活動しました。佐々木は横手の絵師です。東北に初めて南蘋派を伝えたと言われています。


小田野直武「蓮図」 江戸時代 18世紀 神戸市立博物館 *展示期間:11/16~12/12

メインはもちろん秋田蘭画でした。色彩美、奥行きのある空間、そして花鳥画における牡丹や蓮などの実在感、さらに迫真的な人物像などを特徴としています。

直武の「水仙に南天・小禽図」はどうでしょうか。前景に水仙が生えています。異様なほどの大きさです。まるで大木。その奥に長閑な景色が広がっています。画中には水仙を見上げる視点と、後ろの景色を見渡すという、2つの視点があると言えるかもしれません。

「唐美人図」は中国の蘇州版画に倣っているそうです。朱塗りの椅子に腰掛ける女性の面持ちはやや物憂げです。全体的に陰影が強調されています。


直武で特に知られるのが重要文化財の「不忍池図」ではないでしょうか。本物は期間限定でした。既に公開を終え、現在はレプリカが展示されています。やはり前景と後景の対比が特徴的です。鉢植えの草花は限りなく手前に置かれています。とても大きい。芍薬の色彩は鮮烈です。外国の顔料を用いているそうです。花弁の一枚一枚を細かに描いています。一方で背景の池は湖のように広い。いささか霞みがかっているようにも見えます。


小田野直武「鷺図」 江戸時代 18世紀 歸空庵 *展示期間:12/14~1/9

「鷺図」も面白いのではないでしょうか。直武は博物学にも親しみ、草花を確かに写実的に描きました。ただ強い陰影しかり、遠景を引き延ばした空間など、単に写実と捉えられない独特の世界があります。不思議と田中一村の絵画を思い出しました。幾分、幻想的でかつシュールです。その辺にも直武画、ひいては秋田蘭画の魅力があると言えるのかもしれません。


佐竹曙山「松に唐鳥図」(重要文化財) 江戸時代 18世紀 個人蔵 *展示期間:11/16~12/12

なお展示では直武のみならず、同じく蘭画の描き手でもあった秋田藩主の佐竹曙山などの作品も参照されています。見比べるのも面白いかもしれません。

秋田蘭画の結末はあっけないものでした。江戸に出てからおおよそ6年後、直武は突然に秋田藩から謹慎を命じられてしまいます。しかも同じ頃に源内も殺人罪で獄死しました。

謹慎の理由は今もわかっていません。さらに1年後、直武は死去。なんとまだ32歳でした。死因は不明です。さらに藩主佐竹曙山も数年後に死去。秋田蘭画の制作機運は自然に消滅してしまいます。

タイトルに「世界に挑んだ7年」とあるのはここに理由があります。つまり直武らを中心とした秋田蘭画が描かれたのは約7年間に過ぎないということです。

ラストは「秋田蘭画の行方」と題し、直武から直接絵を学んだ可能性もある司馬江漢らの作品が登場します。ただやはり蘭画とは違います。江漢画を見ていくとむしろ秋田蘭画の独自性が浮き上がってきました。

一度、忘れられた秋田蘭画に再び光が当てられたのは20世紀に入ってからのことでした。日本画家の平福百穂です。昭和5年に「日本洋画曙光」を著します。それを契機に再評価が進んで行ったそうです。

江戸絵画好きには見ておきたい展覧会と言えるのではないでしょうか。まさか江漢に先立ち、このような新しい表現に挑戦した絵師がいたとは知りませんでした。



館内は大変に空いていました。余裕をもって観覧出来ます。

新年は2日から開館します。2017年1月9日まで開催されています。

「世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2016年11月16日(水)~2017年1月9日(月・祝)
休館:火曜日。但し1月3日(火)は開館。 年末年始(12月30日~1月1日)。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜、土曜日は20時まで開館。
 *12月22日(木)、1月8日(日)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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「拝啓 ルノワール先生ー梅原龍三郎に息づく師の教え」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「拝啓 ルノワール先生ー梅原龍三郎に息づく師の教え」
2016/10/19~2017/1/9



1909年、梅原とルノワールが初めて出会ったのは、南フランスのカーニュにあったルノワールのアトリエでのことでした。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「バラ」 制作年不詳 三菱一号館美術館寄託

梅原はまだ20代前半。画学生です。渡欧して絵を学んでいました。一方のルノワールは60代の後半です。既に印象派の大家でした。しかも梅原は突然の訪問。アポイントメントも取らなかったそうです。面識もありません。しかしながらルノワールは梅原と昼食を共にしては歓待したそうです。

その梅原とルノワールの関係を俯瞰する展覧会です。主役はあくまでも梅原ですが、ルノワール作はもとより、梅原の収集した印象派絵画なども幅広く紹介しています。

はじまりはルノワールに会う前の梅原です。と言っても1年前。すでに渡欧後です。「伊太利亜人」に目がとまりました。赤い顔でヒゲを蓄えた男の姿を捉えています。筆触は荒々しい。一見では梅原とわからないかもしれません。

下宿先の娘を描いたのが「少女アニーン」です。カーテンの青が殊更に目にしみます。青の時代などと呼ばれてもいるそうです。

1909年の作は「はふ女」と「パリー女」の2点。その後の「モレー風景」はいかにも印象派風でした。夏の景色が広がっています。ただ梅原は単純にルノワール画を摂取したわけではありません。例えば1911年の「自画像」ではグレコを思わせるような線が交差しています。しかも身体は頭部から三角形におさめられています。セザンヌの影響云々も指摘されているそうです。

さらに2年後の「ナルシス」では、梅原を特徴づけるようなオレンジ色が画面を支配しています。筆触はうねりを伴い、まるでフォービスム絵画を見るようでもあります。梅原は終生、ルノワールを敬っていましたが、表現のスタイルは次第に離れていったのかもしれません。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「勝利のヴィーナス」 1914年頃 国立西洋美術館(梅原龍三郎氏より寄贈)

さて今回の展覧会で思いの外に充実していたのは梅原の収集した美術品でした。一部は梅原コレクション展と呼んでも差し支えありません。

梅原はルノワールだけでなく、画家として関心を持っていたルオー、はたまた実際に交流したピカソの作品などを収集します。それらを後に国立西洋美術館へ寄贈しました。


エドガー・ドガ「背中を拭く女」 1888-92年 国立西洋美術館(梅原龍三郎氏より寄贈)

例えばピカソです。「オンドリと、スイカを食う人」はどこか遊び心すら感じられる一枚です。もちろん晩年の制作です。ドガでは「背中を拭く女」が魅惑的でした。たらいを前に置いては、背中を露わにして、何やら一生懸命に拭いています。パステルの質感にも温かみがあります。

ほかマティス、ブラック、モネ、シスレー、セザンヌも僅かながら展示されています。まさか梅原の名を冠した展覧会で見られるとは思いませんでした。

西洋の古い美術にも興味があったようです。古代ギリシャの「キュクラデス像」などもありました。一方での日本です。何と大津絵も購入しています。後に画家として成功を収めた梅原は、自らの審美眼にも自信があったのかもしれません。西洋から日本の様々な美術品をコレクションしました。

1919年、ルノワールは世を去ります。梅原はなんと自宅を売却。渡航費用を捻出してはルノワールのアトリエに向かいました。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「パリスの審判」 1913-14年 公益財団法人ひろしま美術館

ここでポイントとなるのが「パリスの審判」です。弔問時に3点あったそうです。後に2点が日本に持ち込まれますが、うち1点を梅原は借り受け、模写ならぬリスペクトをします。


梅原龍三郎「パリスの審判」 1978年 個人蔵

一つのハイライトと化していたのが「パリスの審判」の3点揃い踏みでした。2点はルノワールです。そしてもう1点が梅原です。構図はルノワールの1作とほぼ同等。しかし既に梅原の様式は確立しています。太い朱色の線が裸婦を象ります。ルノワール画の繊細はなく、むしろ生命賛歌ならぬ、力強さが際立っています。まさしく奔放です。ルノワールの絵が描かれてから60年も経ってからのことでした。


梅原龍三郎「バラ、ミモザ」 制作年不詳 個人蔵

ラストは梅原とルノワールの優品セレクションでした。梅原では有名な「紫禁城」や「バラ、ミモザ」などが興味深い。ルノワールではいささか古典的な「マッソーニ夫人」に惹かれました。澄んだ青いドレスに身をまとった夫人がソファに座っています。ブロンドの髪も美しい。やや恥じらいの表情をしているようにも見えました。


梅原の画業を縦の時間軸で辿りながら、ルノワールを筆頭にした印象派画家らとの影響関係を横軸で紐解いています。また会場内の随所で梅原の言葉を引用していました。梅原の制作のインスピレーション、ないし思考の一端についても触れられるのではないでしょうか。



場内空いていました。混雑とは無縁です。2017年1月9日まで開催されています。

「拝啓 ルノワール先生ー梅原龍三郎に息づく師の教え」 三菱一号館美術館@ichigokan_PR
会期:2016年10月19日(水)~2017年1月9日(月・祝)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館。年末年始(12月29日~1月1日)。
時間:10:00~18:00。
 *祝日を除く金曜、第2水曜、 10月27日(木)、1月4日(水)から6日(金)までは20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人1600円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア2800円。
 *アフター5女子割:第2水曜日の17時以降は一般(女性のみ)1000円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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年末年始の「美術館・博物館」休館情報 2016/2017

一都三県(東京・神奈川・埼玉・千葉)の主な美術館と博物館の年末年始の休館情報をまとめました。



上野

・上野の森美術館 無休
 「デトロイト美術館展」(〜1/21)
・国立西洋美術館 12/28〜1/1休
 「クラーナハ展」(〜1/15)
・国立科学博物館 12/28〜1/1休
 「ラスコー展」(〜2/19)
・東京国立博物館 12/24〜1/1休
 「博物館に初もうで」(1/2〜)
・弥生美術館・竹久夢二美術館 12/26~1/2休
 「平田弘史に刮目せよ/竹久夢二の春・夏・秋・冬」(1/3〜)
・東京都美術館 12/21〜1/3休
 「ティツィアーノとヴェネツィア派展」(1/21〜)
・東京藝術大学大学美術館 〜1/5休
 「坂口寛敏退任記念展/飯野一朗退任記念展」(1/6〜)



