2009年6月の記録

心なしか6月はあっという間に過ぎた気がします。今月の見聞録をまとめてみました。

展覧会

「4つの物語 - コレクションと日本近代美術」 川村記念美術館
「奇想の王国 だまし絵展」 Bunkamura ザ・ミュージアム
「ネオテニー・ジャパン - 高橋コレクション」 上野の森美術館
「日本の美・発見2 やまと絵の譜」 出光美術館
「天地人 直江兼続とその時代」 サントリー美術館
「野村仁 - 変化する相―時・場・身体」 国立新美術館
「佐藤美術館収蔵品展 Part.2 夏の風景」 佐藤美術館
「・池田亮司/・ワンダーウォール公募展/◯MOTで見る夢」 東京都現代美術館
「芳年 - 『風俗三十二相』と『月百姿』」(後期) 太田記念美術館
「日本の美と出会う - 琳派・若冲・数寄の心 - 」 日本橋高島屋

ギャラリー

「大島梢 - 図鑑」 ミヅマアクション
「変成態 - リアルな現代の物質性 Vol.2 冨井大裕x中西信洋」 ギャラリーαM
「妻木良三 - 境景 - 」 ラディウム
「100 degrees Fahrenheit vol.1」 CASHI
「青木良太 展」 TKG Daikanyama
「東恩納裕一 展」 新宿高島屋10階 美術画廊
「山口英紀 展」 新生堂
「窪田美樹 - かげとりと、はれもの - 」 hpgrp GALLERY東京
「金丸悠児 - ancient breath - 」 アートガイア・ミュージアム東京
「三瀬夏之介 - シナプスの小人」 新宿高島屋美術画廊

コンサート

「東京都交響楽団第682回定期演奏会Aシリーズ」 「ハイドン:交響曲第103番」他 トゥルコヴィッチ(19日)
「新国立劇場2008/2009シーズン」 「ロッシーニ:チェネレントラ」 サイラス(10日)

いつものように感想が全然追いついていませんが、展覧会では文化村のだまし絵が一番楽しめました。意外にも面白かった展示の感想を書けないことが多いのですが、近日中にはアップするつもりです。

さて6月は新生堂の山口英紀をはじめ、画廊に印象深い展示が目立っていました。以下、記事にまとめきれなかった個展などの感想です。手短かにいきます。



「秋山さやか - あるくゆく 日暮里-ヒグレ-谷中」@HIGURE 17-15 cas
日暮里に滞在し、公開制作をしながら刺繍インスタレーションを完成させる現在進行形の展覧会。作家さんが常時おられると聞いて行ったが、あいにく外出中とのことでお会いすることが出来なかった。秋山自身が歩き、また経験した街の全てを、地図上にステッチで表している。ボタンや糸を、街と繋がった記憶や体験を取り出す装置と捉えると面白い。ネオテニーへ行く前にこちらを見ておいて良かった。

マーティン・クリード展@ヒロミヨシイ
広島市現代美術館でも個展開催中のクリードがヒロミヨシイに登場。謎めいたペインティングはまだしも、暗室でのビデオ作品には唖然。誰もが体験し得る生理的現象を素材にしながらも、あれほど不快感を呼び込むインスタレーションも珍しい。もう二度と見たくないが、その図像は頭の中に打ちつけられるように残った。その意味では面白い。

鈴木理策 「WHITE」@ギャラリー小柳
写美の記憶も新しい鈴木理策が新作個展。先月の画廊の展示の中で一番楽しみにしていたが、不思議にも開けてこない景色がもどかしくてならなかった。ただし奥のパウダースノーの作品だけは別格。あのクッションのような質感表現はやはり素晴らしい。



「Hello! MIHOKANNO」@トーキョーワンダーサイト渋谷
20代作家8名の集う現代アートのグループ展。ビデオあり絵画ありオブジェありのざっくばらんな展示は、気取らなくて飾らない若手作家の制作の痕跡を素直に楽しむことが出来る。目当てはレントゲンでもお馴染みの山本修路。松のオブジェが会場を唐突に切り開いていた。またネオテニー出品中の千葉正也も展示あり。全体のテイストは苦手だが、恵比寿のマジカル辺りを好みの方にはハマるものもありそう。7/20まで開催中。

以上です。7月の予定へと続きます。
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「変成態 - リアルな現代の物質性 Vol.2 冨井大裕x中西信洋」 ギャラリーαM

ギャラリーαM千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビルB1F)
「武蔵野美術大学80周年記念展 変成態 - リアルな現代の物質性 Vol.2 冨井大裕x中西信洋」
6/13-7/18



ギャラリーαMでの連続シリーズ展「変成態」も、6月中旬より第二弾に突入しました。冨井大裕と中西信洋の二人展へ行ってきました。


冨井大裕「wrap#3」(手前)/冨井大裕「air」(中)/中西信洋「Stripe Drawing on wall」(壁面)


冨井大裕「air」(手前)/中西信洋「Stripe Drawing on wall」(壁面)

前回の中原浩大展では会場のホワイトキューブと、オブジェの『赤』や『黒』のコントラストが際立っていましたが、今回は前者の『白』との調和を目指した展示と言えるのかもしれません。冒頭、まず視界に飛び込んでくるのは、140センチほどの高さにまで積み重ねられたエアキャップのオブジェ、冨井大裕の「air」(2009)です。それが奥の壁面に鉛筆で描かれた中西信洋のウォールペイントと静かに共鳴していました。上の写真ではやや分かりにくい面がありますが、軽やかなエアキャップの『積みわら』と、水の泡のような線の軌跡は、この場全体の空気を優しく包み込みこむかのように組み合わさっています。床面のコンクリートの質感がやや強過ぎるようにも思えますが、(デリケートな中西の壁画が引き立ちません。)皮膜状に広がる白の緩やかな曲線運動もまた美しく感じられました。


