東京教組(東京都公立学校教職員組合)

教職員のセーフティーネット“東京教組”

トガニ(孔枝泳・コンジヨン、蓮池薫訳、新潮社)

2012年11月30日 | インポート
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 聴覚障害者施設の子どもたちに対する性的暴行を告発した人々が、韓国の貧富の差・民主化されても残る地域の実力者の権力・保守主義に負けた裁判の実話をもとに、とてもリアルに丁寧に、そしてスリリングに描かれた小説。一気に読んでしまう迫力がある。
 本書は韓国で映画化され467万人もの動員があり、その結果、世論を動かし、裁判には負けたが「トガニ法」という障がい者や13歳未満の児童に対する性的犯罪を厳罰に処する法律に結実する。小説と映画が社会を動かしたのだ。社会の不誠実に立ち向かう著者の孔さんは、死刑廃止に関する社会的論議を巻き起こした「私たちの幸せな時間」(05年)という小説もある。国家の矛盾や社会の最弱者である障がい者へのまなざしの深さに感心する社会派の小説家の面目躍如である。
 拉致被害者でもある蓮池薫さんの訳もすばらしく、社会の不正義に対する熱いまなざしも感じる。
 「社会を変えるためにではなく、自らが変えられないようにするために戦う」という、ソ・ユジンの言葉、それに最後まで寄り添えなかった主人公カン・インホに対し『ひょっとしてわたしたちにすまないと思っているわけじゃないわよね?短い期間だったけど、わたしたちはあんたの献身と愛情を忘れていないわ」と寛容で応える、そこに社会を変える人のつながりの確かさを感じる。
      (西新宿小学校から都庁を臨む)



日本で唯一の人権博物館、存続の危機

2012年11月29日 | インポート

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 大阪人権博物館(リバティおおさか)は、1985年12月に開館した日本で唯一の人権をテーマにした登録博物館だ。足を運んだことのある方もたくさんいるだろう。その「リバティおおさか」が存続の危機に瀕している。
 原因は、橋下大阪市長と松井大阪知事である。4月20日に視察した両者は、「差別や人権に特化しており、子どもが夢や希望を持てる内容となっていない」として来年度以降の補助金を廃止する方向を明らかにしたためだ。

 差別を乗り越え、人権を大切にしなくて夢や希望を持てるわけはない。人々の夢や希望を打ち砕いているのは橋下、松井のお二方ではないかと問い返したい。
 リバティおおさかは、被差別、障がい者、女性、ハンセン病回復者、薬害エイズ、ホームレス、在日コリアン、沖縄、アイヌ民族、性的少数者、いじめなど、さまざまなテーマを資料と映像によって展示している。開館以来、国内外から約140万人に利用されている。
 公益財団法人大阪人権博物館では、「リバティサポーター」を募集して、財政支援をお願いしている。

(やせ蛙 負けるな 一茶 これにあり)


