音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

静寂の世界 (コールドプレイ/2002年)

2012-08-24 | ロック (イギリス)


このバンドはこの作品で一気にロック音楽の頂点にまで上り詰めた。ポップ音楽というのは時としてこういうことが起こりうる。特にアメリカで成功するということは英国人にとって18世紀以降、なんにつけてもバロメータになっているところは英国気質とは違っていて理解できないところが面白い。たしかに音楽的にいえば、あのビートルズストーンズでさえアメリカには苦労したのだから、逆に言うと市場が大きいという魅力よりも、ミュージシャンが踏まなくてはいけない轍のようだ。

レディオ・ヘッドのフォロワー的存在として、ミューズと共に音楽ファンの間で注目されていたが、若干、コールドプレイの方が先に万人受けしたようだ。筆者はこの作品を聴いたとき、一瞬70年代後半にブームになった、プログレハードが頭に過り、大変嫌な思いをしたものだった。あのブームでは折角良い資質と体力を持った多くのバンドが産業ロックと評論家によって潰されたからだ。特にスティクススーパートランプカンサスに関してはデビュー当時から注目していたので、あのブームに無理やり乗っけられた為に、その後伸びなかったと恨んでいる。アラン・パーソンズ・プロジェクトなんかもそうかなぁ・・・。ジャーニーREOスピードワゴンなんて何処がプログレなんだか(そんな括りにされたために本来持っていたブルースの資質をもどこかに失ってしまった)、また、その裏でフォーリナーなどはそもそもバンドの設立の趣旨がはっきりしていたのと、総じていうとこのブームって、「新生イエス」の登場という本家の凱旋で終止符だったような気がする。ところで、このアルバムで彼らを有名にした一つはオープニング曲の”Politik”をあの9.11の数日後に録音したということ。力強いサウンドにしっかりとしたメッセージを入れ、何処か80年代のU2のアルバム・オープニングに繋がるあたりは、アメリカの音楽ファンの要望にしっかり応えたのもしれない。更にバンドはこのアルバム発売直前から大掛かりなツアーを開催した。ソフトとライヴという二つの要素が上手く循環するとこの国では大きな売り上げ、大きな観客動員が可能になり大きな成功へと繋がるというこの法則は、実は50年代とはなんら変わらない。そして、後にグラミーのRecord of the yearを”Clocks”が受賞したのは大きかった。正直、この作品、Albumとして可なりいいところまで行くと思ったが、まさか楽曲でグラミーを取るとは思わなかったが、確かに名曲である。このピアノのリフを繰り返しているのはどちらかというとギターポップが中心でウリでもあるコールドプレイには意外な曲でもあったことは事実であるが、この受賞が彼らに運命を変えたと言っても過言ではないだろう。思うに2000年代に「プログレ」ってありなんだろうかと考えると、小さなブームとして70年代、英国以外のプログレバンドが静かなブームになっているものの、一方でフロイドを中心とした大規模な市場に大きなツアーセット、大きなテーマで臨みつつ、内省的なサウンドとのギャップが面白かったあのプログレ全盛期と同じ類いの音楽が、全く新しいミュージシャンがやったとしたら無理だと思う。プログレは時代に対してプログレスしていなければいけないからだ。

前述の様に考えると、レディオ・ヘッドはその資質を十分に持っていた。しかし彼らはプログレと呼ばれないし、誰もそうはいわない。そこには現代において個々の内省的なテーマは音楽に逃避しなくても各個人が常に抱いていると勘違いしているほど、問題意識が希薄になっているのであろう。人間自体に物事を考える力が徐々に弱くなってきていることでなければ良いのだが。


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