中西信洋「Layer Drawing 28×28/Aomori sunrise」

この作品写真を見て「六本木クロッシング」の展示を思い出した方もいられるかもしれません。プリントをレイヤー上に並べ、そこに色鮮やかな風景を映し出す中西信洋「Layer Drawing」は、白一色に包まれたこの空間にどこかサイバネティックスな『風』を吹き込むことに成功しています。前述のエアキャップをはじめ、画鋲やテープなど、既製品からオブジェを作る冨井の簡素な美学とはまた対照的でした。


中西信洋「Layer Drawing 16×16/Pepper」

7月18日までの開催です。

Vol.1 「中原浩大」 2009/5/9~5/30
Vol.3 「『のようなもの』の生成」(泉孝昭×上村卓大) 2009/7/25~9/5
Vol.4 「東恩納裕一」  2009/9/12~10/10
Vol.5 「袴田京太朗」  2009/10/24~11/21
Vol.6 「金氏徹平」  2009/11/28~12/26
Vol.7 「鬼頭健吾」  2010/1/16~2/13
Vol.8 「半田真規」  2010/2/20~3/20

注)写真の撮影と掲載は許可をいただいています。
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「野村仁 - 変化する相―時・場・身体」 国立新美術館

国立新美術館港区六本木7-22-2
「野村仁 - 変化する相―時・場・身体」
5/27-7/27



「1960年代末より写真を使った美術表現に取り組み、40年近くに渡ってマルチメディア・アーティスト」(展覧会HPより引用。一部改変。)の泰斗をゆく野村仁の業績を振り返ります。国立新美術館で開催中の「野村仁 - 変化する相―時・場・身体」へ行ってきました。

構成は以下の通りです。野村の制作を時系列に俯瞰しながら、彼がその都度に関心を持った「ジャンル=相」を分類、提示していました。

「物質の相」:時間への関心。「Tardiology」の再現展示。
「地上の相」:物質の変化を地上の様々な現象を記録することで汲み取る。「視覚のブラウン運動」。
「天上の相」:変化を空への関心へと向ける。星空の定点観測。「moon score」。
「宇宙の相」:宇宙の構成を認識する。空から宇宙へ。
「太古の相」:化石などを通して宇宙の原初の姿を辿る。
「未来の相」:未来への提案。ソーラーカーなど。

上記構成を見ると、いかにもコンセプトに難解な展示のようにも思えるかもしれませんが、私の理解の足りなさを棚に上げて申し上げるなら、彼の制作は、決して厳密な実証に基づく『サイエンス』というわけではありません。むしろその原点は導入の8mの巨大段ボールの記録でも明らかなように、愚直なまでに半ば身体をはったパフォーマンスにあります。空を見上げて宇宙の存在を感じ、また化石から太古の地質へと関心を向ける彼の志向性は、良い意味において言わば少年の純粋な探究心の延長上にあるのではないでしょうか。現象を分析し、その本質を探求するのではなく、そこから思いもつかない、ようは科学では汲み取りえない神秘を開かせることにこそ野村作品の醍醐味があります。そうした意味で非常にアーティスティックだと言えるのかもしれません。

何はともあれ、順に野村の関心の拠り所を会場で追うと、いつしか自分も宇宙や万物の道程を体験し、通常見開かれないような現象の謎を解明した気分になってきます。以下、印象深かった作品をいくつか挙げてみました。



第1室「Tardiology」(2009)
冒頭に登場する、高さ8mにも及ぶ巨大な段ボールのオブジェ。発表した当時(1969年)は、その形が自然に崩れるのをそのまま分かるようにして展示していた。(写真で確認可能。)残念ながら今回はあくまでも再現とのことで補強されていたが、展示期間を通しての微妙な歪みは見ることが出来るのかもしれない。

第3室「Ten-Year Photobook 又は視覚のブラウン運動」(1972-1982/1997-2000)
円形のテーブル越しのカウンターにズラリと並ぶフォトブック。10年間にも渡って撮り続けられた野村の目に映った景色が綴られている。観客は、係員が棚より用意するフォトブック(一冊)を白手袋をはめて鑑賞する。なお係員が順番にフォトブックを取り出しているため、見たいそれを指定することは出来ない。モノ、現象の全てを観察し、それを記録しようとする野村ならではの作品ではないだろうか。

第4室「moon score」(1989)
月の運動を五線譜上に記録し、そこから音楽を起こす。静けさに包まれながらも、どこかか弱く奏でられる音の連なりはキラキラと輝いているかのようだった。



第5室「北緯35度の太陽」(1982-1987)
一年間、同じ場所で撮り続けた太陽の写真を繋げて出来た不思議な「リング」。無限にループする曲線は彼方にある太陽の軌跡を手に届くところまでに引き寄せていた。

第6室「軟着陸する隕石96」(1991-1996)
宇宙から降ってきた隕石を飛行機の翼に受け止める。空から宇宙へと近づく飛行機と、反面の宇宙から人のいる大地へとやって来た隕石をクロスさせた。空からさらに上、ようは宇宙へと少しでも近づこうとする人間の一種の原初的な願望を感じたのは私だけだろうか。



第8室「Grus score」(2004)
飛んでいく鶴を写真に納め、それをmoon score同様、五線譜上に音符として置き換える。moonの時と異なり、音楽に踊るようなリズムを感じたのは、やはりその源が生物そのものであるのかもしれない。

第9室「ジュラ紀の巨木:豊中」(1998-2000)
豊中で発見されたジュラ紀の木の化石。年に1mmずつ成長すると仮定して、ジュラ紀より現代まで約2億年間生き続けたとすると、直径200キロにも及ぶ大木になっていると計算出来る。それを現在の地図上に表した。豊中から名古屋付近にまで達したその姿を想像するだけでも面白い。



第10室「サンストラクチャー」(1998-1999)
野村が専門家と協力した上で作ったソーラーカー。アメリカ大陸を横断した記録が映像などでも紹介される。

一人の男が現象を独自に捉え、それを多様なメディアを通し、想像もつかない方法で表現した軌跡を辿ることが出来ます。むしろ頭で理解するのではなく、心を空っぽにしながら星の軌跡や光の変化の現れを感性的に受け止めると、また何かが見えて来るのではないでしょうか。不思議にも心が高ぶるようなロマンを感じました。



