苦労の末、掘り起こした木の根っこ
交通事故という突然訪れた不幸で母親を失った甥っ子君。大学も仕事も全て東京での生活であり、住まいは埼玉の高層マンションであった。
彼の母親とはもちろん、私の実の姉である。10歳も離れているので、甥っ子とはいってもすでに定年退職を迎えた歳になっている。
頑張り屋の姉は、十分な住居を構えているにもかかわらず、「年を取ったら田舎の緑のある家に住みたい」と言った長男の言葉を信じて、緑に囲まれた土地を新たに購入し新築した。新居に住むこと2年足らず。85歳で突然逝ってしまった。
あれから3年の時を経て、母親の遺志を継いで長男が戻って来た。といっても飽くまでも当面は単身である。
緑に囲まれた田舎の一軒家は、3年も放っておくと、その荒れようは推して知るべし。竹や雑木は伸び放題。草や花木などは生い茂る藪の如し。
彼が田舎に住み着くというのならこの叔父も放ってはおけない。草刈り機を駆使し、大釜を振るって、少しずつ少しずつ住環境を整えて来た。
ようやく全体像が見え始めると段々欲が出てくる。「この木を取り除いたら少し見栄えが変わる」といった塩梅である。
しっかり根付いて枝葉を広げた木を掘り起こすのは大変な重労働である。「こうやってね、根っこの周りをツルハシで掘り起こして」とやって見せる。
後は若い彼の出番。こちらは経験と培ったノウハウを口で教える。彼は彼なりに、時間をかけながらではあったがよく頑張った。
それは、ハワイに移住した開拓者の苦労に少し似ていた。もちろん映画で見る西部の開拓者の姿も重なった。
「ついに起こしたよ!」と嬉しそうに電話の向こうで甥っ子の声が弾む。やおら出向いてみると、写真の如く掘り起こし、根っこが空を向いて転がっている。ここはイチバン、言葉を並べてベタ褒めを!!「ようやったねぇ、大変じゃったねぇ」とねぎらう。少し間をおいて、「あの木も切り取って草刈り機をかけると、きれいさっぱり気持ちのいいお正月が迎えられるよ」と叔父の意見を述べておく。まあボツボツではあるが、日々少しずつね、と。
甥っ子の開拓者魂を適度に刺激しながら、この手にも足にもムチ打ってまだまだ応援してやらねば。荒れさせる前の姿に戻すにはまだまだ時間を要する。