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今日の筆洗

2017年11月22日 | Weblog

 水からガソリンをつくる。そう聞けば、だれもがばかなとおっしゃるだろうが、この詐欺に引っかかりそうになったのが、旧帝国海軍である。山本一生さんの『水を石油に変える人』(文芸春秋)に詳しい▼詐欺の触れ込みによれば「水に七種類の薬品を一定の間隔で投入、五十度まで加熱するとガソリンに変化する」。一九三九(昭和十四)年一月、海軍省での実験では水だったはずの液体がライターの火で燃え上がったという▼もちろん、すり替えによる「神業」。見破られて御用になったが、海軍をおこわにかけようとはおそれいる。海軍もそれほどガソリンの入手に悩んでいたか▼「コーヒーでバスを走らせる」。この話も…とつい身構えたくなるが、本当らしい。コーヒーを抽出した後に残る豆のかすを使った燃料の開発に、英国の会社が成功したそうだ▼捨てれば、メタンガスや二酸化炭素(CO2)を発生させる豆のかすを再利用。ロンドン交通当局はこの燃料を採用し名物の赤い二階建てバスを走らせるそうでこの燃料なら、排出されるCO2の量は従来に比較して10~15%削減できるというからコーヒーのせいではなく、目が覚める▼<一杯のコーヒーから夢の花咲くこともある>。「一杯のコーヒーから」。省エネ、排ガス抑制の知恵と成果が頼もしく、つい口ずさむ。海軍がだまされかけた三九年の流行歌である。


今日の筆洗

2017年11月21日 | Weblog

「大根、芋、ねぎ、しいたけなどの野菜がたっぷりと入った葛(くず)仕立ての汁へ口をつけた平蔵が、『うまいな。(中略)おぬしがひいきにするだけのことはある。躰中(からだじゅう)が一度にあたたまってきたぞ』」▼池波正太郎の「鬼平犯科帳」から引いた。冬の夕暮れ。鬼の平蔵さんがほめているのは「のっぺい汁」。つい引用したくなったのはこの寒さのせいである。きのう、関東地方は強い寒気の影響で今季一番の冷え込みとなった。奥多摩町では氷点下〇・三度。もうそんな時季になった▼大根の収穫期でもある。煮てよし、漬けてよし。大根役者とはどのように食べても食当たりしにくい大根の性質と、「当たらぬ」=人気が出ないことをかけたシャレと聞くが、用途が広くビタミンC豊富な大根は冬の食卓の「千両役者」。おでんの具材の人気投票をすれば、上位の常連であろう▼「徒然草」に、大根を「よろずにいみじき薬」として毎朝焼いて食べることを日課としていた男の話(六十八段)がある▼ある夜、男の屋敷を敵が襲ってくる。そこに二人の武士が突然現れて、敵を見事に撃退。聞けば、この二人は「長年、食べてもらっている大根」。大根の恩返しとはCMめいているが、それほど、ありがたき大根の効能か▼残念ながら、今年は台風や天候不順の影響で、大根の値は少々お高いと聞く。なんだか、また、寒くなってきた。


今日の筆洗

2017年11月20日 | Weblog

 「なんだい、この鰻(うなぎ)は三年、舌の上にのっけてもとろっとなんてこないよ」「このお新香(しんこ)、よくこれだけ薄く切れたもんだねえ。薄くて立ってられないから、お新香同士が力を合わせ、支えている。見ていて、涙ぐましいよ」▼落語の「鰻の幇間(たいこ)」。幇間(ほうかん)の一八、さる客に鰻をごちそうになる気でいたが、逃げられてしまい、お代をすべて払わされるはめに。腹を立て、つい鰻屋に八つ当たりし文句を並べ立てる▼こんな文句なら、鰻屋の方も、あとで思い出し、笑ってしまうかもしれぬが、こっちの文句や行為に笑いはなかろう。スーパーやコンビニなど接客の現場に客側の悪質なクレームが目立ち、社会問題となっている▼暴言やクレームの繰り返し、威嚇。中には土下座を求める人までいる。労働組合「UAゼンセン」の調査によると、客からの迷惑行為を受けた経験のある店員やスタッフは全体の約七割。驚くべき数字で店員への強いストレスとなっている▼「お客様は神様です」-。三波春夫さんの有名なセリフは観客を前に歌う神聖な気持ちを表現していると聞く。あくまで自分の心構えであって、それを客の方が持ち出して、「オレは神様だ」と振る舞えば、世の中うまく回るはずもない▼今、必要なせりふは「お客様は人間です。店員も人間です」か。同じ人間。こっちの方が、お互いに優しくなれる気がするが。

 

幇間 ほうかん

 