都政に希望を、生活破壊に怒りを。

2012年11月28日 | インポート
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 1 1月26日(月)、馬場裕子都政報告会が大井町きゅりあん大会議室にいっぱいの聴衆を集めて開催されました。開会のあいさつで阿部祐美子品川区議は、「馬場さんは、ぶれずに自分の主張を貫く、その信頼感で区・都・国政を結んでほしい」とあいさつしました。続いて来賓として松原仁衆議院議員、濱野健品川区長、平沢裕三連合品川議長が登壇しました。「民主党政権は、チルドレンファーストなど一定の成果を上げたが、反省すべき点もしっかり受け止め、厳しい選挙を闘っていきたい。お姉さま都議馬場さんとともに選挙を勝ち抜きたい。」(松原)、「自らおばさん都議会議員と名乗れるのは、生活の実感を都政に結びつける力がある馬場さんだから言える。品川区と都政を結ぶのが都議の役目と自覚している心強い馬場さんと防災対策などを進めたい」(濱野)「都政を投げ出した知事を許せない。政権交代を果たした時の熱気をもう一度。仲間の輪を広げて、馬場さんを支えるうねりを作りたい」(平沢)と、それぞれ馬場さんに支持をよせるあいさつをされました。
 都政報告で馬場裕子さんは、「権力にすり寄ることは私にはできない。裏切らない政治をやっていくつもりなので、あと4年間、私を働かせてください」「『都政に希望を、生活破壊に怒りを。』のスローガンを皆さんとつくった。未来に向かって希望を語り、『何でやねん!』と思う怒りを希望に変えていく政治をやっていきたい」「原発都民投票・尖閣諸島買い取りなど初めての課題だったが、石原知事と方向性が違うとはっきり主張してきた。」「防災・木密対策、弱者のための交通政策、子どもと向き合う教育、競争でなく共に生き、学ぶ子育て・教育。朝鮮学校を差別しない政策などを大切にしたい」「石原都政にNO!都民の都政にもどすために、都知事選挙では、一緒に働ける、一緒に頑張れる『宇都宮けんじ』さんを応援したい」と力強く報告と決意を述べました。
 閉会のあいさつに立った松山毅さん(馬場裕子と市民と都政を結ぶ会会長)は、「社会不安が広がり、多くの病んでいる人々を開業医として診ている。安心してみんなと話し合える都議は、馬場裕子さん以外にない。これからも、馬場さんへの支持を広げましょう」と結びました。
(コスモスとブルーハウス)




脱原発つうしんぼ

2012年11月27日 | インポート

0308139_002 人それぞれ、選挙でだれに投票するかの判断基準があると思います。小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教)は、次のように話しています。

 原子力を選択することは、自ら無毒化できない毒物を生み出すことです。
 それが環境に放出されれば、福島原発事故が示している悲惨な被害を生みます。
 幸いに事故が起きなくても、下請け・孫請け労働者による日常的な被曝労働が避けられません。
 そして、生み出した毒物は未来永劫の子どもたちに負わせることになります。
 他者を踏みつけにしなければ成り立たないものは、そもそも選択してはいけません。
 広く長くそして原則を踏まえた視野で物事を考え、行動する政治家を望みます。

 脱原発の本気度を東京新聞が検証している。これも投票の目安になるだろう。あなたの選挙区の衆議院議員はどうだろう?

 
 もうひとつ、「脱原発つうしんぼ」のとりくみも進んでいる。候補予定者にアンケートをとり、その結果を11月30日に発表する。
 こちらも楽しみだ。 

(パリ凱旋門の螺旋階段)


小中学生と生活保護

2012年11月26日 | インポート

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 生活保護への無残なバッシングが、芸人の河本さんに対する意図的、政治的なフレームアップから始まったことは記憶に新しい。そもそも河本さんは「不正受給」ではなかったが、自民党の片山さつき議員が、いち早く鬼の首でも取ったように国会で追及、それに追随するように小宮山厚生労働大臣も生活保護の見直しを宣言した。しかし、日本は生活保護を受給できるのに受給できてないでいる人が7~8割もいる。スウェーデン2割、フランス1割に比べ、なんと多くの人が憲法25条(生存権)を保障されていないかがわかる。一方、不正受給は、受給者の1.8%に過ぎない。この実態で生活保護をバッシングするのは、生活保護を受けにくくする「人殺し」政策に他ならない。生活保護を受けるためには、子どもがお年玉などで貯めた貯金まで使い果たさなければならないのが現状である。貧困の連鎖を誘導しているようなものだ。
 生活保護は、「貧困」から抜け出すための社会システムである。仕事を探し、生活を立て直すためには、当事者が社会に対する信頼感と自己肯定感を持つことが必要である。しかし、生活保護があることも知らず、役所の生活保護の窓口に行っても「水際作戦」といわれる生活保護受給拒否が行われている。政治家やマスコミが生活保護受給を罪悪のような世論形成するようでは、社会への信頼感は失われ、「自己責任」に苛まれて、「貧困」から脱出することはできない。 

 教育現場でも、家庭の貧困が大きな課題であり、学校にソーシャルワーカーが必要な状況が続いている。子どもたちの自立のためには、生活保護制度について正しく教室で教える必要がある。そのための好著「14才からわかる生活保護」(雨宮処凛著・河出書房新社)をお薦めする。「未来の私‐よりかからない生き方を求めて‐」(東京教組・女と男の自立をめざす教育推進委員会刊)とあわせて、授業実践に生かしてほしい。

(モンマルトルからの夕日)


いよいよ明日!

