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今日の筆洗

2016年10月14日 | Weblog

 音楽好きとして、こんな夢想をすることがある。ノーベル音楽賞があったならば、誰が受賞していただろうか。二十世紀初頭の作曲家なら、マーラーやラベルは確実だろう。演奏家ならチェロ奏法に革命をもたらしたカザルスか…と妄想は膨らむのだが、これではクラシック音楽偏重だ▼ノーベル音楽賞があったとして、恐らく最大の議論の的となったのはビートルズだろうし、この人も最有力候補だったに違いない。世界に新たな歌を響かせたボブ・ディランさんだ▼音楽賞はなくとも、文学賞があった。「米国の偉大な歌の伝統に、新たな詩的表現をつくり出した」との理由できのう、ノーベル賞が贈られることが決まった▼冷戦の真っただ中に子ども時代を送り、学校では核戦争に備えた訓練を体験した。恐怖の暗雲が子どもの生き生きとした心に覆いかぶさる時代なのに、ラジオから流れる音楽は「ミルクと砂糖のように白くて口あたりのよいものばかり」。だから「自分たちの時代の音楽」を、自分で歌い始めたのだ▼自伝で、彼は自らの歌を<親しみやすくもないし、心地よい甘さにあふれてもいない。やさしく打ち寄せる波とはちがっている>と評している▼彼にとって歌とは、<異なる現実の認識へ-異なる国、自由で公平な国へ-導いてくれる道標>なのだという。それは間違いなく、私たちの時代の道標だろう。


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