ほぼ週二 横浜の山の中通信

人と異なる視点から見る

最近の半導体露光装置とEUV・ナノインプリントの補足

2017年03月16日 | 会社

初めにお断りしますが、半導体露光装置の業界は特殊です。メーカーはASML、ニコン、キヤノンの3社しか存在しないし、現在EUV露光装置を提供しているのはASMLのみ。顧客も限られており、液浸露光装置(一台数十億円)に比べて高価なEUV露光装置(一台100億円とか?)を導入できるメーカーは、アメリカのIntel、台湾のTSMC、韓国のサムスン(Intel・TSMCは記事あり。サムスンの記事は見ていないが多分導入している)くらいにあと二・三社と少数。こういう商売をしているので、EUV露光装置に関する情報を敢えて一般に公表するメリットはほとんど無く、これらの会社の関係者が外部に発表するわずかな情報だけです。したがって本当のところはなかなかわかりません。というわけで、初めに言い訳です。

 

今回は3月初旬にブログに来たコメントへの回答と補足です。本日もコメントが来ていますがその通りです。

 

前の記事は以下参照。

2016年5月11日の「半導体露光装置のどんでん返し-その1 お家芸からの転落-

2016年5月14日の「半導体露光装置のどんでん返し-その2 思わぬ伏兵「液浸」-

2016年5月26日の「半導体露光装置のどんでん返し―その3 次世代のEUVは悪戦苦闘中―

 

2016年08月16日の「半導体露光装置のどんでん返し~番外編その1 「リープル」~」、

2016年08月19日の「半導体露光装置のどんでん返し~番外編その2「ナノインプリント」~」

 

  • 最近の半導体露光装置

 

・EUV露光装置で量産は?

ASMLのEUV露光装置を使って、台湾のTSMCが本格的に量産しているという記事は(私が見た限り)出ていないようです。

 

・ニコンがリストラ

ニコンが半導体露光装置部門の人員削減を発表したので、ニコンはEUV露光装置をやらないことがはっきりしました。そうすると、EUV露光装置をやっているのはASMLだけですニコンは液浸露光装置でASMLに負けたままです。

 

・液浸露光装置で10㌨㍍クラスの線幅を実現

ArFレーザー+液浸の露光装置で、マスクをずらして複数回露光するマルチ・パターニングという改良技術で、既に10㌨㍍クラスの線幅を実現しています。ただし、工程が増加して複雑になり、コストアップ要因になっている。

 

・キヤノンの「ナノインプリント」

上記2016年08月19日のブログ「番外編その2「ナノインプリント」」では、「出荷は今年中の予定」と新聞報道を引用して書きましたが、(私が見た限り)出荷したという記事は未だ出ていません。

 

  • EUV露光装置は何が難しいか

 

ある資料を見ていると、EUV(極端紫外線)は本来「軟X線」と言うべき波長領域だそうです。なぜEUVという名前にしたかというと、アメリカでEUVの研究補助金を申請する時に、X線関連の補助金申請が既に多数出ていたので、「軟X線」と言うよりはEUVと言った方が補助金を通し易いと考えたからだそうです。この話は確かめようが無いですが。

 

「軟X線(X線でも波長の長い方、すなわちエネルギーの小さい方)」というとX線という文字のイメージがあり何でも透過すると思いますが、「軟X線」は空気にも吸収されて減衰し、遠くに届きません。EUVは水にもガラスにも吸収されます。

 

EUV露光装置が、従来の露光装置と大きく異なるのは次の3項目です。

 

1.       光学系が異なる

ミラーで反射させる光学系です

2.       露光装置全体を真空にする必要がある

EUVは空気でも吸収されるため

3.       EUVを発生させるレーザーの出力不足

 

1. 光学系が異なる

ArF(波長193㌨㍍)液浸まではレンズ光学系が使えましたが、EUV(13.5㌨㍍)になるとガラス材に吸収されて透過しないので、光学系は反射型のミラーを組み合わせて作る。例えば、凸レンズの機能は凹面鏡を使います。原版となるマスクも従来の透過型ではEUVが減衰するので反射型です。