なお入口付近に置かれたガイドブック、「アートのとびら」がなかなか良く出来ています。出品リストと合わせておとり忘れのないようご注意下さい。

7月27日まで開催されています。

*7月3日より5日までに同美術館内で開催されるイベント「七夕直前、美術館で願いごと。」に参加すると、当日に限り展覧会の入場料が無料となる引換券をいただけるそうです。詳細はリンク先をご覧下さい。
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ぐるっとパス2009を買いました

都内の初夏の展示はこれ一冊で決まりです。今年さらにバージョンアップした「ぐるっとパス2009」を買ってきました。



春先に一度、「メトロと都営deぐるっとパス」の記事で購入云々について書いたことがありましたが、実はうまくスケジュールが組めず、そのままお預け状態となっていました。今回、改めてパスを手にした理由はただ一つ、明らかに見に行くであろう直近の展覧会がいくつも網羅されているからです。

「かたちは、うつる - 国立西洋美術館所蔵版画展」@国立西洋美術館(7/7-8/16)
「コレクションの誕生、成長、変容 - 藝大美術館所蔵品選」@東京藝術大学大学美術館(7/4~8/16)
「日本の美・発見2 やまと絵の譜」@出光美術館(6/6-7/20)
「道教の美術 TAOISM ART」@三井記念美術館(7/11-9/6)
「テーマ展示 うみのいろ うみのかたち」@ブリヂストン美術館(7/11-10/25)
「高島屋資料館所蔵名品展」@泉屋博古館分館(7/18-9/27)
「Stitch by Stitch展」@東京都庭園美術館(7/18-9/27)
「線の迷宮〈ラビリンス〉・番外編」@目黒区美術館(8/1-9/27)
「鴻池朋子展」@東京オペラシティアートギャラリー(7/18-9/27)

ちなみに上記の展示の大人正規料金は合計7320円ですが、パスなら2000円のみで全て入場出来ます。いつもながらお得です。

以下に各展覧会より興味深いイベント、もしくは展示情報などを簡単に抜き出しておきます。ご参考いただければ幸いです。



「かたちは、うつる - 国立西洋美術館所蔵版画展」@国立西洋美術館(7/7-8/16)
・定評のある西美版画・素描コレクションを初めてまとまった形で紹介する展覧会。
・版画技法のデモンストレーションあり。
 (7/18:銅版画、8/1:リトグラフ。それぞれ11:00より40分程度。参加費不要。)
・7/11と7/12はファン・デーとして入場無料。上記デモンストレーションも合わせて開催。各日11:00と14:00より。

「コレクションの誕生、成長、変容 - 藝大美術館所蔵品選」@東京藝術大学大学美術館(7/4~8/16)
・芸大美術館名品展。学校設立準備段階からの作品蒐集過程を追う。
新発見された藤田最初期の油彩画を展示。



「日本の美・発見2 やまと絵の譜」@出光美術館(6/6-7/20)
・やまと絵の系譜を多面的に探る。
・一部作品の展示替の他、重文「四季日待図巻」(英一蝶)や「絵因果経」などの各種図巻に場面替あり。出品リスト



「道教の美術 TAOISM ART」@三井記念美術館(7/11-9/6)
・日本初、道教美術を総覧する展覧会。国宝4点、重文20点他、計170点。
・展示替は計6回を予定。詳細は調整中。
・三井、大阪市美、長崎歴史文化博物館の3館巡回。規模の大きい大阪市美で全体を網羅する展示を行う。三井、長崎は補完的なものとなる可能性も。
・お盆限定のナイトミュージアム開催。(8/11~16)15日は18時、それ以外は20時まで開館。17時以降の入場料は900円。(通常は1200円)

「テーマ展示 うみのいろ うみのかたち」@ブリヂストン美術館(7/11-10/25)
・館蔵品より海にちなむ作品を展示
・会期中「美の交差点-東京駅界隈」と題した土曜講座を開催。出演は三菱一号館美術館館長高橋明也氏他。要申し込み。

「高島屋資料館所蔵名品展」@泉屋博古館分館(7/18-9/27)
・大阪難波の高島屋資料館の収蔵する日本画、洋画の名品を抜粋で展観。
・竹内栖鳳「アレ夕立に」、須田国太郎「孔雀」他。一部展示替あり。



「Stitch by Stitch展」@東京都庭園美術館(7/18-9/27)
・広義の刺繍をテーマに、現代作家8名(1グループ含む)で表現の可能性を探る。
・夏の夜間開館を開催。(8/10~16)開館は20時まで。
・奥村綱雄、秋山さやか、手塚愛子のアーティストトークを開催。その他、各種イベントあり。
・7/17までダウンロード可能の割引券(pdf)あり。(200円引)

「線の迷宮〈ラビリンス〉・番外編」@目黒区美術館(8/1-9/27)
・目黒区美術館の所蔵してきた70年代の版画集を一覧。
・計10にも及ぶ各種ワークショップを開催。



「鴻池朋子展」@東京オペラシティアートギャラリー(7/18-9/27)
・鴻池朋子の初の「包括的」(HPより)な個展。新作の巨大壁画、襖絵などを展示。
・鴻池のアーティストトークあり。(7/18)要申し込み。
・開館10周年の9/9は無料開館日。

如何でしょうか。なお日程の記載ミスをはじめ、各種イベントにて予定の変更などあるやもしれません。お手数をおかけしますが、詳細は各展覧会サイトをご覧下さい。

パスを買うと、どちらかというと展示を廻る数を優先してしまい、内容に対して消化不良を起こしてしまうことがありますが、今年はなるべく見たい展示だけをじっくり見るという方向で歩きたいと思います。



ちなみに今回のパスも、東京メトロ一日券の二枚付いた「メトロ&ぐるっとパス」にしてみました。パスと710円の一日券が2枚も付いて2800円は格安です。いつも重宝します。

