TMA講師代表:専門が中国経済史なので、2016年の中国経済を予測してみる。結論は、過剰な産業生産の能力を調整し、減税を実施し、財政の赤字を拡大し、産業経済だけでなく経済社会の構造改革に取り組み、粗放な生産力第一主義から洗練された生産調整能力のあるミクロ経済の調整管理に力点をおくというものである。資料は、12月18日から21日まで北京で開かれた「中央経済工作会議」を概要を伝える「人民網」によるもの。
2015年の中国経済が直面した課題は、粗放な社会主義経済学の名残である生産力第一主義が招いた「過剰生産」による不良在庫がもたらした経済の悪循環である。形式だけ株式会社である国営企業は、軒並みに過剰生産の結果、製品の不良在庫化が進み、企業会計の赤字が相互に連鎖する深刻な事態を経験している。生産力の解放が、社会主義であるというスターリン時代の教条は、この中央経済工作会議の要約にもまだ見られるロジックである。このような粗放な社会主義経済学の蛇尾を残しながらも、他方で、企業減税(制度減税と資本金減資)により、財政の大幅な赤字率が高まることを肯定した点に新味がある。
そもそも、12月の下旬に開かれる中央経済工作会議は、翌年の3月に開かれる「全国人民代表大会」(日本の衆議院に該当)へ提出される予算案の大綱を決定するため、党中央書記処が管轄する党政治局常務委員を構成員とする会議である。国務院総理は、この会議のナンバー2である。
中国の国営の大型企業が、過剰な原料在庫、不良な製品在庫を抱え、生産調整に失敗し、日本でいう不況が蔓延し、そうした企業からの国家財政、地方政府財政への税収が大幅に減少するという前提で、「財政の赤字」を大胆に、公然と肯定したことが過去の中国共産党中央の経済政策には見られなかった。財政の健全主義、これが中国社会主義経済学の原理主義であった。それでは、不足する税収をどこから補なう計画であるのか、それが「人民網」の資料からは見えてこない。
中国経済の潜在的な回復力がある、という主張を語ることで、この疑問は打ち消されている。おそらく、反中国主義を職業とする論者は、その不透明性から、中国経済が世界経済の破局を描き出すだろう。しかし、中国経済のグローバル化は、すでに300年の歴史があり、日本人の海外ビジネス展開にともなう海外日本人の総人口よりもはるかに多い海外華人・華僑(2億5千万人)を擁している。そこへ、新華僑という中共の政策による在外の工作者を入れると人口では世界最大である。まして、イギリスのエコノミストが正確に分析し、IMFのSDRに人民元を第3位の通貨に推薦し、2016年10月から人民元の国際通貨化が初めて完成する。結果、香港ドル、台湾ドルは、その連動性において存在価値を増す。中国経済の総量のスケール・メリットは、回復局面では有効に作用する。
このブログに書いてあるのは、北京のオリジナル・データからの中村の解析である。富山の企業のある人から、日本語の新聞や雑誌のどこにも書いていないので、中村の分析や主張は信用できないと、正面切って言われた。オリジナル・データである漢語の原典から読み取れる能力があるという価値は、富山では評価されない。そんな能力がある人間が富山にいるはずはないというのだ。
財政の健全化という議論が、中国共産党では大きく後退し、財政赤字のもとで、新常態のレベルでも経済成長率の維持を優先した、と分析できる。中国のミスのおかで、資源系の素材の国際価格が低く、原油も高騰しないので、日本経済は再起動の効果が望める。中国市場で欲しがられる製品・サービスの内容が、大きく変化することも確かである。