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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

受難の序章

2013-11-25 01:00:00 | 雪3年2部(聡美父病院後~遠藤負傷)


雪の家の周辺は小さな建物が隙間なく建っていて、窓と窓との距離も近い。

雪の家の向かいに住む女性が通話をしながら、最近物騒になってきたこの近所のことを嘆いていた。

「なんか最近いつも誰かに見られてるような気がしてさぁ、引っ越そうかと思って部屋調べてるとこ。

町内で変態も出没してるみたいだし‥」




ふと彼女が窓の外を見ると、お向かいの男性の姿が見えた。

こちらを向いている。



女性は下着同然の格好をしていたため、その男性に向かって思い切り顔を顰めた。

小さな叫び声を上げて、カーテンを引く。

「きゃあッ!マジありえないんだけど!」



それを聞いた秀紀は怒り心頭だ。

覗く趣味も無ければ、女性をそういった対象で見ることも無いというのに。

「な‥何なのよ一体?!」



秀紀の怒号がその場に響いた。

ここに住むようになってからというもの、こうした誤解を受けるのが常だった。

その度に人々は後ろ指を指し、秀紀に汚いものでも見るような目つきを向けていく‥。








日が暮れる前、橙が徐々に色を濃くしていく空の下で、一人の男が歩いていた。

茶と白のTシャツ、焦茶のズボンという平凡な出で立ちで、キャップを目深に被っている。



男は口笛を吹きながら、とある建物を見上げた。

できるだけ目立たぬように、凡庸な一通行人に見えるように、何気ない仕草で。



男は建物を見上げたまま暫しその場に佇んでいたが、

通行人の姿が見えるとキャップをますます深く被り直し、その場を後にした。



男が吹く口笛が、不穏な旋律を奏でながらフェードアウトしていく‥。

そして男が見上げていた窓の中から、携帯電話の着信音がし始めた。

壁が薄いのか、その音は外まで聞こえている。



建物の中、その部屋の中では、一人の女性が机に突っ伏して眠っていた。

部屋は散らかっており、無造作に広げたノートやPCの前で、彼女は眠りこけていた。



深い眠りの淵から、呼びかけるように響く携帯電話の着信音。

彼女は、赤山雪はようやく目覚めた。



雪は弾かれるようにして飛び起きた。夢の中で、随分長い間着信音が鳴っていたような気がする。

慌てて隣室に面している壁の方を見やるが、そこは静かなままだ。



雪はヨダレを拭きながら、隣人の留守を思ってホッとした。

いつも大きな音を立てる度に、壁を叩かれて注意されるのが常だった。

そして次の瞬間、着信音が鳴り続けていることに改めて気が付き、通話開始ボタンを押す。

「もしもし?!先輩?!」



慌てて出した声が掠れる。

先輩が「出ないかと思った。寝てた?」と雪に問いかける。

雪は勉強しようと思っていたものの、気が付かない内に熟睡してしまったようだ。

今日の晩、先輩と夕食を共にする約束をしていたことを思い出し、何時にしますかと問い返した。

「じゃあ俺がそっちへ行くよ」



疲れている雪の声を聞いて、先輩がそう提案した。お酒でも飲もうか、とも。

雪も乗り気で賛成する。この近所は居酒屋が沢山あり、安くて美味しいお店がいっぱいあるからだ。

「じゃあ一時間以内に行くよ」



はいっ!と勢い良く返事をしたものの、雪は電話を切って我に返った。

散らかった部屋、ボサボサの髪の毛、ヨダレの垂れた顔‥。

雪は慌てて準備に取り掛かった。

「もう一回髪洗った方がいいかな?一応朝洗ったけど‥。ドライヤー時間かかるのにどーしよ?

な、何着てこう?あんまり気合入れすぎても不自然だよね?まさか家に入るなんてことないよね?」




アタフタと右往左往する内、雪は足を滑らせてその場で転んだ。

ドッターンと大きな音を立て、古い家が僅かに揺れた。

「?」



それを隣の部屋に居た遠藤が、訝しげな表情で窺っていた。

秀紀から隣室の女がうるさいと散々聞いていたことを思い出す。一体何者なのやら‥。

「ったく‥秀紀の勉強の邪魔だろうが‥」



舌打ちをしながら、再び読んでいた雑誌に目を落とす。

しかし内容は一向に頭に入ってこなかった。ギリッと唇を噛み、雑誌をその場に放る。



もう時刻は宵の刻。

遠藤はこの部屋でもう何時間もこうして座っていた。

秀紀の野郎、こんな時間までどこをほっつき歩いてやがるんだ‥。また音信不通だしよ



秀紀に苛つき、そしてこうしてまた待ちぼうけをくらっている自分自身にも苛立った。

この間電話でもう終わりだと、距離を置こうと自分から言い出したのに関わらず、またこの部屋で独りでいることに、

胸中はもうグジャグジャだった。



頭を抱えたまま、その場でゴロゴロと転がった。

苦しい胸の内を吐露するように、一人苦悶の唸りを上げながら。

暫し遠藤はそうしていたが、やがて横たわったまま携帯電話に手を伸ばした。

寝転がったまま、もう一度メールを打つ。

最後に会って話し合おう。頼むよ‥



いつも怒りが去った後は、虚しさと寂しさに襲われる。

そして寂しさが残ったまま、彼への愛しさを実感する。



まだ愛していることに、気が付かされてそれに苛立つのだ。

遠藤の目に涙が溢れた。

会いたい、二人で居たい、ただそれだけなのに‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<受難の序章>でした。

