3.11東日本大震災と福島第1原発事故によって、日本は随分変わりました。「原子力ムラ」の存在など、これまで見えなかったものや見ようとしてこなかったものが、否応なく目の前に突きつけられ、日本の民主主義が思いの外脆弱で危ういことに多くの人が気づきました。そして、その気づきは、声となりました。
最初は「脱原発」の運動が大きなうねりとなり、秘密保護法反対では首相官邸前での若者たちの政治発言となりました。そして、その声は2015安保闘争へと引き継がれ、SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)や「ママの会」など、これまで集会やデモを遠巻きに見ていた人たちが、自らの意思で参加し声を上げるようになりました。組織されていない一般の人々が手作りのプラカートをかかげ、声を上げ、シュプレヒコールする姿は、確かに日本が変わったことを感じさせます。
しかし、一方で政治は自民党の一強多弱のまま旧態依然の姿をさらし、安倍政権による強権的な運営が続いています。「何をしても所詮何も変わらない」という「あきらめ」の空気が、声から遠ざかるほど根強く漂っていることもまた事実です。
しかし、このままで良いのでしょうか?
テレビが映し出す「日本は豊かな国だ」と国会で胸を張る安倍首相。しかし、彼が見ようともしない子どもの貧困はとても深刻です。日本の子どもの貧困率は、16.3%(OECD平均は13.3%)まで上昇し、中でもひとり親家庭の子どもの貧困率は54.6%となっており、OECD加盟30カ国中最悪です。貧困は、そのまま教育格差となり、貧困の連鎖へとつながります。大学に通う若者の半数以上が高利率の奨学金に頼り、卒業後、奨学金の返済に苦しんいます。そして、今年制度発足以来はじめて生活保護受給者の高齢者の割合が50%を超えました。「下流老人」は想像以上の早さで拡大しています。格差社会は、もう我慢の限界まで広がっています。
安倍首相は「アベノミクスは成功している」として雇用率のアップを自慢しますが、増えているのはパートや派遣労働者などの非正規雇用ばかりで、民間事業者に勤める労働者のうち非正規社員の占める割合がついに40.5%に達し、初めて4割の大台を超えました。先の通常国会では、「一生低賃金・一生派遣労働者法」とも呼ばれる、派遣期間の制限を事実上撤廃する「派遣労働者法改正案」も成立しました。「高度プロフェッショナル制度=残業代ゼロ」法案も成立させようとしています。労働者を守るために作られた労働法制が、労働者を追い詰めています。
東日本大震災後、全ての原発が止まっても電力は十分に供給され、日常が脅かされることはありませんでした。「原発が止まれば電力が足りなくなる」というごまかしは、今やもう通用しません。しかし、安倍政権は原発の再稼働と技術輸出にこだわり、現在2基の原発(九州電力川内原発)が再稼働しています。福島第1原発の重大事故を風化させてはなりません。これからも原発に依存した社会を続けるのか、自然エネルギーの推進で持続可能な社会を築くのか、重大な岐路に立っています。
昨年9月に成立した安全保障関連法は、文字通り日本を「戦争が出来る国」へと変えました。海外において他国の軍隊を守るために自衛隊員が武器を使用する事が出来る、集団的自衛権に踏み込んだ法律です。国民は、アメリカの戦争に巻き込まれる危険性とテロのリスクを否応なしに背負うことになりました。しかも、この法律は憲法学者の約9割が「憲法違反だ」と指摘し、今も多くの国民が反対しています。
そして、安倍首相の最大のねらいは憲法の「改正」です。安倍首相は、通常国会において「私たち自身の手で憲法を変えていくことこそ、新しい時代を切り開いていく精神につながると確信している」「いよいよ、どの条項を改正するかとの新たな現実的な段階に移ってきた」などと答弁し、3月2日の参議院予算委員会において「私の(自民党総裁)在任中(2018年9月まで)に憲法改正を成し遂げたい」と、憲法改悪に強い意欲を示しています。そして、「大規模な災害が発生したような緊急時において、国民の安全を守るため、国家そして国民自らが、どのような役割を果たしていくべきかを、憲法にどのように位置付けるかについては、極めて重く大切な課題であると考えています」として緊急事態条項の新設を明言しています。
今回の参議院議員選挙は、日本の将来を大きく左右するこれまでにない重要な選挙です。子どもたちにどのような日本を、どんな社会を引き継いでゆくのか、私たち大人の責任が問われています。
先の衆議院議員選挙において自民党の得票率は48%です。半分以下の得票率にもかかわらず、76%もの議席占有率で他党を圧倒しています。しかも、投票率は、過去最低の52.66%であり、有権者全体に占める自民党の得票率はわずか25%です。実は「安倍政治」は、多くの棄権者によって成り立っているのです。このことは、投票に行くことで政治を変えることが出来るということを明確に示しています。この参議院議員選挙から選挙権も18歳まで拡大されます。6月22日の公示以降、7月10日の投票日まで毎日が投票日です。慎重に考え、しっかり投票し、私たち大人こそ未来への責任を果たしましょう。