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英文ケースレポートの書き方 CASE DESCRIPTION その1:病歴を書く

2016-05-16 | 勉強会

英文ケースレポートの書き方

徳田安春

CASE DESCRIPTION その1:病歴を書く
~わかりやすい病歴は「シ・ゲ・キ+α」が重要~

 ポイント

では、今回はCASE DESCRIPTIONを書いてみよう。まずは病歴。ポイントはこれ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1. 主訴
2. 現病歴
3. 既往歴+アルファ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
つまりは、上の3項目を書くこと。もちろん必要に応じて項目を増やしてもよい。

主訴を含む現病歴の文は主要な症状ではもれなく表す。その主訴がいつからあったかについても書く。既往歴+アルファの「アルファ」には、重要であれば手術歴、外傷歴、内服歴も適宜入れ、必要に応じて生活歴、家族歴も入れる。今回の症例で最も重要な現病歴を中心に記載すればよい。

 「主訴」

CASE DESCRIPTIONは論文のメインディッシュなのでたいへん重要。逆に、ここがきちんと書かれていないとリジェクトの可能性が高い。それではサンプルからみていこう。今回はまずA sneeze: an unusual trigger for aortic dissectionから引用した(1)。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
A 57-year-old man developed sudden onset of severe left-sided pleuritic chest pain radiating to his neck and back associated with breathlessness immediately following a forceful sneeze. He presented to the emergency department after 3 h of the onset of symptoms. His medical history included asthma and gout. There was no family history of aortic disease, sudden death and structural cardiac abnormalities. His only regular medication was a salbutamol inhaler.
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

上記サンプルでは次の文で起こされている。

A 57-year-old man developed sudden onset of severe left-sided pleuritic chest pain radiating to his neck and back associated with breathlessness immediately following a forceful sneeze.

冒頭文に年齢と性を冒頭に置くのは定型ルールである。ここで、maleではなく、manを使用していることにも気づいた読者は多いだろう。maleやfemaleはなるべく使用しないことだ。

ここで使用されている、下記の構文は応用可能であることがわかる。これをマスターするとCASE DESCRIPTIONの書き出しがスムースになる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
構文その1:
developed sudden onset of associated with
患者が突然にとを発症した
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一般に、発症様式onsetには、突発sudden、急性acute、緩徐gradualの3種類がある。それぞれの場合にあわせて、上記の構文の突発suddenを、急性acuteや緩徐gradualに置換すればよい。

余談かもしれないが、これらのなかでも突発発症は臨床的に重要である。なぜなら、「突発」というと、病態の機序が「つまる」「さける」「やぶれる」「ねじれる」からいずれかを示唆しているからだ。上記ケースの疾患は大動脈解離であり、大動脈が「さける」病気だ。

 「現病歴」

つづきの文をみてみよう。

He presented to the emergency department after 3 h of the onset of symptoms.

ここで、発症3時間後に救急受診していることがわかる。主訴がいつからあったかについて書かれている。これも応用可能な構文である。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
構文その2:
presented to after (with)・・・
患者が・・・のあと(を訴えて)に受診した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここで、to の部分は除いて、
presented with・・・
としてもよい。また、after (with)のあとに「症状の名詞句」を記載すれば、冒頭文としても利用可能である。このとき「症状の名詞句」には 
a 3-day history of sore throat
a 2-year history of insomnia
などのように、症状の「期間」を前に置く表現を用いてもよい。

 「既往歴+α」

つづきの文をみてみよう。

His medical history included asthma and gout.

これは併存症。pastという形容詞がmedical historyについて無いことでそのことがわかる。もしあれば、完全な既往歴となる。つづきの文をみてみよう。

There was no family history of aortic disease, sudden death and structural cardiac abnormalities.

これは家族歴。大動脈疾患の原因にはMarfan症候群やEhlers-Danlos症候群などの家族歴がある場合もあるので家族歴は重要である。つづきの文をみてみよう。

His only regular medication was a salbutamol inhaler.

薬歴である。疾患の原因のなかには薬剤性のものも多いので薬歴も重要である。

 「主訴」

では、別のサンプルをみてみよう。下記はBoerhaave's syndrome presenting as an upper gastrointestinal bleedから引用した(2)。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
A 64-year-old man with no significant medical history presented to the emergency department with haematemesis and melaena. The patient reported overnight retching and vomiting, with a sharp pain localised to his throat after consumption of a boneless tuna salad. The patient denied taking any medications including over the counter medications. The patient had no variceal risk factors.
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

上記サンプルでは次の文で起こされている。

A 64-year-old man with no significant medical history presented to the emergency department with haematemesis and melaena.

前述の「構文その2」が使用されている。主訴を示している。また、
with no significant medical history
という形容詞句を主語に付けており、「とくに既往の無い」ということを表現している。

 「現病歴」

つづきの文をみてみよう。

The patient reported overnight retching and vomiting, with a sharp pain localised to his throat after consumption of a boneless tuna salad.

追加の病歴である。今回の主訴の前に、嘔吐や前頚部痛などの症状がおきていたことを著している。病歴聴取で判明した重要なストーリーである。これは応用可能な構文である。
病歴上で重要な情報を追加する際に使える。つづきの文をみてみよう。

The patient denied taking any medications including over the counter medications.

追加の病歴のうち、重要な陰性所見である。英語ではpertinent negativeという。これも応用可能な構文である。この2つの構文をペアで覚えると便利。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
構文その3:
reported・・・
患者は・・・があったと言った。
denied・・・
患者は・・・はなかったと言った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

病歴上で重要なpertinent negative情報を追加する際に使える。・・・には名詞、名詞句などを置けばよい。

 「既往歴+α」

病歴で最後の文をみてみよう。

The patient had no variceal risk factors.

医学的に解釈した危険因子がないということをコンパクトに「美しく」表現している。同様に、冠動脈疾患の危険因子が無いという場合には、下記のように書けばよい。

The patient had no coronary risk factors.

そうするとこれも構文として使えるということだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
構文その4:
had no ・・・ risk factors.
患者には・・・の危険因子は無かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「トクダネ」ポイント
構文その1:
developed sudden onset of associated with
患者が突然にとを発症した
構文その2:
presented to after (with)・・・
患者が・・・のあと(を訴えて)に受診した。
構文その3:
reported・・・
患者は・・・があったと言った。
denied・・・
患者は・・・はなかったと言った。
構文その4:
had no ・・・ risk factors.
患者には・・・の危険因子は無かった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ミニテスト:穴埋め問題(下記のカッコ内を埋めよ)
 例:20歳の男性患者が急性発症の重度の腹痛を発症した。
   A 20-year-old man developed ( ) onset of severe ( )
解答: acute, abdominal pain
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回は身体所見の書き方に移る。こうご期待!

参考文献

1)Upadhyaya SG, Large A. A sneeze: an unusual trigger for aortic dissection.BMJ Case Reports. 2013 Dec 3

2)Lee W, Siau K, Singh G. Boerhaave's syndrome presenting as an upper
gastrointestinal bleed. BMJ Case Reports. 2013 Nov 29

 

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徳田安春
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