丸の内・日本橋・新橋

・三菱一号館美術館 12/29〜1/1休
 「拝啓 ルノワール先生ー梅原龍三郎に息づく師の教え」(〜1/9)
・東京ステーションギャラリー 12/29〜1/1休
 「高倉健展」(〜1/15)
・東京国立近代美術館 12/28〜1/1休
 「endless 山田正亮の絵画」(〜2/12)
・三井記念美術館 12/26〜1/3休
 「日本の伝統芸能展」(〜1/28)
・出光美術館 〜1/7休
 「岩佐又兵衛と源氏絵」(1/8~)
・パナソニック汐留ミュージアム 〜1/13休
 「マティスとルオー展」(1/14〜)



表参道・青山

・ワタリウム美術館 12/31〜1/3休
 「没後10年 ナムジュン・パイク」(〜1/29)
・太田記念美術館 〜1/4休
 「お笑い江戸名所ー歌川広景の全貌展」(1/5〜)
・岡本太郎記念館 12/27〜1/4休
 「舘鼻則孝 呪力の美学」 (〜3/5)
・根津美術館 〜1/6休
 「染付誕生400年」(1/7〜)



渋谷・新宿

・Bunkamura ザ・ミュージアム 1/1休
 「マリメッコ展」(〜2/12)
・渋谷区立松濤美術館 12/29〜1/3休
 「セラミックス・ジャパンー陶磁器でたどる日本のモダン」(〜1/29)
・東京オペラシティ アートギャラリー 12/26〜1/3休
 「山本耀司 + 朝倉優佳『画と機』」(〜3/12)
・NTTインターコミュニケーション・センター  12/29〜1/4休
 「アート+コム/ライゾマティクスリサーチ 光と動きの『ポエティクス/ストラクチャー』」(1/14〜)
・文化学園服飾博物館 〜1/5休
 「麻のきもの・絹のきもの」(1/6~)
・東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 〜1/13休
 「クインテット 五つ星の作家たち」(1/14〜)



六本木

・森美術館 無休
 「宇宙と芸術展」(〜1/9)
・森アーツセンターギャラリー 無休
 「マリー・アントワネット展」(〜2/26)
・サントリー美術館 12/30〜1/1休
 「世界に挑んだ7年 小田野直武と秋田蘭画」(〜1/9)
・21_21 DESIGN SIGHT 12/21〜1/3休
 「デザインの解剖展」(〜1/22)
・国立新美術館 12/20〜1/10休
 「19th DOMANI・明日展」(〜2/5)



恵比寿・白金・目黒・品川・台場

・東京都写真美術館 12/29〜1/1休
 「アピチャッポン・ウィーラセタクン展」(〜1/29)
・日本科学未来館 12/28~1/1休
 「常設展/新年イベント」(1/2〜)
・山種美術館 12/29〜1/2休
 「日本画の教科書 京都編」(〜2/5)
・東京都庭園美術館 12/28〜1/4休
 「並河靖之 七宝展」(1/14〜)
・原美術館 12/26〜1/4休
 「篠山紀信 快楽の館」(〜1/9)
・畠山記念館 〜1/13休
 「新年の宴展」(1/14〜)
・目黒区美術館 〜1/16休
 「めぐろの子どもたち展」(1/17〜)



両国・清澄白河

・すみだ北斎美術館 12/29〜1/1休
 「北斎の帰還」(〜1/15)
・江戸東京博物館 12/26〜1/1休
 「戦国時代展ーA Century of Dreams」(〜1/29)
・たばこと塩の博物館 12/29〜1/3休
 「伊達男のこだわり展」(〜1/9)
・東京都現代美術館 大規模改修工事のため長期休館中



池袋・目白・板橋・練馬

・板橋区立美術館 12/29〜1/3休
 「発信//板橋//2016」(〜1/9)
・練馬区立美術館 12/29〜1/3休
 「粟津則雄コレクション展」(〜2/12)
・古代オリエント博物館 12/26〜1/3休
 「干支展:トリ」(1/4〜)
・永青文庫 12/26〜1/6休
 「仙厓ワールド」(〜1/29)



世田谷

・世田谷美術館 12/29〜1/3休
 「コレクションの5つの物語」(〜1/29)
・五島美術館 12/26〜1/4休
 「茶道具取合せ展」(〜2/12)
・静嘉堂文庫美術館 〜1/20休
 「超・日本刀入門~名刀でわかる・名刀で知る~」(1/21〜)



武蔵野・多摩

・府中市美術館 12/29〜1/3休
 「ガラス絵 幻惑の200年史」(〜2/26)
・八王子夢美術館 12/29〜1/3休
 「イギリスからくり玩具展」(〜1/22)
・町田市立国際版画美術館 12/28〜1/4休
 「Present for Youー新収蔵作品展」(1/5〜)
・東京富士美術館 〜1/4休
 「とことん見せます!富士美の西洋絵画」(1/5〜)
・多摩美術大学大学美術館 12/27〜1/5休
 「染色家 岡村吉右衛門」(〜2/19)
・三鷹市民ギャラリー 12/29〜1/13休
 「根付〜江戸と現代を結ぶ造形」(〜3/20)



神奈川

・そごう美術館 無休
 「LaLa40周年記念原画展」(~1/15)
・ポーラ美術館 無休
 「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ」(〜3/3)
・BankArt Studio NYK 1/1休
 「柳幸典 ワンダリング・ポジション」(〜1/7)
・岡田美術館 12/31〜1/1休
 「美術館で巡る 東海道五十三次の旅」(〜4/2)
・横浜美術館 〜1/3休
 「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」(1/4〜)
・神奈川県立近代美術館葉山 12/29〜1/3休
 「陽光礼讃 谷川晃一・宮迫千鶴展」(〜1/15)
・川崎市岡本太郎美術館 12/29〜1/3休
 「つくることは生きること 震災 『明日の神話』」(〜1/9)
・平塚市美術館 12/29〜1/3休
 「私のくらしを彩る絵」(〜1/29)
・横須賀美術館 12/29〜1/3休
 「第69回児童生徒造形作品展」(1/12〜)
・神奈川県民ホールギャラリー 12/30〜1/4休
 「5Roomsー感覚を開く5つの個展」(〜1/21)



埼玉

・鉄道博物館 12/29〜1/1休
 「あけまして、おめてつ!」(1/2〜)
・埼玉県立近代美術館 12/26〜1/3休
 「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」(〜1/29)
・河鍋暁斎記念美術館 12/24〜1/3休
 「新春開運 七福神と酉年の祝い展」(1/4〜)
・うらわ美術館 12/27〜1/4休
 「江戸の遊び絵づくしーおもしろ浮世絵版画」(〜1/15)
・川越市立美術館 12/25〜1/4休
 「近・現代の日本画」(1/5〜)



千葉

・ホキ美術館 12/30〜1/1休
 「第2回ホキ美術館大賞展」(〜5/15)
・DIC川村記念美術館 12/25〜1/2休
 「レオナール・フジタとモデルたち」(〜1/15)
・千葉市美術館 〜1/3休
 「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」(1/4〜)
・市原市湖畔美術館 12/29〜1/3休
 「ワンロード:現代アボリジニ・アートの世界」(〜1/9)
・千葉県立美術館 12/28〜1/4休
 「メタルアートの巨人 津田信夫」(〜1/15)


上野の森美術館(デトロイト美術館展)、森美術館(宇宙と芸術展)、森アーツセンターギャラリー(マリー・アントワネット展)、そごう美術館(LaLa40周年記念原画展)、ポーラ美術館(ルソー、フジタ、アジェのパリ)は年末年始のお休みがありません。


またBunkamura ザ・ミュージアムの「マリメッコ展」とBankArtの「柳幸典 ワンダリング・ポジション」は元日のみが休館日です。


東京国立博物館と江戸東京博物館は新年2日より開館。恒例のお正月に因む展示やイベントも行われます。

「博物館に初もうで」@東京国立博物館
「えどはくでお正月!2017」@江戸東京博物館


東京都写真美術館も「TOPのお正月」と題してイベントを開催します。2日は入場無料です。

「TOPのお正月」@東京都写真美術館

抜け落ちている情報も多々あると思います。お出かけの際は各館の公式WEBサイトもあわせてご覧下さい。
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「あなたが選ぶ展覧会2016」 最終投票受付中です

今年のベストな展覧会を皆さんで選ぼうと進行中の「あなたが選ぶ展覧会2016」。いよいよ投票期限が残りあと約1週間を切りました。



「あなたが選ぶ展覧会2016」
http://arttalk.tokyo/


1次エントリーでは全55の展覧会がリストアップされました。最終投票ではこの中からお一人様一展を入れることが出来ます。

[あなたが選ぶ展覧会2016 1次エントリー結果]