ところでパス使用第一号は、先日の日曜に見た出光の「やまと絵」展でした。こちらの感想も近日中にアップするつもりです。
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「佐藤美術館収蔵品展 Part.2 夏の風景」 佐藤美術館

佐藤美術館新宿区大京町31-10
「佐藤美術館収蔵品展 Part.2 夏の風景」
6/16-7/17



ベテランより比較的若い作家の描いた館蔵の日本画(一部、油彩画。)を展観します。開催中の「収蔵品展 - 夏の風景」へ行ってきました。

ところで本展示は途中、既に一度の展示替えを終えています。前期の様子については以下、Takさんのレポートをご参照下さい。

「佐藤美術館収蔵品展 山と森の風景」@弐代目・青い日記帳

後期のテーマは表題の通り「夏」です。早速、4階、3階の各展示室毎に、印象深かった作品を挙げていきます。

4階展示室


田渕俊夫(1941~)「緑詩」(1990)
高島屋での個展を思い出します。凛と立ち並ぶ竹の様子が細やかに描かれていました。ぼんやりと浮かび上がる緑色の景色に、どことない清涼感を覚える一枚でもあります。


上村淳之(1933~)「池」(1990)
可愛らしい青い鳥が蓮池の上を翼を広げて悠々と舞っています。絵具の醸し出す絵肌の美しさもまた魅力的でした。


高島圭史(1976~)「そらのかよひぢ」(2005)
蓮の葉がむせ返るほどに群生しています。画面びっしりに並ぶ蓮の景色は不気味ですらありますが、雲の間より滲み出す金色の光は神々しいまでに照っていました。

3階展示室


鷲野佐知子(1979~)「Freshly11」(2007)
光に包まれ、風に靡く花のような景色が鮮やかな色遣いで描かれています。細やかなタッチは爽快感を思うほどに華やかですが、その技法が木版であることを知って驚きました。まるでアクリル画のようです。


大野俊明(1972~)「春の刻」(1991)/「夏の刻」(1994)
金箔を前に裸婦がポーズをとりながら横たわっています。構図こそ大胆なものがありますが、造形的な草木の表現など、例えば御舟にも通じるような近代日本画の伝統を感じました。


神戸智行(1975~)「彩雨」(1999)
まさに梅雨の時候に見るのにぴったりの一枚です。細い糸のように垂れる雨の筋の下には、転がる石も透けて見える池が広がっていました。うっすらとした青みの美しさもたまりません。



出品作は30点弱と少なめですが、「夏」を感じながらも、時に涼を得られるような作品も目立っているのではないでしょうか。また旧作ばかりではなく、ここ2、3年に描かれたものなど、新作を楽しめるのも重要なポイントかもしれません。

なお明後日、28日の日曜日には、講師に草月流いけばな作家を迎え、「夏をいける」と題したワークショップの開催が予定されています。予約不要、入館料のみで参加可能なイベントです。詳細は下記の概要(公式HPより転載。)をご覧下さい。

「夏をいける」6月28日(日)
講師 中川彩萌・水野理美(草月流いけばな作家)
様々なもの(湯呑み・お皿・ペットボトル等)に、「夏」をいけてみます。
ペットボトルに油性マジック等で絵を描いたり、色紙をはったりすればオリジナルの花瓶のできあがり。
いけたいと思う器を持参していただいてもけっこうです。
*参加には展覧会の入場料が必要です。
*所要時間 30分~1時間程度 午前11時~午後3時に開催しています・予約不要


展覧会は7月17日まで開催されています。

注)写真の撮影と掲載は許可をいただいています。
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「MOTコレクション第一期 - MOTで見る夢」 東京都現代美術館

東京都現代美術館江東区三好4-1-1
「MOTコレクション第一期 - MOTで見る夢」
3/24-6/28

池田亮司ワンダーウォールの両企画展の後は、遅ればせながらも今春入れ替わった常設展へと廻りました。東京都現代美術館で開催中の「MOTコレクション第一期 - MOTで見る夢」を見てきました。



前にも書いたことがありますが、新収蔵品が導入されて以来の常設展に、にわかな活気を感じるのは私だけではないかもしれません。後述のトらやんはともかく、意表を突きながらも、画家の代表作としても挙げ得るような奥村土牛の「蓮池」をはじめ、自然光の差し込む部屋で向かい合った内海とサム・フランシス、また宙に浮く小林孝亘の『眠る男』に見定められた名和晃平の光り輝く『シカ』、さらには刺繍とステイニングの素材感の調和する伊藤存と横内賢太郎と、冴えた展示センスにも支えられてさらに際立つ名品が次々と登場しています。まさに目移りしてしまうほどでした。



惹かれた作品を挙げていくとキリがないので手短かにいきますが、今回の最大のハイライトは、3階の第7室全面に広がるサム・フランシスの「無題」と内海聖史の「三千世界」の二点ではないでしょうか。壁面いっぱいに整列する内海のミクロな色の粒は、もう一方の壁にて激しくエネルギーを迸らせるフランシスの色彩のチューブの力感を半ばかわすかのようにして散らばっています。フランシスと正面勝負を避けることで、むしろそちらにはない軽妙な色のリズム感を沸き立たせることに成功していました。この展示室だけでも今回のMOTコレクションを見る価値はあるかもしれません。



さて冒頭のトらやんですが、常設展示室入口、ちょうど長い通路を見渡す格好で立っていました。この作品は撮影が可能です。六本木ではなかなか近づけなかった裏面へも廻ることが出来ました。




ちなみにトらやんは何の前触れもなく突如、手や顔を振って動き出します。さすがに火を噴くのは無理ですが、怒るように肩を震わせるトらやんの熱気を間近で見るのも良いのではないでしょうか。