遠藤さんが健気すぎて‥(T T)

そして謎の男、出て来ましたね‥。受難の始まりです。


次回は<夜に紛れて>です。


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Sympathy

2013-11-24 01:00:00 | 雪3年2部(聡美父病院後~遠藤負傷)


青田淳は実家にて、本を読んでいた。

机の上には箱が三つ置いてあり、その箱の説明を、今青田家の家政婦がしているところだった。

「旦那様が海外から送ってこられたものです。大きい箱二つは河村教授のお孫さん宛てだそうですよ。

最近お誕生日を迎えられたそうで‥」




亮の誕生祝いに淳の父親は、実の息子よりも大きな包みを彼に寄越した。

そして淳には、その隣にある小さな箱に入った時計を贈ったのだった。

家政婦は話を続ける。

「河村教授のお孫さん宛ての方の箱は、できるだけ坊ちゃんから直接渡して欲しいとのことでしたよ」



家政婦の話す父親からの伝言に、淳は本から目を離しもせず返答する。

「前みたいに郵送して下さい」



その返事に家政婦は少し躊躇ったように返したが、やがて溜息を吐いて言った。

「まったく旦那様は何を考えてらっしゃるんだか‥奥様は今回もご立腹でしたよ。

河村家の子供達に対して何だってここまでしてやるのやら‥」




実家にて家事をしてくれるこの家政婦と青田家は、長い付き合いだ。

そのため青田家と河村姉弟の関係や経緯を、彼女はよく知っている。

淳の父親が彼らに関して過干渉なことも、淳の母親がそれを良くは思っていないということも。

しかし長く時間を共にしているといっても、他人は他人だ。

淳はその境界に、ピッと程度の線を引く。

「おばさん、そんなことまであなたが気にする必要はありませんから」



家政婦は淳の言葉に、出すぎた真似をしましたと言って退室した。

彼女が去ってから、淳は机の上に置かれた三つの箱に目を留める。



父親からの関心が、象徴的に現れたその贈り物‥。

その箱を見ている内に、淳の脳裏には去年のとある場面が浮かんできていた。

それは大学の中庭にて、雪と彼女の母親との通話を耳にした時の記憶だった。



俯いた彼女が、ギュッと噛んでいたその唇。

父親に認めてもらいたいのに認めてもらえない、ジレンマを抱えたその横顔‥。



脳裏に浮かぶ彼女の姿は、淳の心の泉に雫を落とし、波紋を広げる。

波立つ心の襞が、彼女を求めて震えていた。











一方その彼女、赤山雪はというと、両親の経営する飲食店がとうとうオープンし、

その手伝いに追われていた。

開店日の今日、店の前には幾輪の花が飾られ、お客さんもひっきりなしに入り盛況だ。



忙しい業務の傍ら、雪は母親に弟からの連絡の有無を尋ねた。

「蓮から連絡あった?」 「昨日来たわ」



昨日母親が、飲食店を今日オープンするという旨を息子に伝えると、彼は留学中のアメリカから帰国すると言ったと言う。

カツを入れてやった、と言う母親に雪が呆れ顔で頷く。



お調子者でいつもおちゃらけている長男の蓮は、赤山家の女二人にとって心配の種だ。


二人が会話をしていると、店のドアから父親の予てからの知人が入ってくるのが見えた。

にこやかに笑いながら、雪の父親に話しかけている。

「やぁ~!赤山社長!今度は飲食店の社長さん?楽しみですな~」



かつてスーツ姿で事業を営んでいた父親は、エプロン姿でその知人に頭を下げた。

「赤山社長、エプロン姿も似合ってるよ!」そう笑って言う知人に、

父親は笑顔を返せなかった。汗を拭い、溜息を吐いて、今の自分の状況を俯瞰して俯いた。

 

