一人の髪の毛の長い背の高い細身の女性が机に座り、ノートパソコンを叩いています。
彼女の名はレイカ(31)・・・とある雑誌の取材記者です。
「えー、それでは、タケルさん、夜の日本学「戦国武将考察編」・・・お願いします。今日は誰について語ってくれるんですか?」
と、レイカはノートパソコンを叩きながら、赤縁のメガネを手で直し、こちらを見つめます。
「うん。そうだな・・・今日はちょっと戦国武将じゃないけど・・・今の僕的に「判官びいき」について考察したいんだ」
と、タケルは話し始めます・・・。
さて、今日の「夜の日本学」はじまり、はじまりー・・・・。
「なるほど・・・コメントが乗って自分の昔の記事を見て・・・書きたくなったんですね、「判官びいき」について・・・」
と、レイカ。
「そういうこと・・・3年以上前の記事で触れてた問題だからね・・・今の僕的に考察したいんだ」
と、タケルは言葉にする。
「「判官びいき」はもちろんこの日本にだけある現象で、他国にはもちろんありません。なぜ、日本人だけがいわゆる弱者を応援するのか・・・」
「例えばテニスのジャパン・オープンなどでは、負けている方を応援する・・・暖かい拍手などの様子が見られて・・・外国人選手が感動したりしているようです・・・」
と、レイカが言葉にする。
「まあ、もちろん、「判官びいき」というこの日本独特の現象にも、「和を以て貴しとなす」が最高正義の日本だからこそ、起こる特有の現象だったりするわけだ」
と、タケル。
「まあ、例として、その「判官びいき」のモデルになった・・・源義経について具体的に見ていけば・・・その謎が明らかになるよね・・・」
「レイカちゃん、その源義経について簡単にまとめてくれないかな」
と、タケル。
「はい・・・源義経は源頼朝の9男として1159年に生まれています。母は絶世の美女と言われた常盤御前。父が平治の乱で敗れた為、鞍馬寺に預けられますが」
「そこを脱出し、奥州平泉の藤原秀衡の庇護を受けます。義経は以後、兄、源頼朝が兵を挙げた為にこれに参戦し、一の谷、屋島、壇ノ浦の戦いを経て平氏を滅ぼしました」
「しかし、京にて後白河法皇らから頼朝の許可無く官位を受けたり、独断専行気味だった、平氏との戦いについての報告を受けた頼朝が激怒」
「以後、鎌倉に戻ることが許されず、一旦京に戻り、兵を集めるも思うように集まらず・・・最終的には奥州平泉の地にて藤原泰衡に攻められ、自刃しました」
「享年31歳でした」
と、レイカが説明します。
「まあ、この話を聞いた日本人が・・・「義経可哀想」の気持ちから・・・例えば、歌舞伎には勧進帳や船弁慶などの演目があって」
「未だに「判官びいき」の気持ちを日本人が持っている事を伺わせるんだねー」
と、タケル。
「勧進帳はわたしの大好きな演目ですね・・・関所で義経であることが露見しそうになると、忠義の弁慶が義経を打擲するんですよね・・・その様子を見た関守の富樫が」
「義経であることを見破ってはいるものの・・・弁慶の心根に感動し、義経、弁慶一行を見逃してやるんですよね・・・そして富樫が見破っているにも関わらず逃して」
「くれたことも理解している弁慶がいて・・・その富樫の判断にも感謝しつつ・・・先に行った、義経一行を追いかけて、飛び六方を踏む弁慶がまたカッコいいですよね」
と、レイカ。
「まあ、この演目が成立するのも・・・日本人が義経を好きだから・・・その大前提があるから、成り立っているわけだ」
「じゃあ、何故、日本人は義経が好きなのか?」
と、タケル。
「義経は平家を滅ぼしたのに・・・殺されてしまったから?でしょうか?」
と、レイカ。
「まず、その前提になるのが・・・平家は日本人にとってどういう存在か?という問題だねー」
と、タケル。
「「平家に非ずんば、人に非ず・・・」の平家ですよね?」
と、レイカ。
「そ。つまり、平家はわかりやすい、究極の「俺偉い病」で・・・平家以外は人間ではない・・・と、驕り高ぶってしまったわけ」
「ま、究極の「負のエネルギー」を日本人全体に出しまくってしまい・・・強烈に嫌われたわけだ・・・」
と、タケル。
「日本人はまず、好き嫌いで他人を評価しますからね・・・だから、嫌われたからこそ、平家は、壇ノ浦で滅亡した・・・そういう事ですよね?」
と、レイカ。
「そうだね・・・その究極の「俺偉い病」の平家を倒した義経は・・・実際、日本人からすれば、ヒーローになるわけ」
と、タケル。
「しかし、頼朝からすれば、絶対にしてはいけない事・・・頼朝の許可無く京にて官位を貰ってしまった・・・頼朝からすれば、鎌倉幕府の体制を根底から」
「覆しかねない・・・痛恨事・・・それが頼朝の怒りを買ったんですね?」
と、レイカ。
「そういうことだ・・・頼朝からすれば、頼朝を頂点とする盤石な東国政権を作ろうとしているのに・・・京側による、その切り崩しに乗っちゃったわけだからね、義経は」