なお全面リニューアルされてからMOTへ行ったのはこの日が初めてでした。かつてほぼデットスペースであった円形のインフォメーションにナディッフが移り、地下や二階のレストランとカフェも全て入れ替わっています。既に食事は済ませていたので早速、カフェだけでも試そうと二階へとあがりましたが、昼時でもなかったのにも関わらず何故か満席で入れませんでした。実は苦手なアジアン・テイストということで積極的に使うことはなさそうですが、いつも空いていて並ぶことなど皆無な場所だっただけに、これはちょっとした「変化」の現れと受け止めて良いのでしょうか。お味も気になるところです。

「MOTで見る夢(コレクション第一期」)は今月28日までの開催です。なおトらやんは8月2日まで展示されます。
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「妻木良三 - 境景 - 」 ラディウム

ラディウム-レントゲンヴェルケ中央区日本橋馬喰町2-5-17
「妻木良三 - 境景 - 」
6/5-27

2007年に目黒区美術館で開催された「線の迷宮2」展(2007年)にも出品がありました。鉛筆で描かれた円形の空間に『二つの境界』(画廊HPより)を示します。妻木良三の個展へ行ってきました。



展示は目黒でも見せた細密な鉛筆画、計9点で構成されていますが、そこに表れるのはまるで山水画とも、また例えばレオナルド絵画の背景にでも登場する岩山とも言えるような独特の景色です。隆起して連なる『山々』は絶妙なグラデーションを描きながら歪みだし、いつしかそれが溶け出すかのようにして崩れて虚空へと消えていきます。タイトルにある境界とは、各々の世界が衝突する際に波打つもの、またそれを眺める自分との間にあるものの二つを指すそうですが、変形し、溶けて砕ける形は、次元の異なった空間が余白と襞、もしくは『山』の交互に出没しては行き来しているかのようでした。



ダリを見るかのようなシュールな面も感じられました。27日までの開催です。

注)写真の撮影と掲載は許可をいただいています。
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「100 degrees Fahrenheit vol.1」 CASHI

CASHI - Contemporary Art Shima中央区日本橋馬喰町2-5-18
「100 degrees Fahrenheit vol.1」
6/5-27



開廊一周年を迎えたCASHIが、取り扱いの若手作家4名を紹介します。開催中の「100 degrees Fahrenheit vol.1」へ行ってきました。

出品作家は以下の通りです。
梅沢和木、笹田晋平、高橋つばさ、彦坂敏昭



最上段のDMを見ても明らかなように、いつもの尖ったCASHIのテイストが全開のグループショーではありますが、昨年の資生堂アートエッグでも記憶に新しい彦坂敏昭がさり気なく織り交ぜられているのも注目すべき点ではないでしょうか。お馴染みのモザイクのような画像が幾何学的に組み合わさり、それがいつしか全体の「燃える家」へと構成されています。彦坂の緻密な線と面もCASHIで見るとアクが強く思えるのは興味深いところですが、それも画廊名にも掲げられた華氏100度、ようは人の体温としての一線を超えた摂氏38度への熱気へと通じるものがあるからなのかもしれません。



今回の収穫は、青色のペンのみでダイナミックに渦巻く画面を作り上げた高橋つばさのペイントです。インクの線が荒れ狂う雲とも、また大きく翼を広げた鳥とも言えるような景色を象ります。所々、支持体に重ね合わされた紙のコラージュも全体に良いアクセントを与えていました。線そのものは決して緻密ではありませんが、浮き上がるイメージに不思議な魅力を感じさせるものがあります。

CASHIが馬喰町にオープンして以来、小伝馬町方面も含め、この界隈のアートシーンが一気に盛り上がりました。実のところ、CASHIのカラーは私には激し過ぎることが多いのですが、今後も『ヤケド』させられるような展示で突っ走っていただきたいです。

27日まで開催されています。
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「芳年 - 『風俗三十二相』と『月百姿』」(後期) 太田記念美術館

太田記念美術館渋谷区神宮前1-10-10
「芳年 - 『風俗三十二相』と『月百姿』」(後期展示)
6/2-26(後期)



前期より出品作が入れ替わりました。太田記念美術館で開催中の「芳年 - 『風俗三十二相』と『月百姿』」の後期展示へ行ってきました。

早速、表題の二シリーズで印象に残った作品を挙げたいところですが、後期では入口横、お座敷コーナーで展示されている肉筆浮世絵にも注視しなくてはなりません。ここでは芳年の描いた、人物のみに彩色の施された「深夜の訪問図」と、ぱらぱらと舞う雪の中を伏し目がちな常磐御前が往く「雪中常磐御前図」の二点が出品されています。前期では肉筆がなかっただけに、また嬉しいサプライズとなりました。

それでは以下、後期展示中の作品より惹かれた「風俗三十二相」と「月百姿」を並べたいと思います。

1.「風俗三十二相」

「風俗三十二相 すずしそう」
夕涼みの船上で青い着物を纏う女性が風に吹かれています。これは涼し気な作品と言いたいところですが、肘を立てて顎を押さえる様はどこか苛立ちを見せていて、その不満げな口先からは今にもつばが吐き出されるかのようでした。愉しいはずの夕涼みの船で一体、何があったのでしょうか。



「風俗三十二相 暗そう」
浮世絵では珍しい、顔を真横から捉えた作品です。髪を乱し、まだ目もうつろに、いかにも寝起きの様相をしながら行灯へと火をかざしています。炎の周囲に滲むピンク色もまた美しいものがありました。



「風俗三十二相 うれしそう」
着物を乱しながら、また下品にも団扇を口にはさみ、前屈みにて何をしているのかと思いきや、慌てて手に飛び込んできた蛍を捕っている様子が描かれているのだそうです。『うれしそう』と言うよりも『ひっしそう』でした。



「風俗三十二相 遊歩がしたそう」
芳年の生きた明治と言う時代を感じる一枚です。洋装の女性が花菖蒲畑を颯爽と散歩する姿が描かれています。得意げにふと振り返って見やる様子は、まさに新時代の見返り美人とも言えるのかもしれません。

