「空」という字は、小学校一年で習う八十の漢字の一つだ。「母」という字は、二年で習う百六十字のうちの一つ。どちらも、この世界を成り立たせているものを表す大切な字だ▼ちょっと、想像してみていただきたい。私たちが漢字を覚え始めたばかりの子どもだとして、この二つの漢字の組み合わせを見て、どんなものを表していると思うだろうか。「空母」という二文字の意味である▼空の母。何かやさしい、のびやかなイメージがふくらんでいくような二文字だ。きっと、けんかやいやなこととは無関係の、すてきなことを表す言葉じゃないか、と思うのではないだろうか▼しかし、現実の「空母」は、航空母艦の略である。いま日本周辺では、この二文字が鋭い緊張感をはらんでいる。米軍の司令官は、原子力空母カール・ビンソンが「北朝鮮への攻撃射程内に入っている」と言った。中国は、アジアの海と空を制する力を得ようと、初の国産空母を進水させたという▼「雲母」と書けば、別名「きらら」とも呼ばれる鉱石。「水母」なら、水月、海月とも書かれる海の舞姫クラゲ。「空母」も、そんな自然の美しさを言い当てる名詞であってほしかったが、その二文字が産むのは、灰色の重苦しいイメージである▼<屋上に洗濯の妻空母海に>は、金子兜太(とうた)さんの句。「空母」の空と母の字が、悲しそうに見えないか。
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