2月の半ばを過ぎた週末、悲しいニュースが飛びこんできました。ディック・ブルーナさんの訃報です。ミッフィーもしくはうさこちゃんで知られる彼は、おそらく世界で最も有名な絵本作家でしょう。私自身は子どもの頃彼の絵本に親しんだという記憶はないのですが、NHKの番組で彼を扱っているのを見て、ディック・ブルーナの世界にハマってしまいました。あれは、ちょうど2000年ごろだったでしょうか、NHKで「未来への教室」という、世界の著名人が自分の母国の子どもたちに特別授業をするという、今の「ようこそ先輩」の世界版みたいな番組がありました。ある回でディック・ブルーナさんがオランダの子たちに特別授業を行っていたのです。
そこでは、彼のこだわりが紹介されていました。彼自身が試行錯誤で開発した独自の色「ブルーナカラー」の6色のみを使って構成される絵。震えるような輪郭線は拡大鏡を使いドットを打つようにじっくりと書かれ、計算されたフォルムを描きだします。マチスに影響を受けた彼は、極限まで単純化された中に美があるのだといいます。
一例は、あの口。一説ではウサギの鼻と口を合わせて×で表したといいます。確かにそうなのでしょうが、あの単純化された形は、悲しみにも喜びににも、頭の中で自由に変換できるのです。子どもの想像にゆだね得る万能のデザインです。そして安らかに眠る時には、布団で口半分を隠しvとなり、まるで笑っているようになります。しかし悩みを抱えて寝るときには口は全部隠れ、目の半分まで布団がきます。悲しみの表情です。
絵本自体にも、様々な制約を設けています。必ず、正方形の見開き12ページの物語。右が絵、左には4行詩の文。そして必ずハッピーエンドで終わるのも彼の大きなこだわりです。番組で彼は、その理由を語っていました。
1927年にオランダで生まれ育った彼は、10代でナチスの占領を経験します。自身の戦争経験をもとに、子どもには常に「人生には続きがあるんだ」という希望をもってもらいたい、という願いが込められているのだそうです。それ故、何かをなくしても必ず最後には出てくるし(うさこちゃんのさがしもの)、いじめをやめようと勇気を出して声を上げるとみんなが賛同してくれます(うさこちゃんとたれみみくん)。また、ミッフィーが万引きをしてしまう衝撃のお話もあるのですが、これもきちんとお金を払いにいき、あやまって解決していきます(うさこちゃんときゃらめる)。
番組中特にとりあげていたのが、「うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん」というお話。これはおばあちゃんが亡くなってしまうお話です。これをどうやったら希望がもてる終わり方ができるのか、ブルーナさんは子どもたちに考えさせ、絵本の最後のページを書かせていました。彼自身のお話では、ミッフィーがお墓の周りを花で飾る、という終わり方になっています。親しい人の死を乗り越えるときのヒントになる物語で、感動した私は、このやり方をまねして、授業で扱うこともありました。
ここから学んだこととして、ブルーナさんを喪った悲しみを乗り越えるには、こうやってお花を添えながら、ブルーナさんの仕事を称え、いつまでも忘れないでいることだろうと思い、このブログにも書き記した次第です。