いつか、比較的最近、山に登ったよな、と、一生懸命思い出そうとしている。リュックに友人の骨を入れていたはずだ。彼が山で遭難したのでなく、「死んだら骨を山に埋めてくれ」と言ったのだ。あれはどこの山だったろうか、思い出せない。かなり高い山だったはずだ。登ってゆく道は冬枯れだった。途中から樹林は切れた。小屋に着いた。鄙びた小屋で、煙突から煙が上がっている。人の姿は見えない。入り口に「両俣小屋」と書いてあるようだ。そこに行く道は二本あったはずだ。でも、南アルプスの両俣小屋のはずがない。そこには行ったことがないし、熟達者でなければ行かない小屋だ。では、あれはどこだったのだろう。必死に思い出そうとしているのだが、思い出せない。稜線を登ってゆく自分の姿が浮かぶ。ストックを二本ついて、毛糸の帽子をかぶって、ニッカーズボンをはいている。向こうの空は曇って白い。どうしても思い出せない。
…これは、山登りをしている夢ではなく、山登りしたことを思い出そうとしている夢。思い出さなければいけない、と思って必死なのに思い出せない、かなり苦しい夢だった。
…これは、山登りをしている夢ではなく、山登りしたことを思い出そうとしている夢。思い出さなければいけない、と思って必死なのに思い出せない、かなり苦しい夢だった。