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パノラマニア十蘭 久生十蘭

著者については、戦前の探偵小説家ということと、名前が「久しく食うとらん」という駄洒落になっているということくらいしか知らなかった。本屋さんで手頃な感じの短編集を見つけたので何となく読んでみた。本書は、探偵小説というよりは伝奇小説風で、昔の小説家らしく博学であることがすぐ判るようなペダンチックな文体の短編が収録されている。時代小説あり、冒険談ありで、ジャンルを特定することもできないし、とにかくその文体にしか共通点がないような作品群だ。戦争に関わる話の悲惨さは、これまでに読んだどんな本よりも心に響く。そうした悲惨さがさらりと書かれているのがとにかく恐ろしい。これらの話では、戦中戦後という書かれた時代の香りが強く感じられるが、全体を通してみるとそればかりではない。不思議な話もあれば、ちょっとした日常風景といった趣の話もある。とにかく捉えどころがない。少なくとも本書だけでどういう作家なのか判る様な一筋縄ではいかない作家であることが判ったという気がする。(「パノラマニア十蘭」 久生十蘭、河出文庫)

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