父親は雪を呼ぶと、一服してくるからレジ番しててくれとエプロンを渡して店を出て行った。

その小さくなった背中を見て、雪はなんとも言えない気持ちになる‥。





三十分が過ぎても、一時間が過ぎても、父親は戻って来なかった。

レジを任されたものの、雪は慣れないその操作に四苦八苦だ。



その拙さを見かねて、同じく手伝いに来てくれている叔父さんが助け舟を出した。

レジは彼に任せて、雪は再び給仕の仕事をすることになった。



ふと雪が母親の方を窺うと、彼女は何かを考えている風で、ぼんやりとしていた。

心なしか少し落ち込んでいるようにも見える。



雪は父親が戻ってこないことについて、フォローするように母親に声を掛けた。

開店日だから、どこかに電話でもしているんじゃないかと言って。

すると母親は「違うね」とぶっきらぼうな様子で言い捨て、言葉を続けた。

「お父さんは店を始めることに初めから反対だったのよ。恥ずかしいって言って‥」



そんな母親に、叔父さんがフォローを入れる。

「まぁまぁ、兄さんは元々頑固なとこがあるから、少し時間が必要なんですよ。

それでもちゃんと顔出してくれて、誠実じゃないですか」




雪は何も言葉が見つからず、口を噤んで母と叔父のやりとりを見ていた。

振り返って見た店内は、沢山のお客さんで溢れていた。

 

それでもこれは、父親の望むものではないのだ‥。






雪は暫し休憩のため外へ出た。

凝り固まった体を伸ばして息を吐く。



すると店先に、数本のタバコの吸殻が落ちているのに気がついた。

勿論そこに父親の姿はない。

  

雪はやるせない気持ちになって、その場に佇んだ。

先ほどのように小さく背中を丸めて、この道を歩いて行った父親の姿が想像出来る気がした。



不意に、携帯が震えた。

見てみると、青田先輩からのメールが入っている。

仕事は上手くいってる?



雪はすぐさま返信した。

淳の手元にある、携帯電話が震えた。

はい。店の方は上手くいっています。ただ時間が経つとどうなるかが心配ですが‥。



淳は広い廊下を歩きながら、彼女に文字を送る。

きっとうまくいくよと、優しい言葉を。






そして二人は、メールを送り合った。

それぞれの暮らしの中に互いが存在することを、その小さなメッセージのやりとりの中で感じ合いながら。


花輪、ありがとうございます

どういたしまして

先輩は何してるんですか?

用があって今から出るとこ。次は必ず顔を出すから

はい。運転気をつけて下さいね



塾の無い日に、一緒に夕飯食べに行こうか

そうですね。ではその時また会いましょう




何のことはない、平凡なやりとり。

しかしそのやりとりの中で、二人は小さな癒やしを得る。



赤山雪と青田淳。

二人は別々の人間であり、育ってきた環境も生い立ちも、その価値観も違うが、

今二人は確かに言葉にならない何かを共有している。

互いに言い出すことはなく、言えないのかもしれない。

しかしいつの間にか互いが互いにとって、どこか繋がり得る存在になりつつあるのは事実だ。

小さなメッセージの行間に、そんなシンパシーが存在した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<Sympathy>でした。

日本語版でのこの回は、途中で謎のカットがかかり、最後までは描かれていませんでした。

久しぶりに自分の訳のみで書いてみると‥すごい不安‥(^^;)もし誤訳等ありましたら、教えて下さいませ。

お店の前に飾ってあった花輪↓



先輩が贈ったものだったのですね!さすが太っ腹!

贈り主「娘の彼氏」ってすごいですよね。。まだ雪の両親とは会ったこともないのに花輪‥。さすがです。


この回のカットがかかった、二人でメッセージを送り合う場面好きなんです~~。

お互いがお父さんのことで(無意識かもしれないけど)寂しさを感じて、癒やしを求めて言葉を交わす場面。

そこにあるシンパシーが、踏み込むことはないけど互いの存在を確かめ合っているその感じが、あのメッセージのやりとり場面に表れてると思います。

あの場面で二人が背を向け合ってメッセージを送っているのもきっと意味がある。

雪と淳、二人の抱える孤独は二人それぞれが持っているものであって、二人が分かち合えるものではない。

それが、向かい合わず別々の方向を向いてメッセージを送り合う二人の姿に表れているのではないかと思いました。

ああ、なぜこんな大事な場面がカットされたの‥(T T)



次回は<受難の序章>です。

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続いていく関係

2013-11-23 01:00:00 | 雪3年2部(聡美父病院後~遠藤負傷)
「チキショー!」



再び横山は去って行った。殴られた頬を抑えながら。

「ったくよぉ!」



路地裏では、大声を出した亮が怒りのあまり肩で息をしながら、その後姿を見送っていた。

そして亮は雪の方へ振り返ると、彼女に向かって問いかけた。

「おいダメージヘアー、さっきの何の話だ?」



亮の質問に、雪は俯きながら「何でもありません」と答えた。

しかし当然亮は納得出来ない。淳の名前が出たので尚更だ。



「何でもねぇのになんでアイツに絡まれんだよ?もしやアレか?ストーカーってやつか?」

「もう過ぎたことですから‥」

「過ぎたことだったら、何で今さらこんな目にあってんだよ!」

「淳のせいで絡まれてんだろ?」 



雪は亮のその言葉を、咄嗟に否定出来なかった。

「別に‥深く関わってるわけじゃないですから‥」と、言葉を濁すのがせいぜいだった。



亮はそんな彼女の様子を見ていると、心の中に靄がかかっていくような気分になった。

頭の中に幾つもの疑問が浮かび上がる。

淳の奴、今回はマジみてぇだったけど‥。

まさかアイツ、ダメージヘアーのこと本気で好きなワケじゃなかったのか?




