すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

ジョンの夢・ヒトの夢

2021-10-07 21:21:14 | 夢の記

Ⅰ.

たどりつけない夢を繰り返し見るのは
当たり前だ
生命は永遠に
たどりつくことのない旅を続けているのだから

ぼくの見る夢は
ぼくだけの夢じゃない
ぼくのいのちは
地球という星に生まれた生命の
波がしらにきらめく
泡のひと粒だ
ぼくがいなくなっても
生命はさらに何十億年か
遠く旅を続ける

ウニは夢を見るか
カブトムシは夢を見るか
人は彼らの代わりに夢を見るように
進化したのだ
ぼくは時に 個人の夢ではなく
人類の夢を
海洋プランクトンやシダやサンショウウオの夢を
地球生命全体の夢を
見ているのだ

ぼくのジョンは
夢を見るか
たぶん見るだろう ぼくらのよりは
いくらかは単純な夢を
生命は進化のどこかで
夢を見ることを始めた

いのちの意味について
考えるために
ぼくたちがどこから来たのか
思い出すために
ぼくたちがどこへ行くのか
予見するために

だがその企ては
実現しないだろう

Ⅱ.

雨に濡れたホーム
見知らぬ名の駅
読めない表示板

暗い山並みの前を流れる
家々の小さな灯りはどれも
生命のたどり着くゴールではない

空を飛ぶ夢が
憧れでも喜びでもあっていいはずなのに
歯の根が合わないほど寒く
孤独で恐ろしいのは
ぼくの無意識の中に組み込まれている
地球生命の意志が
もっと先へ もっと遠くへ
果てしない遠方へ
果てしない高みへ
行こうと望むからだ
ぼくたちはその意志に強いられ
急き立てられている

光のあふれる場所を目指して
温かな休息の地を求めて 得られず

それでも生命はさらに何十億年か後には
母なる地球とともに消滅する
(その前にとっくに
ぼくたちはいなくなっている)

たどりつく先はない
その予感が 不安が
たどりつけない夢や 飛ぶ夢を
見させるのだ

Ⅲ.

目的地に着く前に
旅は断ち切られるだろう
それだからすべては空虚で無意味
・・・という訳ではない

生きている間の日々は
すべて新たな体験だ
引っ越しや転職や入学や卒業や
出会いや別れや
親しい人との死別でさえ 
近ごろ得た病でさえ
すべては新たな寄港地だ

もうぼくの分の旅は残り少ないが
たどりつけないからと言って
焦る必要はない
若い頃 目的地のない
あてどない放浪が
あんなに好きだったではないか

立ち止まることを
ゆっくり進むことを選ぼう

コマクサは生きる意味を求めるか
ライチョウは生きる意味を求めるか
ぼくたちが意味を求めながら生きてゆくのは
当然だ
彼らの代わりに意味を求めるように
人間が進化したからだ

だが求めすぎてはいけない
そのことにこだわり続ければ
ぼくたちは地球生命を運ぶ
ただの器になってしまう

Ⅳ.

ぼくには夢を書き替えることができる
そう望みさえすれば
不安が教えるのとは別の夢を
見ることができる
ヒトという種は
そこまでは進化したのだ

玄関の陽だまりでジョンが眠っている
ときどきびくりと動くのは
狼だった頃の雪原の狩りの夢を
見ているのだろうか

あるいは 人類が地球から消えてしまった後
ぼくと暮らしていた懐かしい家に帰ろうと
荒野を必死に走っている夢を
見ているのじゃないだろうか

夢の中でまで走らなくていい
ぼくはここにいる
お前の身体の熱さを
手のひらに感じている

安心して眠るがいい
お前の夢の続きは
ぼくが見てあげよう
お前のたどり着けない夢は
ぼくが書き換えてあげよう
ぼくはお前と一緒に
新しい今日を生きる

 

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