ロンボク島で大地震が発生した時、中部ロンボクのランタン村に滞在していた日本人大学生Oさんのレポートです。
今回は、地震が発生する前の様子を中心に書いてもらいました。地震発生後の様子はこちら。
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私は、7/23〜8/7までロンボク島に滞在し、そのうち12日間をランタン村で過ごした。このような旅をすることの目的は、自分の価値観を拡大するためであった。
現代の日本では、多くの若者が生きづらさを感じている。それは、日本における常識や共通認識に思考をとらわれて、本来の自分らしさを出せていないからである。それら偏見に囚われているせいもあり、私は、多くの人が他者を受け入れることができていないと感じていた。自分らしく在れないこと、本来の自分を理解すらできていないことは、他者を理解することを阻害していると感じていたのである。
それはもちろん自身にも言えることである。私自身も日本という国の狭い了見と価値観に囚われて、自分らしさを出しきれておらず、その圧迫感から、他者を受け入れ切れていないことを常々感じていた。
そこで考えたのが、ロンボク島に行くことである。本来、違う場所に行くつもりであったが、師事している教授に相談したところ、その場合だと、ロンボク島のランタン村の、日本にかつてあったような村社会を体感することが私の役に立つのではないかとのことだった。私も、その言葉と、インドネシアの自然に何か感覚的な惹かれるものがあって、行き先をロンボク島に決めた。
実際にロンボク島を訪問して感じたのは、まず、豊富な自然である。空港を出て、州都のマタラムに行く道すがら、あまりにもたくさんの木がはえていて、緑に満ちていて、そして、人々が生き生きしていることに感動したことを覚えている。ずっと飽きもせず、南国の自然と生い茂る緑を見て、心が自然に帰って行くことを感じていたのを覚えている。そこには、心に張っていたバリアのようなものが、自然を通して取り払われて行く感覚が確かにあった。
次に感じたことはやはり、人と人の距離の近さである。空港では、インドネシア語がわからない私の英語を親身になって聞いてくれる店員がいたり、タクシーの運転手は町のガイドをしてあげようかと言ってくれたり、そんなことにロンボクの優しい島民性を見たような気がした。それがなんだか微笑ましく、凝り固まっていた心が溶けていくようで、私も優しさを返そうと思った。しかし、同時にすんなりと心に踏み込まれることに、戸惑いも感じた。その時私はまだ自分を繕っていて、その繕った自分を認めてもらうことに必死すぎて、踏み込まれて、自分を暴かれることが怖かった。だから私は、懸命に距離を取ろうとしていた。
そんな自分の思いを良い意味であきらめさせたのは、ランタン村でホームステイした先の家族である。彼らは本当に良い意味でグイグイくる人たちであった。部屋にいても勝手に入ってくるし、人のものは勝手に使うし、お腹いっぱいでもご飯をもっと食べろ!と言われるし、ちょっと1人で出歩くだけで心配されるし。当初はその、おばあちゃん家にいるような感覚に、疎ましささえ感じた。
でも、何をしても許してくれて、常に気にかけてくれて、優しくて、まっすぐで。いつも笑顔で、本物の家族のように接してくれた。
ホームステイ先の家族だけではない。近所の子供達。彼らはランタン村の初日、緊張してた私に近寄ってくれて、一緒に遊んでくれた。私を見るとすぐ近寄ってくれて、私の名前を呼んでくれた。
近所のママたち。ホームステイもしてないのに、まるで本物の娘のように扱ってくれて、道を歩いていると「うちでお茶を飲んで行きなよ!」って誘ってくれた。
農家のおじさん。私の帽子が欲しいと言っていて、それをあげたら、「お祈りの時、あなたの無事をずっと祈り続ける」って言ってくれた。
村の友達。私がいなくなるとき、ホテルまで私を送ってくれて、みんな半泣きで「最高のゲストだった、また必ずきて」って言ってくれた。
そんな優しさと暖かさに触れて、自分を取り繕っていたものがどんどん取り払われて、他者を冷たく見る気持ちがどんどん変わっていった。自分はありのままでいて良いのだと思った。人に優しくしようと思った。どんな人でも、距離を取らず、同じ人間として接しようと思った。自分を取り繕うことに必死だった私が、どうしたら人に優しくできるのだろうと考えられるようになった。
現代の日本の周りの冷たさの中でその気持ちを持ち続けることは確かに少し難しいことかもしれない。日本に帰ってきて、人と人との距離を感じたし、冷たさもすごく感じたし、近く、優しく接する自分がバカらしく感じる時もあった。でも、私はそれでも人に優しくあることをあきらめたくない。他者に優しく、ありのままの他者を認めたい。やっぱりずっとそのようにありたいのである。
今、ロンボクでの日々を思い出しながら、これからも人に優しくあれたらと思う。
そして、もう一度あの心地よさに触れるため、そしてあたらしくてきた家族に会うため、ロンボクに帰りたいと思う。
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