富山マネジメント・アカデミーの主要なメンバーである森健二さんが、『ソニー森田昭夫:時代の才能を本気にさせたリーダー』という本をダイヤモンド社(定価2200円)を公刊された。全国の書店の店頭に並んでいる。
富山大学経営学科の皆さんは、4月20日の特殊講義で、森健二さんの講演を聞く機会があった。
1945年を一つの節目とすると、日本の現代産業社会はアメリカという巨大市場を得て、復興期から高度成長時代をかけのぼり、世界第2位の経済大国へと大飛躍する。数ある名門企業を追い越し、ニューヨーク証券取引市場に、日本企業の上場を果たした最初の企業がSONYである。SONYが達成した偉業は、顧客にとり新しい価値としての生活文化様式の創造であった。今日、その主役はアメリカのベンチャー企業から発展したアップル社と交代したが、それでもSONYというブランド価値は瓦解したわけでない。
さて、著者である森健二さんは、週刊ダイヤモンドの副編集長を務め、現在、富山市の八尾という山間部に居を構える「逸民」である。おつきあいの関係で、発売前の著書を頂戴した。3日を要して読了したが、この本は「盛田昭夫フアンクラブ本」の域をはるかに超え、学術的な批判に耐えられる日本の経営者論としても、あるいは、経営史学の著作としても刮目するべき大著である。全体が565頁(注記、年表を含む)、読み応えがある大作である。
重要なことは、盛田昭夫さんの伝記ではあるが、SONYの創業から全盛期、そして陰りが見える時期までの経営の本質を理解したうえで、経営評論としてのハードな経営者論が根幹に貫かれていることである。特に補章である「その後のソニー」の章を書きたいために、序章、第1章から第16章「最後のメッセージ」までがあると思われるほどである。その詳しい紹介は、別の機会に譲るが、この本は、森健二さんが盛田昭夫を顕彰することで、現在の日本企業の経営者の人格・教養・思想・行動様式など求められる至高を提示している。なお、盛田昭夫さんの経営判断として、アメリカのハリウッドの映画企業の買収にあたり、コロンビアを選択した判断には、森健二さんは否定的な判断を下しており、そこが客観的な学術的批判に耐える著作として推薦できる大きなポイントである。