先ほどの男は雪に向かって、どうせ青田に泣かされて終わる、というようなことを言っていた。

亮はその意味が分からず、なぜそうなるのか理解出来ず、彼女に向かって訝しげな表情を浮かべた。



その視線に、雪はますます俯いてしまう。

そんな彼女を見て、亮は言葉にならないところを推測した。

おそらく自分の知らないところで、淳と雪の間には”何か”があったのだ。



その”何か”が綻びを作り出し、先ほどの男のような厄介なものを生んだ。そう考えるのが正しいだろう。

そして亮は、先ほど雪が言った言葉が引っかかっていた。

深く関わっているわけじゃないですから‥



亮の脳裏に、大勢の人の中に紛れる青田淳のイメージが浮かび上がった。

その中心にいるようで、いつもスルリと姿を消す彼の姿が。

そうだろうな。あいつは常に自分の姿は現さない‥



闇に紛れる狐のように、彼は自らの証拠は残さず目的を達成する。

うやむやになった自分の過去が、その傷が、置いてけぼりになっていつまでも疼く‥。







「はぁ‥。一体何をやらかしたのか知らねぇけど」



亮は溜息を吐くと、そう前置きをして言葉を続けた。

「とにかく、マジで気をつけた方がいい」



「今は仲良くやってるかもしんねぇけど、目に見えるものが全てじゃねぇ」

雪は亮が口にする言葉を、その真意が飲み込めないままただ聞いていた。



しかし亮はそんな雪の反応には構わず静かに、そして慎重に言葉を選んで続けた。

「オレが言ったこと忘れんなよ。お前を特別扱いするほど気をつけろって言ったよな」



それと、と亮は逃げて行った横山のことを口にした。

左手の親指を彼の走り去って行った方向へ向け、言葉を続ける。

「ああいう被害妄想の塊にも気をつけるんだな。まさにああいう奴らこそが、淳のエサになるんだ」



「奴らを思い通りに動かすくらい、淳にとっては朝飯前だ」



亮の中の”青田淳”が、黒い服を着て佇んでいる。

自らの手を下さず、扱い易い人間を操り、事を成す。

その隠された本性に気をつけろと、亮は雪に警告したのだ。




ふと、左の手の甲が痛んだ。亮は血の滲んだ拳に気がつくと、雪に見えないように下に降ろした。

「とにかく、そういうことだ!」



雪の心の中には、複雑な想いが渦巻いていた。

脳裏に浮かぶのは、普段着で優しく微笑む青田先輩の姿だった。



先輩との関係は、雪なりに色々考えて考えて折り合いをつけたのが、今の状態だった。

横山と亮から投げかけられた彼への不信に、雪の心がさざめき始める。




雪が少し俯くと、ふと亮の左手が目に入った。

手の甲に、少し血が滲んでいる。

  

亮はそんな雪の視線に気がつくと、明後日の方向を見ながら咳払いをし、左手をポケットに入れた。



雪はポリポリと頭を掻いた後、少し決まり悪そうに口を開いた。

バンソコウを買いに行きましょう、と。



ぎこちなく言葉を続ける雪に、亮が目を丸くする。



「だからその‥手‥。私のせいで怪我させちゃったし、

正直、ちょっとスッキリさせてもらったし‥。

とにかく‥」




「助けてくれて、ありがとうございました」








コトン、と亮の心の中で音がした。

それは彼女との関係の末尾に置かれたピリオドが、転がってコンマに変わる音だった。

白紙だったその先に、再び五線譜が続いていく。




照れくさそうに笑う雪の前で、亮は暫し固まった。



しかし彼女が亮を窺い見ると、次の瞬間亮はニヤッと笑った。

「おいおいダメージヘア~!オレはそんな気なかったのに、何でいつもオレを借金取りにさせるかな~?」



しまった、と思ったが時既に遅し‥。

ウリウリと亮が雪に向かって近寄り、雪は早足で路地裏を出る。

「一体何回メシをおごってもらえばいいんだろーな?すっかり返済するまでは長くかかりそうだなぁ?」



またもやメシおごれ隊、亮隊長のお出ましだ。

亮隊長は、恩は受けただけ返すのが人としての努めだと力説する。

それでこそ来世でまた人間として生まれ出ることが出来ると、輪廻転生の教えを解いて下さった‥。



亮隊長は、横山から実際訴えられた時はきちんと証言するように、と釘を刺すのも忘れなかった。

雪はハイハイと返事をしながら、塾への道を急いで歩いた。

二人はそうして続いていく道を、並んで歩いて行った。



「お前歩くの早くね?」 「わざとです!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<続いていく関係>でした。