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

幇間
ほうかん

 
太鼓持ち,末社ともいう。男芸者のこと。酒席遊客座興を見せ,遊興とりもちをする。吉原に限り太夫と呼ばれた。

古今亭志ん朝 鰻の幇間


今日の筆洗

2017年11月19日 | Weblog
ある夜、仕事で疲れ切った女性がタクシーを止めようとしたそうだ。ところが空車がやって来ない。あっちこっちとさまよい、やっと一台見つけた。心からほっとして目的地を告げた。「家まで!」▼歌人の穂村弘さんがある女性作家の話として書いていた。住所ではなく「家まで」と言われた運転手さんはさぞや面食らっただろうが、この疲れた女性の気持ちは分かる。「家」。くつろぎと安心の「場所」へ一刻も早く帰って、休みたい。そんな衝動が住所ではなく、「家まで」と言わせてしまったか▼「家まで」といえるのは幸せかもしれぬ。「帰る場所がない」。それが一つの背景と聞く。高齢者の再犯率の高さである▼出所したのに再び罪を犯して、刑務所に逆戻りしてしまう。最新の犯罪白書によると六十五歳以上の高齢者の再入率(出所後二年以内)は23%で世代別トップである▼出所後の貧困や親族との疎遠な関係が生活場所を見つけにくくしている。老いて帰る場所のない身を想像すれば自暴自棄にもなりやすかろう。刑務所を帰るべき「家」のように思う現実があるとすれば悲しい▼<いざや楽し まどいせん>。ドボルザーク作曲の「遠き山に日は落ちて」。夕暮れ。仕事を終え、誰かとの団居(まどい)を楽しみに家路につく。帰るべき場所、それを大切に思う日々。それがあれば暗い道を再び選ぼうとは思うまいに。

今日の筆洗

2017年11月18日 | Weblog

 これは、米国の政治小噺(こばなし)…。初めての子を授かったばかりの男性が、みんな顔を真っ赤にして泣いている新生児室を見つつ漏らした。「なんで、みんなあんなに泣いているのかな?」▼それを聞いていた医師が、ひと言。「生まれてまだ間もなく、将来も分からず仕事もなく、それなのに政府の赤字が一人当たり数千ドルもあったら、あなたも泣きたくなるでしょう」▼赤ん坊がそんな理由で泣くとしたら、この国の赤ちゃんは、どうなるか。わが国の借金は千八十兆円余で、国民一人当たり実に八百五十万円余である▼少子高齢化で若者世代の負担は重く、さらに教育費の負担もずしんと重い。非正規雇用が多く、賃金は伸びない。そう聞かされたら、赤ちゃんは青くなって黙り込むかもしれない▼きのうの所信表明演説で首相は「少子高齢化の克服に向けて力強く踏み出す時」と語り、幼児教育の無償化などを打ち出したが、財源はどうするか。借金まみれなのに、米政府の言うまま巨額の兵器を次々買い、兆の税金を注ぎ込んでもまともに動かぬ核燃料サイクル事業を続けて財政再建はできるのか▼これも、米国の政治小噺…。小学生が、国の財政について作文を書いた。<未来の人たちが、ここにいないのは残念です。僕らが、彼らのお金で、いろいろ好きなことをいっぱいやっているのを、見せてあげたいと思うからです>


今日の筆洗

2017年11月17日 | Weblog

「灯を凝視しつつその美しさを観照したまえ。瞬(またた)きしてこれをいま一度見直したまえ。そこに君の今見ているものは前にはなかった、そこにかつてあったものはもはやないのである」▼そんな言葉を残したのは、レオナルド・ダビンチ。美と知の巨人にとって絵画とは「自然の存在の移ろいやすい美しさ」を、永遠に留(とど)めておくための術(すべ)だったという(『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』岩波文庫)▼この絵も、はかない灯のように消えてもおかしくない運命だった。ダビンチ作「サルバトール・ムンディ(救世主)」を所有していた十七世紀の英国王チャールズ一世は、斬首された▼十八世紀半ばから百四十年近く所在不明となり、再び現れた時は巨匠本人の作とは思われなくなっていた。作品はひどく傷み、一九五八年に売られた時の価格は四十五ポンドというから、物価上昇を考えれば十数万円▼それから半世紀また行方知れずとなったが、再び世に出てダビンチ作と確認されると転売のたびに高騰し、きのうの競売での落札価格は五百億円余というから、ため息が出る▼落札者は明らかにされず、この「人類の宝」が今後、公開されるかも定かではない。ダビンチは「誰より多く持っている者は誰より失うことを恐れる」との言葉も残したそうだが、この絵を我が物にした人物は、「救世主」に心の平穏を得ることができるか。