東京教組(東京都公立学校教職員組合)

教職員のセーフティーネット“東京教組”

もしもあの日…(いじめと向き合う③)

2012年11月17日 | インポート
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(前回までのあらすじ)「乱暴者」のヤスシがいじめられているとイズミとミカコが指摘され、担任の私の建前と本音の間にある嘘に気付かされる。先輩教師にも相談してヤスシのいいところ探しと友達つくりをはじめる。

 学年が終わるまでの間、ヤスシは成績の良いヒロムに認められたくて宿題などを頑張るようになった。授業態度も良くなった。乱暴をすることがなくなり、眼差しも明るくなった。ヒロムはヤスシと一緒にいたずらをして叱られるようになった。ヤスシが誘っているようだったが、ヒロムは絶対にヤスシのせいにはしなかった。休み時間教室にいる私に、二人はよくじゃれついてきた。それをかまう私を見て、他の生徒も教卓の周りに近づくようになった。私はクラスの全ての生徒と、1日1回は話をすることができた。
 2年生に進級するとき、私は学年の先生方にお願いし、ヤスシとヒロムを同じクラスにしてもらい、私が担任したいと希望した。そのクラスにはイズミもいた。2年生になって一週間ほどたったある日、例の如く、学活後教室に残っていた私に、イズミがそっと話しかけてきた。
「先生、ヤスシ君優しくなったよね。ヒロム君と仲良くなってから、すごく優しくなったね」
「イズミのおかげだよ」私は心を込めて、イズミの頭をなでた。

 あれからもう8年がたつ。私は時々思い返す。
もしもあの日、私が教室で仕事をしようと思わなかったら。
もしもあの日、イズミやミカコの話を聞かなかったら。
もしもあの日、先輩教師に相談しなかったら。
もしもあの日、テキストの重さがヤスシ一人では運べないものだったら。
 私は取り返しのつかない過ちを犯していたかもしれない。
 全てを偶然と片付けることは簡単だけれど、私にはそんな風には思えない。生徒に向き合い話に耳を傾けるちょっとした時間、相談しても良さそうだと思わせる余裕をもっている先輩、経験が浅くてもなんとか目の届く人数、そういったものが私の間違いに気付かせてくれたのだ。
 そうしてヤスシを救ってくれた。私も救われた。トラブルが続いていたとき、私の前で「この子はもう私の手には負えません」と泣き伏した、ヤスシの母親もそうだ。

 子どもをめぐる哀しい事件が続いている。それを根絶するために必要なのものの一つは間違いなくいろいろな意味での「ゆとり」であると、私は言いたい。


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