2012年11月22日 | インポート

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 東京の朝鮮学校を支援する都民集会が明日、23日18:00から日本教育会館一ツ橋ホール(神保町)で開催される。高校の授業料無償化制度が発足してから2年半が経過したが、いまだに朝鮮学校だけが適用されていない不正常な状態が続いている。

 その上、石原元知事は朝鮮学校に支給してきた補助金を打ち切ってしまった。

 これらは、政治が教育に不当に介入し、子どもたちを差別していることに他ならない。東京にある10校の朝鮮学校に通学させている保護者の教育費負担は、大変厳しくなっている。日本の民主主義、人権感覚が問われる問題でもある。集会では、田中宏さんの「朝鮮学校支援の必要性と差別の構造」と題する講演も予定されている。ぜひ多数の参加者で、朝鮮学校に「高校無償化」の即時適用と東京都の朝鮮学校補助金の復活を実現したい。

                  (幸福駅)


福島女子のつぶやき

2012年11月21日 | インポート
Kif_0702 ふるさと福島の現実を引き受けながら、ふるさとを愛し、友達、家族とともに放射能汚染と闘い続けている多くの子どもたちがいる。渡部真梨子さんもさんもその一人だ。ふくしまの女子たちが、どんな時でも、どんな場所でも『自分らしく』生きれるように福島を象徴する桃をシンボルに、福島を想う女の子たちが、繋がる場づくりを目指して立ち上げたpeach heart(ピーチハート)共同代表の宍戸慈さんのインタビューに答えた記事を紹介しよう。
「原発なくしても、放射能なくなるわけじゃないじゃん?キレイにしろって言われても…できないじゃん?キレイにする発明とかしてくれたらいいけど、無理なら最悪の事態とか、自分がその立場になったらどうするか?って想像して行動してほしいよね」「本当はね、政府のところへ行って『こんちくしょー!』って言ってやりたいよ。だって地元が一番じゃん?」「震災があって、将来はお医者さんになろうかな?ってかんがえた。でもね、今は人の意見を聞いてあげる、そんな仕事がしたいの。対話を大事にする仕事。同じ人間なんだもん、関係なくないんだよね」

 こんな真梨子さんの思いを受け止める福島の教職員にエールを送りたい。そして、私達東京の教職員もそうでありたいと思う。
      (八ヶ岳、白駒池を臨む)



選挙の争点は日本国憲法

2012年11月20日 | インポート

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 総選挙と都知事選が重なった年末。争点は何か?原発政策、TPP参加、消費税など多くの争点があるが、最大の争点は憲法だろう。政党乱立の中で自民・維新などが「改憲」を鮮明にしていて、選挙後の国会で、「改憲」の内容はともかく、憲法96条の改憲発議は両院の2/3を1/2にすることを目標にしている。

 社会科の憲法に関する穴埋めテストで「内閣総理大臣その他の国務大臣は、〇〇でなければならない。」の回答に「英雄」があったという笑えない話がある中、11月9日から山口で護憲大会が開かれた。その参加者の報告を紹介する。

 今回の護憲大会は「『生命の尊厳』をもとに、原発も基地もない平和な社会へ」というスローガンを掲げ、各分科会では原発問題を中心とした論議が行われていました。大会二日目 私は「教育と子どもの権利」という分科会に参加しました。ここでは、山梨学院大学の荒牧重人さんが、この問題について子どもの権利条約の実現という視点から話していました。話の中で、「子どもの置かれている状況が年々厳しくなり、大人が子どもを否定的にとらえ、厳罰による対応をしている」こうした状況で「子どもの自己肯定感はどんどんと低くなってきている」と話されました。そして、こうした状況を打破していくために子どもの権利条約を子どもの生活、教育の場で実現していくことが大切なことであり、子どもは「かけがえのない存在」であり、「成長し、大人を乗り越えていく存在」であることを再認識していくことが大切だと話しました。