2.「月百姿」

「月百姿 悟道の月」
指月布袋の主題は絵画で良く見かけますが、浮世絵で見たのは初めてでした。芳年にかかると有名な禅の教え(『指=経典』ばかり見ても、『月=悟り』には達せない。)も、酔っ払いが寝転んでいるようなコミカルな一コマに思えてしまいます。



「月百姿 名月や来て見よがしのひたい際 深見自休」
桜吹雪の中を一人の武士が肩をならして闊歩します。伊達な向日葵紋の和装など、例えば任侠を思わせるある種の美学が感じられました。



「月百姿 玉兎 孫悟空」
巨大な満月を舞台に、孫悟空と兎が大見得を切るかのようにして構えています。前期の感想の繰り返しになりますが、この作品も「静」と「動」を瞬時に画面へ閉じ込める芳年ならではの一枚と言えるのではないでしょうか。



「月百姿 赤壁月」
月百姿では珍しく風景がモチーフとなっています。舟遊びする蘇軾らも、その切り立つ岸壁の一部分にしか過ぎません。舟上のドラマよりも、むしろ自然の雄大さが伝わってくる作品です。

「月百姿 梵僧月夜受桂子」
杯を持った羅漢が月より落ちる桂花を捉える様子が描かれています。ここで目についたのは随所に配された黄の色彩でした。この鮮やかさは江戸時代では叶いません。

二階のラストに登場する、芳年が晩年に手がけた縦長の作品のうちの一枚、「袴垂保輔鬼童丸術競図」も心にとまりました。妖術師に操られた大蛇と怪鳥の迫力と言ったら並大抵ではありません。ギロリと光る蛇の目には思わず後ずさりしてしまいました。

芳年畢竟の傑作、「月百姿」を一覧出来るまたとない展覧会となりました。26日の金曜日までの開催です。改めてお見逃しなきようご注意下さい。

*関連エントリ
「芳年 - 『風俗三十二相』と『月百姿』」(前期) 太田記念美術館

*関連リンク(「月百姿」解説、及び作品画像。)
「月百姿 一覧表」@美術散歩/「ONE HUNDRED ASPECTS OF THE MOON」
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「青木良太 展」 TKG Daikanyama

TKG Daikanyama渋谷区猿楽町29-18 ヒルサイドテラスA棟1)
「青木良太 展」
5/28-6/20(会期終了)



最終日に何とか駆け込みで見ることが出来ました。昨日で終了した若手陶芸家、青木良太の個展へ行ってきました。



青木というと、ルーシー・リィーをイメージさせるような薄手の端正な器が記憶に新しいところですが、今回、会場に所狭しと並ぶのは、何やら西洋のエンブレムの一部分でも見るかのような猛々しいオブジェ、数点でした。もちろんこれらは陶芸、つまりは焼き物であるわけですが、遠目からではもっと硬質な鉄製の立体作品だと勘違いしてしまうかもしれません。上へと向かい、鋭い牙を剥いたように尖るその先端部は、時にサーベルのそれの如く無骨に起立しています。繊細に移ろう表情が特徴的な器とは打って変わり、言葉には誤解があるかもしれませんが、非常に男性的な力感の漲る気配を感じました。



実際のところこれらの連作は、私が前述した西洋的なものに由来するのではなく、京都や奈良の寺院に取材した密教法具から『霊感』を受けて制作しています。偶然にもご一緒したTakさんはすぐさまそちらを感じられたそうですが、必ずしもそれを生き写し的に手がけたわけではない点にまた自由なイメージが開けているのかもしれません。

ところで青木良太情報として挙げておかなければならないのは、KINさんのブログ「今日の献立ev.」です。無断ですが、KINさんが青木さんについて書かれた最近のエントリをいくつかこちらでまとめてリンクしました。そちらも是非ご参照下さい。

すべては始まったばかりさ~青木良太展で青木さんと話す。
一人青木良太展開催中
青木良太さんの器
今日言った所(Chanel Mobile Art)、今日来たもの
ココロに刻まれた細かいヒビが人を美しく見せる

CINRA.NETのインタビューによると、青木は常日頃、「陶芸家の日本代表」(CINRA.NETより引用)となるべく、アトリエに大きな日章旗を掲げておられるのだそうです。下記、youtubeでもその様子を確認することが出来ました。

青木良太 陶芸 RYOTA AOKI JAPAN


なおTKG Daikanyamaは本展覧会を最後にクローズしました。次回は是非、清澄の会場での個展を拝見したいです。

展示は既に終了しています。

注)写真の撮影と掲載は許可をいただいています。
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東京都交響楽団定期 「ハイドン:交響曲第103番」 トゥルコヴィッチ

東京都交響楽団 第682回定期演奏会Aシリーズ

ハイドン 交響曲第13番
モーツァルト ピアノ協奏曲第20番
ハイドン 交響曲第103番「太鼓連打」

ピアノ アンティ・シーララ
管弦楽 東京都交響楽団(コンサートマスター 山本友重)
指揮 ミラン・トゥルコヴィッチ

2009/6/19 東京文化会館



当初予定のゲルハルト・ボッセが体調不良で降板したため、ウィーン・コンツェルトゥス・ムジクスに所属するミラン・トゥルコヴィッチが急遽、指揮台に立つこととなりました。東京都交響楽団の定期演奏会へ行ってきました。

失礼ながらもトゥルコヴィッチは名前も初めて聞く指揮者でしたが、彼の音楽センス、とりわけハイドンに関しては思いもよらぬほど優れた演奏で感心させられました。白眉は一曲目の第13番です。アレグロの第一楽章からして表情は極めて快活で、インテンポで刻まれる音楽のリズムは、あたかも舞踏曲を聴いているかのような愉悦感にも満ちあふれています。評論家用語を借りると「推進力」という言葉が相応しいのかもしれません。思わず身体を乗り出しそうになってしまうほどでした。

