考えるための道具箱

Thinking tool box

◎世界文学全集。

2007-05-20 21:33:44 | ◎読
「敢えて古典を外し、もっぱら二十世紀後半から名作を選」ぶとこうなるのか。もちろん、選者は池澤夏樹なので、一切の心配はないわけだが、それにしても、よくわかないところもあり、現役中は判断を留保しておきたい。読んだことがないどころか、知らない作者も多い。でも留保しているうちに、消えてしまったり、離散してしまうのが文学全集の常なので、抑えるべきか。ブックデザインもイケているし。とりあえず新訳・初訳を中心に★印バラ買い?まあ、まだ先の話だし、決めることはないか。

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河出書房新社 創業120周年記念企画
池澤夏樹=個人編集
世界文学全集

■第Ⅰ集 全12巻(2007年11月~2008年11月)

1 オン・ザ・ロード(ケルアック)新
2 楽園への道(リョサ)初★
3 存在の耐えられない軽さ(クンデラ)新★
4 太平洋の防波堤/愛人ラマン(デュラス)
  悲しみよ、こんにちは(サガン)
5 巨匠とマルガリータ(ブルガーコフ)改
6 暗夜(残雪)初
  戦争の悲しみ(バオ・ニン)
7 ハワーズ・エンド(フォースター)
8 アフリカの日々(ディネーセン)
  やし酒飲み(チュツオーラ)
9 アブサロム、アブサロム!(フォークナー)
10 アデン、アラビア(ニザン)新★
  名誉の戦場(ルオー)
11 鉄の時代(クッツェー)初★
12 アルトゥーロの島(モランテ)新
  モンテ・フェルモの丘の家(ギンズブルグ)
  
■第Ⅱ集 全12巻(2009年1月~2009年12月)

1 灯台へ(ウルフ)新★
  サルガッソーの広い海(リース)
2 失踪者(カフカ)
  カッサンドラ(ヴォルフ)
3 マイトレイ(エリアーデ)
  庭、灰(キシュ)初
4 アメリカの鳥(マッカーシー)新★
5 クーデタ(アップダイク)★
6 軽蔑(モラヴィア)
  見えない都市(カルヴィーノ)
7 精霊たちの家(アジェンデ)
8 パタゴニア(チャトウィン)
  老いぼれグリンゴ(フエンテス)
9 フライデーあるいは太平洋の冥界(トゥルニエ)★
  黄金探索者(ル・クレジオ)
10 賜物(ナボコフ)新★
11 ヴァインランド(ピンチョン)
12 ブリキの太鼓(グラス)新★

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ピンチョンは入っているけれど、バースとか、うーん、ヴォネガットとか入らないんだなあ。やっぱり。ところで『Mason & Dixon』の翻訳は、そろそろなのだろうか。もはや、翻訳というより研究に近いだろうから、結構たいへんなのだろうなあ。きっと訳注で一冊できるくらいなのだろう。漏れ聞く「歴史のなかでの「書くこと」の倫理」、「狂気の語り」、「生者、死者、他者」などのキーワードの限りでは、たいへん面白そうなのだけれど、きっとキリスト史観がわからないと、まったく面白くないのだろう。

◎コンサルタントの現場力。

2007-05-20 00:59:30 | ◎業
梅田望夫のいうところのスランプというのは、かなりのところで共感できる。予感があって、予感どおりに訪れて、なら予防線をはっておけばいいのだけれど、なんだか腰が重くて、そうこうしているうちにあっという間に絡めとられてしまう。テンションが高いときだと、問題解決のツールも発動できるのだけれど、こんなことしても解決できないんじゃないか?といった疑念があたまを掠め、フットワークも重くなる。うん、確かにヤなものだ。これはやっぱり『フューチャリスト宣言』を読むしかないのか。

それはさておき。って、あんまりさておいてないけれど。

自分の考え方とか立ち位置を追認するような共感のためだけの読書の時間はもはやそう多くは残されていないのだけれど、いっぽうで、そういった本(に提起されている考え方)を広く伝えていくという職責もあるわけで、てっとり早く共通認識のレベルをあわせていくためには、やはり、よい本をおすすめしていくことも必要になる。

ということで、野口吉昭の『コンサルタントの「現場力」』。ちょっと古い本だけれど(2006年)、見逃していた。自分自身への効果としてはきっと『フューチャリスト宣言』と同じようなものでああ同じような考えと立ち位置をもつ人がここにもいるのだ、と多少なりともHPが回復する。そもそも彼がリードしてHRインスティテュートが著している本の多くは本質をついていることが多い。売れ筋狙いのパッケージのものが多く書店ではスルーしてしまいそうになるし、いくつかの本については恐ろしいほど冗長なため全文を読み通す必要もないのだが、そこから発見できる上澄みのようなものは、経営課題やマーケティング課題の解決においてジタバタあがいた結果として見出せる法則のようなものでこれはかなり正しいところをついている。

