二人は息を潜めて隠れていた。
寒さと心細さで、奮い立つ気持ちも沈み込んでしまいそうだ。
雪はポケットから携帯を取り出し、電源を入れてみた。
暗い路地でそれはぼんやりと光る。
雪は連絡先をスクロールし始めた。
今連絡すべきなのはー‥。
「淳も亮も呼ばないで。警察呼んで」
そんな雪の胸中を見透かすように、俯きながら静香がそう言った。
その真意を汲み切れずに、雪は眉を寄せる。
「‥通報ならとっくにしてます」
「じゃあここで警察来るの待つ」
小さくなった身体を震わせる静香。雪は改めて聞いてみた。
「それでもさすがに弟さんには知らせて‥」
「アイツもう番号変えてるもん。どうせ出ないわ」
「もう本当に居なくなっちゃったの」
消えそうな外灯の光が、静香のシルエットを照らしていた。
その淡く弱い光は、彼女の深く暗い孤独を浮き彫りにさせる。
「呆れたでしょ?」
「あの二人はあたしのものだったのに‥あんなに男共が群がってたのに‥」
「もうあたしが呼べるのはアンタしか居ないなんて‥」
かつて静香を、その存在を認めてくれていたもの達が、あっという間に消えて行く。
傷だらけで血が滲むその足。
かつては綺麗に磨かれた、エナメルのパンプスを履いていたのに。
雪は沈む静香を暫く見ていたが、ふとすごく失礼なことを言われたんじゃないかと思い至り、
思わずムカッと青筋を立てた。
「いやでも私にまで‥!」「アンタが来てくれたら、後は淳が全部解決してくれるじゃんよ!」
「はぁ?!」「てかアンタやってくれたよね」
「捕まったらどうすんの?あのまま大人しくしてた方がまだマシだったわよ。
このままじゃ済まないわ」
「あのままヤミ金業者と一緒に監禁されろって?!危険な目に合うかもしれないのに!」
二人は知らず知らずの内に声を荒げて会話していた。
「アンタこそ分かってない。ああいう輩は地の果てまで追いかけて来るわよ。
今逃げるのは得策じゃ‥」
「その通りだな」
その為気が付かなかったのだ。
吉川が、もうすぐそこまで迫っていたことに。
「クソッタレ共が‥」
吉川は鬼のような形相でゆっくりと二人に近付いた。
逆光になった暗いそのシルエットが、静香に向かって手を伸ばすー‥。
「キャッ‥!」
瞬間、立ち上がろうとした雪の目に吉川の後ろに立つ男の姿が見えた。
さっきの人‥!
「ブッ殺してやるー‥」
近付いて来る吉川の掌が、暗く恐ろしい記憶の残像を蘇らせる。
それは心の奥に押し込めてあった、彼女のトラウマ。
「今日こそブッ殺してやる」
殴られる。
叩かれる。
きっと今日こそあの暗い部屋で、嬲り殺されるー‥。
「あああああああっ!!」
「あああああああーっ!!ああああ!!」
急に叫び出し、頭を抱えて地面に伏す静香。
雪の呼び掛けにも全く耳を貸さず、錯乱の中で叫び続けた。
「何だぁ?!」
「ああああっ!止めてっ!」
「殴んないで!あっち行って!」
吉川はそんな静香の姿に動揺を隠せず、思わずその口を塞ごうと手を伸ばした。
「おい頭おかしいんじゃねぇか?!」
「うっ!」「殴るの!?」
静香の目に吉川は映っていない。
記憶の中に巣食う圧倒的に恐ろしいその幻影に向けて、静香は激しく抵抗した。
「また殴るんでしょ?!やってみなよ!」
「殴ったからって叔母さんのこと怖がると思ったら大間違いだよ!?」
「はぁ‥?!」
「ねぇ、どうしてよ?!」
「あたしが何したっていうの?!」
「ああ‥っ!!あああーーーーっ‥」
絞られた瞳孔から、涙が滲んで溢れ落ちる。
そのまま地面に伏す静香のことを、ただ見つめるしかなかった。
「ああーっ!あっ‥ああああっ‥!!」
「ああああっ!!」
まるで血を吐くようなその叫びが、ビリビリと空気を震わせる‥。
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<囚われた虎(7)ートラウマー>でした。
迫って来る掌を見て、静香のトラウマ発動‥の回でしたね。
吉川社長のドギマギ感‥そりゃそうなりますわね。
「もう誰も居なくなってしまった」とこぼす静香の裸足の描写ですが、
1部30話ではこんなことを言っていた静香。
どうしてあんなに靴を語るのかと疑問でしたが、まさかの六年越し伏線回収。
自分のしたことが回り回って、結果裸足になってしまったという‥。
スンキさん、恐ろしい子‥!
そして細かいクラブとしては、雪と会った時あんなに傷だらけだった亮の元同僚の男の顔が‥
つるんと元通り!
すごい回復力!!
さて<囚われた虎>も大詰めです。
次回<囚われた虎(8)ー空っぽー>です。
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先月からチートラにどっぷりはまり込んで、夫に白い目(not白目)で見られつつコツコツ読んでいたのですが、ようやく最新記事まで追いつきました!
亮さんが去ってしまった時はうおぉ〜ん・・・と一人鳴いておりましたが、コメ欄見たらM字復活の話題で、可笑しくて気が紛れました笑
本家チラ見しましたが、いよいよ本当に終わりそうですね。寂しい・・・うぐっ
周りにはチートラを読んでる人はいませんが、共有の場&翻訳と解釈を提供してくださって本当にありがとうございます。これからも(そして18禁二次小説も)楽しみにしてまーす!!
はじめまして!コメントありがとうございます!
コメ欄も読んで下さってるのですね〜!嬉しい‥!感無亮です。
こんなブログで良ければいつでもいらしてください^^
18禁二次小説‥(白目)!
ではまずは「科学的性の理解」講義を受けなければ‥(笑)
コタツさん
回復力半端ないですよね 笑
絆創膏までなくなってるとはこれいかに‥。