以前2部20話で亮が「サイの角のように独り歩め」と言っていたこと↓と、



今回の輪廻転生を説くところを見ると、どうやら亮は仏教徒のようですね。

なかなか学のある男です、河村亮。


次回は<Sympathy>です。

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彼、再び退場

2013-11-22 01:00:00 | 雪3年2部(聡美父病院後~遠藤負傷)


突然現れた亮を見て、雪は息を飲んだ。

怒りと恐怖でガチガチになった心が、彼の顔を見て綻ぶ。

亮は先程から、雪に絡んでいる男が彼女を罵倒するのを聞いて、苛立っていた。

しかしそれと同等に、そんな男と関わっている雪にも腹が立っていた。



付き合ってる奴‥青田淳は狐野郎だし、目の前に倒れこんだ男は胡散臭い。

おかしな奴とばかり付き合うなと言う亮に、ようやく起き上がった横山が食って掛かる。

「てんめぇ!」



しかし顔を上げた横山はギョッとした。

相手はデカイ外国人で、しかも凄まじい形相をして横山を睨んでいる‥。



その強面度の高さに、思わず雪も冷や汗をかいて黙り込む。

亮を前にして幾分怯んだ横山だが、それでも弱々しく彼を非難し始めた。

「なんだお前‥いきなり人の背中に蹴り入れやがって‥」



ブツブツと言葉を続ける横山に、亮は溜息を吐いてみせる。

目の前の男は見るからに弱々しい。亮には余裕があった。

「そういうテメーは道端で女引き止めてピーピーピーピー。見るからに姑息そ~。

このダサ男をどうしましょっかね~」




亮は軽い調子で、横山に向かって片目を瞑る。

そのちゃらけた態度に、横山は逆上した。

「んだと?!この卑怯ヤンキー野郎が!」そう彼は声を荒げ、拳を握った。



しかし亮は冷静だった。

喧嘩の場数を踏んできている亮は、この先に起こる出来事を予測し、自分がどう振る舞うのが一番良いか計算していた。

殴られてやるか?避けるか? 怪我したフリして十万くらい騙し取ってやるか‥



しかしふと心が反応し、隣に居る雪の姿が目に入った。

このまま殴られることに、本能的な躊躇いを感じる。



結局考えがまとまる前に、横山の拳が亮に向かって振るわれた。

亮は咄嗟に手が動き、彼の拳を振り払う。



横山にとって、思わぬ出来事だった。

横山は痛みに顔を歪めながら、そのままたたらを踏んで壁に叩きつけられた。

亮の予想外の強さに、思わず顔が青ざめる。



亮は全く話にならない、とばかりに溜息を吐き、ポケットに手を突っ込んだ。

「細身のくせにどんだけ鈍いんだよ。わざと殴られてやろうとも考えたけど、ムカついてな」



呆れたように横山を見下ろす亮の隣で、

彼を睨む雪の姿があった。



その目つき(それはまるで虫を見るような目つきだった)に、横山の苛立ちが爆発する。

「全く大した女だぜ。福井に青田に‥次は外国人までそそのかしやがって」



雪が、そして亮が制止しようとするも、もう横山の口は止まらなかった。

罵詈雑言が炸裂する。

「知れば知るほど汚ぇ女だぜ。オレが色んな女に言い寄ってるだの何だのって、

くだらない説教してたくせによぉ!お前こそあっちこっち尻尾降りやがって、この尻軽‥」




そこまで言ったところで、亮の堪忍袋の緒が切れた。

ガシッと後ろから横山の首根っこを掴み引き寄せると、左手で力いっぱい殴りつける。



横山はそのまま地面に転がり、暫く蹲ったまま震えていた。

雪は両手を組み合わせたまま、顔面蒼白で事の成り行きを静観している。



しかしこれだけでは終わらなかった。

亮は再び横山を引っ張り上げると、首を持ったまま壁に押し付けた。絞り出すような低い声を発する。

「てめぇこの野郎‥お前みたいな野郎、よ~く知ってるぜ」



亮の脳裏に、暗く沈んだ記憶が蘇ってくる。

その忌々しい記憶を噛みしめるように、亮は一言一言に憎しみを込めて言った。

「エゴイズムの塊で、自分が世界で一番可哀想だと思っていて」



「自分には何一つ非は無く、全て他人のせいだ‥!」




絶望の淵で見上げた”ピアノ君”は嗤っていた。あのニヤついた口元‥。

目の前の横山に、彼の面影が重なる。

首元を掴んだ手に力が入り、亮の手の甲に血管が浮き出た。