 荒牧さんは、「学校において子どもが主体となっている場面はどれだけあるのか」と私たちに問い、「もっと子どもを信頼し、意見表明・参加を保障していくことが大切だ」と語っていました。

 「子どもの権利条約」が批准され、もうすぐ20年となるというのに学校現場では学力テストが押し付けられる中、教育の目的が「テスト学力」を向上させることに矮小化され、「特別支援」の名のもとに子どもたちは地域の学校から疎外されています。また、「学習規律」をきちんと確立することが教員の力量であるとされ、学校はどんどん管理的になっているように思えます。

 子どもの権利条約を生かした教育を実現していくことが、非常に困難な状況になってはいますが、これからの社会を創っていく主体である子どもを尊敬し、信頼する教育が今まさに大切なことなのだと改めて考えさせられた分科会でした。

 午後の分科会や最終日の総括集会ととても重い内容の論議が行われ、くたびれました。しかし、青年部の方も参加してくれたので、一緒に夜は居酒屋に行き帰りもお昼を一緒にとったりして交流できました。話をするととても素敵な青年で、若いのにとても考えていてすごいなと思いました。自分のことしか考えていないような職場の若い人たちに少し、くたびれていた私は元気をもらうことができました。

 (那須・千体地蔵尊、ここにも多くの放射能が降り積もった)

 


青年教職員のつぶやき

2012年11月19日 | インポート

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「教育現場」って過酷
都内の苦しんでいる若い先生にたくさん会ったり、話を聞いたり寄り添ったりしてきた
多忙を極める現場では、東京だけでも毎年のように自殺者が出ており、一年目での退職者も毎年100名前後出ている
鬱の発生率もとても高い
職員間の交流も、多忙な中では希薄になり、1人で悩みを抱えている人がたくさんいる
なのに成果主義
成果って?
静かな教室のこと?
クレームが出ないこと?
学力テストの結果のこと?
教室の「見た目」だけを気にする中で、排除される子ども、先生はあとをたたない
全ての教師が「同じ基準」で子どもを評価したら、こぼれた子は学校では永遠に救われない
でもね、ほとんどの教師は1人ひとりそれぞれの「想い」をもってこの仕事に就いてる
なのに1人ひとりの「想い」は、
政界の「風」
財界の「狙い」
に吹き飛ばされる
「指導教員」の導入をめぐって、都教委と話をしていてそんなことを感じた
僕らの仕事は種に水をまくこと
いつ、どんな花が咲くかはわからないけど、少なくとも今現在の教室で評価はできない
いろんな種に、水を楽しくまける教室にしたいなぁ

    (パンジー)


もしもあの日…(いじめと向き合う③)

2012年11月17日 | インポート
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(前回までのあらすじ)「乱暴者」のヤスシがいじめられているとイズミとミカコが指摘され、担任の私の建前と本音の間にある嘘に気付かされる。先輩教師にも相談してヤスシのいいところ探しと友達つくりをはじめる。

 学年が終わるまでの間、ヤスシは成績の良いヒロムに認められたくて宿題などを頑張るようになった。授業態度も良くなった。乱暴をすることがなくなり、眼差しも明るくなった。ヒロムはヤスシと一緒にいたずらをして叱られるようになった。ヤスシが誘っているようだったが、ヒロムは絶対にヤスシのせいにはしなかった。休み時間教室にいる私に、二人はよくじゃれついてきた。それをかまう私を見て、他の生徒も教卓の周りに近づくようになった。私はクラスの全ての生徒と、1日1回は話をすることができた。
 2年生に進級するとき、私は学年の先生方にお願いし、ヤスシとヒロムを同じクラスにしてもらい、私が担任したいと希望した。そのクラスにはイズミもいた。2年生になって一週間ほどたったある日、例の如く、学活後教室に残っていた私に、イズミがそっと話しかけてきた。
「先生、ヤスシ君優しくなったよね。ヒロム君と仲良くなってから、すごく優しくなったね」
「イズミのおかげだよ」私は心を込めて、イズミの頭をなでた。

