2019年11月の香港、逃亡犯条例改正案に反対する学生がデモを行う香港理工大学を香港警察が取り囲み、結果的に学生達は中に閉じ込められる事になる。その学生達が構内に立てこもっている様子を、その内側から撮影したドキュメンタリーだ。
内側から彼らの様子を記録し続けるカメラ。真正面から接写するようなアングルは殆どない。彼らが見たであろう景色を彼らの肩越しから見るような映像が続く。カメラが大きく動く時はその先にいる学生達の動きが大きくなった時だけだ。
ただ、それでも時間が経つと同時に彼ら自身が自分たちの苛立ちをコントロールできなくなっている様子がはっきりと見て取れる。
何をどうしても対話の糸口も、一つの突破口も見つけられず、ただただ時間だけが過ぎ、体力と気力が失われていく様がまざまざと映し出されるのだ。
そんな様子を嘲笑うかのように、警察によって大音量で流されるポップスの数々。(周杰倫の四面楚歌が、陳奕迅の歌が流れる)
多分警察もそれが学生たちの琴線に触れるとは思っていないはずだ。ただ、学生の神経を逆なでし、集中力を奪う、ただそれだけのために音楽は流されているのだろう。
アーチェリーを手に持ち、「誰にも知られずにここで死にたくない」という学生のつぶやきにハッとさせられる。最初は日常生活の中であまり目にする事のないアーチェリーを武器として手にしているというその事に驚いたのだが、彼から発せられるその言葉は、何の為に自分はここにいて、なんの為に自分は戦っているのかという自分の存在を否定されたくないという悲鳴のようにも思われる。しかし、自分が誰か分かってしまった時点で自分は逮捕されるという事実。
胸が詰まる場面だ。
後ろ姿、横から覗き込んだ様子、そして遠くから彼らの全体を捉えた映像。
どれもある程度距離を取り、顔がはっきりと映らないようになっている。学生らも顔が映らないようにフードを目深にかぶったりマスクをしたりしているが、目元が映り込んだりしている映像には、薄っすらと修正がかけられている。
全ては彼らを守る為のものだ。
今現在も、そうやって彼らをそして作り手側をも、守らねばならない状況が変わってはいない。
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中国本土ではゼロコロナ政策に反対するデモに参加した若者たちが今になって拘束されているのだという。中国政府は映像に残った様子から本人を割り出し、時間差で拘束しているのではと言われているようだ。そうやって恐怖心を植え付け、次のデモが起こらないようにしているのだという。