東京教組(東京都公立学校教職員組合)

教職員のセーフティーネット“東京教組”

ディック・ブルーナさん、ありがとう

2017年02月27日 | 日記

2月の半ばを過ぎた週末、悲しいニュースが飛びこんできました。ディック・ブルーナさんの訃報です。ミッフィーもしくはうさこちゃんで知られる彼は、おそらく世界で最も有名な絵本作家でしょう。私自身は子どもの頃彼の絵本に親しんだという記憶はないのですが、NHKの番組で彼を扱っているのを見て、ディック・ブルーナの世界にハマってしまいました。あれは、ちょうど2000年ごろだったでしょうか、NHKで「未来への教室」という、世界の著名人が自分の母国の子どもたちに特別授業をするという、今の「ようこそ先輩」の世界版みたいな番組がありました。ある回でディック・ブルーナさんがオランダの子たちに特別授業を行っていたのです。

そこでは、彼のこだわりが紹介されていました。彼自身が試行錯誤で開発した独自の色「ブルーナカラー」の6色のみを使って構成される絵。震えるような輪郭線は拡大鏡を使いドットを打つようにじっくりと書かれ、計算されたフォルムを描きだします。マチスに影響を受けた彼は、極限まで単純化された中に美があるのだといいます。

一例は、あの口。一説ではウサギの鼻と口を合わせて×で表したといいます。確かにそうなのでしょうが、あの単純化された形は、悲しみにも喜びににも、頭の中で自由に変換できるのです。子どもの想像にゆだね得る万能のデザインです。そして安らかに眠る時には、布団で口半分を隠しvとなり、まるで笑っているようになります。しかし悩みを抱えて寝るときには口は全部隠れ、目の半分まで布団がきます。悲しみの表情です。

絵本自体にも、様々な制約を設けています。必ず、正方形の見開き12ページの物語。右が絵、左には4行詩の文。そして必ずハッピーエンドで終わるのも彼の大きなこだわりです。番組で彼は、その理由を語っていました。

1927年にオランダで生まれ育った彼は、10代でナチスの占領を経験します。自身の戦争経験をもとに、子どもには常に「人生には続きがあるんだ」という希望をもってもらいたい、という願いが込められているのだそうです。それ故、何かをなくしても必ず最後には出てくるし(うさこちゃんのさがしもの)、いじめをやめようと勇気を出して声を上げるとみんなが賛同してくれます(うさこちゃんとたれみみくん)。また、ミッフィーが万引きをしてしまう衝撃のお話もあるのですが、これもきちんとお金を払いにいき、あやまって解決していきます(うさこちゃんときゃらめる)。

番組中特にとりあげていたのが、「うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん」というお話。これはおばあちゃんが亡くなってしまうお話です。これをどうやったら希望がもてる終わり方ができるのか、ブルーナさんは子どもたちに考えさせ、絵本の最後のページを書かせていました。彼自身のお話では、ミッフィーがお墓の周りを花で飾る、という終わり方になっています。親しい人の死を乗り越えるときのヒントになる物語で、感動した私は、このやり方をまねして、授業で扱うこともありました。 

ここから学んだこととして、ブルーナさんを喪った悲しみを乗り越えるには、こうやってお花を添えながら、ブルーナさんの仕事を称え、いつまでも忘れないでいることだろうと思い、このブログにも書き記した次第です。


「施設に暮らす子どもたち」

2017年02月15日 | 日記

「施設に暮らす子どもたち」~人権東京の会 第57回学習交流会~1月22日(日)に今年度3回目の学習交流会が開かれました。

  社会福祉法人「子どもの虐待防止センター」でスタッフとして子どもたちや保護者と関わっておられる、水木理恵さん(臨床心理士)を講師としてお招きし、「施設に暮らす子どもたち」というテーマでお話しいただきました。

様々な理由で家族と離れ、児童養護施設で暮らす子どもたちの現状と、子どもたちへの理解、学校の役割などについて伺いました。

 

主たる養育者の必要性 

  子どもたちは学校という場で、『世界の理解と問題解決の方法』を学びます。しかしそれは、それ以前に、大人が自分を愛し、可愛がっていると感じられ、自分には愛情を受けたり可愛がられたりする価値があると考えられるようになっていることが必要です。つまり、子どもの健全な社会的・情緒的発達には、乳児期に少なくとも一人の『主たる養育者』(親でなくてもよい)と関係を築くことが必要だということなのです。

  トラウマにより傷ついた子ども暴力やネグレクトなど、様々な虐待を受けて育った子どもは、大人は自分を好きではない、うまくいかないのは自分がダメだから、自分は可愛がってもらえないなど、人間不信と罪悪感をもっています。そういった自己肯定感のなさは、学習・勉強、対人関係の困難さを引き起こし、家出、夜間の徘徊、万引きなどの非行へもつながりやすくなります。また、常に暴力被害を受け続けていると、暴力を避けることが難しくなる、自ら加害者になりやすくなる、被害を受けないために暴力者に依存的になってさらに性被害を受けるなど、負のスパイラルにはまっていくと考えられます。虐待は子どもの発達に、人格レベルにまで大きな影響を及ぼすのです。

 

教員が果たせる役割

  子どもは、出会う多くの大人から、人間とはどういうものかという型を学び、自分の中に積み上げていきます。虐待によって妨げられた人格の発達が、学校という人間関係の多くを学ぶ場で、もう一度形成し直せるかもしれないのです。その意味で教員の果たす役割は大きいと言えるでしょう。

  水木さんのお話には、多くのケースを経験されてきた重みがありました。