「そうだよ、てめぇみてぇな野郎のことだよ!人生思い通りにいかねーからって、

女とっ捕まえて言い掛かりつけてるてめぇみてぇな奴は、言葉じゃ通じねぇ」




「痛い目見ねぇと分かんねぇか」



瞳の奥に、憎しみの炎が揺れる。

そのままもう一度亮は拳を振り上げ、横山が恐ろしさに息を飲んだ。



雪が止めに入ろうとしたが、亮の拳は横山に向かって振るわれた。

否、横山の顔面15センチ横の壁に、その拳はめり込んだ。



怯えて肩を震わせる横山に、亮がクックックと可笑しそうに笑う。

雪は終始戸惑いっぱなしだ。



亮が「ビビってやんの」と馬鹿にしたように言うと、

横山はカッと赤面した。未だ腰が抜けているのか、咄嗟に立ち上がることも出来ない。

  

さっさと失せろ、と言って亮が横山を軽く蹴る。

横山は屈辱的な表情をしたまま、その場から駆け出そうとした。



しかし雪の方を振り返ると、最後に捨て台詞と言わんばかりに声を荒げた。

「今度こそ訴えてやるからな!示談もクソも無ぇと思いやがれ!」



横山の口から「訴える」という言葉が出て来たことで、亮が若干ギクリとして冷や汗をかいた。



しかし雪の方はというと、その呆れた物言いにとうとう堪忍袋の緒が切れた。

溢れんばかりの怒りに、亮も目を丸くする。

「やれるもんならやってみなさいよ!こっちだって黙っちゃいないんだから!

録音機!信じようが信じまいが、勝手にすればいいわ!」




雪の怒気とその言葉に、若干横山は怯んだ。

しかし続けて「あの録音機はオレが既に‥」と居直りを口にしかけたところで、

雪が畳み掛けるように口を開く。

「あと、訴えるですって? もし二人が警察署に行くなら、私が証言するから」



この脅しが通用するかどうかは分からないが、雪は表情を緩めず強い口調で彼を責め続けた。

「もしそんなことしたらあんたが去年ストーカーしたことも、

この期に及んで脅迫までしたことも全部証言するから!それとこの状況が正当防衛だってこともね!」




そして雪は、とどめの一撃を食らわせた。

「どっちの言い分が正しいか知りたいなら、一度試してみればいいわ」





  

キリキリとした緊張の糸が、二人の間に張り詰められた。

横山は信じるだろうか? 雪のハッタリに近い先ほどの話を。

祈るような気持ちで、雪は彼の出方を見た。お願いだから、騙されてくれ‥!







「あーあーそうかよ!せいぜい今を楽しむんだな!」



やった、と雪は思った。

先ほどの話が通用したのだ。表情には出さないように、雪は心の中でガッツポーズを決めた。



無礼にも人差し指で雪の方を指しながら、尚も横山は言葉を続けた。

「どうせすぐに青田の野郎に泣かされて終わるんだ!アレが本気なワケねーだろ!

去年オレにお前を勧めたんだぜ?!」




横山の言葉に、亮の顔色が変わる。

淳の名前と穏やかではない事情の断片が言及されたことで、亮は訝しげな表情を浮かべた。



そして実は雪も、横山の言葉に反応していた。

去年拭っても消えなかった先輩への不信が、再び顔を出す‥。



横山は狡そうな表情をしながら、言葉を続けた。

「健太先輩だって、前みたいにお前をかわいがってくれると思うか?

新学期が始まるのが楽しみだなぁ?ああ?」




ネチネチとまだ続けようとする横山に、亮が耐え切れずに声を荒げた。

「失せるならさっさと失せやがれ!野郎のくせにしつけーんだよ!!」



「どうせ通報されんならこの際全身ギッタギタにしてやってもいいんだぞ?!おととい来やがれ!!」

そう言って腕まくりをしながら近寄る亮に、恐れおののいて横山は路地裏から走り出た。



チキショウ、と言い捨てて走り去って行く横山の後ろ姿を、

SKK学院塾に通う男子学生たちが目撃し、ニヤニヤと嗤いながら噂話に興じた。

  



そうして再び横山は去って行った。

雪の心に不穏な影を残しつつ、来学期に降りかかる災難を匂わせて‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼、再び退場>でした。

亮の場慣れ感が頼もしい!又斗内との時はわざと殴られて慰謝料を請求したのに、

今回は雪を守る意識が働いて戦った亮!ブラボー!


