◎ ◎ ◎ スタッフコラム ◎ ◎ ◎
数日前に見た、NHKのETV特集に刺激を受けました。
ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」(2020年4月11日放送)
政治学者…イアン・ブレマー(アメリカ),歴史学者…ユヴァル・ノア・ハラリ(イスラエル),経済学者・思想家…ジャック・アタリ(フランス),●キャスター 道傳愛子
特に印象に残ったのは、ハラリ氏とアタリ氏。番組の一部を、以下に紹介します。
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ハラリ氏の言葉から。
「次の2か月から3か月の間に私たちは世界を根底から変える壮大な社会的・政治的実験を行うことになるでしょう。」
「この緊急事態において自由市場にだけ頼ることができないのは誰の目にも明らかです。一部の国は経済システムと雇用システムをより良いものに作り変えるいい機会となりうるでしょう。私たちは選択肢が数多くあることを理解すべきです。そしてそれらは政治的選択です。これは事前に決まっていることではありません。ウイルスが私たちに変わって決断するわけでもありません。それは政治家の仕事であり、政治家を監視する市民の仕事です。」
「メディアと一般の人たちはウイルスの流行にだけ感心を持つべきではないと言いたいです。『今日は感染者は何人だった』とか『病院に何台の人工呼吸器がある』といった話は重要ですが、政治状況にも焦点を当てるべきです。」
「全体主義的な体制が台頭する危険性があります。ハンガリーが良い例です。形式的にはハンガリーは民主国家ですがオルバン政権は独裁的ともいえる権力を握りました。それも無期限の独裁的権力です。緊急事態がいつ終わるかはオルバン首相が決めます。ほかの国にも同様の傾向があります。非常に危険です。通常、民主主義は平時には崩壊しません。崩壊するのは決まって緊急事態の時なのです。」
アタリ氏の言葉。(キャスターとのやりとりから)
Q「このパンデミックは、私たちに何を警告しているとお考えですか?」
アタリ氏「多くのことです。衛生、社会の透明性、そしてパンデミックの警告を世界で共有するルール作りの重要性について」
Q「コロナ後の世界はどうなっているでしょうか?最悪のシナリオとは」
アタリ氏「最悪なシナリオは世界的な恐慌、失業、インフレ、ポピュリストによる政府の誕生。そして長期不況による暗黒時代の到来です」
「他にも非常に悪いシナリオが起こりえます。新しいテクノロジーを使って国民の管理を強める独裁主義の増加です。例えば、中央ヨーロッパでハンガリーなどの政府がしたように、パンデミックを独裁主義に向かう口実にするのです。それが一つの脅威です」
「さらに、経済、健康、そして民主主義への脅威もありますね」
Q「このパンデミックの中で差別や分断が以前よりめだってきているのではないと懸念しています。それには同意しますか」
アタリ氏「はい。連帯のルールが破られる危険性が極めて高いです。つまりは利己主義です。経済的な孤立主義が高まる危険もあります。他の国に依存しすぎるべきでないというのは一面の真実です。たとえば『どうかエチオピアにマスクを売ってくれ』と中国に懇願しなくてもすむように。しかし、だからといって、国境を閉ざしてしまうべきではありません。私たちはもっとバランスの取れた連帯を必要としているのです。」
ナレーション
<今こそ連帯が必要だというアタリ氏は、これまで利他主義という思想を主張してきました。今回の危機を受けて改めて利他主義への転換を広く呼び掛けています。「パンデミックと言う深刻な危機に直面した今こそ『他者のために生きる』という人間の本質に立ち返らねばならない。協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべきだ。利他主義という理想への転換こそが人類サバイバルのカギである。」>
ポジティピズムや楽観主義について
アタリ氏
「まず、ポジティピズムはオプティミズム(楽観主義)とは異なります。たとえば、観客として試合を見ながら『自分のチームが勝ちそうだな』と考えるのが楽観主義です。一方、ポジティピズムは、自らが試合に参加し『うまくプレイできればこの試合に勝てるぞ』と考えることです。そういう意味では私はポジティブであると言えるでしょう。私は人類すべてがこの戦いに勝てると考えています。自分たちの安全のために最善を尽くし、世界規模で経済を変革させていくことができればきっと勝てるでしょう。今の状況は私が『ポジティブ経済』と呼ぶものに向かうとても良いチャンスだと思っています。ポジティブ経済とは、長期的な視野に立ち、私が「命の産業」と呼ぶものに重点をおく経済です。生きるために必要な、食料、医療、教育、情報、研究、イノベーション、デジタルなどの産業です。生きるのに本当に必要なものに集中することです。」
利他主義とは
アタリ氏
「利他主義は合理的利己主義にほかなりません。自らが感染の脅威にさらされないためには他人の感染を確実に防ぐ必要があります。利他的であることは、ひいては自分の利益となるのです。また、他の国々が感染していないことも自国の利益になります。たとえば日本の場合も世界の国々が栄えていれば、市場が拡大し、長期的にみると国益につながりますよね」
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引用長くなりました。
今回のコロナ禍の中で、私がずっと感じているのは「これは、今生きている人類にとって初めての経験である」ということです。
かつて、スペイン風邪、と呼ばれたインフルエンザの大流行や、もっと昔のペストなどの伝染病などを、人類は経験してきました。
でも、今を生きている私たちは、こんなに世界規模で広がる感染症を目にするのは、初めてなのです。
おまけに、インターネットの発達のおかげで、現時点の世界の様子が瞬時にわかる、というのも。
「街に出てはいけない。家にいましょう」そんな呼びかけを聞いたのも、これが初めてです。
できればお店を閉じてください。会社に行かないでください。そんなお願いを耳にすることがあるなんて。
「商売をしなければお金が入ってこないよ。生きていけないよ」「働きに出なければ食べるものを買えないじゃない」
本当です。でも、外に出ると感染のリスクが高まって、事態の収束に時間がかかってしまうのです。
政府が補償を速やかに行わないことに批判が集まります。最もです。
私たち国民が、豊かに暮らせなくなるということは、国全体の経済がこの先長い間不況にあえぐようになる兆しです。
いったい、どうすればよいのか、と思います。
ひとつわかっているのは、政府は(おそらく世界中の政府が)パンデミックが起った時のための予算など、用意していない、ということです。(少なくとも、休業することで被害を被った企業や商店やフリーランスやその日暮らしをしている人たちに生活を保障するための十分なお金を)
平時のつもりで予算を組んでいて、そこで思ってもいない支出が発生する、ということに、今びっくりしている状況だと思います。
日本で暮らしている私たちが、この危機を乗り越えるために、今必要なことはなにか。
たくさんの人が声をあげています。
「ここにも人がいるよ」「私たちのような仕事をしている人たちがいます」「私たちも、日本を豊かにするために貢献してきました。助けてください」
声をあげなければ、政治を行っている人たちに声を届けなければ、助けは来ません。
そして、今後、同じような危機がやってきたときに、私たちはどういう社会であったら、今回のように不安に苛まれなくてすむのか。
それを、ひとりひとりが考え始めなければいけないのでは、と思っています。
そのために、上にあげたような世界の知性に触れ、学び、身近にいる人たちと意見を交わしていくことは、コロナ禍のまっただ中にいる私たちに、できることのひとつではないでしょうか。
(山)
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