再掲載 2010年12月03日投稿
仏さまとは
おじいちゃんは、毎日朝起きると仏壇にご飯を上げます。三年前におばあちゃんが亡くなってから、それは一日たりとも欠かしたことはありません。仏壇を置いた部屋には、おばあちゃんと二人で出かけた四国遍路の本尊様の御影を八十八枚貼り合わした額が飾られています。おじいちゃんは仏飯とお茶湯を二組上げると、手を合わせて「般若心経」を静かな声で唱えます。
その姿はとても美しいものに思えました。だからボクはその姿を見たくて、早起きをしてはおじいちゃんの後ろで一緒に座っていました。あるとき一番上に祀られている木彫りの像のおでこに、光るものがあることに気がつきました。「おじいちゃん、あの光ってるものは何なの?」
おじいちゃんは「あれはね、仏さまの白毫だよ、みんなのところに分けて下さる仏さまの智慧の光を表しているんだ」と教えてくれました。「へー、仏さまって、何?」
「そうだな、仏さまは亡くなった人、生きている人、みんなの目標と言えるかな。でも二年生には、ちょっと難しい話しだね」
「目標?」ボクにはその時まだそれが何を意味するのかちっとも分かりませんでした。
お墓とは
おじいちゃんは仏壇に毎朝手を合わせるだけでなく、お墓にもよくお詣りします。下校途中で会うこともしばしば。おじいちゃんはわざとボクの帰りの時間にあわせてお墓に行くのかな。今日もおじいちゃんはお墓にいます。バケツの水を上から掛けて、花にもあげて、ロウソクと線香に火をつけて、手を合わせます。
「おじいちゃん、おばあちゃんはこの下にいるの?」最初おじいちゃんは困った顔をしていましたが、「そう思うかい?おばあちゃんはここにはいないよ。ここにはお骨があるだけなんだ。死ぬとみんなからだと心が離れて、心は次の世界に生まれ変わるんだよ」「おばあちゃんがいないのに何で手を合わせるの?」
「お墓はただの石じゃないんだ、仏塔というこの間教えた仏さまの教えのシンボルなんだよ。で、とってもありがたいものだから、それを建てて、そのよい行いの徳をおばあちゃんにあげて供養するんだよ。次の世界でもよりよくあって下さいとね」「へー、お墓におばあちゃんはいないんだ」
供養とは
ボクは供養って何だろう、そう思ったのでしたが、お墓でいつまでもお話ししているのはいけないように思って黙っていました。そして帰ってから、おじいちゃんのところに行って、「供養って何?」と聞きました。
おじいちゃんは、「その前に仏さまのことをちゃんとお話ししないとね。前に目標と言ったけど、みんな誰も生きていると悩みがあったり、悲しいことがあったり、怒ったり。また、ときに不安だったり人をうらやんだりするだろ。でも仏さまはそんなものが何もない。この世の中のことがすべて分かっておられるから、いつも幸せな誰にもやさしい心でいられる人なんだ。だから、仏さまを信じて生きる人は、みんなそんな立派な人になれるようにと目標にして生きるんだよ」「それで供養というのはね、亡くなった人がその目標に一歩でも近づけるようにとみんなで手助けしてあげることだと思ったらいいよ」と教えてくれました。
半分くらい分かったような気になって、ボクは「フーン」と言って、おじいちゃんの部屋を後にしました。
一番の供養
おばあちゃんは、交通事故で亡くなったのでした。大きな道路の横断歩道でないところを渡ろうとしていて、走ってきたオートバイにはねられたのです。オートバイには若い学生さんが乗っていて、それも医学生。将来、人の命を預かる人がそんな事故を起こしてと、たいそう反省して大学を辞めて働いて慰謝料を払いますと言ってこられたのでした。
最初おじいちゃんはそれを黙って聞いていましたが、次の日、そんなことしてお金をもらっても亡くなったおばあちゃんは喜ばないのではないか、横断するところでないのに渡ったのも悪いのだからと、その学生さんに、そのまま大学に残り、しっかりと勉強してくれることをお願いしました。学生さんもおじいちゃんの願いを聞き、これを教訓に命を大切にする医者になろうと、勉強に励むことにしました。そして、おばあちゃんの命日やお彼岸に来ては仏壇に線香を上げ、その時々のことを報告してくれるのだそうです。
あるときその学生さんが来ているとき、たまたまボクも一緒にいたら、おじいちゃんが「君がいい医者になってくれることが一番の供養になるんだから・・・」と言いました。
あとでボクは、おじいちゃんに「一番の供養ってどんなこと?」と聞きました。おじいちゃんはまた困った顔をして、「そうだな、死んだおばあちゃんが一番喜んでくれることをしてあげることかな」と言いました。
仏壇の前に置かれたおばあちゃんの写真は、いつも笑っているのに、今日は少し泣いているように見えます。きっと、うれしくて泣いているんだね、ボクにはそう思えたのでした。
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仏さまとは
