コンクールの当日、某久喜高の先生といっしょに待ち時間に繙いていた高野和明『ジェノサイド』。
久喜校さんより一足先に余裕ができてしまったので(涙)、昨日じっくり読み切ることができた。
ホワイトハウスのミーティングの場面から始まる物語は、特殊な任務を帯びてコンゴに投入される傭兵たち、同時に東京の大学院生が父の急死とともに不思議な事件に巻き込まれていく様子を描く。
東京。突然の父の死。その父が残したのは「肺胞上皮細胞硬化症の治療薬をつくれ」というメッセージだった。 不審に思いながらも、それに従って行動しようとした古賀研人は、何者かに身柄を拘束しようとされる。
なんとか逃げおおせたものの自分がどんな状況におかれたのかを把握することができない。
公安警察の追ってをかいくぐり父が用意してあった隠れ家で薬を完成させようとしながら、研人は自分の使命に気付いていく。
「人類を救うためにコンゴのある部族を殲滅させよ」と命令された傭兵部隊は、数週間の準備ののち現地に向かう。そのうちの一人イエーガーは、肺胞上皮細胞硬化症に侵された息子の治療費を稼ぐために、高額の報酬を得られるこの特殊任務に参加していた。
作戦遂行中「見たこともない生き物」を目撃したときにはすぐに抹殺せよとの命令も同時に受けていたが、その意味が今一つわからないままにいた。
ホワイトハウスの真の意図に気付いたイエーガーたちは、「見たこともない生き物」をつれてアフリカ脱出をはかろうとし、それに気付いたホワイトハウスとの闘いが活写される。
望んで選んだわけではない苦境に立たされている二人の男を中心にした物語がリンクしていくが、それを意図的につなげてていたのが、「見たこともない生き物」であることがだんだんとわかってくる。
「見たこともない生き物」がどういうものであるかは是非お読みいただきたい。
アメリカ映画ではつくりだせない存在だ。
それにしても東京編もアフリカ編もディテールの書き込みがはんぱない。
研人が薬を開発する過程も、イエーガーたちを「処理」しようとする通信衛星やら最新の武器も。
登場人物が、しかも一見ごく普通の人間が、特殊な状況に追い込まれ、その苦境をなんとか乗り切ろうとする過程のなかで、自分の存在価値ややるべきことに気付いていくのはエンタメ小説の基本骨格どおりだ。
そのプロットをささえているのは、筆者が圧倒的な筆力で書き込んだディテールの積み重ねだ。
大切なものを守るために命をかけてきたこの二人が出会う場面が、物語の終わりの方に用意されている。
終わるのがもったいなくて、南古谷ウニクスのタリーズで本日のコーヒーのショートを注文し、この場面にたどりついたときには涙をこらえられなかった。
でもこれ、なんで直木賞とれなかったのだろう。