いま、被災地からー岩手・宮城・福島の美術と震災復興
岩佐又兵衛展ーこの夏、謎の天才絵師、福井に帰る
アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィアルネサンスの巨匠たち
リバプール国立美術館蔵 英国の夢ラファエル前派展
黄金のアフガニスタンー守りぬかれたシルクロードの秘宝
奥村土牛ー画業ひとすじ100年のあゆみ
驚きの明治工藝
ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞
恩地孝四郎展
カラヴァッジョ展
木々との対話ー再生をめぐる5つの風景
クラーナハ展ー500年後の誘惑
生誕150年 黒田清輝ー日本近代絵画の巨匠
国宝 信貴山縁起絵巻展
古代ギリシャー時空を超えた旅
ゴッホとゴーギャン展
生誕300年記念 若冲展
ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて
初期浮世絵ー版の力・筆の力
ジョルジョ・モランディー終わりなき変奏
杉本博司 ロスト・ヒューマン
鈴木其一 江戸琳派の旗手
世界遺産 ラスコー展ークロマニョン人が残した洞窟壁画
臨済禅師1150年 白隠禅師250年遠諱記念 禅ー心をかたちに
大仙厓展ー禅の心、ここに集う
大妖怪展ー土偶から妖怪ウォッチまで
没後40年 髙島野十郎展ー光と闇、魂の軌跡
ダリ展
DMM.プラネッツ Art by teamLab
デトロイト美術館展
トーマス・ルフ展
21_21 DESIGN SIGHT企画展 西村浩ディレクション「土木展」
はじまり、美の饗宴展 すばらしき大原美術館コレクション
速水御舟の全貌 ―日本画の破壊と創造―
原安三郎コレクション 広重ビビッド
PARIS オートクチュール 世界に一つだけの服
ビアトリクス・ポター 生誕150周年 ピーターラビット展
出光美術館開館50周年記念 美の祝典
ボッティチェリ展
ほほえみの御仏ー二つの半跏思惟像
ポンピドゥー・センター傑作展―ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで
Chim↑Pom『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』
円山応挙「写生」を超えて
水ー神秘のかたち
没後100年 宮川香山
MIYAKE ISSEY展 三宅一生の仕事
村上隆の五百羅漢図展
村上隆のスーパーフラット・コレクションー蕭白、魯山人からキーファーまで
メアリー・カサット展
メディチ家の至宝ールネサンスのジュエリーと名画
安田靫彦展
柳幸典 ワンダリング・ポジション
生誕140年 吉田博展
ルイ・ヴィトンの真髄(こころ)を辿る 驚きに満ちた旅
オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展

最終投票フォーム:http://arttalk.tokyo/vote/kiyoki_admin.cgi

投票はハンドルネームのみで可能です。1次エントリー、及び年明けに予定している発表のWEBイベントの参加如何を問いません。どなたでも投票いただけます。

「あなたが選ぶ展覧会2016 イベントスケジュール」

1.エントリー受付
今年観た展覧会で良かったものをまず順位不同で1から5つあげていただきます。
*11月25日の18時に締め切りました。

2.ベスト50展発表
エントリーしていただいた数多くの展覧会の中から、上位50の展覧会を12月1日に発表します。

3.ベスト展覧会投票
50の展覧会の中から、さらにベストの展覧会を選んでいただきます。皆さん投票して「あなたが選ぶ展覧会2016 ベスト展覧会」を決定しましょう。投票は2017年1月1日(日)の6時まで。

4.ベスト展覧会決定
最終的な投票結果や投票で1位となった展覧会の発表は、年明けにライブのwebイベントを開催して発表する予定です。



それにしても年の瀬。専門家も新聞紙面において一年の展覧会を振り返っています。

「美術 この1年 ベテラン、中堅の個展響く」(毎日新聞) 永田晶子氏
「(回顧2016)美術 芸術祭・美術館の使命とは 地域活性化に比重、進む類型化」(朝日新聞) 北澤憲昭氏、高階秀爾氏、山下裕二氏
「回顧2016 美術 林立する芸術祭、国内開催は大小100超…再考のとき」(産経新聞) 黒沢綾子氏

今年の展覧会の入場者のランキングも発表されました。

2016年美術展覧会入場者数 TOP20」(bitecho)
2016年前半の主な展覧会を振り返るルノワールに67万人!西洋美術巨匠強しー2016年後半の主な展覧会を振り返る」(Art Annual online)

それによれば今年最も多くの入場者を集めたのはルノワール展でした。また1日平均で最も入場者が多かったのは若冲展だったそうです。


「あなたが選ぶ展覧会2016」の結果発表のWEBイベントは1月中旬以降に行う予定です。その際はたくさんいただいたコメントもなるべくご紹介するつもりです。

最終投票フォーム:http://arttalk.tokyo/vote/kiyoki_admin.cgi

投票期限は1月1日(日)の朝6時です。多くの方のご参加をお待ちしておます。

追記:発表のWEBライブイベントの日程が決まりました。少し遅れますが、1月22日(日)の朝10時から開催します。

[あなたが選ぶ展覧会2016 イベント概要]
開催期間:2016年11月~2017年1月
エントリー受付期限:11月25日(金)18時 *終了しました。
上位50展発表:12月1日(木)
ベスト展覧会投票期間:12月1日(木)~1月1日(日)6:00
最終投票フォーム:http://arttalk.tokyo/vote/kiyoki_admin.cgi
「あなたが選ぶ展覧会2016」発表ライブイベント:2017年1月22日(日)10時〜
*WEB上のライブで発表します。
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「北斎の帰還」 すみだ北斎美術館

すみだ北斎美術館
「開館記念展 北斎の帰還ー幻の絵巻と名品コレクション」 
2016/11/22〜2017/1/15



約100年ぶりに発見された葛飾北斎の「隅田川両岸景色図巻」が、新しくオープンしたすみだ北斎美術館にて公開されています。

「隅田川両岸景色図巻」は全長7メートル。北斎作品で最長です。言うまでもなくモチーフは隅田川です。両国橋あたりにはじまり、柳橋から日本堤、そして吉原へと至る隅田川の光景を描いています。

ともかく描写は精緻、さらに作品自体の状態も良好です。人々の表情は豊かで、さも会話する声が聞こえるかのようです。水面の色遣いも繊細でした。淡い水色が滲み出しています。面白いのは吉原の部分でした。とするのも、街はやや遠景、引きの構図で示されていて賑わいは見られません。静まり返っています。


葛飾北斎「隅田川両岸景色図巻」(部分) 文化2(1805)年

その先に進むと一変しました。吉原での宴の様子が突如、大きく描かれているのです。旦那衆は楽しげです。幾分、着物も乱れているようにも見えます。宴もたけなわといったところでした。

ちなみに同図巻は長らく所在不明ながらもフランスで発見。昨年に墨田区がオークションで取得しました。日本で展示されるのは初めてのことです。嬉しいことに7メートル全て開いています。専用の覗き込みケースで細部までじっくり見られました。


葛飾北斎「桜に鷹」 天保5(1834)年頃 展示期間:11/22〜12/18

「隅田川両岸景色図巻」のほかは「名品コレクション」。墨田区の所有する北斎画です。その数は全120点。実際のところは入れ替えのため、約半数ほどが展示されています。

ご当地、墨田に因む作品が目立つのも特徴です。例えば「風流隅田川八景」や「すみだがわ」。また先立つこと晩年の北斎を描いた「葛飾北斎像」も興味深い一枚です。作者は幽霊画などでも知られる伊藤晴雨。北斎が草庵で子どもに絵を渡しています。晴雨は北斎門下の北俊に手習いを受けていたそうです。子どもの姿に自身を重ねているのかもしれません。


葛飾北斎「冨嶽三十六景 隅田川関屋の里」 天保2(1831)年頃 展示期間:12/20〜1/15

ほか有名どころでは「冨嶽三十六景」や「諸国瀧巡り」なども出展。「百物語 さらやしき」の発色も鮮やかです。ラストは肉筆です。「千鳥の玉川図」や「鮟鱇図」、さらに「貴人と官人図」などが目を引きました。

さてすみだ北斎美術館もオープンしてから約1ヶ月を経過しました。私もやや出遅れましたが、先週、ようやく見に行くことが出来ました。



場所は墨田区の亀沢2丁目。北斎の生誕地です。最寄は大江戸線の両国駅でした。エレベーターのA3出口を出て、清澄通りを横断。そのまま北斎通りを直進すると、5分もかからないうちに到達します。



一方でJRの両国駅から少し距離があります。東口を出て、総武線の南側を迂回して進む必要があります。10分近くはかかります。



美術館を設計したのは建築家の妹島和世です。外壁に淡い鏡面のアルミパネルを使用しています。地域に溶け込むとありますが、むしろ周囲とは明らかに異質。非常に目立ちます。個性的な建物でした。



手前は公園です。スリット部分が入場口です。右手がロビーでした。建物は地下1階、地上4階の5層。1階がチケットブースとミュージアムショップです。地下は授乳室とロッカー。2階は事務室のため立ち入り出来ません。展示室は3階と4階です。常設は4階、企画展示室は4階と3階に分かれています。



動線が複雑です。と言うのも、1階から展示室のある3、4階へはエレベーターでしか上がることが出来ません。エレベーターは2機。地下と1階、3階と4階こそ階段で移動可能ですが、ともかく必ずエレベーターに乗らなくては展示室に辿り着けません。



トイレは3階と1階、及び地下にありましたが、3階と1階はかなり手狭です。比較的広い地下のトイレの利用をおすすめします。



常設展示室は一部を除いて撮影が可能でした。



展示室は一室のみ。暗室です。7つのエリアに習作、錦絵、肉筆画などが並んでいます。基本的に北斎の画業を時間軸で追うことが出来ます。



注意が必要なのは常設はレプリカということです。ですが、出来自体はかなり良い。本物と見間違うかもしれません。



次世代の美術館ということでしょうか。キャプションがいずれもタッチパネルでした。日本語、英語、中国語、ハングル対応です。作品画像をタッチすると素早く解説を読むことが出来ます。



また同じくタッチパネルには「北斎漫画パズル」や「北斎漫画コマアニメ」などのコンテンツも用意されています。触れて遊びながら、北斎について親しめるのではないでしょうか。



アトリエの再現模型が秀逸でした。時は北斎が84歳。娘の阿栄とともに住んでいたそうです。その様子を等身大模型で再現。写真ではわかりませんが、実にリアルに動きます。



美術館には図書室、及び講座室もあります。こちらは入館料不要です。講座室では例の「隅田川両岸図巻」の解説映像が上映されていました。



建物自体は全般的に手狭です。そもそも多くの方が来館することを想定していないのかもしれません。私はタイミング良く、平日の午後に出かけたため、スムーズに観覧出来ましたが、それでもエレベーター前には僅かな行列も発生。トイレに並んでいる方もいました。土日をはじめ、団体などの多客時には、すぐにキャパシティを超えてしまうのではないでしょうか。ロッカーの台数も多くありません。



実際、入場者数は予想を上回るペースで推移し、一部時間帯においてチケット購入待ちの列も出来ているそうです。現状ではコンビニなどでの事前購入も叶いません。公式ツイッターなどのSNSでのリアルタイムの混雑情報の発信もありません。