おじいちゃんは、毎日朝起きると仏壇にご飯を上げます。三年前におばあちゃんが亡くなってから、それは一日たりとも欠かしたことはありません。仏壇を置いた部屋には、おばあちゃんと二人で出かけた四国遍路の本尊様の御影を八十八枚貼り合わした額が飾られています。おじいちゃんは仏飯とお茶湯を二組上げると、手を合わせて「般若心経」を静かな声で唱えます。
その姿はとても美しいものに思えました。だからボクはその姿を見たくて、早起きをしてはおじいちゃんの後ろで一緒に座っていました。あるとき一番上に祀られている木彫りの像のおでこに、光るものがあることに気がつきました。「おじいちゃん、あの光ってるものは何なの?」
おじいちゃんは「あれはね、仏さまの白毫だよ、みんなのところに分けて下さる仏さまの智慧の光を表しているんだ」と教えてくれました。「へー、仏さまって、何?」
「そうだな、仏さまは亡くなった人、生きている人、みんなの目標と言えるかな。でも二年生には、ちょっと難しい話しだね」
「目標?」ボクにはその時まだそれが何を意味するのかちっとも分かりませんでした。
お墓とは
おじいちゃんは仏壇に毎朝手を合わせるだけでなく、お墓にもよくお詣りします。下校途中で会うこともしばしば。おじいちゃんはわざとボクの帰りの時間にあわせてお墓に行くのかな。今日もおじいちゃんはお墓にいます。バケツの水を上から掛けて、花にもあげて、ロウソクと線香に火をつけて、手を合わせます。
「おじいちゃん、おばあちゃんはこの下にいるの?」最初おじいちゃんは困った顔をしていましたが、「そう思うかい?おばあちゃんはここにはいないよ。ここにはお骨があるだけなんだ。死ぬとみんなからだと心が離れて、心は次の世界に生まれ変わるんだよ」「おばあちゃんがいないのに何で手を合わせるの?」
「お墓はただの石じゃないんだ、仏塔というこの間教えた仏さまの教えのシンボルなんだよ。で、とってもありがたいものだから、それを建てて、そのよい行いの徳をおばあちゃんにあげて供養するんだよ。次の世界でもよりよくあって下さいとね」「へー、お墓におばあちゃんはいないんだ」
供養とは
ボクは供養って何だろう、そう思ったのでしたが、お墓でいつまでもお話ししているのはいけないように思って黙っていました。そして帰ってから、おじいちゃんのところに行って、「供養って何?」と聞きました。
おじいちゃんは、「その前に仏さまのことをちゃんとお話ししないとね。前に目標と言ったけど、みんな誰も生きていると悩みがあったり、悲しいことがあったり、怒ったり。また、ときに不安だったり人をうらやんだりするだろ。でも仏さまはそんなものが何もない。この世の中のことがすべて分かっておられるから、いつも幸せな誰にもやさしい心でいられる人なんだ。だから、仏さまを信じて生きる人は、みんなそんな立派な人になれるようにと目標にして生きるんだよ」「それで供養というのはね、亡くなった人がその目標に一歩でも近づけるようにとみんなで手助けしてあげることだと思ったらいいよ」と教えてくれました。
半分くらい分かったような気になって、ボクは「フーン」と言って、おじいちゃんの部屋を後にしました。
一番の供養
おばあちゃんは、交通事故で亡くなったのでした。大きな道路の横断歩道でないところを渡ろうとしていて、走ってきたオートバイにはねられたのです。オートバイには若い学生さんが乗っていて、それも医学生。将来、人の命を預かる人がそんな事故を起こしてと、たいそう反省して大学を辞めて働いて慰謝料を払いますと言ってこられたのでした。
最初おじいちゃんはそれを黙って聞いていましたが、次の日、そんなことしてお金をもらっても亡くなったおばあちゃんは喜ばないのではないか、横断するところでないのに渡ったのも悪いのだからと、その学生さんに、そのまま大学に残り、しっかりと勉強してくれることをお願いしました。学生さんもおじいちゃんの願いを聞き、これを教訓に命を大切にする医者になろうと、勉強に励むことにしました。そして、おばあちゃんの命日やお彼岸に来ては仏壇に線香を上げ、その時々のことを報告してくれるのだそうです。
あるときその学生さんが来ているとき、たまたまボクも一緒にいたら、おじいちゃんが「君がいい医者になってくれることが一番の供養になるんだから・・・」と言いました。
あとでボクは、おじいちゃんに「一番の供養ってどんなこと?」と聞きました。おじいちゃんはまた困った顔をして、「そうだな、死んだおばあちゃんが一番喜んでくれることをしてあげることかな」と言いました。
仏壇の前に置かれたおばあちゃんの写真は、いつも笑っているのに、今日は少し泣いているように見えます。きっと、うれしくて泣いているんだね、ボクにはそう思えたのでした。
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