と、タケル。
「義経は何故京から直接官位を貰ってしまったんでしょう?」
と、レイカ。
「義経は幼い頃、京で育っている。たぶん彼は幼い頃、平家の公達を直接見ていたんだろう。綺羅びやかな服を着た、今光源氏とも言われた平資盛あたりを」
「実際に見ていたかもしれないね・・・その公達に自分もなりたかった・・・それくらいの気持ちだろう。政治的他意はなかったと見るのが自然だね」
と、タケル。
「けれども義経はそれを境に・・・日本中を逃げまわり・・・静御前とも離れ離れになり、お腹の子は男子だったばかりに殺され・・・」
「最終的には奥州平泉の地で自刃しています・・・非常に悲劇的ですよね・・・」
と、レイカ。
「そうだね・・・結局、そこから見えてくるのは・・・日本人はギャップに弱いと言うことだ・・・実際、義経は大きな仕事を成し遂げたのに、評価されなかった」
「つまり、大きな仕事を成し遂げた人間は正当に評価すべきだ・・・それが「和を以て貴しとなす」を生むのだと日本人は理解しているんだね」
と、タケル。
「日本人は政治家より軍人を好む・・・という話も関わってくるような気がしますが・・・」
と、レイカ。
「うん。いい指摘だね・・・頼朝は政治家で、義経は軍人・・・確かに義経は愛される要素がある。それにさらに言えば、頼朝は義経の兄」
「その兄は本来弟を愛すべきはずなのに・・・その兄に嫌われ・・・殺された義経は・・・「和を以て貴しとなす」の逆を行ったわけだから」
「余計、日本人の感情としては、義経が可哀想に感じられるんだよね」
と、タケル。
「だから、頼朝は義経に比べると人気が無いんですね」
と、レイカ。
「ああ。もちろん、それは日本人は感情で人を評価する文化がある。本能文化に行き着いている日本文化だからこそ、当然そうなるわけだ」
「理性的に考えれば、当然頼朝の政治は正しい・・・でも、感情的には義経が可哀想に感じられて」
「大きな仕事を成し遂げたのに・・・それも兄に「和を以て貴しとなす」をされなかった義経に「可哀想」と感じてしまうのが日本人なんだね」
と、タケル。
「なるほど・・・義経についてはわかりました。では、ジャパン・オープンで負けそうになっている選手を日本人が応援する感情はどう考えればいいですか?」
と、レイカ。
「日本人はがんばっている姿になにより感情移入しやすいんだね。なにしろ、日本人の最高正義は「和を以て貴しとなす」なんだから」
「本来はテニスで戦っている選手、どちらも勝てせたい・・・まず、その思いが前提としてあるんだ」
と、タケル。
「だから、負けそうになっている選手により感情移入する・・・つまり、人を好き嫌いでまず、評価する日本だから、実際どっちが勝ってもいいわけ」
「・・・というか、好きな選手がいれば好きな選手を応援するだろうけど、どちらも知らない選手だった場合は、負けそうな選手程、好きになるという現象が起こるわけ」
と、タケル。
「そうか。日本人は好き嫌いでまず人を評価するから・・・負けそうになっている選手こそ「より勝たせてやりたい」という感情が起こるんですね?」
と、レイカ。
「そう。日本人はやさしいから、「どちらも勝たせてやりたい」という感情が作られちゃうからね・・・」
と、タケル。
「どちらも勝たせてやれれば・・・それが「和を以て貴しとなす」となりますからね・・・なるほど」
「・・・どこまでも「和を以て貴しとなす」を感情的に成し遂げたいのが日本人だから・・・負けそうになっている方に感情移入しちゃうって事ですね」
と、レイカ。
「そ。源頼朝は理性的に見れば正しい事をしているんだ・・・だけど、感情的に他人を見る日本人だからこそ義経に感情移入しちゃう」
「つまり、敗者にこそ、やさしい日本人・・・ということになるんだね・・・」
と、タケル。
「それが「判官びいき」の起こる理由だったんですね」
と、レイカ。
「しかし、日本って面白い国ですね。感情的に他人を見るわ・・・「和を以て貴しとなす」が最高正義だったりするわ・・・」
「だから、わたしは日本人に生まれてよかったと思います」
と、レイカ。
「僕もそう思うよ・・・レイカちゃんのいるこの国に生まれてよかった・・・」
と、タケルは微笑んだ。
「さ、結論も出たし・・・酒でも飲みに行こう」
と、タケルは言葉にする。
「わかりました。タケルさん・・・今日も楽しく飲みましょう!」
と、レイカは赤縁のメガネを外し、髪を解いた。
(おしまい)
「好き嫌いで他人を評価する」「「和を以て貴しとなす」が最高正義」
この2つが日本文化を読み解く、大きな物差しになるんですね。
いやあ、今の僕的に「判官びいき」を読み解けました。
いやあ、面白かった。ま、3年前の僕の記事も面白かったですけどね。
さあ、楽しく飲みましょう!
ではでは。