年明けは相当な混雑も予想されます。時間に余裕をもってお出かけください。




2017年1月15日まで開催されています。

「開館記念展 北斎の帰還ー幻の絵巻と名品コレクション」 すみだ北斎美術館@HokusaiMuseum
会期:2016年11月22日(火)〜2017年1月15日(日)
休館:月曜日。年末年始(12月29日〜1月1日)。
時間:9:30~17:30(入場は17:00まで)
料金:一般1200(960)円、大学・高校生・65歳以上900(720)円、中学生400(320)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *観覧日当日に限り、常設展も観覧可。
住所:墨田区亀沢2-7-2
交通:都営地下鉄大江戸線両国駅A3出口より徒歩5分。JR線両国駅東口より徒歩10分。
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「大ラジカセ展」 PARCO MUSEUM

PARCO MUSEUM
「日本発 アナログ合体家電 大ラジカセ展」 
12/9~12/27



1968年、日本のアイワの発売した「TPR-101」こそ、世界で初めてのラジカセでした。

まさに日本発、ラジカセ大集合です。家電蒐集家の松崎順一氏のコレクションから選ばれた100台超のラジカセが一堂に会しています。



冒頭にただ一台、恭しく鎮座するのが、アイワの「TPR-101」でした。上部にスイッチが並び、パネル前面左にカセット、そして右に音やラジオのツマミが付いています。音声はその下の部分から出るのでしょうか。一目見て、誰もがカセットと分かるようなスタイルです。早くも完成されています。全てはここから始まりました。



面白いのはカセットのスタイルをいくつかに分類していることです。例えば「スタンダード」。それこそアイワの「TPR-101」に派生するパネルデザインです。大小は様々。中には持ち運ぶのに随分と大きなラジカセもあります。ラジカセは家電でありながら、日用品とも言えるかもしれません。まさに一家に一台。展示品を持っていたという方も多いのではないでしょうか。



より身近なのが「カジュアル」です。ラジカセ市場の成熟期は1980年代です。その頃、主に女性をターゲットにしたラジカセが開発されました。

コマーシャルも外人の女性を起用。家電は男性という当時の常識を打ち破ったものだったそうです。カジュアル系ラジカセは比較的小型です。しかしハイスペック。機能は充実しています。これが意外にも男性にもヒットしました。



サンヨーの「MR-WU4mk3」がかつて我が家にあったことを思い出しました。真っ赤です。カセットはAとBの2面。ラジオもAMとFMの双方に対応しています。ステレオでオートリバースとあります。オートリバースはもはや死語になりつつありますが、カセットが巻き終わると、自動的に再生、ないし録音を行う装置です。にわかに懐かしく思いました。



「チープ&キュート」はどうでしょうか。「カジュアル」と同様の1980年代の展開です。デザイン性重視されます。時に海外デザイナーによる様々な家電が流行しました。

ラジカセも同様です。各社は独自のコンセプトを元にモダンデザインラジカセを発表。先頭を走ったのがソニーとサンヨーでした。



同時にラジカセ業界は戦国時代に突入。安さを売りにするメーカーも現れましす。目立つためには意表を突くデザインも求められたのでしょう。何とUFOを模したラジカセもありました。



一方でマニア向けのラジカセも登場します。「ビックスケール」です。文字通りに大きい。特にスピーカーが巨大化しています。おそらくは迫力のあるサウンドが聞こえたことでしょう。カラオケ用にも重宝されたそうです。価格は10万円前後。端的に高い。高級オーディオならぬ高級ラジカセがあったとは知りませんでした。



その派生型とも言えるしれません。「多機能系」です。オーディオ性能を高めたラジカセやテレビなどの外部装置を付けたラジカセが発売されます。



サンヨーの「KBX-7」は何と鍵盤付きです。演奏した音を鳴らしたり録音することが出来たのかもしれません。実にマニアックです。何故に一体化にこだわったのでしょうか。多機能ここに極まれりといった感さえあります。



ラジカセのもう一つの主役はカセットテープです。CDやMD時代以前、誰もがカセットへお気に入りのアーティストらの楽曲を録音しては楽しみました。



会場では各界のクリエーターのカセットテープコレクションを展示。カセットにまつわるエピソードなども紹介しています。



アーティストの小町渉はカセットに絵をつけています。これぞ完全なるオリジナルです。他イラストレーターの永井博やみうらじゅんらのコレクションがありました。



カセット体験コーナーでは実際にラジカセを動かすことも可能です。ヘッドホンで音を聞くことが出来ます。よく考えればカセット自体知らないという若い方がいても不思議ではありません。



ラジカセの楽園こと「大ラジカセ展」。懐かしくもあり、どこかわくわくするような気持ちで見入りました。



12月27日まで開催されています。

「日本発 アナログ合体家電 大ラジカセ展」 PARCO MUSEUM@parco_art
会期:12月9日 (金) ~12月27日 (火)
休館:会期中無休。
時間:10:00~21:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *最終日は18時閉場。
料金:一般500円 、学生400円、小学生以下は無料。
 *「PARCOカード・クラスS」を提示すると無料。「PARCOカード」は半額。
住所:豊島区南池袋1-28-2 池袋パルコ本館7階
交通:JR線、西武池袋線、東武東上線、東京メトロ丸ノ内線・有楽町線池袋駅東口より徒歩1分。
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「デザインの解剖展」 21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT
「デザインの解剖展:身近なものから世界を見る方法」
2016/10/14〜2017/1/22



21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「デザインの解剖展:身近なものから世界を見る方法」を見てきました。

株式会社明治の5つの製品が、デザインはおろか、ありとあらゆる角度から徹底的に解剖されています。



トップバッターはきのこの山です。1975年発売の言わずと知れたロングセラー。傘の部分がチョコ、軸の部分がクラッカーのチョコスナックです。文字通りにきのこの形をしています。



まずはパッケージです。ついでネーミングのほか、外箱の開け方、原材料、はたまた内袋のグラフィックと続きます。何もデザインの観点にとどまりません。



2点目は明治ブルガリアヨーグルトです。実のところ、私も毎日食べている製品です。常に冷蔵庫に入っていますが、それもやはり解剖。容器の形、材質、組み立て、外蓋、内蓋の構造、そのグラフィック、さらには味覚に関してのコクなどについて紹介しています。



例えば容器の材質です。ヨーグルトの容器といえばプラスチック製が主流ですが、明治ブルガリアヨーグルトは紙製。これはヨーグルトの発酵に使われる乳酸菌の性質に由来するそうです。一般的なヨーグルトはビフィズス菌です。酸素を嫌います。よって酸素を通しにくいプラスチックが使われます。一方で明治ブルガリアヨーグルトの菌はブルガリア菌とモラフィス菌です。ともに酸素の有無に関わらず生育が可能です。それゆえに通気性のある紙でも問題ありません。



ちなみに明治ブルガリアヨーグルトが発売されたのは1973年。当初のパッケージは牛乳パックだったそうです。1981年に現在の平たい四角錐台に改められました。



それにしても凄まじいのがキャプションです。ご覧のように極めて充実。実際のところ会場冒頭に「文章が多く、全部読むととても時間がかかります。」との断りがあるくらいです。いわゆる要約を記した短い文章も用意されていますが、主役はもはや解説と言っても良いのではないでしょうか。一つ一つ、製品について実に丁寧に説明しています。

きのこの山、明治ブルガリアヨーグルトに次ぐのが、明治ミルクチョコレート、明治エッセルスーパーカップ、そして明治おいしい牛乳でした。



明治ミルクチョコレートの発売は戦前の1926年。日本で初めて工業生産されたミルクチョコレートです。外装のデザインは6度変更されたものの、ロゴのみのスタイルは一貫して踏襲されました。



明治エッセルスーパーカップには僅かにナトリウムが含まれています。1個あたり31mg。食塩に換算すると0.23gです。その塩辛味がむしろアイスの甘味を引き出します。



明治おいしい牛乳では出荷用のクレートなども出展。もちろん解説に重きが置かれているとはいえ、21_21 DESIGN SIGHTならではの立体展示も何点かありました。巨大きのこの山やスーパーカップの断面模型、さらにおいしい牛乳の巨大模型なども目を引くのではないでしょうか。



テラダモケイを用いた「製品に関与する人たち」の展示模型が秀逸です。一つの製品には多く人が関わり、また多くのプロセスを経ていることが分かります。



明治おいしい牛乳を積み木で遊べるブースが一際人気でした。気軽に楽しめる仕掛けも抜かりありません。



私は平日の日没後に観覧したために混雑とは無縁でしたが、土日を中心に待機列が発生しているそうです。多い日では入場までに60分程度かかることもあります。時間に余裕をもってお出かけ下さい。



2017年1月22日まで開催されています。

「デザインの解剖展:身近なものから世界を見る方法」 21_21 DESIGN SIGHT@2121DESIGNSIGHT
会期:2016年10月14日(金)〜2017年1月22日(日)
休館:火曜日。年末年始(12月27日〜1月3日)。
時間:11:00~19:00(入場は18:30まで)
料金:一般1100円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料。
 *15名以上は各200円引。
住所:港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
交通:都営地下鉄大江戸線・東京メトロ日比谷線六本木駅、及び東京メトロ千代田線乃木坂駅より徒歩5分。
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「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」
2016/11/23~2017/1/29



20世紀初頭、ピカソとブラックにより始まったキュビスムは、日本の芸術家にも大きく影響を与えました。

そうした日本におけるキュビスムの受容、ないし変容を俯瞰する展覧会です。出品数は全160点。(一部に展示替えあり。)かなりのボリュームがありました。

出発点は1907年。ピカソが「アビニヨンの娘たち」を描いたことに由来します。1911年にはパリのアンデパンダン展でキュビスムが大きく注目を浴びます。その芸術革命は程なくして日本の画家に伝えられました。


萬鐵五郎「もたれて立つ人」 1917年 東京国立近代美術館

冒頭は1910年から1920年代の展開です。中心となるのは渡欧していた画家でした。パリへ留学していた東郷青児を筆頭に、田中保、久米民十郎のほか、いち早く潮流を受け取った萬鉄五郎などの作品が展示されています。


