おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ほとりの朔子

2018-05-27 11:47:24 | 映画
深田晃司の「海を駆ける」が公開されている。見に行くつもりが時間が取れず、過去の作品を家で再見。

「ほとりの朔子」 2013年 日本


監督 深田晃司
出演 二階堂ふみ 鶴田真由 太賀
   古舘寛治 杉野希妃 大竹直
   小篠恵奈 渡辺真起子 志賀廣太郎
   松田弘子 想田和弘

ストーリー
大学受験に失敗し、現実逃避中の朔子(二階堂ふみ)。
叔母・海希江(鶴田真由)の誘いで、旅行で留守にするというもうひとりの伯母・水帆(渡辺真起子)の家で、夏の終わりの2週間を過ごすことになった。
朔子は、美しく知的でやりがいのある仕事を持つ海希江を慕い尊敬していたし、小言ばかりの両親から開放された海辺の街のスローライフは、快適なものになりそうだった。
朔子は海希江の古馴染みの兎吉(古舘寛治)や娘の辰子(杉野希妃)、そして甥の孝史(太賀)と知り合う。
小さな街の川辺や海や帰り道で会い、語り合ううち朔子と孝史の距離が縮まっていく。
そんな朔子の小さなときめきをよそに、海希江、兎吉、辰子、後から現れた海希江の恋人・西田(大竹直)ら大人たちは、微妙にもつれた人間模様を繰り広げる。
朔子は孝史をランチに誘う。
しかしその最中、彼に急接近中する同級生・知佳(小篠恵奈)から連絡が入る。
浮足立つ孝史の表情を見て、朔子の心が揺れる…。
兎吉の家で辰子の誕生日パーティが開かれ、海希江と朔子、それに西田も参加することになるが、西田は途中で気分を害し途中で帰ってしまう。
孝史が福島の原発事故で疎開していることを利用して、知佳は反原発のリーダーの男のために孝史をだまして反原発集会で経験談を話させようと企てる。
しかし孝史はマイクの前に立ったものの反原発の話は出来ない。
ネット中継されていた集会の様子を朔子が見ていた。
そして孝史と朔子は家出を決行することになるが・・・。

寸評
浪人生の女の子が、叔母に誘われて夏休みの2週間を海辺の家で過ごすという話を日記風に描いている。
朔子と叔母の海希江が海辺を散歩するシーンや、朔子と孝史が歩きながら話すシーンなどではカメラが二人を捉え続けることによって、交わされる会話が非常にリアルなものになっている。
俳優が演技しているというよりも、普通の人が普通に話しているような感じがする。
その感じはあらゆる場面で用いられており、ドキュメンタリー風な撮り方である。
その徹底した演出ぶりが新鮮だった。

「ほとりの朔子」とはよく付けた題名だ。
朔子が湖に素足で入り、波間が輪状にどんどん広がって行くシーンは美しい。
波紋が広がっていき、それを孝史が眺める印象的なシーンだ。
物語も静かで何もないはずなのに、日常性の中の反世界を波紋が広がるように描いていく。
この湖に通じる道が二つあって、兎吉、海希江のペアと孝史、朔子のペアの自転車が、どちらが早く着くか競争するが孝史ペアが断然早く到着する。
たんなるエピソードの一つなのだが、ずっと後で朔子がそのことを話題にする。
見事に張られた伏線なのだが、しかしその話題もなんとなく終わってしまう。
この自然さがたまらなくいい。

この作品は何気ない日常を映しながら、その実人間世界の悪意が見え隠れしてるような仕掛けを施しているのだが、本当にチラチラと見え隠れすると言う表現がぴったりとくる演出で貫かれている。
朔子の二人の叔母と自分の母親との関係、海希江と兎吉、海希江と西田の関係などもストレートに押し切っていない。
孝史が好意を寄せる知佳も小悪魔的で孝史をだまして原発反対運動へ参加させる。
そのことを通じて、疎開高校生がみんな同じ考えを持っているなんて言う単純なものでないことを、僕たち観客に鋭くぶつける。
女子大教授の西田は紳士面をしているが、教え子を金で買うような所があり、家庭的な面を見せながらも海希江に近づいているし、独善的でもある。
兎吉はビジネスホテルを装うラブホテルの支配人で、いかがわしい交際を目にしても見て見ぬふりをする。
そんな父を娘の辰子は嫌っているのだが、案外と仲がいい面を見せる。
大人の社会、あるいは人間社会と言ってもいいが、そこは臭気漂う汚らしい世界なのだ。
そんな世界を垣間見せて、最後には朔子の成長をさりげなく描いてエンディングを迎えるのだが、観終わって温かな気持ちになれた。

それにしても恐ろしいのが主演の二階堂ふみだ。
今までの作品とはまったく違う演技を披露している。
この子ったら、どれだけ振り幅があるんだろうと思わせるものだった。