東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

岩田慶治,『東南アジアのこころ』,アジア経済研究所,1969

2008-12-16 19:02:36 | フィールド・ワーカーたちの物語
前項に続き、これも著者のタイとラオスでのフィールド・ワークを紹介したもの。
調査地域がすごいんですよ。
北ラオス・ルアンナムター、ヴァンヴィアン(ヴァンヴィエン、バンビエン、ワンウィエンと表記される。)の近くのパ・タン村で、今、バックパッカーの巣窟と化した地域のすぐ近くなのだ。
そこで50年くらい前に滞在調査し、その後1968年に再訪した時の話が最初に語らえる。
なんと、この時は政府とパテト・ラオ派の抗争の真最中で、アメリカ軍も駐留していたのである。
ルアン・ナムター方面に行く方、ぜひとも一読を!

そして、本書の残り三分の二は、東北タイのドン・レーク(ダンレック)山脈北側とナム・ムーン(ムン川)にはさまれた地域、スリン県のプルアン村周辺の記録である。

前項『日本文化のふるさと――東南アジアの民族を訪ねて』よりも、日常生活、現在の収入や将来のこと、現実の問題などが扱われる。つまり、来世がどうの精霊がどうのという話は少ないので、その方面が苦手な者でも読める。

当然、著者の見方の中で、現在の研究水準からみておかしい部分もあると思う。たとえば、わたしが気になったのは、村人へ将来設計のことを質問するやりかた。これは、どうも純粋学問的にみると、誘導尋問のようなもので、危ないのではないだろうか。ただし、この部分も過去の記録としてはおもしろい。
民族とは何かとか、ラオ人とクメール人の過去の移動・移住、ラオ人とクメール人の違いといった話題も、分析が荒っぽいように思える。

以上、批判がましいことも書いたが、本書が書かれてから40年、調査時期からみれば50年近くが経過しているので、こういう時代もあったのか、と驚く貴重な記録である。
前項と同じく、
岩田慶治著作集第1巻『日本文化の源流 比較民族学の試み』,1995,講談社
に収録。


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