次回は<続いていく関係>です。

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彼、再び登場

2013-11-21 01:00:00 | 雪3年2部(聡美父病院後~遠藤負傷)


学院塾へと向かう道すがら、雪はコンビニにて買い物をしていた。

頭の中では、昨日露店にて先輩が欲しがっていた腕時計のことが浮かぶ。



んー‥あの時計六千円くらいだったよな‥



雪は時計収集が趣味だという先輩に、あの腕時計を贈ることに決めた。

値段もプレゼントとしてはちょうど良いし、何より先輩が欲しがっていたし。




雪はその後ドリンク類が置いてある棚を見やって、カフェラテを探した。

棚に乗っているそれは最後の一個だったのだが、雪がそれを手に取ろうと近寄ると、僅差で他の人に取られてしまった。



雪は残念な気持ちでカフェラテを取ったその人の後ろ姿を眺めた。

するとその姿が、記憶の中の彼の姿に重なった。







横山翔‥。


雪は全身に鳥肌が立つのを感じて、思わず棚の後ろに隠れた。

その咄嗟の動きが目の端に映ったのか、横山がパッと後ろを振り向いた。



横山は、壁上方に掛かったミラー越しに蹲った彼女を見た。

しかし気づかぬフリをして、会計を済ませると何食わぬ顔で店を出る。



雪は彼が店を出るまで、その場に蹲ったまま動けずに居た。

なぜ横山がここにいるのだろう、その思いで頭の中はパニックだ。



チリン、とドアが閉まる音を聞いてから、雪はコソコソと棚の後ろから出て窓の外を窺った。

姿が見えないのを確認すると店を出て、辺りを見回しながら小走りする。

なんで横山がここに‥。まさかこの近所の塾に通ってるとか?どの塾?



偶然鉢合わせしたらどうしようと、雪の心はザワザワした。

とりあえず裏道から回ろう、と路地裏に入った時だった。

「赤山?」



彼は雪が人気の無い道に入るのを確認して、声を掛けた。

おそるおそる振り向く彼女に、笑顔を向ける。

「さっき鏡に映ってんの見て、そうじゃないかと思ってたんだよ。あったり~」



固まる雪に、横山はじわりじわりと近寄った。

この辺の塾にでも行ってんのか?と推測を口にしながら。

「マジ?オレもなんだよ。すっげー偶然じゃね?」



変に勘の鋭い横山が、図星な点を突いて来る。

雪は咄嗟の出来事に戸惑うばかりで、何も言えずに固まってしまう。

ニヤニヤと笑いながら近づく横山に、雪が一歩二歩と後ずさりする。



気楽に話せよ、と軽い口調で言う横山に、雪はそっぽを向いて言い捨てた。

「あんたと話すことなんて無いし!」



雪の冷たい態度に、横山は目を丸くした。

しかし「ったく相変わらずお堅い女だな~。ほどほどにしろよな~寂しいだろ~」と言って、

相変わらず雪に近寄ろうとする。



すると横山の後ろを、SKK学院塾の外国人講師ご一行が通りかかった。

講師の一人が雪に気づく。

「Hey,Thomas! Your friend! アナタノトモダチ、アソコ、アナタノトモダチ」



亮が講師の指し示す方向を見ると、赤山雪が男と二人で居るのが見えた。

知らない男だ。

「‥‥‥‥」



後方で講師たちが、亮が雪にフラれたらしいとクスクス笑いながら噂しているのだが、亮の耳には入らなかった。
(耳に入っても何を言っているのか分からなかっただろうが)

なぜなら雪の様子がおかしかったからだ。



明らかに嫌がっているように見える。

亮は心に引っかかるものを感じたが、やがて「知らねー」と言って背を向け、そのまま歩いて行った。



赤山雪のことは、もう自分とは関係ない。

互いに知らんふりをすると、そう決めたからだ‥。



亮が去ってからも、横山は雪に話しかけ続けていた。

「てかお前最近、青田先輩と仲良いらしーじゃん。先学期ずっと一緒にツルんでたんだって?」



もしかして付き合ってんのか、と横山が続ける。

雪はギクッと身を揺らした。彼はやはり変なところで勘が鋭い。



横山は大げさな身振りで雪に近づく。やれやれ、と首を横に振りながら。

「お前のためを思って言うけど、目を覚ませよな~。顔がいいからって何騙されてんだよ」



「オレもお前もあいつに散々やられたじゃんか。今さら何仲良くなんてなっちゃってんの?

あの先輩、マジイッちゃってるってのによぉ」




横山の言葉の真意が、雪にはよく飲み込めなかった。

彼への不信も相まって、先輩の悪口を言われたってとてもじゃないが信じられない。



しかし横山はそんな雪の表情にも怯まず、彼女に向かって手を伸ばした。

「なぁ、どっかカフェにでも入ってゆっくり‥」



スッと差し出された手に、雪は思わず怖気立った。

パシッとその手を振り払うと、彼に向かって声を荒げる。

「あんた頭大丈夫? どうして私に向かってカフェでも行こうなんて言葉が出てくるわけ?!