 あれからもう8年がたつ。私は時々思い返す。
もしもあの日、私が教室で仕事をしようと思わなかったら。
もしもあの日、イズミやミカコの話を聞かなかったら。
もしもあの日、先輩教師に相談しなかったら。
もしもあの日、テキストの重さがヤスシ一人では運べないものだったら。
 私は取り返しのつかない過ちを犯していたかもしれない。
 全てを偶然と片付けることは簡単だけれど、私にはそんな風には思えない。生徒に向き合い話に耳を傾けるちょっとした時間、相談しても良さそうだと思わせる余裕をもっている先輩、経験が浅くてもなんとか目の届く人数、そういったものが私の間違いに気付かせてくれたのだ。
 そうしてヤスシを救ってくれた。私も救われた。トラブルが続いていたとき、私の前で「この子はもう私の手には負えません」と泣き伏した、ヤスシの母親もそうだ。

 子どもをめぐる哀しい事件が続いている。それを根絶するために必要なのものの一つは間違いなくいろいろな意味での「ゆとり」であると、私は言いたい。


先輩教師のアドバイス(いじめと向き合う②)

2012年11月16日 | インポート
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 (前回のあらすじ)「乱暴者」のヤスシがいじめられているとイズミとミカコが指摘され、担任の私の建前と本音の間にある嘘に気付かされる。

 部活のあと、私は同学年の先輩教師に相談した。トラブルメーカーであるために孤立し始めているヤスシをどうしたら良いのか、と。先輩はこうアドバイスしてくれた。
「ヤスシを小学校の時から知っている子たちの中でヤスシと友達になろうとするのはいないだろうな。だとしたらまだそういった人間関係に疎い、他の小学校出身の子の方が仲良くなれそうなんじゃないか?でも、先生が『友達になってやって』って言ってはダメだ。先生の指示に素直に従う年齢ではないんだから」
「では、どうすればいいですか?」
「席替えの時に、周囲を他の小学校の子で固めてみたら?あとは、他の子の前でヤスシを褒めるようにするとか。叱るときは一対一、褒めるときはみんなの前」
「でもヤスシは、宿題はやってこないし、授業中に遊ぶし、掃除はさぼるし、褒めるところがありません」
「そうでもないよ。ヤスシは結構いいところあるよ。わかんないかな?じゃあまずはそこからだな」
 次の日から、『ヤスシのいいところ探し』が始まった。特定の生徒を注意深く観察するのは初めてのことだったが、28人の学級ではそれはそんなに大変なことではなかった。休み時間も職員室に降りることなくヤスシを観察し続けた。
 褒めるところがないと思い込んでいたが、先輩が言うとおりそうではないことが分かってきた。
 ヤスシは、さりげなく働く子だった。注意深く周囲に気を配り生活している子だった。雑巾掛けから落ちている雑巾をかけなおす、落ちているチョークの欠片を拾って捨てる、給食のワゴンを難儀して運んでいる子の後ろから当番でもないのに押してやる、プリントを回すときにはちゃんとふり返って手渡しする、などなど… ただ、褒めようと思って近づいても、ヤスシは暗い目をして私を無視するのだった。『どうせ俺を叱るんだろ』その目の中にあったのは、私への不信感だった。
 そんなある日、各学級でとあるテキストを配るように言われた。私はいつものように、放送で日直を呼び出し配らせようと思った。そのとき、教室に居場所がなく廊下を歩いているヤスシが目に止まった。
「ヤスシ君、ちょっといいかな。これ、教室に持っていってくれない?」
 ヤスシはいつものように暗い攻撃的な目を一瞬向けたが、「ん…」とうなるように言って、28人分のテキストを持ってくれた。ダンボールは見るからにずっしりと重そうだ。
「あれ、一人じゃ大変かな?ごめん、やっぱり日直呼ぶわ」
「…いい。大丈夫」
 ヤスシはそのままテキストを運んでくれた。2分後教室に行くと、そのテキストは全員に配られていた。
「日直、ありがとう。配ってくれたんだね」
「え?俺らじゃないよ」
「ヤスシ君だよ」
 教えてくれたのはイズミだった。私はお礼を言うべき相手を間違えたのだ。ヤスシはそばで傷ついたような目をしていた。
「ヤスシ君、ごめん。係じゃないのに運ばせて、配ってくれたのにお礼も言わないで。本当にごめんね」
 私は心から謝った。すると、ヤスシの前の席のヒロムが驚いたように言った。
「これ全部、ヤスシ君一人で持ってきてくれたの?すごいね」
 ヤスシは真っ赤になりながら、ぼそぼそと言った。
「いや別に…そんなに重くなかったし…」
「これ絶対重いって。すごいよ」
 ヒロムは他の学区から転居してきた生徒だった。入学早々体調を崩して欠席が続いた上、同じ学年の生徒がいない部活動に入った彼は、仲良しグループを作ることもどこかのグループに入ることもできず、少し浮いた存在になっていた。みんながヤスシを避けるので、何となく同じように避けていたらしかったが、自分同様孤立しているヤスシには話しかけたいと思っていたようだった。
 真面目で明るく、おっとりしているヒロムに、ヤスシは噛みつくような態度を向けることがなかった。ヤスシとヒロムは好きな食べ物やゲームの話をするようになり、その後急速に仲良くなっていった。
        (グアムの家族)