東郷青児「帽子をかむった男(歩く女)」 1922年 名古屋市美術館

日本で初めてキュビスムとして紹介されたのが東郷青児の「コントラバスを弾く」でした。キュビスム画に頻出する楽器がモチーフです。対象を一度、解体し、無数の線を組み上げては、コントラバス奏者を描いています。さいたまに生まれた田中保も一時、キュビスムを受容しました。「キュビストA」では色面を分割して人の姿を捉えています。


尾形亀之助「化粧」 1922年 個人蔵

キュビスムの内実は多様です。いわゆる総合的と分析的、そして日本の画家に特に影響を与えた古典的と呼ばれるキュビスムもあります。さらに同時代の未来派や構成主義なども入り混じりました。一筋縄ではいきません。

森田恒友の「城址」はブラックとの関係を指摘される一枚です。しかしながら画家がセザンヌに関心があったから、どこかセザンヌの風景画を思わせる面も否めなくありません。一方で岡本唐貴はレジェに関心を寄せます。分析的キュビスムの手法で作品を制作しました。

河辺昌久の「メカニズム」が特異です。何やら金属の配管が交差する空間を背に、人体の頭部が一つ、太い血管の切断面を露わにして横たわっています。手首も皮膚がはがれ、内部が露出。切断面には歯車が付いていました。キュビスムというよりもシュルレアリスム的とも捉えられるかもしれません。

飯田操朗は「作品」で人物を大きく変形させています。まるでダリのようです。また横井礼以は「庭」において絵具に砂を混ぜました。これはブラックに倣ったそうです。とはいえ、垣根や庭の土の色がせめぎ合う姿に緊張感はあまり見られません。どちらかといえば日本画の空間を連想しました。

結果的に1910年から1920年代のキュビスムは、「実験期を終えると、日本の画家によって深められることはなかった」(解説より引用)そうです。その後、再びキュビスムが隆盛するには、かの大戦の後、1950年代の到来を待つことになります。


池田龍雄「十字街」 1952年 練馬区立美術館

切っ掛けは1951年のピカソ展でした。東京と大阪で開催。これが大変な反響を呼びます。またピカソの「ゲルニカ」が、当時の反戦機運に連動します。そのイメージが多いに流行しました。ゲルニカ風の作品が数多く生み出されたそうです。

その一例と言えるのではないでしょうか。鶴岡政男の「夜の群像」です。頭部のない人体が群れています。背景は闇です。体はいずれも屈曲しています。痛々しい。抑圧された状況下にあるのでしょうか。ゲルニカのモチーフを思い起こさせます。

さらにゲルニカ的なのが山本敬輔の「ヒロシマ」でした。右上にはキノコ雲、かの原爆の惨状でしょう。デフォルメした身体はもはやゲルニカから飛び出してきたかのようです。実際に発表当時、あまりにもゲルニカ的に過ぎると評されました。

村上善男の「区分(内灘にて)」も興味深い作品です。たくさんの手が有刺鉄線の前に突き出ています。いずれも赤い。手の部分がデフォルメされ、いわばキュビスム的な表現が取られています。モチーフは米軍基地の反対闘争です。手は抗議の意思を示しています。


島多訥郎「森と兎」 1957年 栃木県立美術館

1950年代のキュビスムは広範囲に影響を与えます。何も洋画だけではありません。日本画や彫刻においてもキュビスムの手法が取り入れられます。例えば高山辰雄の「道」です。抽象度が高く、キュビスム的とも見えなくはありません。



ほかにはまるでホラー映画の一場面のような河原温の「肉屋の内儀」などもキュビスムの文脈で捉えています。1910年と1950年代の動向。そもそも2つの時代で影響を見るのも1つの仮説との断りがありました。何をもってキュビスム的とするかについては議論あるやもしれません。ただそれでも広義にキュビスムを見定めては、丹念に影響関係を検証しています。大変に見応えがありました。



これほど網羅的に日本のキュビスムを追う展示は滅多にないのではないでしょうか。なお出展の大半は日本人画家の作品です。一部にブラックとピカソの作品もありました。



2017年1月29日まで開催されています。これはおすすめします。

「日本におけるキュビスムーピカソ・インパクト」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:2016年11月23日 (水・祝) ~ 2017年1月29日 (日)
休館:月曜日。但し1月9日は開館。年末年始(12月26日~1月3日)。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大高生880(710)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
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「北参道オルタナティブ」  北参道オルタナティブ会場

北参道オルタナティブ会場
「北参道オルタナティブ」
2016/12/10~2017/2/13



北参道駅近くの空き家にて現代美術家らによるグループ展が行われています。


椛田有理「空知らぬ星 No.0」 2013年

出展は11名。絵画や立体、それにインスタレーションを問いません。まず目立つのは今回の展示を企画した椛田有理の「空知らぬ星 No.0」でした。透明のアクリルでしょうか。何枚か吊り下げては黒い斑点を前後に浮き上がらせています。まるで木立の茂みを見るかのようでした。


角文平「Nursery Plant」 2016年

木立といえば、角文平の彫刻もモチーフは植物です。タイトルは「Nursery Plant」。樹木を象っています。素材は鉄にスポンジです。さらに面白いのは人工芝を使っていることでした。部屋いっぱいです。はみ出さんばかりに枝を伸ばしています。


桑山彰彦「metro map 2016」 2016年

東京の路線図を思わぬ形で表記したのが桑山彰彦です。ずばり「metro map 2016」。例の見慣れた路線図が表されています。初めは単に英語表記の路線図かと思いました。もちろん実際は違います。例えば池袋は「Pond Bag」。池に袋です。そして新木場は「New Tree Place」、上野は「Upper Field」とあります。日本語の意味に着目したのでしょうか。


桑山彰彦「Horizontal practice」 2016年

その桑山が鉄を素材にした大型の作品を出展しています。「Horizontal practice」です。数メートルはある鉄の板が上下左右、部屋の中に吊られています。所々は折り曲がっています。一部は格子や階段状に連なっていました。彫刻がまるで触手のように空間を侵食しています。


ヒグラシユウイチ「SALT ARMS M16A2 Carbine」 2016年

ヒグラシユウイチはモデルガンを制作。ただし素材は岩塩です。人を傷つける武器を、逆に身体にとって必要不可欠な塩で象りました。


原田郁 展示風景

さらに原田郁は観葉植物と古材を用いたインスタレーションを展開。さほど広いスペースではありませんが、思いの外に大掛かりな作品も少なくありません。


北参道オルタナティブ 展示風景

幾つかの小さなギャラリーが集まったような展示です。空き家というスペースへうまく落とし込んでいました。



一部作品にプライスリストがついていました。販売も行われているようです。



年末までの会期が延長されました。年末年始は一度休館し、1月14日(土)から2月13日(月)まで延長開館するそうです。なお年明け以降は土日月のみの開館となります。ご注意下さい。

入場は無料です。2017年2月13日まで開催されています。

「北参道オルタナティブ」  北参道オルタナティブ会場
会期:2016年12月10日(土)~2017年2月13日(月)
時間:11:00~19:00
休館:火曜日、水曜日。但し2017年会期中は土日月のみ開館。
料金:無料。
住所:渋谷区千駄ヶ谷3-1-4
交通:東京メトロ副都心線北参道駅から徒歩3分。JR線原宿駅から徒歩6分。東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩10分。
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「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankArt Studio NYK

BankArt Studio NYK
「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 
2016/10/14~2017/1/7



現代美術家の柳幸典が、新旧作を交え、BankArtの空間を最大限に活用した個展を行っています。


「Project Red White and Blue」

冒頭は旧作、「Red White and Blue」のプロジェクトでした。90年代初頭のドローイングが並んでいるほか、パフォーマンスなどが映像で示されています。


「Project Article 9」

川俣正のステージを舞台にした「Article 9」からして鮮烈です。LEDを使ったインスタレーション。床へたくさんのLEDが散乱しています。一体、何個あるのでしょうか。いずれも赤い光で文字を灯しています。


「Project Article 9」

article、すなわち条項ないし個条です。テーマは憲法第9条でした。「永久に」や「陸海空軍」、それに「国際紛争」などの9条の条文が記されています。「誠実に希求し」は文字が逆さになっていました。全ては乱雑に分断されています。憲法が解体されているということなのでしょうか。とは言え、必ずしも柳の意図は明らかではありません。

BankArtは3層構造です。次ぐ会場は2階です。そこでは柳の制作で最も知られる「Ant Farm」のシリーズが展開していました。


「Ant Farm Project」

一面にずらりと並ぶのは世界各国の国旗です。しかしながら素材は布ではありません。砂です。透明なプラスチックボックスに入っています。そして一部のボックスは互いに細いチューブで繋がっていました。


「Ant Farm Project」

国旗に近づいてみれば一目瞭然、所々が割れていることが分かります。原因は蟻です。つまり柳は砂で国旗をデザイン。その後に蟻を放ちます。すると蟻は自由自在、もちろん国旗の存在を意図する間もなく、歩きまわり、穴を掘っては、砂を崩していきます。その結果、国旗の形も変容するわけです。中にはズタズタに引きちぎられているものもありました。


「Ant Farm Project」

柳は蟻を移民に準えているのかもしれません。さらに紙幣にも這わせて引き裂いています。資本主義経済への警鐘の意味もあるのではないでしょうか。

ちなみに柳は一連の「Ant Farm」を1993年のヴェネチア・ビエンナーレに出品。アペルト部門を受賞します。世界で柳の名を一躍有名にしました。


「Hinomaru Project」

日の丸をモチーフとした「Hinomaru」も興味深い。やはり旗に蟻を放っています。また別の日の丸にも目がとまりました。無数の小さな粒が連なります。近づいて驚きました。何と印鑑です。たくさんの印鑑を押しては日の丸に象っています。さらに床では赤い戦車が円を描いていました。様々な形で日の丸を表現しています。


「INUJIMA Project」

3階では近年、柳が精力的に手がけている犬島プロジェクトについても紹介。パネルや模型などが展示されていました。

さて本展、この3階こそがハイライトです。驚くべき作品が待ち構えていました。


「ICARUS CELL」

まずは「ICARUS CELL」です。鉄製の大きな構造物。壁のように遮っているため、行き先が見通せません。開口部に「こちらからお入りください」との案内があります。恐る恐る、足を踏み入れました。


