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今日の筆洗

2023年06月10日 | Weblog
 「ポッポー、ポッポー」と毎正時を告げる鳩(はと)時計。東京の機械工具の商社、手塚商店(現・テヅカ)を率いた女性社長、故・三橋可免(かめ)さんが戦後間もなく国内向けに製造を始めた▼軍が必要とした測定器を作る仕事は終戦でなくなり、従業員ともども食べていくために手がけた新事業。ドイツのシュワルツワルト地方で作られるカッコウ時計に着想を得た▼カッコウは閑古鳥とも呼ばれ、商売がはやらないさまを「閑古鳥が鳴く」と言うように日本では印象がいまひとつ。戦争も終わったのだからと平和の象徴を代役にした▼今日は天智天皇が日本で初めて水時計を置いた故事にちなむ「時の記念日」。二年前に夫に先立たれた名古屋の女性(84)が寂しさを紛らわせるため、長く壊れたままの鳩時計を実家に頼んで譲り受け、時計職人に直してもらった話が少し前、地元で報じられていた。時計は可免さんの会社製である▼夫の介護で忙しい日々が去り、女性の家に訪れるようになった静けさ。鳩の鳴き声は心地良く、時計から顔を出すのをいすに腰かけて待つこともあるという▼「ポッポーと鳴く鳩が、人々に平和で幸せな時間を告げられますように」と願った可免さん。大正期に夫が病没したため社業を継ぎ、昭和の戦前には息子も病で喪(うしな)っている。人を亡くす悲しみを知る人だからこそ、優しい時計を世に送り出せたのだろうか。