 

2. 露光装置全体を真空にする必要がある

EUVは空気中でも減衰するので、EUVの光路は真空にする必要がある。ということは、材料を入れて真空にし、露光した後再び大気圧に戻して取り出す必要がある。

 

3. EUVを発生させるレーザーの出力不足

現在のところレーザーの出力が不十分で、露光に使用する光量が少なくなり生産性が上がらない。(モノは作れても、コストが合わない)レーザーの出力を上げる検討が進められているが、未だに不十分。

 

光量はミラーの反射率のべき乗「(ミラーの反射率)ミラーの枚数」に比例するので、ミラーの枚数が多くなると光量はガタンと下がる。例えば反射率を70%(これくらいの数値らしい)、ミラーの枚数を13枚(これくらいは必要らしい)とすると0.713=0.01なので元の1%に激減する)

 

EUVは従来の露光装置とかなり勝手が違うようです。

 

  • ArF液浸露光装置は?

 

・純水より高屈折率の液体を使えば良いのでは?

液浸露光装置で現在使われているのは純水ですが、より高屈折率の液体を使用するアイデアは昔からあり試みられたようです。しかし、現在のところ実用化されていません。

 

・10㌨㍍代の線幅を実現

ArFレーザー+液浸の露光装置で、既に10㌨㍍クラスの線幅を実現しているが、工程が複雑になり、コストアップ要因になっている。EUV露光装置も上に書いたように技術の難しさと生産性に問題がある。結局、液浸露光装置にするか、EUV露光装置にするかは、技術の難易度の他に生産性(要はコスト)も考えた総合的な判断になります。ただし10㌨㍍以下の線幅になると、EUVだろうと言われています。

 

  • ナノインプリントは何が難しいか

 

ナノインプリントの詳細は、下記のURLをご参照ください。削除されていたらご容赦ください。

 

・キヤノンのホームページの「ナノインプリント」の説明

http://web.canon.jp/technology/future/nanoimprint-lithography.html

「ナノインプリント」を開発しているキヤノンのサイト。プロセスが図入りで書かれています。

 

・日経テクノロジーの記事

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20060418/116307/?rt=nocnt

こちらの方が、キヤノンより詳しい

 

キヤノンの「ナノインプリント」もなかなか情報が出て来ませんが、一般的に考えて難しい点は

1)等倍のマスクの製作が難しい

10~20㌨㍍幅の回路ですから、難しくない訳が無い

 

2)ゴミ(異物)を少なくできるか

ウエハー上に塗布してあるレジストに、等倍のパターンが描かれているマスクを押し付けるので、ゴミ(異物)による欠陥が出易い。

 

3)マスクの耐久性

ウエハー上に塗布してあるレジストにマスク(等倍のパターンが描かれている)を押し付けたり剥がしたりするので、マスクにはその度に応力がかかる。これがマスクの寿命を縮めるはずなので、高価な等倍マスクを何回使えるかがコストに効いて来る。

 

と私は推測しますが、実際のところはわかりません。

 

ASMLが手間取っている今、日本勢が盛り返すチャンスですが、日本勢も思うように前に進めないようです。日本勢は再びの「どんでん返し」を起こすことが出来るのでしょうか? 世間は厳しそうです。

 

2017.03.16

 

2018年1月のブログはこちら

 


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2017-09-03 21:22:34
ナノインプリントは仮にうまくいったとしても安すぎて露光装置産業そのものが縮小しそう。
利益は代わりに大日本印刷などのマスク製造メーカーに流れこむと考えれば、外国メーカーに日本メーカーが勝った例にはなりそうですが。
マスク製造の日本のシェアによってはそれも無いのか?
返信する
Unknown (Unknown)
2018-01-01 17:06:49
東芝へのナノインプリントの納入記事が出ましたよ。
うまくいって欲しい日の丸露光装置 2018/1/1
返信する

コメントを投稿