すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

月見岩

2021-12-07 10:20:17 | つぶやき

牧場あとの陽だまりで
岩にもたれてのんびり休む
ここからは
故郷に続く谷間が見える
あの左手もう少し下流
谷が盆地に向かって広がったあたりに
ぼくの生まれた家はあった

母屋と離れと土蔵とワイン醸造所と
蒸留塔と倉庫とが
中庭を取り巻いている屋根の無限軌道の上を
走り回るのが好きだった

六年生で故郷を離れたとき
突然の境遇の変化が理解できず
大人になってからもずっと
故郷を憎んでいた
懐かしく思えだしたのはここ十年くらいだ

もういちど生き直せるものならば

ブドウ畑に囲まれてそのまま育って
試験管やフラスコやアルコールランプや
八歳の誕生祝いに買ってもらった顕微鏡を友にしながら
甲府の高校に通い 夜間遠足に参加し
大学で醸造学か発酵学を学び
県の農事課あたりに勤め
時々は秩父や八ヶ岳に登りに行って

今ぐらいの歳には退職後を
またブドウ畑で過ごし
少年時のようにぶどう棚や
屋根に登って(登れるかな?)
盆地を囲む山々を眺め
風に目を細め
感嘆の声を上げ

そして月の明るい或る晩
この岩にもたれて
月からのお迎えを待つだろう

 まあ 生き直すのは無理な相談だから
 今からできるのはせいぜい
 最後のひとつだけだな

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 南高尾 | トップ | 今この瞬間も »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

つぶやき」カテゴリの最新記事