東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

寺田勇文,「イグレシア・ニ・クリスト」,2002

2008-08-11 20:13:03 | フィールド・ワーカーたちの物語

「フィリピン生まれのキリスト教会」というと、フィリピン革命のなかで生まれたフィリピン独立教会がまず第一におもいうかぶが、これはまったく関係ない、1913年にフェリックス・マナロという人物によって創設された教会。

創設者の突然の啓示体験、貧民街での布教、『ヨハネによる黙示録』7章2-3節の〈もうひとりの御使が、生ける神の印を持って、日の出る方から上って来る……〉という記載を根拠にした教義、カトリック教会からの弾圧、各種のプロテスタント教会の教義をごちゃまぜにしたような主張、農民層信者の増加、信徒によるブロック投票(教会側は関与を言及せず)、というぐあいに書いていくと、日本の新宗教と同じようなものか……という感想がでてくる。

おさだまりの弾圧、創立者の死亡と指導者交代と内部分裂、政治権力との癒着、一定の勢力を得て安泰、もしくは衰退、というのが標準コース。

ところがフィリピン、一筋縄ではいかない。
上述のよくある矛盾や問題もおきているが、今のところ順調に信者数を伸ばし、確固たる地位を築いているようにみえる。
さらに海外への進出。
これがフィリピン人出稼ぎと移民の流れにそった拡大なのである。日本では米軍基地の町から始まり、出稼ぎエンターテイナーの拠点に教会ができる、という道筋である。

この種の新宗教は、西洋の衝撃と植民地状況における民衆のヒステリー的運動……という具合にわたしは把握していた。たいていの新宗教の場合、その線にそった変化を経ているのだが、新しい捉え方、新しい変化が起きているようである。

はたして、教会側の主張するような、アジアの側から西洋の側へ布教する時代が来るか?なんと、アメリカ軍基地のあるインド洋のディエゴ・ガルシア島にも信徒グループが存在する。教会が多いのは北アメリカとオセアニア。イスラエルにも教会がある!

それとともに、フィリピンのカトリック側でも民衆の不満や矛盾に応えるエル・シャダイのような宗教運動が起きているそうです。

フィリピン語で Iglesia Ni Cristo (初期にはKristo というスペルもあり)
英語で Church of Christ、チャーチ・オブ・クライスト

寺田勇文,『東南アジアのキリスト教』,めこん,2002 所収


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