「ICARUS CELL」

入口付近は朱色に光る太陽が映されています。進む先は鏡の迷路です。曲がり角が幾つもあります。文字が刻まれていました。引用は三島由紀夫の随筆、「太陽と鉄」です。通路の先には終始、白い光が見えます。後ろは常に太陽。いくら曲がっても追いかけてきます。光に導かれ、陽に追われ、さらに先へと進みました。


「ICARUS CELL」

ラストの鏡は上に向き、外の光が取り込まれています。「私が飛び翔とうとした罪の懲罰に?」との一節がありました。実は本作、犬島プロジェクトのコンセプトモデルです。ICARUS、つまりギリシア神話のイカルスは、自在に飛ぶ力を得るも、太陽に近づきすぎ、羽を落として墜落してしまいます。科学や人間の傲慢さへの戒めです。そのエピソードを踏まえた作品なのかもしれません。


「ABSOLUTE DUO」

「ICARUS CELL」を過ぎると、何と爆弾が吊り下がっていました。モチーフはリトルボーイ。広島に落とされた原爆です。しかも実寸大です。イカルスの見た太陽を原爆の炸裂した光に置き換えていたとしたら恐ろしい。有無を言わせない存在感があります。


「Project God-Zilla」

さらに凄まじいのが「God-Zilla」です。つまりゴジラ。ただし身体は瓦礫です。無数の角材が積み上がり、中にはベットや布団、それにソファに椅子、はたまた自転車や車までがひっくり返っています。


「Project God-Zilla」

中には「遮」と記された黒い袋もありました。放射性廃棄物でしょうか。とすれば否応なしに3.11の大津波、はたまた福島の原子力災害を連想させます。振り返ればゴジラも放射能、ビキニ環礁の核実験で生まれました。


「Project God-Zilla」

ぎょろりと光るのがゴジラの目です。中は映像でした。よく見ると日本の戦後に起きた事件が映されています。中には三島由紀夫の演説もありました。


「Project God-Zilla」

それにしても目は凶暴。言い換えれば暴力的です。この暗がりに雌伏していたゴジラは、かの事故を踏まえ、また息を吹きかえそうとしているのでしょうか。思わず後ずさりしてしてしまいました。


「Pacific Project」

30年に及ぶ柳の表現の集大成とも呼べる展示ではないでしょうか。作品はもとより、黙示的とも受け止められるメッセージも強烈です。圧巻の一言でした。

柳幸典「ワンダリング・ポジション」会期延長のお知らせ

当初の会期が延長されました。2017年1月7日まで開催されています。おすすめします。

「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankArt Studio NYK
会期:2016年10月14日(金)~2017年1月7日(土)
休館:1月1日(日)。
時間:11:00~19:00
料金:一般1200円、大学・専門学校生・横浜市民/在住900円、高校生・65歳以上600円。
住所:横浜市中区海岸通3-9
交通:横浜みなとみらい線馬車道駅6出口(赤レンガ倉庫口)より徒歩5分。
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「戦国時代展」 江戸東京博物館

江戸東京博物館
「戦国時代展ーA Century of Dreams」 
2016/11/23~2017/1/29



江戸東京博物館で開催中の「戦国時代展ーA Century of Dreams」を見てきました。

15世紀末から16世紀末にかけ、多くの武将たちが覇権を求めて争った戦国の世。まさに群雄割拠です。好きな武将、ないし大名の一人や二人を挙げるのはそう難しいことでもありません。

その戦国時代に関する資料や美術工芸品が江戸東京博物館へとやって来ました。

構成がややユニークです。大まかな時間軸こそ踏まえていますが、必ずしも通史的ではありません。「合戦」、「群雄」、「権威」、「列島」といったテーマの元、戦国時代の様々な諸相を明らかにしています。


「米沢本 川中島合戦図屏風 左隻」(部分) 米沢市上杉博物館 *前期(11月23日~12月25日)展示

始まりは合戦、一際大きいのが「川中島合戦図屏風 米沢本」でした。かの時代でも特に有名な一戦。屏風は最も激戦であった第4次合戦を描いています。言わずと知れた信玄と謙信の一騎打ちです。舞台は左隻の中央、川の浅瀬でした。謙信が振り下ろした太刀を信玄が軍配で受け止めています。右へ左へと広がる武将らの描写も緻密です。まるで騎馬の掛ける音が聞こえるかのようでした。


「姉川合戦図屏風」 天保8(1837)年 福井県立歴史博物館 *11月23日~12月11日展示

屏風絵ではもう1点、「姉川合戦図屏風」も力作ではないでしょうか。ほかおそらく実際の戦場で使われた軍配や法螺、指物なども展示。かの時代を臨場感のある形で知ることが出来ました。


「織田信長像」 17世紀頃 京都・大雲院 *前期(11月23日~12月25日)展示

「群雄」では武将の肖像画が目立ちます。足利義政、三好長慶、浅井長政、上杉謙信、そして織田信長などです。信長の肖像は有名な永徳画ではなく、嫡子信忠ゆかりの大雲院に伝わる作品でした。衣冠束帯の姿です。切れ長の目を開いては取り澄ました様で座っています。

古文書展と思うほどに古文書類が充実しています。特に重要なのが国宝の「上杉家文書」です。これは米沢藩主の上杉家に代々伝わる文書のことで、武家文書として初めて国宝に指定されました。内訳は書状や起請文です。今川氏真、北条氏綱、徳川家康らの書が収められています。かなりの数がありました。また1通ずつに口語訳も付いていてわかり易い。一つのハイライトと言っても差し支えありません。


「色々威腹巻 兜・大袖付」 室町時代 島根・佐太神社 *前期(11月23日~12月25日)展示

反面、群雄らの所用した太刀と甲冑の点数は多くありません。刀は3~4点ほど、甲冑も数点に過ぎません。もちろん梶の葉の鍬形が面白い「色々威腹巻 兜・大袖付」など貴重な品ばかりでしたが、刀や甲冑に数を求めると、いささか物足りなさを覚えたのも事実でした。


「北野天神縁起」(部分) 土佐光信 文亀3(1503)年 京都・北野天満宮

美術工芸品で目を引いたのが「瀟湘八景図」でした。元は大徳寺の襖絵です。16面のうち2面、掛軸に改装されています。湿潤な空気を漂わせながら山水の雄大な景色が広がります。また「北野天神縁起絵巻」もお出ましです。絵は土佐光信、詞を三条西実隆が記しました。ただ開いている部分は僅かです。もう少し見られればとは思いました。

戦国は全国的に人の往来が盛んな時代でもありました。また取引に際し、金銭も流通します。「一括出土銭」が強烈です。多数の銭。全部で5万枚もあるそうです。さらに外国との交易品として三彩釉の壺なども展示されていました。

ラストを飾るのは戦国の覇者、家康の「東照大権現像」でした。100年にも及ぶ乱世。各種資料を通して網羅的に見ることが出来ました。

最後に展示替えの情報です。会期中、前後期で大半の作品が入れ替わります。

「戦国時代展(東京会場)出品リスト」(PDF)
前期:11/23~12/25
後期:1/2~1/29

前期は主に西国、後期は東国の大名に因む作品が出展されるそうです。ほぼ2つで1つの展覧会と言っても差し支えありません。


「黒塗紺糸威具足」 天文5(1536)年 秋田市佐竹史料館 *後期(1月2日~1月29日)展示

会場内は思いの外に賑わっていました。入場時の待機列こそありませんでしたが、刀のコーナーのみ、最前列で鑑賞するための列が出来ています。ただし2列目からであれば待つことなく見ることが可能です。



2017年1月29日まで開催されています。東京展終了後、京都文化博物館(2017/2/25~4/16)、米沢市博物館(2017/4/29~6/18)へと巡回します。

「戦国時代展ーA Century of Dreams」@sengokuperiod) 江戸東京博物館@edohakugibochan
会期:2016年11月23日(水)~2017年1月29日(日)
時間:9:30~17:30
 *毎週土曜は19:30まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し2017年1月2日、9日、16日は開館。年末年始(12/26~1/1)。
料金:一般1350(1080)円、大学・専門学生1080(860)円、小・中・高校生・65歳以上680(540)円。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *常設展との共通券あり
 *毎月第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上が無料。
住所:墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。
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「発信//板橋//2016」 板橋区立美術館

板橋区立美術館
「発信//板橋//2016 江戸ー現代」
2016/12/3~2017/1/9



2011年にスタートした板橋発、現代美術を紹介する「発信//板橋」シリーズも、今年で3回目を数えるに至りました。

テーマは「江戸ー現代」です。区内在住の彫刻家、深井隆を監修に迎え、平面3名、立体4名の作家が作品を展示しています。


奥畑実奈「華爪2016」 2016年

江戸時代にも盛んな蒔絵の技法をネイルに取り込みました。奥畑実奈です。図版の「華爪2016」は文字通りのネイルです。紅葉の紋様を漆で表現しています。螺鈿を用いたネイルもありました。伝統に立脚しながらもスタイリッシュです。まさに江戸と現代の感性を行き来しているのではないでしょうか。


白石顕子「板橋」 2011年

白石顕子は狩野派の屏風絵の余白に板橋の風景を重ねました。いずれも油彩画です。高島平団地でしょうか。とりわけ団地の建物を連ねた風景に目がとまりました。ひたすら静寂に包まれています。画肌が独特です。やや凹凸があります。独特の温もりを感じました。


深井隆「月の庭ー星が降りた日」 2011年

禅寺の枯山水から着想を得たのが深井隆です。タイトルは「月の庭」。モチーフは木彫のペガサスです。床には球、ないし半円のオブジェが転がっています。銀箔なのか鈍い光を放っていました。空間は暗室です。まるで宇宙をペガサスが駆けているかのようでした。

木彫家として活動しながら、根付にも取り組んでいるのが人見元基・狛です。根付は江戸時代の発祥。人見は本名、狛は根付作家としての名です。面白いのは過去の木彫を根付に表現していることでした。大から小への展開です。道化や動物たちがユーモラスに象られています。


