淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

車谷長吉はやっぱり凄い! 朝日新聞「悩みのるつぼ」を読んで思わず唸ってしまった。

2009年06月15日 | Weblog
 作家、車谷長吉は只者ではない。
 彼の小説を初めて読んだのは、「赤目四十八瀧心中未遂」である。直木賞を獲った作品だ。
 「赤目四十八瀧心中未遂」に感銘を受け、それから彼の小説を何冊か、それからエッセイの類も読んできた。

 彼には毒のようなものがある。
 私小説作家として名を成した車谷長吉は、私小説という特殊なジャンルから生じる様々な軋轢と闘った。
 これは一概にどうこう言える話(つまりナーバスな事柄でもあり、短絡的に言い尽くせる話ではないけれど)ではないけれど、当然、「私」の「小説」である以上、実在する人間とのトラブルや訴訟騒ぎに発展する場合もあるわけで、個人的なプライバシーをどこまで小説に描けるのかが問題となってくる。
 車谷長吉は、精神的に患い、長い闘病生活を送った。
 
 小説が世に出るまで、約10年間、住み込みで働き、貧困生活も送っている。
 彼の書く小説は、凄みがある。覚悟を強いられる。生半可な気持ちで読めないのである。

 そんな彼が、朝日新聞日曜版で「悩みのるつぼ」という読者からの人生相談に対応していた(6月13日 日曜版)。
 つまり、悩み事に関する回答者としてである(毎週、回答者は代わるようだけど)。
 これが頗(すこぶ)る痛快で、面白い。

 相談者は、40代の男性高校教師。
 5年に一度程度、自分をコントロール出来なくなるくらい、女子生徒に没頭してしまうのだとか。つまり、教え子の中に好きな子が出来てしまうのだ。抑え切れない激しい情動で身悶えてしまう・・・どうしたらいいでしょうか?

 それに対する車谷長吉の回答が凄い!
 彼は言う。
 私は30代、月給2万円で料理場の下働きをしていて、その間、人の嫁に次々と誘われ、姦通事件を3件起こし(3件も起こしたということは、それなりの修羅場を迎えたということだろう)、人生と金についてよくよく解った。
 人間に生まれたということは「不幸」だということである。
 人の生は産まれたときから始まるのではない、生が破綻したときから人生は始まるのである。
 従って、破綻の人生がなくて何が人生か!
 あなた(つまり相談者)は、破綻するのを恐れている。それでは駄目だ。
 職業も、名誉も、家庭も失って、そこからすべてが見えて来るのである。だから、あなたは、その女生徒と出来てしまいなさい!
 そのとき、生とは何かが見えて来る!
 阿呆になることが一番です。

 これが回答である。
 凄い。車谷長吉は凄い。
 生半可な言葉で語っていないところが凄い。

 いい加減に語った瞬間に、あるいは茶化した瞬間に、人は奈落の底に転落する。
 だから、俺もいつか転落するに違いない。たぶん。





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