インドネシア高速鉄道とは
インドネシア初の高速鉄道は、首都ジャカルタとバンドン間の142キロメートルを結び、設計速度は350Km/時で、中国から4900億円の借款(借金)をした。バンドンは山間部にあって比較的涼しく、人口がインドネシアで三番目に多い都市。この高速鉄道、初めは日本が関わっていたが、最終的に中国が工事を受注したという経緯があり、日本のメディアは批判的な記事を書いている。
この高速鉄道の起工式は2016年1月にジョコ大統領も出席して行われたが、用地買収の遅れなど、いろいろの要因が重なり、当初開業予定の2019年から予想通り大幅に延期された。

インドネシア高速鉄道に関する今までのブログ
このインドネシアの高速鉄道は、私のブログでも何回か書いている。
2015年10月18日の「インドネシア新幹線は中国が建設へ」
2016年02月24日の「インドネシア新幹線は日本が引き受けるべきか?」
2016年06月14日の「中国の高速鉄道計画、ロス・ラスベガス間は中止、インドネシアは?」
高速鉄道に好意的な中国の経済雑誌「財新」の記事
週刊東洋経済の2021年6月19日号は、中国の経済雑誌「財新」の記事「インドネシア初の高速鉄道、22年末運転へ」を紹介している。「財新」の記事を一部加筆修正して紹介する。
「土木工事は全体の83%が完了した。全線で13カ所あるトンネルのうち8カ所がすでに貫通し、主要区間の大部分の連続高架橋およびその支柱の施工は完了した。今年6月からはレールの敷設を開始し、年末にはすべての高架橋の建設を完了する予定」
と書いていて、2022年末に開通する見込みが立ったという記事。「財新」は中国の雑誌なので、中国寄りの内容になっている。
高速鉄道に批判的な日本経済新聞の記事
今年2021年1月22日の日本経済新聞には、「着工5年、遠い開業、中国主導、計画甘く」という記事が載った。ここには「工事の進捗は、2020年12月の時点で65%弱」とある。
遅れの原因は
・土地収用が2016年末の予定が2020年にずれ込んだ
・新型コロナウィルスで中国人スタッフが帰国した
・相次ぐ大雨による災害
であるが、インドネシア政府は2022年中の開業を目指していると書いている。
これからが大変
本当の問題は、バンドンまでの高速鉄道が開通してからで、バンドンからどの方向に高速鉄道を延伸するのか、しないのか、それとも? ジャカルタとバンドン間は142キロメートルで、日本で言えば東京と軽井沢間のような距離。こんな短距離では、高速鉄道の発展性は無いし、経営も厳しい。
ジャワ島で人口の多い地域は、ジャワ島北部沿岸の平野地帯。ジャワ島で人口の多い都市は、北部西端にある首都のジャカルタ、北部東端のスラバヤ、山間部のバンドンの順番。したがってジャワ島の高速鉄道は、人口の多いジャカルタからスラバヤを、北部沿岸の平野を通るべきだった。しかし、ジャカルタとスラバヤ間は約700キロ離れているので、工事費が高くなりすぎるという課題があり、より近いジャカルタとバンドン間に決まった経緯がある。
しかし、現在の高速鉄道の終点のバンドンは山の中にあるので、高速鉄道を延伸しようとすると工事費が高くなるし、バンドンから先は人口の少ない地区を通る。そして、スラバヤまで延伸しようとすると500キロ以上になり、北部沿岸地帯を通るよりも工事費は膨張する。
これを日本に例えると、東京から軽井沢まで新幹線を作ったのは良いけれど、そこから大阪まで延伸するようなもの。初めのボタンの掛け違いが、踏んだり蹴ったりの結果になりそう。どうするのかな?
金を返すのは不可能
上記のような文を書いていたら、2021年9月30日のJBpressで、立命館アジア太平洋大学客員教授の塚田俊三氏が「中国にさらわれたインドネシア高速鉄道プロジェクトはいま…」を書いているのを見つけた。この記事では、特に金銭面での解析を詳しく行っている。今後の問題点を挙げて、借金を返すのは不可能と書いている。
さらに、2021年10月14日の日本経済新聞には「高速鉄道 中国案のツケ インドネシア、費用膨張で税金投入検討」と言うインドネシア特派員の記事が出た。インドネシア政府は、当初総工費を55億ドルと見積もったが、少なくとも79億7千万ドルになるという見積もりが出てきて、税金投入が必至という記事。
また2021年7月15日の現代ビジネス「中国受注の『インドネシア高速鉄道計画』ここへきて問題噴出の自業自得」と言う記事があり、バンドンまでの高速鉄道の工事遅れなどの問題点を紹介している。ここでは工事の進捗率を74%としている。
工事の進捗は?
これらの記事から工事の進捗を引用すると、
2020年12月(日本経済新聞) 65%弱
2021年6月(財新) 83%
2021年7月(現代ビジネス) 74%
2021年10月(日本経済新聞) 79%
となり、中国の財新は日本メディアより甘い数字になっている。どちらの記事も2022年末の開業と書いているが、もしかしたら日本メディアは2022年末開業も厳しいと書きたかったのかもしれない。
2021年10月17日
(補足 2021年10月18日)
わかりにくいもしれないので補足します。
インドネシア高速鉄道は、本来は人口密度の高い北岸部を首都ジャカルタから人口第二の都市スラバヤを繋ぐルート(図中①)を作るべきでした。しかし、両都市間は約700キロメートル(東京と岡山や広島まで)と長いので工事費がかさむなどの問題があり、ジャカルタとバンドン間のルート(図中②)になった経過がある。

しかし、上に書いたようにバンドンまで完成したとしても、そこから先に延ばすのが問題。北岸に戻り、スラバヤを目指すルート(図中③)は、バンドンを経由した分、さらに時間や費用がかかることになる。あるいは、観光地のボロブドールや古都のジョクジャカルタを目指すルート(図中④)もあるが採算がとれるかどうか。いずれのルートも問題が多い。