山口晃「新東都名所 芝の大塔」 2014年 ミヅマアートギャラリー

人気の山口晃は7点を出展。目立つのは「Tokyo山水(東京圖2012)」です。山手線内の東京のパノラマに江戸の建物が混在します。ほかは日本橋三越などの百貨店圖が3点。意外にも新作がありました。「オービタルランドルト環」です。環、リングをモチーフにした一枚です。煙のようになびく水墨の環の中に都市が浮かび上がっています。余白の靄には小舟の姿も垣間見えました。



会場外、美術館の前に大きな石が転がっています。川島大幸です。この実物の石を導入に、会場内では枯山水に火星のイメージを重ねあわせています。思わぬ光景が広がっていました。



こじんまりとした展覧会ではありましたが、現代へ江戸を呼び込んだ様々な表現を知ることが出来ました。

2017年1月9日まで開催されています。

「発信//板橋//2016 江戸ー現代」 板橋区立美術館@edo_itabashi
会期:2016年12月3日(土)~2017年1月9日(月・祝)
休館:月曜日。年末年始(12/29~1/3)。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般400円、高・大生200円、小・中学生無料。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
住所:板橋区赤塚5-34-27
交通:都営地下鉄三田線西高島平駅下車徒歩13分。東武東上線・東京メトロ有楽町線成増駅北口2番のりばより増17系統「高島平操車場」行き、「区立美術館」下車。
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自由に選べる「2017年国立美術館オリジナルカレンダー」

今年も残すところあと3週間ほど。そろそろ来年のカレンダーを購入する方も多いかもしれません。



「国立美術館オリジナルカレンダー」
https://www.comody.jp/nma/

各美術館も趣向を凝らしたカレンダーを発売していますが、図柄を自由に選べるものは殆どありません。そこで嬉しいのが国立美術館オリジナルカレンダーです。国立美術館のコレクションのうち140点から好きな作品を選んでカレンダーを作ることが出来ます。



「独立行政法人国立美術館」
http://www.artmuseums.go.jp

国立美術館とは、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館の計5館。作家も国内外を問いません。また絵画だけでなく、写真や工芸、さらには美術館の内観や外観の写真も網羅しています。

カレンダーは昨年から発売されましたが、今年は選べる作品がさらに増えました。特に世界遺産を記念し、国立西洋美術館の写真が多く加わったようです。

 

注文は簡単です。まずは国立美術館オリジナルカレンダーの販売サイトにアクセス。壁掛けと卓上の2種類です。また壁掛けは各月12点を選ぶものと、2ヶ月ずつ6点選ぶタイプがあります。



私は12作品を選ぶ壁掛けタイプをセレクト。その後はWEB上でサムネイルを参照しながら、12点を決定する流れです。サムネイルは拡大可能。また先に画像を選び、ドラック&ドロップで12月分を並べ替えることも出来ます。サイト自体の使い勝手は良く、スムーズに選ぶことができました。



さてオリジナルのカレンダーです。一人で選ぶのも良いかもしれませんが、色々あれこれ言いながら複数で決めるのも面白いのではないでしょうか。今回はリビングに飾るつもりだったので、いつもお世話になっている妻と一緒に選ぶことにしました。

まずは私が選んだ作品です。



1月 上村松園《舞仕度》 1914年 京都国立近代美術館
1年のはじまりは華やいだモチーフを。まさにハレの日。菊模様の振袖で舞を披露する。座敷を包む和やかな雰囲気にも惹かれました。

2月 ピエト・モンドリアン《コンポジション》 1929年 京都国立近代美術館
気がつくといつの間にか終わってしまう2月。モンドリアンの緊張感のある色面で色々と気を引き締めたい。

3月 竹内栖鳳《春雪》 1942年 京都国立近代美術館
春の気配を感じさせるとはいえ、まだまだ寒い日々も続く3月。ここはあえて冬を惜しむべく雪の舞う栖鳳画を選びました。

4月 小林古径《極楽井》 1912年 東京国立近代美術館
一転の春爛漫の4月。井戸から湧き水をすくう少女たち。着物の柄も花の美しさに負けません。

5月 パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》 1925年 東京国立近代美術館
闇からモザイク状に広がる色とりどりの花々。不思議とネオンサインのようにも見えなくはない。花も街も活気付く5月にふさわしい一枚かと思いました。

6月 クロード・モネ《睡蓮》 1916年 国立西洋美術館
モネの代名詞睡蓮。涼しげな水面に咲き誇る。蒸し暑い日が続く6月こそ見つめていたい。

7月 古賀春江《海》 1929年 東京国立近代美術館
海。海水浴。日差し。夏を強烈にイメージさせる一枚。

8月 ジョゼフ・ヴェルネ 《夏の夕べ、イタリア風景》 1773年 国立西洋美術館
夏の長い1日の夕暮れ、晩夏を思わせるような夕焼けが目に染み込みます。時空を超えた理想風景。どことなく郷愁も覚えました。

9月 ニコラ・ド・スタール 《アグリジェントの丘》 1954年 国立国際美術館
見るたびに惹かれるスタール。馴染み深いのは東京国立近代美術館の「コンポジション(湿った土)」ですが、なかったのでこちらをセレクト。輝かしい色彩美。冴えるような水色の空はまだ夏色でした。

10月 下村観山《木の間の秋》 1907年 東京国立近代美術館
観山の代表作。雑木林が広がる中に秋草が絡み合います。いつのながらに抱一の夏秋草を連想。僅かに黄金色を帯びた光が木立を満たします。これぞ日本の秋の風景。

11月 ヴィルヘルム・ハンマースホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 国立西洋美術館
うなじを見つめた画家ハンマースホイ。寒々とした室内空間にひんやりした冷気を感じます。

12月 クロード・モネ《雪のアルジャントゥイユ》 1875年 国立西洋美術館
一年の締めくくりの12月。とぼとぼと歩く人の後ろ姿が寂しげ。サーモンピンクに染まる雪色が美しい。

ついで妻が選んでくれた図柄です。コメントももらいました。



1月 ピーテル・ブリューゲル(子)《鳥罠のある冬景色》 国立西洋美術館
大寒、一年でいちばん寒い時期。氷が張り、中世のあの寒さを思い起こせるかも。鳥の罠から、一年の始めだからこそ、気を引き締めて罠にかからないように、願いをこめて。

2月 ダンテ・ガブリエル・ロセッティ 《愛の杯》 1867年 国立西洋美術館
バレンタインデーゆえに、愛の杯を交わしてみては。なんだか色々と初々しい記憶を思い出しました。

3月 パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》 1925年 東京国立近代美術館
花開く時期にはふさわしい、素敵な春の宵を思い起こさせる絵画。御舟の(山種)桜をモザイクにしたような??

4月 ピエール・ボナール《坐る娘と兎》 1891年 国立西洋美術館
イースターだから、かわいいうさぎさんと、女の子。(うさぎも、たぶん女の子も多産のシンボル?)素敵なものをたくさんクリエイトできますように。

5月 フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》 1889年 国立西洋美術館
五月の薔薇は、ヨーロッパでいちばん美しいとされる女性の表現。それをゴッホが描いている、なんとも悩める乙女っぽくて。素敵なピンク。

6月 小茂田青樹《虫魚画巻》(部分) 1931年 東京国立近代美術館
大好きなお魚で、夏至のお祭りを。夏のシンボル(?)の金魚さんと、暑苦しい時期を快適に過ごそう。

7月 ポール・シニャック《サン=トロぺの港》 1901-02年 国立西洋美術館
大好きな作品。夏、海、夕暮れ。

8月 岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》 1915年 東京国立近代美術館
くっきりとした影が、晩夏の青空の下に落ちている。抒情的。日本の八月はもう、秋だよね。

9月 ヴァシリー・カンディンスキー《絵の中の絵》 1929年 国立国際美術館
秋の港。中原中也の詩「港市の秋」を思い出しながら、暖色系に彩られた港を秋と見る。

10月 板谷波山《朝陽磁鶴首花瓶》 1942年 東京国立近代美術館工芸館
赤い、紅葉のいろの、シャープな花瓶には、きっと細い細いはなびらが幾重にも重なり、こぼれおちそうな、シャープな菊の花が似合うかと。想像力が重要。

11月 福田平八郎《雨》 1953年 東京国立近代美術館
冷たい秋の雨。中学生のころから、11月の雨にはいろいろと思うことがある。

12月 アルフレッド・スティーグリッツ《ターミナル》 1892年 京都国立近代美術館
忙しそうな雪の駅。忙しい師走にこそ似つかわしい。

いかがでしょうか。クレーの「花ひらく木をめぐる抽象」以外は見事に全て違う作品があがりました。ほぼ不一致です。なかなか一筋縄ではいきません。

クレー作はさておき、ほかはさらに話し合いの上、各々がいわば仲良く6点ずつ、計12枚の作品を決めることにしました。最終的に決まったのは以下の通りです。



1月 上村松園《舞仕度》 1914年 京都国立近代美術館
2月 ダンテ・ガブリエル・ロセッティ 《愛の杯》 1867年 国立西洋美術館
3月 パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》1925年 東京国立近代美術館
4月 小林古径《極楽井》 1912年 東京国立近代美術館 1912年 東京国立近代美術館
5月 フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》 1889年 国立西洋美術館
6月 小茂田青樹《虫魚画巻》(部分) 1931年 東京国立近代美術館
7月 ポール・シニャック《サン=トロぺの港》 1901-02年 国立西洋美術館
8月 ジョゼフ・ヴェルネ 《夏の夕べ、イタリア風景》 1773年 国立西洋美術館
9月 ニコラ・ド・スタール 《アグリジェントの丘》 1954年 国立国際美術館
10月 下村観山《木の間の秋》 1907年 東京国立近代美術館
11月 ヴィルヘルム・ハンマースホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》 1910年 国立西洋美術館
12月 アルフレッド・スティーグリッツ《ターミナル》 1892年 京都国立近代美術館

