音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

弦楽四重奏曲第17番変ロ長調「狩」 (ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト)

2009-10-30 | クラシック (室内音楽)


ハイドン・セットのみならず、モーツァルトの弦楽カルテットの中でも、最も一般的に広く親しまれているのがこの第17番であろう。旋律も、まずこの曲を聴いて、クラシックを余りご存知ない方でも「モーツァルトの作品」だと分かるのではないかと、彼のもつ旋律の特色を大変分かり易く表現している楽曲であると同時に、良いか悪いかは別として「狩」という表題がついているのは、一般的には広く認知されやすい要因でもある。しかし、音楽というのが面白いのは、その「最もモーツァルトらしい」楽曲が、実は、ハイドンの影響を多分に受けているという点ではなかろうか。これは多分、モーツァルトファンの方々には衆目の一致するところであろうが、この第17番があるからこそ、14番~19番を総じて、「ハイドン・セット」と呼んでいるという言い方も出来るほど、特徴的な楽曲である。

まず、第1楽章が良い。こんな軽快な第1主題は、音楽家は多けれど、モーツァルトにしか書けないし、まさに「狩」の始まりを想定させる。特に展開部で、へ長調の主題が出てきてこの部分は実に新鮮に聴こえるが、そこにはその前の第2主題を抑えているという工夫も見逃せない。ここにもまず、ハイドンが得意とする「第1主題に独立性を与える」という特徴を継承している。第2楽章はなんといってもトリオのコントラストと、第1ヴァイオリンの軽快さである。モーツァルトはメヌエットが得意であるが、ここではモデラートで、実に優雅という言葉が当てはまる。第3楽章はアダージョであり、ハイドン・セットの中で唯一、アダージョの速度表示はこれだけである。ここでは展開部を省略した変則的なソナタ形式を用いているので、実は、もう少し曲の長さにと比べると膨らみが欲しいという物足りなさを感じなくもないが、緩徐楽章としては実に美しい旋律でロマン的情緒が伝わってくる。そして、問題?の第4楽章は、ソナタ形式で第1主題を対位法的に使っていて、展開部も本格的であるが、実はハイドンの「作品33の4」のモチーフが主題動機として姿をみせる。そう、この楽章はまさにハイドンである。ハイドンであるのだが、テンポの良さ、特にヴァイオリンの奏でる旋律は間違いなくモーツァルトの得意技を表現しているのである。

モーツァルトの父レオポルドは、「いささか軽いが、良くできた作品」と珍しく息子を褒めているが、同時に彼はこの曲を含んだ3曲(第17番~19番)を「判り易く」と一緒くたにしている。つまり、本当のハイドン・セットというのは、後半のこの3曲という考え方も出来るのである。特に、モーツァルトが尊敬の証としてハイドンに献呈したというのなら、ハイドンの特徴を取り入れ、且つ、弦楽カルテットの可能性を更に拡大したこの楽曲こそが、「狩」ではなく「ハイドン」とでも愛称を付けたかったのではないかと予想する。また、同時にこの後の2曲は更に完成度の高い楽曲に仕上がっているのだから。


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1 コメント

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 (Jenny)
2009-10-31 11:53:52
入院されていたのですね。
その後如何ですか。

私はモーツァルトの弦楽四重奏曲は余り詳しくありませんが、この17番と19番「不協和音」は良く聴きます。こりジャンルは暗いかもしれませんが、ベートーヴェンの方が好きですね。

確かに全体的に軽快な曲ですね。モーツァルトらしさが前面に出ていると思いますが、ハイドンをモチーフにしているのは知りませんでした。

これを機会にハイドン・セットを全部聴こうと思いますが、やはりお薦めはジュリアードですか?

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