東大の農学部正門付近で起きた高校生による殺傷害事件は起こるべくして起きた事件と思う。
「東大理Ⅲは富士山か?」
私の2019年06月24日のブログ「東大理Ⅲは富士山か?」で書いたように、経済雑誌の記者が「東大理Ⅲは医者にならない人が10%もいますね?」と質問をしたのに対し、「東大の理Ⅲは日本最難関だからという理由で目標とする秀才たちが多く、(東大医学部は)医者になりたい人が一番少ない医学部と言われます」と東大理Ⅲに入学し、医学部を卒業したベンチャー創業者が答えている。このベンチャー創業者も「医者にならない10%」の中に入っている。
とすると、東大医学部の一学年は110人前後なので、毎年11人ほどが医者にはならないことになる。医学教育には6年で1億円以上の金がかかるので、医者にならない受験生が医学部に入ると11億円以上の損失になる。
東大理Ⅲの入学者数で高校や受験塾の評価が決まる
彼らは医者が目標ではなく、東大理Ⅲに入るのが目的というのは本人も認めている。なぜ、東大理Ⅲに入るのが目的と思うようになるのか?
受験雑誌や経済誌などが、「××高校は○○人が東大理Ⅲに合格した」というように、東大理Ⅲに合格した人数で高校や受験塾の評価が決まるような記事を書いている。有名進学校は東大理Ⅲの合格者が多いほど営業的には都合が良い。こういう雰囲気が高校や受験塾などの受験界に蔓延していると、高校や受験塾の教師や職員は、成績の良い受験生に東大理Ⅲを受験するように勧める動機が出てくる。たとえ、そのような成績の良い受験生が医者に向いていなくても。
受験生の考え違い
小学生や中学生の頃から、受験産業の環境にいると、自分は東大理Ⅲに入らなければならないと考えるようになっても無理からぬと思う。こういう勉強ばかりの環境では、将来自分がなりたいことを考える余裕が無く、とりあえず目の前の富士山(東大理Ⅲの入学試験)に立ち向かい、頂上に到達(合格)するのが自分に与えられた義務と思い込んでしまう。
「医者になる」という志望ではなく、「東大理Ⅲに合格する」というのが目的になると、本末転倒になってくる。
高校のズレたコメント
加害者が在籍していた東海高校のコメントは、上記のような問題点に全く触れず(触れられないだろうな)、こういう受験生が出て来るのはしょうがないという感じがして他人事のように感じるし、コロナを原因の一つに挙げているのは納得しがたい。
東大医学部の劣化
上に書いたような受験生が東大理Ⅲに合格して進学する東大医学部はそんなに良い所なのか? それどころか、東大医学部は劣化しているという記事が時々メディアに出ている。ある東大生(医学部ではない)は「医学部の友達は良いやつだけど、彼らに病気を見てもらうつもりはない」と言っているとあるメディアに出ていた。また、前の天皇の心臓病の手術(東大病院で行われた)を執刀したのは東大教授ではなく、順天堂大の天野教授だった。
また、新型コロナウイルスに関して、東大教授の出る幕が無い(これは東大ばかりでなく、日本全体に言えること)のも悲しいのを通り越して、情けなくなる。
(港区白金にある東大付属の医科学研究所は、元は北里柴三郎が作った伝染病研究所です。生い立ちからしてもっと貢献できなければおかしいが・・・)
いくら東大理Ⅲの偏差値が高くても、東大理Ⅲに合格するのが目的の受験生が多い(全てではないだろうけど)と、東大医学部はさらに劣化することになる。
2022年1月20日
(補足 2022年1月23日)東大医学部卒で、ノーベル医学生理学賞受賞者はいるか?
東大医学部卒の人がノーベル医学生理学賞を受賞した人がいるか、探してみました。
1987年 利根川進氏(京大卒、マサチューセッツ工科大学在籍)
2012年 山中伸弥氏(神大卒、京大在籍)
2015年 大村智氏(山梨大卒、北里大在籍)
2016年 大隅良典氏(東大卒、東工大在籍)
2018年 本庶佑氏(京大卒、京大在籍)
5人中大隅氏だけが東大ですが、医学部卒ではなく、教養学部基礎科学科の出身です。修士と博士課程も理学系で、医学部ではない。
ということで、東大医学部卒のノーベル賞受賞者はいません。権力闘争に明け暮れているのでノーベル賞受賞者は出て来ないと書いている人が居ますが、そうなんでしょう。
(補足 2022年1月25日)週刊誌の記事について
1月23日のNEWSポストセブンに「東大理IIIという別世界 秀才であるがゆえに抱えるリスクとは」という記事が載っていて、「教育関連企業のベテラン室長」が話している。
この「教育関連企業のベテラン室長」は、適性も考えずに東大理Ⅲに受験生を送り込むことでカネを稼いでいる典型的な受験産業のおっさんです。こんな異常な受験産業の雰囲気にいると、東大農学部正門付近で殺傷事件を起こした高校生が出てもおかしくない。受験産業は、受験生を異常な心理状態に追い込んでいるという自覚がない。
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