この内容で注文。価格は壁掛けタイプで2900円(税別)です。ただし送料が一律750円かかります。そして待つこと一週間。カレンダーが自宅に届きました。



大きさA3サイズ。表紙は国立西洋美術館です。思いの外に作りは頑丈。特に紙がしっかりしています。もちろん作品の図版の質も上々でした。なおカレンダーは一部、手作りで製作されるそうです。



注文は24時間で受付中です。ただし年内に受け取るには12月18日(日)までに注文する必要があります。ご注意ください。



国立美術館オリジナルカレンダー。まさしく千差万別。おそらく一つとして同じカレンダーは出来ません。一人で選んでも、家族と選んでも楽しい。試してみてはいかがでしょうか。

「国立美術館オリジナルカレンダー」
https://www.comody.jp/nma/
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「マリー・アントワネット展」 森アーツセンターギャラリー

森アーツセンターギャラリー
「ヴェルサイユ宮殿《監修》 マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」
2016/10/25~2017/2/26



「マリー・アントワネット展の集大成」とのコピーに誇張はありません。森アーツセンターギャラリーで開催中の「マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」を見てきました。

ヴェルサイユ宮殿の監修だからでしょうか。考証、構成ともに綿密です。出展も多数。全200件です。絵画、工芸、装身具ほか、彫像、さらに手紙など、マリー・アントワネットに因んだ、ありとあらゆる資料がフランスからやって来ています。

絵画の大半は肖像画です。マルティン・ファン・マイテンス(子) の「1755年の皇帝一家の肖像」にいたのは、まだ赤ん坊のマリー・アントワネットでした。中央の揺りかごにいるのがアントワネット。たくさんの子どもたちが集っています。アントワネットは神聖ローマ皇帝フランツ1世とマリア=テレジアの11番目の子として生まれました。


フランツ・クサーヴァー・ヴァーゲンシェーン「チェンバロを弾くオーストリア皇女マリー・アントワネット」 1770年以前
ウィーン美術史美術館


幼い頃から音楽の才能を発揮します。師はオペラ改革で知られる古典派の音楽家、グルックでした。フランツ・クサーヴァー・ヴァーゲンシェーンは「チェンバロを弾くオーストリア皇女マリー・アントワネット」にてチェンバロへ向き合うアントワネットを描きました。場所は宮殿の一室です。たくさんの絵画が飾られています。アントワネットは明るい水色のドレスを着ています。譜面に手を添えていました。実に優雅です。どこか得意気にポーズを取っているようにも見えました。

アントワネットは14歳でルイ15世の孫の王太子、後のルイ16世と結婚しました。「王太子の結婚祝いのテーブル飾り」は文字通り、結婚の祝いのための飾りです。王立セーヴル磁器製作所が制作しました。長さは3メートルです。祝宴の夜に行われたヴェルサイユ宮のオペラ劇場の落成式で披露されました。白い素焼きの陶器です。トルコブルーの大理石がはめ込まれています。まさしく豪華の一言です。後に商人に売却。一度、分解されましたが、19世紀末に幾つかのパーツを用いて作り直されました。


王立セーヴル磁器製作所「ルイ=シモン・ボワゾに基づく『王家の祭壇』」 1775年頃
ヴェルサイユ宮殿美術館


夫のルイ16世が即位したのは1775年。時にルイ16世は20歳、アントワネットは19歳でした。その年に作られたのが「ルイ=シモン・ボワゾに基づく王家の祭壇」です。国王夫妻はともに王冠をかぶっています。衣装はフランク風。古いフランスを称揚するためです。表情は朗らかで屈託がありません。自信に満ち溢れています。

肖像で目立つのはエリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランの作品でした。言わずと知れたアントワネットのお抱えの画家です。王室の信頼は厚く、アントワネットだけでなく王族や家族の肖像画を数多く描きました。


エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン「フランス王妃 マリー・アントワネット」 1785年
ヴェルサイユ宮殿美術館


うち最大級なのが「フランス王妃マリー・アントワネット」でした。高さは2メートル70センチ超。アントワネットがサテンのドレスをこれ見よがしに広げています。堂々たる姿です。手には花を持っていました。なお本作はル・ブラン作とされるものの、王室の模写画家が共同で制作に参加したと考えられています。それでも大変な力作です。出来栄えにはアントワネット自身も満足したのではないでしょうか。


エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン「ゴール・ドレスを着たマリー・アントワネット」 1783年頃
ワシントン・ナショナル・ギャラリー


同じくルブランの「ゴール・ドレスを着たマリー・アントワネット」も美しい。ドレスは一転してシンプル。装身具もありません。「女羊飼い風」と呼ばれたそうです。しかしながら当時、下着姿を描かせたとの悪評が広がります。そのためにサロンから運び出されてしまいます。結果的に同じポーズによる新たな肖像画が描かれました。


ルイ・オーギュスト・ブラン、通称ブラン・ド・ヴェルソワ「狩猟をするマリー・アントワネット」 1783年頃
ヴェルサイユ宮殿美術館


アントワネットは乗馬も得意としていました。その様子を表しているのがルイ・オーギュスト・ブランの「狩猟をするマリー・アントワネット」です。舞台は野山。狩猟の一場面です。猟犬を従えながら馬に横乗りしています。軽やかで颯爽と駆けています。アントワネットの側にいる人物は小姓です。王妃の日傘を手にしています。後景には一人の騎士の姿も垣間見えます。ルイ16世と考えられているようです。

王妃に関する装飾品の展示も充実しています。そもそもアントワネット自身、宮殿の装飾に強い関心を持っていました。よって数多くの高級家具などを注文。かなりの金額を注ぎ込みます。それも結果的に国家財政を危機に陥らせる一つの要因となりました。

流行を踏まえて趣味も変化していきます。当初はトルコ趣味と中国趣味、つまりシノワズリーに染まります。ついで新古典趣味にも惹かれていきました。花と真珠のモチーフを特に好んだそうです。

日本の漆器も収集しています。全70点、うち一部が会場で紹介されていました。元は母のマリア=テレジアの死に際し、50点の漆器が遺贈されたことに由来します。その飾り棚の制作をお気に入りの職人、ジャン=アンリ・リズネーに依頼します。愛でて楽しんだのでしょうか。私室で大切に保管していたそうです。


王立セーヴル磁器製作所「豪華な色彩と金彩の」食器セット 1784年
ヴェルサイユ宮殿美術館


ほか工芸ではアントワネットのセーヴル磁器の食器セットも華麗でした。さらに細かな金の装飾の付いた置時計なども艶やかです。アントワネットのゴージャスな生活の一端が伺えました。


「プチ・アルトマン再現展示」(居室)

ハイライトは「プチ・アパルトマン」の再現展示です。場所はベルサイユ宮殿の中央棟の1階です。ルイ16世の叔母、マダム・ソフィーの没後、空室となっていたスペースに、浴室、図書室、居室の3室からなるプライベートなアパルトマンを構えました。もちろん家具も同時に発注。一度、納品されるも、気にいらなかったため、再び新たな家具を注文します。相当に熱が入っています。


「プチ・アルトマン再現展示」(居室)

「王妃の肘掛け椅子」は当時、実際に使われた椅子です。装飾はエトルリア風。流行していた古代趣味を踏まえています。ほかシャンデリア、整理ダンス、寝台も全てアントワネットが作らせたオリジナルでした。(居室のみ撮影が可能です。)

白を基調としたのが浴室です。室内装飾も精巧に再現しています。かの時代の空気を感じられるのではないでしょうか。なお図書室のみ、映像制作やプロジェクションマッピングで知られるNAKEDによるバーチャルリアリティでした。

後半は革命へのプロセスです。アントワネットに浪費家というイメージを定着させた首飾り事件にはじまり、1789年のバスティーユ襲撃やヴェルサイユ行進へと至ります。ルイ16世一家はヴェルサイユを離れ、チュイルリー宮殿へと移住。パリ市民の管理下に置かれました。その後の1791年、ルイ16世一家は逃亡を企てます。しかし失敗。タンプル塔に投獄され、囚われの身と化します。さらに翌年にはチュイルリー宮も襲撃されます。君主政は終わりを告げました。


ウィリアム・ハミルトン「1793年10月16日、死刑に処されるマリー・アントワネット」 1794年
ヴィジル、フランス革命美術館


ラストは処刑、すなわちギロチンです。死刑台へ向かうアントワネットを捉えたのがウィリアム・ハミルトンです。題して「1793年10月16日、死刑に処されるマリー・アントワネット」。白い部屋着を着たアントワネットが後ろ手を縛られています。全てを諦めたのか天を仰いでいました。殺気立つのは群集です。兵士たちが何とか制止しています。まさに最後の瞬間を捉えた一枚です。劇的ではないでしょうか。


アレクサンドル・クシャルスキ「タンプル塔のマリー・アントワネット」
ヴェルサイユ宮殿美術館


アントワネット死後についても言及があります。例えばアレクサンドル・クシャルスキの「タンプル塔のマリー・アントワネット」です。白いヴェールの喪服姿。ルイ16世の死を悼んでいます。温和な表情をしていました。元は未完のパステル画に着想を得ているそうです。その後、一時制作が中断するも、習作を元に再開。クシャルスキの手によって描かれました。この肖像は数多くの模写が残っているそうです。というのも、歴史の揺れ戻し、つまり王政復古後は、アントワネットが君主制の殉教者として崇拝の対象となったからです。イコンのように扱われたのかもしれません。

全12章。森アーツのスペースを細かに区切っています。そのためか全般的に流れが良くなく、人が滞留せざるをえない箇所もありました。作品数を鑑みると、会場が狭かったかもしれません。

場内は大変に盛況でした。ひょっとすると会期後半は入場規制がかかるかもしれません。

会期中のお休みはありません。2017年2月26日まで開催されています。

「ヴェルサイユ宮殿《監修》 マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」@marie_ntv) 森アーツセンターギャラリー
会期:2016年10月25日(火)~2017年2月26日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00
 *但し火曜日および10月27日(木)は17時まで。
 *入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1800(1600)円、高校・大学生1200(1000)円、小学・中学生600(400)円。未就学児は無料。
 *( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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