音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

スクリーマデリカ (プライマル・スクリーム/1991年)

2012-08-07 | ロック (イギリス)


そういえば、このブログをテキトーに読み返していたら、「マッドチェスター」について全く触れていないことに気がついたので、このレビューの機会にまずそこから入ることにする。といっても、ローゼズのレビューで書かなかったくらいだから、そもそも筆者は一般的に言われているマッドチェスターは全く違うと思っている(そもそも、ポップやロックをそれ以上細分化する、所謂ジャンル分けがそもそもナンセンスだということはしょっちゅう書いているからご存知だと思うが・・・)。ごく一般的なマッドチェスターは、1980年代後半から90年前半にかけてマンチェスターを中心に起こった、ダンサブル・ビートとサイケデリック・サウンドの融合が特徴のムーブメントに由来した音楽ジャンル、またの名をマンチェスター・サウンドとも言う。しかし"Mad"と"Manchester"の造語で分かるように、要はレイブ文化とエクスタシーなどの多幸性ドラッグの流行により、オープン且つ享楽主義的な音楽とオーディエンスが大量に発生したという二次的要素を指しているという点が、筆者に言わせれば、既に「音楽の定義」からは基本的に逸脱しているのだ。更に、レイブ同様、共同体意識のもと、アーティストと観衆の関係や垣根を撤廃し、このことから、これからはステージ上のバンドではなく、オーディエンスの時代だと言われたが、そうか、じゃあポップ音楽はオーディエンスの要素が全く無かったのかと、今更ながら当時のこの物言いに呆れたのを覚えているし、特に筆者にとっては、ローゼズの感動をそんな一方的な言葉や定義づけで片付けて欲しくないという批判が大きいと思う。

というのも、このプライマル・スクリームのこの出世作であり、名作をそんな音楽ジャンルにはめ込もうとした仕業にも当時、カチンときたことを思い出したからだ。この作品は彼らの大出世作であり彼らの名前を全世界に認知させたが、それがマッドチェスターだったからではない。この作品を音楽評論家たちに言わせると「マッドチェスターの影響を受け、ロックンロールとアシッド・ハウスの融合を完成させた」らしいが、ほら、また新語が出てきたアシッド・ハウス(笑)。こうなると説明するのが愚かだと思うくらい限がないが、「ハウス」と言っていることから勘のよい方はクラブ・カルチャーを想定されるだろう。そう、こちらはアシッド、すなわちLSDの幻覚作用を表現したが、そもそもが「ローランドのアナログシンセサイザーのつまみを巧みに利用することで生み出された幻想サウンドで」あるが、このように時代はなんでも60年代サイケにくっつけられる傾向にあった。実は本業が著述である筆者も1970年代の終わりから80年代にかけて「サイケデリック」をテーマに何本かの作品を書いているように(余談で失礼)、音楽(並びにその他の芸術も)はこの時代、何か先史との強固で密接な繋がりが欲しかったのだ。プライム・スクリームはデビュー時代のガレージロックが好きだったがこの作品は全くそれらを捨て去った訳でなく、彼らなりに融合させて彼らの音にしている。そのオリジナリティが大事で、だから音楽を強引にジャンルで束縛することは意味がないことだと思う。

特にこのグループはこの後もアルバム毎に色々な方向性を打ち出す。その最初がこの作品である。だがそれはこの作品のセルフタイトルをつけたガレージロック一色の前作が、インディ・チャートで1位を取ったことが大きいと思う。自分たちに位置づけができた上で、つまりしっかり足がついている土壌を持っていることがこのバンドを冒険させている。そしてそれは常に可能性を含んでいることにこのバンドの価値を感じるのである。


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