マジで気が知れない!」




雪の怒気に、横山は虚を突かれたような表情をしていた。

しかしやがて合点がいったのか、ポンと手を叩いて言った。

「ああ!この前のことまだ根に持ってんのか?もうそろそろ忘れろよな~。気の小せーヤツ!」



「大丈夫大丈夫!」そう言って横山はニヤニヤと笑う。

お前のことはもう何とも思ってないからお前も忘れろよ、と続ける。雪は開いた口が塞がらない‥。



横山はもう自分は来期から復学することだし、仲良くしようぜと図々しくも言った。

同情するような目つきで雪のことを見る。

「オレはお前が気の毒でしょーがねーんだよ。だから少しでもオレが力になれればと思ってよぉ」



「お前って奴はどうしてよりによって福井みたいな暴力男や、青田みたいな狐野郎とばっか‥。

男を見る目が無いなんてこの先が思いやられるぜ」




いけしゃあしゃあと言葉を続ける横山に、

雪は「いい加減にして!」と声を荒げた。しかし横山は怯まない。

「お前がマジで青田先輩と付き合ってるとしても、奴が本気だとは到底思えないね」



「去年のオレみたいに、色々そそのかされて煽られて終わりだっつーの。

お前、オレの二の舞いを演じるつもり?」




横山が意地悪く笑いながら、雪ににじり寄る。

「青田に特別扱いされて、まんまと騙されたんだろ?オレが女でも、最高に気分良いだろーな」



「でもあれが本気に見えるか?お前みたいな女のどこが良くて?こんな突然?

変だと思わなかったのか?」




酷い言葉の羅列、気持ちの悪い口調と態度。雪の体に鳥肌が立つ。

しかし咄嗟には言い返せず、あっちへ言ってと感情的に言うしか出来なかった。

なぜなら横山の言った言葉は、雪もまた心の底でいつも疑問に思っていたことだったからだ‥。






雪が鋭い目つきで横山を睨む。

彼への嫌悪感と去年植え付けられた恐怖感が、雪の全身を総毛立たせる。



その目つきに横山は苛立ち、人が忠告してやってるのに、と雪に詰め寄る。

しかし雪も負けていない。



そんなこと誰が頼んだのよ、と横山に食って掛かる。

「あんたの意見なんて聞きたくもなければ、あんたと話したくもない」と大声を出すと、

その勢いに気圧されたのか、横山は周りを気にする素振りを見せた。

「おいおいバカみたいに喚くなよ。誰かに見られたらどーすんだよ」



とにかく落ち着け、と横山は雪をなだめにかかった。

雪は相変わらずの横山の話の聞かなさ加減に辟易していたが、ここでキッパリ終わらせなければまた同じようなことが起こると思った。

「いい加減にして」と大声で言った後、一呼吸置いて言葉を続けた。

「学校始まってからも私の言うことを無視してデタラメ言ったら、録音したやつ全部バラすから!」



その台詞は、雪にとっての切り札だった。横山が口を開けて唖然としている。

しかし暫し二人の間に落ちた沈黙は、横山の高笑いによって吹き飛んだ。

「くははは!マジウケる。録音したやつ?あのふっるい音楽プレイヤーのこと?

オレ実際人に借りて録音してみたけど、何言ってんのか一つも聞き取れなかったぜ?」




ギクッとした。

雪の顔色が変わる。



横山の言っていることは正しかった。去年録音したあの音声は、実はまともに録れていないのだ‥。

「‥てか、お前マジうぜーんだけど。誰に向かって脅迫めいたことしてんの?」



今度は横山が雪を睨み、低い声ですごんできた。

雪が一歩二歩と後ずさりする。

「また福井の野郎でも呼んで殴らせるつもりかよ?やってみろよ。今度はオレだって黙ってねーぞ」



「オレもオレだよな、お前みたいなのに引っかかるなんてよ。大学生活が台無しだっつーの!

お前はツイてていーよなぁ。アイツをどうやってそそのかしたわけ?」




「大学通ってる時は男子とつるむことも出来ねーでダッサい‥」

ニヤつく横山が続けた雪への誹謗中傷は、中途半端なところで途切れた。

なぜなら後方から、彼は思わぬ衝撃を食らったからだった。



長い脚が、横山の背中を蹴った。

その衝撃に、横山が思い切り転ける。



雪が顔を上げると、凄い形相で彼を睨む男が居た。

「あ~‥ムカつく」



「耳が腐るぜ!」



それは雪の元へ舞い戻ってきた、河村亮だった。

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<彼、再び登場>でした。

去年の横山と青田先輩とのやりとりを知って読むのと、知らないで読むのと印象の変わる回ですね。

しかし亮は、結構な距離を引き返して来たんでしょうね~!行こうか行かまいかモンモンとする亮、見たかった(^^)


次回は<彼、再び退場>です。笑

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