「遼」とは遠い距離を意味する。「広い視野と心を持ってほしい」。ご両親はそう願い、その名を選んだそうだ。囲碁の一力遼天元である▼国際棋戦「応氏杯世界選手権」で初優勝を決めた。主要な国際棋戦での日本勢の優勝は19年ぶり。日本のファンが長く待った快挙である▼「遼」という遠い道を想像する。平坦(へいたん)な道ではなかっただろう。2013年、勝てば最年少でのリーグ戦入りとなる名人戦最終予選決勝。優勢にみえたが、逆転を許し、「3目半負け」。「これほど辛(つら)い負けは経験したことがなかった」という▼七大タイトルを2度独占した、井山裕太三冠に歯が立たなかった時期もある。10を超える連敗。「よい選手になるには何百回と負けなければならない」。かつてのチェス世界チャンピオン、キューバのカパブランカの言葉だが、囲碁も同じか。数々の敗北と悔しさが遠い道を歩む者を鍛えあげ、国際戦優勝へと導いたのだろう▼新聞という仕事と囲碁の二刀流の人でもある。高校に進学せず、囲碁に専念する棋士は珍しくないが、大学まで卒業し、父親が社長を務める河北新報社に入った。その分、道をさらに険しく、複雑にすることもあったはずだ▼「遼」の「尞」とはかがり火のことらしい。韓国、中国勢がランクの上位を占める世界の囲碁界である。この優勝が日本勢の道を照らす大きな火となればと願う。
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