それゆえに、この『コンサルタントの「現場力」』でもそうなんだけど、いくつかのレビューにみられるように、一読すると、具体的なノウハウはないし、ロジカルでもない、たんなる自慢話のように読めてしまうというのも頷ける。しかし、では、実際にノウハウがないか?というとそんなことはなく、それは、よりリアリティーの高いノウハウであったり、メタノウハウのようなものであったりするため、場数を踏んでいない人には、もう少しいうと、失敗を経験していない人には、少し実感しにくくなっているというだけにすぎない。きっと、あと一歩、体系化すれば、そういう人たちにもピンとくるようになるのかもしれない。いずれにしても、なにがしかのB to Bサービスを生業としている人にとって学ぶべき重要な立ち位置が明確になっている。いくつか、トピックを拾ってみる。


■「自分の軸の中に相手の軸を入れるのがコンサルタントの真価」
よくわかる。もちろんここには、弁証法的に考えるというキーノートも含まれているが、それ以上に、相手の置かれた立場、相手がその資料をもって臨む会議のパワーバランス、話し方の順序など、どれだけ彼に憑依できるのかがポイントになる。その資料は、当該の担当者を説得するために必要なのか?彼が思う方法で第3者を納得させるために必要なのか?一見、同じように見えるが微妙に異なるこの違いのようなものを突き詰めていくことが重要だ。これは別項で、語られている「幽体離脱-複数の意識を使い分ける」と同じようなことだろう(このあたり、同じようなことが、まったく別のところでも語られていることが、この本の構造の弱さなのかもしれないが、なにかを鮮明に残していくためには、こういったくどい方法もときには必要。そもそもこれは手軽な新書だ)。

■「論理思考とは「わかりやすく!」の一言。」
つまり論理思考とは、できるだけ多くの人に理解・共有される土台をつくることであり、またとことんロジカルにつき詰めていっても最後に飛べなければ意味はないということでもある。

■「一つの叩き台をもとに議論をすると、どうしても「丸く」なってしまう。それを避けるのがオプション思考の最大の目的だ。」
野口はオプションをあて馬でもなく、単純な選択肢でもないと定義していて、じつはこれは厳しい指摘ではあるのだが、表記の考え方は、ようは、一極だけで議論すると重大な欠落を見落とすこともあるだろうし、議論の徹底ができないことが本質課題をぼやかしてしまうということを言いえている。選ばれるようなオプションではなく、対論を(出さなくとも)強く認識し、対論を擁護するためのストーリーを考えることころまで準備できれば、議論はいっそうクリアになる。

■「課題解決を加速させる『蝶ネクタイ』チャート」
もしくは「算盤の玉」チャート。本質を凝縮させた後、再び蘇生拡散してみる。もしくは、めいっぱいwhatで拡散させたあと、whyで凝縮させ、howで解を求めていく。ロジックツリーをくっつけ行きつ戻りつする、このチャートは、いまでは多くのプランナーが当たり前に、自家薬籠中の物としている。重要なのは、何度もツリーを書き直して本質を凝縮させる、ということだ。

■「(提案書・企画書の)一枚一枚に結論をいれる。」
これも当たり前のように見えるが、ときに、それがない戦略企画書など見ることもあり、じれったくなる。これが、A3サイズの企画書をつくるよりA4サイズの企画書をつくるほうが、じつは難しいといわれる所以ではある。もっとも、アウトラインプロセッサーやマインドマップなどのツールを使い、事前に流れと概念のフェイズが詰めるクセがついていたら、落とすことのないはずのルールではある。しかし、容易にすませられるものではないことに変わりはない。

■「最後に必要なのは『笑い』。」
結局のところ、現場が楽しいことがなにより重要で、言い換えれば、現場を楽しくするためにコンサルティングのような仕事がある、と言っていいのかもしれない。しかし、駄洒落や一発芸で笑わせるわけではないので、これもまた難しい。エスプリが必要であり、じつはこのエスプリもじつは……

■「その際の前提になるものこそ、泥臭い地道な活動を通して得た事実(ファクト)なのである」
ということで、なにもファクトはソリューションや成果のためにだけ必要なのではなく、コミュニケーションにおいても重要なのである。ファクトを知るがゆえに話せる「気の利いた面白い話」があるわけで、例えば、年かさも立場もキャリアも趣味も大きく異なる担当者にまさかいきなり昨日テレビでみた「すべらない話」はできない。共感を得て微笑ませるには、仕事上のファクトを捻るしかない。(注:「その際の前提になるもの……」の一文は「笑い」の文脈ででてきたものではなく、私が無理やりくっつけた)。

■「とにかく書く!あるいはしゃべる!」
スキルとキャリアが必要なテーマだけに一筋縄ではいかない。しかし、仕事人として配役を仰せつかっている間は、そのギャラは「書く、しゃべる」ということに与えられると思わなければならない。そして、ロールの問題であり、キャラクターの問題ではない。ただし、なんでもかんでも素っ頓狂にしゃべればいいというのではない。貧したときに鈍せず、グッとこらえて発展的に問題を解消するセリフまわしが必要だ。そのときのしゃべりに重要なのは、最初の項の「自分の軸の中に相手の軸を入れる」ということになる。

とにかく書いてみると、スランプからの抜け道も少しは見えたような気になるもんだ。それがまやかしの抜け道でないことを願う。