ねぇどうする?先生に言う?(いじめと向き合う①)

2012年11月15日 | インポート

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 そんな声が聞こえてきたのは、帰りの学活後のことだった。部活で生徒がそろうまでの30分間、私は職員室に降りず、3階のこの教室でノート点検でもしようかと思っていた。
 ドアのところでイズミとミカコが話していた。聞こえよがしなその声の大きさに、私はためらうことなく話しかけた。
「どうしたの?何かあったの?」
 するとイズミとミカコは周囲を気にするようにしながら、教卓のところにいる私に近づいてきた。話したそうな顔をしているにもかかわらず、二人はまだ言い淀んでいる。
「どうしたの?何か悩み事?」
 軽い調子で私はもう一度言った。イズミが意を決したように話し始めた。「先生、ヤスシ君のことなんだけど…」
 ヤスシは、小学校からの申し送りで『乱暴』『指導が入らない』『集中力がない』と聞かされている。実際、中学校に入学してから2ヶ月の間、部活でクラスでのトラブルが絶えない。先日もクラスの男子と噛みつき合う喧嘩をしたばかりだ。
「ヤスシ君がどうかしたの?何かされたの?」
 ヤスシ=いじめっこ の公式がすぐに頭に浮かんだ。しかしイズミの話は全く反対だった。
「ヤスシ君がね、みんなに避けられていて、可哀想じゃないかなと思って」
「ヤスシ君は乱暴だからね。ヤスシ君がそれを直さない限りみんなは仲良くしようとはしないんじゃない?」
 あまりにも指導が入らないヤスシを持てあましていた私は、『ヤスシが悪い』と思ってそう言った。
 ところが、イズミとミカコはそうは思っていなかったのだ。
「でも、こないだ、道徳のときに『イヤな奴だからっていじめても、その人のイヤなところは治らない』って先生言ったでしょ」
「先生、ヤスシ君やばいと思う。みんなが避けてて、何かいじめっぽくなってきてる」
「みんなが避けるし悪口言うからヤスシ君乱暴するときあるし。ヤスシ君が悪くないときもあるんだよ」
「みんなが優しくしないと、ヤスシ君はもっと乱暴になっていくんじゃない?」
「でも、うちらが頑張って優しくしても、ヤスシ君は相手にしてくれないしね…」
「男子の中でヤスシ君に優しくする人がいたら、ヤスシ君は変わるんじゃないかと思って」
「ヤスシ君友達いないもんね。誰か男子の中でヤスシ君と友達になる人いないかな。先生、どうすればいい?」
 イズミとミカコの真剣な口調に、私は衝撃を受けた。
 私は、ヤスシがみんなに避けられるのはヤスシのせいだと思っていた。「いじめはいけないことだ」と指導しておきながら、内心「いじめられている方にも原因がある」と思っていたのだ。
 イズミとミカコが指摘してきたのは、私の建前と本音の間にある嘘だったのだ。(つづく)

