富山マネジメント・アカデミー

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中国経済は、4月期より、回復軌道に入りつつあるとみてよい。(校正済)

2016年04月02日 | Weblog

TMA講師代表:中村の専門は、中国の経済史にある。歴史屋さんが嫌いで、現状分析に力を入れている。現在の中国経済の減速は、実は2014年の9月に「人民日報」で公表されていた。人民銀行が集計する「通貨供給量」の統計において、昨年ではなく、もう1年前の2014年8月に経済規模の拡大とは異なる減速の兆しがでている、と報道した。この事実は、中村が参与をしている富山県日中友好協会の中国近代史講座の2014年10月例会で報告した。おそらく、日本で一番早い情報である。中国経済は、減速の過程にはいったが、その原因の一つが、習近平政権による不正・腐敗の撲滅運動である、と論じておいた。すこし、過去を振り返っておく。

そもそも、中国経済は「宴会商談」抜きには成立しない。それと、公然化している「賄賂」である。10%の悪と平行しながら、20%の善である経済成長が達成される。その成長の原資は民間にはなく、莫大な国家資産にしかない。官僚がすべてを握る財政権と土地用途管理権により、国家公共財が消費の引き金を引く。それにブレーキをかけたのが、習近平政権である。暴走していたのは、江沢民政権により党中央の役職に進出していた「私党」である。ところが、習近平政権のブレーキが利きすぎて、経済政策の再検討を迫られる状況で、胡錦濤政権の後継者である李克強に責任転嫁するのか、それとも習近平政権の責任とするのか、微妙な駆け引きが2015年から始まっていた。

困難を公開し、国際経済社会の基本ルールを受け入れる「改革」という点では、習近平政権の路線と李克強の路線とは、一本の路線ではあるが、アクセルとブレーキ、ハンドル操作では、微妙な違いがある。ここへきて、習近平政権を相対化する党内世論と、それを絶対的な党総書記の権力で鎮圧する立場とが際立ち始めた。実は、胡錦濤政権・李克強の経済政策、特に農業・農村・農民の貧困解決には、日本の官僚にアイデアを求めてきた失政があり、それが習近平を政権に中心に押し上げた原動力であることは、すでに「高岡法科大学紀要」で論じている。今回の全人代の李克強の政府報告には、何千箇所にわたる修正意見、党内外のアイデアが組み込まれている。そのように、「人民日報」は事後解説している。李克強が何度も読み間違えたのは、直前まで、修正が続いたからだと想像できる。実は、党内の民主化は、胡錦濤が歴史的に見て最大の功績を収めている。李克強が統括する国務院は、祖師が周恩来であり、党内民主とIT革命のお陰で、行政管理の能力は向上し、現在は地方分権化を推進している。李克強は農村政策には市場主義のミスを犯したが、習近平政権は、極貧の農民層への直接に金銭支援により、毛沢東の「自力更生」主義の伝統を破り、ばら撒き福祉により党中央の権威を回復したようにみえるが、それは中共の内陸、奥地の支持を固めただけで、中国経済の社会的セーフネットを補強したにすぎない。李克強の報告に対し、習近平が拍手せず、憮然としたのは、李克強が党内民主を活かしたためである。読み間違えた理由につき、「人民日報」が李克強をフォローする記事をすぐさま入れたことは、習近平政権へ距離をおく党内勢力が多数存在することを意味している。 

さて、ここで、中国経済が回復軌道にあるという証拠は、まず、今年になっても中国からの観光客の来日は衰えておらず、さらに、東芝の家電部門を中国の企業が、破格の価格買収した経営の判断にある。これからの中国経済は、中国企業もアセアンでモノづくりし、中国国内の個人消費市場の需要を満たすことで成長するパターンとなる。こうしたアセアンーチャイナの経済循環の先頭にあるのが、伊藤忠商事である。三菱商事、三井物産、住友商事は、中国経済に内在する成長要因を日常的に、身体的に体感できていない。敵対的に見ているので、中国経済が緩やかに回復軌道にあるのに、反対に、大減速している筈だと決めつけている。さらに、2016.4/1に発表されたPMIの3月データから、7か月連続の下降から脱し、3月より製造業の大企業では反転、さらに、非製造業では上昇の転じているという。データ解釈は控えめで、季節要因などから単純な上昇への転換とは結論づけていない。だから、回復軌道のスタート地点に入りつつあるという慎重な判断も求められる。北京の国家統計局は、慎重な姿勢である。

現在、日本経済の減速が急速に目立ち始めたのは、旧財閥系の経営体質が転換期にきているからである。構造的な要因である。また、アジアの生産と消費の基軸が、アセアンとチャイナに移り、中国を包囲する反中国の軍事対抗戦略が、アセアンを基軸とする経済成長への参画に阻害要因となってきたからである。

そうみると、シーンはチェンジしてきた。シャープを買収した台湾の鴻海は、台湾の資本でありまがら、実は中国経済の発展の心臓部である。日本では、みずほ銀行がここをきちんと読み切れている。日本と中国とを対比的に考えた時代は終わった。中国という世界市場の大きな広場で、台湾人、広東人などの「郷党」と盟約を汲める「伊藤忠」のような日本企業には発展の可能性がある。それと、政府・日本外務省をパイプに中国との関係をたもつ「日の丸護送船団」の官僚経営集団との闘いである。銀行では、三菱系、三井住友系に対する、「みずほ」系の新アジア主義との闘争である。シャープの買収劇は、後者の道筋が現実的であることを意味している。中国人民銀行とIMFとは蜜月の関係にある。9月に向け、中国経済は緩やかに回復している。上海の株式の総合指数3000ポイントの回復は、その最初のシグナルである。中国は産業ロジスティクス革命に膨大な財政支出を行う。均質な電力が、全国的に統一した供給規格で全戸に配電される。それは、5年で完成される。中国企業が、東芝ブランドを高く買うだけの理由がそこには大いにある。習近平政権は、国際通貨基金がSDR債券を発行するように提案している。世界的規模での量的緩和である。脱米ドルという大願が可能だとみている。


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