また一転しての緩やかな独奏チェロの入る第2楽章、それにフルートソロの美しいメヌエット楽章を経由してのフィナーレは、まさにハイドンはこうあるべきという見本のような溌剌とした演奏ではなかったでしょうか。繰り返されるフーガ風の「ジュピター動機」も極めて見通し良く整理され、古楽器的な奏法も一部取り入れた効果もあってか、それこそコンツェルトゥス・ムジクスを思わせる響きが文化会館に広がっていました。メインの103番は編成も大きいからか、13番の時のような瑞々しさは幾分減退し、ベートーヴェンの第1、第2交響曲を連想させるような堂々とした表情が印象に残りましたが、それも四隅を揃え、なおかつ弦と管の対比にも注意を払いながら、立体感のある音楽美を引き出すことに成功していました。代役と言わず、是非また共演していただきたいものです。

J.Haydn Symphony 103 'Drumroll' - Koopman Mvt 4

*コープマンのややクセのある太鼓連打。最終楽章です。

一方、シーララとのピアノ協奏曲は、指揮との呼吸にも若干の齟齬があったのか、今ひとつ乗り切れない演奏に終始していました。シーララ自身は以前、読響でバルトークを聴いて感心したことがあったので、ひょっとするとこの日はあまり調子が優れなかったのかもしれません。ただしアンコールのショパンは叙情性にも長けた演奏だったことを付け加えておきます。
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「東恩納裕一 展」 新宿高島屋10階 美術画廊

高島屋新宿店10階 美術画廊(渋谷区千駄ヶ谷5-24-2
「東恩納裕一 展」
6/10-22



先だっての日本橋より場所を移します。新宿高島屋の美術画廊で開催中の「東恩納裕一 展」へ行ってきました。

スタイリッシュながらもやや手狭な日本橋とは異なり、広々とした新宿のスペースをどう活かすのかにも注目したいところでしたが、一見する限りにおいてはその違いを汲み取るのは相当に困難でした。それもそのはず、実際のところ日本橋と新宿とで入れ替わった作品は僅か2点ほどに過ぎません。お馴染みのシャンデリアが床面に置かれた他は、壁面をぐるりと一周、アクアチントなりペイント、またガラスのオブジェが並ぶ様子はそう変わることがなかったのではないでしょうか。私が印象深いのは日本橋の時と同様、花をモチーフに、夜の怪しい雰囲気を醸し出すアクアチントですが、その放たれたエロスにも後ろ髪を引かれながら、あまり長居することなく退出しました。率直なところ、一度見た方はわざわざ新宿まで出向かなくても良いかもしれません。

とは言え、画廊を出た後、もう一度入口近辺を振り返って見て大切な部分を見逃した点に気がつきました。入口横より伸びるショーケース内の蛍光ランプのインスタレーションこそ、新宿の街のカラーを十二分に汲み取った作品と言えるのはないでしょうか。色鮮やかに煌煌と灯る明かりは、まさに欲望の渦巻く夜の新宿のネオンサインそのものでした。

22日まで開催されています。

*関連エントリ
「東恩納裕一 展」 高島屋東京店6階 美術画廊X
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「パウル・クレー - 東洋への夢」 千葉市美術館

千葉市美術館千葉市中央区中央3-10-8
「パウル・クレー - 東洋への夢」
5/16-6/21



クレーと日本・東洋美術の関係をひも解きます。千葉市美術館で開催中の「パウル・クレー - 東洋への夢」へ行ってきました。

まずは展覧会の構成です。主に以下の二部に分かれていました。

第一部:画業初期、ジャポニスムの影響を受けたクレー。浮世絵よりカリカチュア、またベルンのクレー・センター所蔵の素描作品など。
第二部:国内所蔵のクレーの水彩画などを通し、そこに通じる日本的要素を探る。



全体の特徴を大まかに表してしまうと、まだ未解明な点も多いクレーと日本・東洋の関係を研究、その成果を事細かに示した『学術発表』的な展示と言えるのではないでしょうか。特に第一部、クレーの素描と浮世絵などの関係を伺うセクションは、作品自体よりも、両者の繋がりを捉えようとする長大なキャプションを読む方に時間が取られます。既に会期末が迫りますが、この点は注意が必要かもしれません。



それにしても上の図版のように、一見してその類似点を伺い知れるものはともかく、牧谿の水墨や東大寺法華堂の金剛力士像を引用させられると、素人目にはいささか困惑するのも事実ではありました。とは言え、所々で登場するクレーの日本関連の蔵書、例えばクルト著の「日本の木版画」や「写楽」などを見ると、そうした関連を汲み取ることにも一定の理解がなされるのではないでしょうか。ただ、クレーも参加した青騎士の年鑑に「光琳百図」が用いられているなど、この現象が必ずしも彼だけのものではなく、当時の西洋の潮流の一側面であった気がしないでもありませんが、(クレーの日記に日本の記述は殆ど登場しないそうです。)まずは研究の基礎的な始まりということで、次に繋がる何かのヒントになり得たのは間違いないのかもしれません。今後、専門家による突っ込んだ議論を待ちたいところです。



クレー好きにとって絵を見る喜びに浸れるのは後半部分です。ともに愛知県美術館よりやって来た二枚、静寂に包まれた闇夜の森の中の館に精霊が集う「女の館」と、ちらし表紙にも掲載された「蛾の踊り」は忘れられない作品となりました。まるで天使のような姿をした蛾が、格子状に広がる水色の虚空を昇天するかの如く飛び立ちます。この詩情こそクレーの醍醐味であることは言うまでもありません。



次の日曜、21日までの開催です。また本展終了後、静岡県立美術館(7/24-8/30)と横須賀美術館(9/5-10/18)へと巡回します。

なお同時開催中の所蔵品展「江戸浮世絵巻」は、江戸絵画で定評のある同館の浮世絵師のオールスターが集う名品展です。浮世絵の通史を著名な絵師の作品で辿ることが出来ます。合わせてご覧下さい。

また同館は空調設備工事のため、次回「祈りをつづる染と織」展(6/27-8/9)を最後に、来年の2月中旬まで休館します。(その間、所蔵作品展を千葉市立郷土博物館などにて開催。)今のところ次回展を見る予定はないので、千葉市へ行くのも当分おあずけになりそうです。
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「山口英紀 展」 新生堂