(壱岐・はらほげ地蔵)


学校をキュークツにする「指導教諭」導入

2012年11月14日 | インポート
Kif_0699 東京都教育委員会は、「教員全体の学習指導力と意欲等の向上を図り、切磋琢磨し合う体制作りの核」となる「指導教諭」を導入する提案をした。
 どんな仕事をするかといえば、①校内OJT ②模範授業 ③公開授業 ④教員の個別相談 ⑤授業支援(各学校の求めに応じて授業を観察し、指導・助言を行う) ⑥教科指導資料開発だ。その活用方法は、模範授業・研究協議会等を通じて、他校の教科代表者に教科等の指導技術を普及させる。その教科代表者は、所属校において模範授業等で学んだ指導技術を校内OJT等で同一教科の他の教員に広めていくというものだ。
 小規模校が多く多忙な学校現場から考えると、「指導力向上」を新たな職と学校組織いじりで、とりつくろう机上の空論と言わざるを得ない。新たに「指導教諭」と「教科代表者」を学校に作ることで、学校が役職だらけになり、より窮屈になりそうだ。
            (紅葉の北八ヶ岳、白駒池)



こんなに減る退職金

2012年11月13日 | インポート

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 東京都は、職員の退職金を大幅に減らそうとしている。
今まで、定年退職で最終給料月額の59.2か月分が支給されていたが、これを45月分にするとう提案だ。教諭にも調整額(職責に応じたポイント制退職金)が支給されるとしているが、約353万円退職金が減ることになる。
 また、ポイント制退職金は、職責重視のため管理職ほどポイントが高く設定しているため、退職金削減額は、校長ほど少なく、教諭ほど多いという差別支給になる。
 退職後の生活を支える退職金。第二の人生のスタートラインまで差をつけられてはたまらない。
 詳しくは、東京教組ホームページ、闘争速報3「退職手当の見直しについて」を提案 をご覧ください。


ジョーク

2012年11月12日 | インポート

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ジョークが好きである。二例挙げる。
●青いキリン ある酔狂な大富豪が言った。「もし青いキリンを私に見せてくれたら、莫大な賞金を出そう」 イギリス人は、そんな生物が本当にいるのかどうか、徹底的に議論を重ねた。 ドイツ人は、そんな生物が本当にいるのかどうか、図書館に行って文献を調べた。 アメリカ人は、軍を出動させ、世界中に派遣して探し回った。 日本人は、品種改良の研究を昼夜を問わず重ねて、青いキリンをつくった。 中国人は青いペンキを買いに行った。
●浮気現場にて 会社からいつもより少し早めに帰宅すると、裸の妻が見知らぬ男とベッドの上で抱き合っていた。こんな場合、各国の人々はいったいどうするだろうか? アメリカ人は、男を射殺した。ドイツ人は、男にしかるべき法的措置をとらせてもらうと言った。フランス人は、自分も服を脱ぎ始めた。日本人? 彼は、正式に紹介されるまで名刺を手にして待っていた。 (早坂隆著「世界の日本人ジョーク集」中公新書ラクレより)
 その国に対する偏見や差別意識が背景にあることは、言うまでもないが、思わずニヤッとしてしまう。

                          (パリ・ムーランルージュ)