水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

四十九日のレシピ

2013年11月12日 | 演奏会・映画など

 めったにないけど、満員の映画館で、作品もよくて、みんなで一体感をもって笑える空間に居合わせたりすると幸せだ。先日渋谷で観た園子温監督「地獄でなぜ悪い」は、まさにそれだった。
 逆もある。広い客席にぽつんと座り、周囲を気にすることなくさめざめと泣いていられるのも、いい。
 公開二日目の日曜夕方、南古谷ウニクスのお客さんは4人、「四十九日のレシピ」を味わうのに、このうえない環境だった。
 原作を読んで感動したのは、いつ頃だったろう。話の細かい点は覚えてないが、キャストといい、作品全体の雰囲気といい、読んだときのしみじみ感を思い出した。
 キャラクターを作りすぎたかなと思った箇所はいくつかある。岡田くんのブラジル人青年役、原田泰造の不倫相手の女性を悪者にしすぎたこと、石橋蓮司のお姉さん淡路恵子さんも強すぎた。永作博美さんも、お芝居のうまさは言うまでもないのだから、あと10%演技抑えめでもいい。
 亡くなった石橋蓮司の奥さんの若いころを演じた荻野友里さんが、昭和な感じがよく出ててすごくよかった。
 そして、二階堂ふみがとんでもなくいい。キュートかつ達者。「地獄でなぜ悪い」よりさらに2ランクぐらい上、「ヒミズ」のころとは別人だ。どこまで器が大きいのか見当が付かない。男子で、このレベルの若い子がみつからないけど、たんに自分の嗜好ゆえだろうか。
 石橋蓮司さんは、ほぼすべての日本映画に出ている感覚があるが、主役あつかいのは初めて観る。
 その実力と存在感は圧倒的で、川を眺めて佇んでいる姿をみるだけでこみあげてくるものがある。そこに、亡き妻との若いころの思い出が重ねられたなら、号泣せずにいられようか。
 人は亡くなる寸前に自分の人生を一瞬にして思めぐらすという。
 ほんとかな。そんな気もするけど、最近思うのは、自分のことより、身内のこととか考えてしまうんじゃないかな、って。
 たとえば、仮に自分がまもなく生を終えるとわかったら、そりゃあ未練に思うはずだし、やり残したこともあるし、こんなこともしておきたかった、あの人に会っておきたかった、ぶんぷくのカツ丼をもう一度食べに行っておけばよかったと悔やんだりもするだろう。ただ、それ以上にやはり残される身内のことは考えるだろう。自分が心配するほどのことはないとは思うけど。
 自分がいなくなった後、お父さん(夫)は大丈夫かしら、そうじは? ごはんの支度は? ああ心配だ、そうだレシピを書いて残しておこうと書きためた妻の気持ちは、わかる気がする。
 自分が死ぬ寸前でも、ごはん食べたか、湯冷めするなよ、帰りが遅いときは気をつけろ、明日は弁当いるのか、とか言っている状態。
 そんなことを思うのも、自分が人生の後半に入っているからだろうとは思う。

コメント (2)
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