新生堂港区南青山5-4-30
「山口英紀 展」
6/10-21



上のDM作品が『写真』ではなく『紙本彩色』であると知れば、俄然に興味がわいてくるのではないでしょうか。「高精度の再現性を誇る水墨表現」(画廊HPより引用)にて水墨の新たな地平を開きます。山口英紀の個展へ行ってきました。

ともかく驚かされるのは、上記DMのようなジオラマ的都市風景だけでなく、例えば観覧車やコンビナートなどの姿の全てが、極めて精緻に描かれた水墨画であるということです。本個展の彩色の作品はその都市ともう一点、三つ葉の茂みをクローズアップして描いたものに限られていますが、それを見るだけでもまさに写真と見間違うかのような画力に感嘆すること必至ではないでしょうか。その他、墨の線描のみで、ふさふさとした毛の質感までをも巧みに表した犬の作品など、作家の持つ卓越した水墨の技巧には終始感心されました。初見ではひょっとするとこれらが絵画であることに気がつかないかもしれません。

しかしながら山口の魅力は、その高度な水墨の技術のみによるわけではありません。景色をリアルに再現するだけでなく、その中にどこか懐かしい叙情性を取り込んでいることにも特筆すべき点があります。もう一度、最上段のDM作品をご覧下さい。中央のみに焦点のあわされた景色は、周囲に向かうにつれてぼやけ、まるで夢の中で見た記憶のようにして広がっています。写真を元にデッサンを行い、彩色を施した上で薄い和紙を貼り、また色を加えてさらに和紙を重ねる行程を繰り返すことで、仄かな温もりをたたえた美しい絵肌を生み出すことに成功しました。その感触は思わず頬ずりしたくなるほどです。

なお山口英紀については、月刊「美術の窓」の山下裕二のコラム、「今月の隠し球」にも紹介があります。バックナンバーをご参照出来る方は本年の3月と4月号をご覧下さい。かの山下が山口の作品と電撃的に出会い、その後作家のアトリエ(木更津)まで訪問する様子が記されています。

会期中は無休です。次の日曜、21日まで開催されています。これはおすすめです。
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「トーキョーワンダーウォール公募2009入選作品展」 東京都現代美術館

東京都現代美術館江東区三好4-1-1
「トーキョーワンダーウォール公募2009入選作品展」
6/6-28



35歳以下の若手美術作家による公募展、トーキョーワンダーウォールの本年の入選者、計113名の作品を一堂に紹介します。東京都現代美術館で開催中の「トーキョーワンダーウォール公募2009入選作品展」へ行ってきました。

まず本年の入賞者、及び作品画像は下記リンク先をご覧下さい。(東京都HP)

入賞者一覧(入賞者コメント)/入賞作品画像

時間の都合でじっくり見ることは叶いませんでしたが、以下、受賞の有無をとわず、私が印象に残った作品を挙げてみます。メモ程度になりますが、ご参考いただければ幸いです。

高松明日香「フォレスト」(画用紙、アクリル、木製パネル)
アクリルを用いながらも比較的マットな色彩にて、池越しの森の景色を断片的なイメージとして描く。木漏れ日の差し込む白の色遣いが美しかった。

岩竹理恵「Liriodendron tulipifera L,#1」(紙、インク)
葉を落として、どこか健気に佇む木の幹と枝を、精緻なペンにて表す。下から見上げたような独特な遠近感が効果的。背景の白い画面はまるで冬の空のようだった。

大村芳輝「last dance」(木材、布、ペンキ、アクリル)
暗がりに浮かぶ人物像。骨までが透き通って見える不気味さがむしろ面白い。

箕輪千絵子「触れた瞬間に」(銅版画)
人が獣と向き合い、いつしか手を取り合って一体となるような幻想的なモチーフ。銅版の細やかな質感表現が素晴らしい。

平川ヒロ「square cotton」(oil on cotton)*大賞*
部屋の角にチェーン状のレースがかかるような不思議な景色が描かれている。薄緑色の透明感のある色彩と、まるで飴細工のようなレースの描写が美しい。

大石麻央「ひとつぶの神様」(綿、羊毛、はりがね、鉛など)
壁の片隅にて後ろを向いて立つ全身毛むくじゃらの人形。兎の被り物でもしているのだろうか。薄気味悪く笑うような仕草に後ろ髪を引かれた。

冨士洋子「パニック」(油彩)
一見、カラフルな幾何学模様の並ぶ抽象画のようにも思えるが、タイトルを眺めて改めて絵に目を向けると、全く違う景色が広がってきた。そのイメージの差異が少し面白い。

寺嶋悟「モンスター」(木パネル、アクリル)
真夜中の草地に突然に停まる一台の車。ボンネットの上には素足の女性の半身だけがうつり、車の前には懐中電灯を持った男が一人、大きな目でこちらをじろりと見ながら立っている。二人の関係はどのようなものなのか。背景に何故か見える牛をはじめ、若干デルヴォーを連想させるシュールな夜の景色が好印象だった。

磯貝知哉「MOROZOFF」(キャンバスに油彩)
積み重なる三つのガラスのコップだけが描かれている。うっすらと肌色を帯びたその姿は、モランディ絵画のように静謐だった。

MASAKO「24/7」(アクリル、水性ペンキ)
ギャラリーショウでも鮮烈な印象を受けたMASAKOの一枚。黒をバックに、お馴染みの流れるような激しいタッチで人物を象る。家族が談笑する様は、昔見た映画のワンシーンのように懐かしかった。

脇田桃子「帰路で動揺を堪える」(キャンバスにアクリル)
風を切るような線が束になって大きな人影を描く。その躍動感は圧倒的。

失礼ながらも、惹かれる作品とそうでないものとの差が大きく、見ているうちに若干の戸惑いを覚えたのは事実でしたが、これから世へ飛び出さんとする若いアーティストたちの「今」を見られる展覧会ではなかったでしょうか。

28日までの開催です。なお入場は無料です。
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