ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

言わないことも「誘導」

2016-02-28 08:10:54 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「模範回答を」2月21日
 『9都府県 教員向けに指針』という見出しの記事が掲載されました。主権者教育実施における指針の策定状況と内容について報じる記事です。記事では『使用する教材や新聞などの資料について「事前に校長等の管理職が確認した上で指導する必要がある」と明記した』という東京都の対応について、批判的な見解が紹介されていました。
 まったくおかしな意見だと言わざるを得ません。これは何も主権者教育に限ったことではなく、校長の教育課程管理権に基づいて、小学校から高校まで、全ての学校で、全ての教科において、既に実施されていることの再確認に過ぎないからです。教員は、週案簿にその週に実施する授業について、略案を記載し、前週末までに校長に提出し、承認印をもらってからでなければ授業をすることができないのです。ですから改めて問題として取り上げることではありません。もし、この指針が問題だと考える教員がいるとすれば、それはその学校において、きちんと教育課程の管理が行われていなかったということを表しているだけです。
 そんなことよりも私が気になったのは、神奈川県が作成している問答集の内容についての記載でした。『「政策について生徒に質問されたら説明してもよいか」との教員からの問いには、内容の説明は構わないとしつつ「政策の是非など価値判断を含んだコメントは一切してはいけない」と指導している』。
 こんなことが可能なのでしょうか。例えば、原発再稼働について説明するとしたらでしょう。「発電事業者が、停止中の既存の原子力発電設備を再び稼働させようと考えたとき、原子力規制委員会の審査を受け、審査基準をクリアしたとき、地域自治体の同意を取り付けるという条件の下、原発を稼働させることができるという仕組み」とでもするのでしょうか。こんな説明を受けた生徒は、「ああ、そうなのか」と納得するでしょうか。納得してしまうような生徒であれば、それまでの授業における思考力・判断力の育成に問題があったと言わざるを得ません。納得しないのであれば、そんな説明しかできない教員に対して不信感を抱くことになるでしょう。
 安全保障法についてはどうでしょうか。「我が国の国民とその財産、国土を外敵の侵略から守るために、軍事力行使以外に他の手段がない場合には、必要最低限の範囲で、他国との集団的自衛権を行使することを可能とする法律」と言えばよいのでしょうか。憲法違反という指摘があること、他国の戦争に巻き込まれるという懸念があること、平和国家日本という国際的な評価が揺らぐ可能性があることは、説明してはいけないというのであれば、そのこと自体が、肯定的評価に誘導していることになるのではないでしょうか。
 少なくとも私が担当教員であったとしたら、説明はできません。新聞を読みなさい、テレビのニュースを見なさい、としか言えません。それでは授業は成立しません。しかも、後日、新聞を読んだ生徒から、こんな風に書いてあったけど、と訊かれても「そうですか」としか答えられないのです。まるで「木偶の坊」です。
 問答集の作成者には、模範回答を示して欲しいものです。

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