本を読もう!!VIVA読書!

【絵本から専門書まで】 塾講師が、生徒やご父母におすすめする書籍のご紹介です。

『ダイアローグリスニング』伊藤裕美子 Nadia Mchnie

2006年10月10日 | 英語リスニング


ダイアローグリスニング.JPG


この何の変哲もないストレートな書名に、ごく普通の表紙。特徴のない、ありふれた一冊かと思いきや、中身は抜群に楽しいリスニングのテキストです。やっぱり人とテキストは外見だけじゃあ分からない!

ダイアローグリスニングとありますから、すべてが対話文で、28ものストーリーが用意されています。CDは1枚ですが、非常に中身は充実しています。

ただし、易しめのものがいくつか入っているとはいえ、全体的には、大学受験のリスニングレベルをかなり超えた内容で、TOEICよりも上でしょうから、大学生以上にお薦めです。


さまざまな日常の場面、職場や家庭だけでなく、学校、レストランやバーやビーチ、病院やスポーツクラブでの会話を取り上げますが、教科書のように、場面の決まり文句を覚えるのではありません。酔っ払いやサーファーが出てきたり、浮気がばれたり、嫁姑の争いがあったりして、かなり実用的です(笑)。

さらに特筆すべきことは、ほとんどすべての話にオチがある、つまり笑い話になっていて、おもしろいんです。いずれも日本通の人が作った話らしく、外国人じゃないとわからないといった類のジョークではまったくありません。とにかく楽しい。(もちろん言っていることが分かれば、ですが)


その上、ナレーターは著者に名を連ねる、ナディア・マケックニーの他、エリック・ケルソー、ビアンカ・アレン、マシュー・ホールの男女2人ずつ、英米2人ずつの4人。 いずれも日本のテレビやラジオの英会話番組などで活躍する“大物外国人!?”ですから、それだけでも聞く価値がありそうです(笑)。さらに他2名います。

ネイティブが1名か2名で済ましてしまうリスニングテキストも多いのですが、大物含め6人も動員しているということだけで、本書の力の入れようがうかがえます。


いきなり聞いてわからなくても、本書にはページ数をご覧になってもらえばわかるように、テキスト自体もリスニングとしては、かなりのボリュームです。ですから、簡単な質問から、穴埋めのディクテーション用テキスト、覚えておきたい表現、さらに重要構文の解説などが丁寧です。

後半などはかなりのスピードですから、これが音読できれば、大したものです。私も車の中で、飽きることなく聞いています。 今はまだ、このレベルが難しいかなという方は 『英語耳(松澤喜好)』 で基礎を作り、そのあと 『確実に英語力が上がるシャドーイング&ディクテーション(浅野恵子)』、そして本書という感じでしょうか。


伊藤氏の著書は以前、『リスニング英“聞”法』 をご紹介させていただきました。そちらもちょっと大学受験に的を絞っているわけではないのですが、なかなか意欲的な一冊で感心しました。

本書などは聞いて楽しんで、何となくわかった気にさせるのではなく、ちゃんと単語や口語表現のチェックができるように作ってありますし、アウトプットにも気を配った解説に、氏の熱意を感じる一冊です。難しいけど、お薦めです。

http://tokkun.net/jump.htm
 

ダイアローグリスニング

旺文社

詳   細

『ダイアローグリスニング』伊藤裕美子
 Nadia Mchnie 旺文社:207P:1575円(CD1枚付き)


P.S.  生徒諸君!そういえば 当教室 でも、リスニング講座とTOEIC IPテストの実施が近付いています。では、講座でお会いしましょう!



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『マンガ金正日入門』 李友情(著) 李英和(訳)

2006年10月09日 | 外国関連

金正日入門.JPG

ついに、北朝鮮が核実験を成功させてしまったようですね。東アジアはこれで、一気に緊迫した場面を迎えましたね。

韓国も核を持つと言い出したら(実際、極秘に開発していたと報道されましたね)、日本はどう対処すべきか、まだまだ日本では議論すらされていません。

せっかく日中・日韓関係が修復できそうな雰囲気で、さてこれからという段階での、核実験でした。安倍さんも、総理就任早々、この大きな不安が現実のものとなりましたから、いきなり指導力、危機管理能力を試される問題にぶつかったわけです。うまく対処してもらいたいものです。


これまで、外交や北朝鮮関連の本 を何冊かご紹介しましたが、中には、アメリカが北朝鮮に武力行使することを明言していた『アメリカの世界戦略を知らない日本人―日高義樹』 もありました。イランやイラク問題で忙しいとは思いますが、最悪、ミサイル攻撃なんていう可能性があるのでしょうか。

ともかく、中国、韓国の政府、国民も、やはり北朝鮮より日本の方が信頼できると感じてくれて、今後、いろいろな点で協力して行動できると良いのですが…。 その意味では、皮肉なことに核実験をしてくれたおかげで、日中韓はぐっと接近できるかも。


本書の目的は “韓国民に金正日の本質を知らせること” だそうですが、韓国では発売直後に出版禁止になってしまいましたが、日本ではとても売れた一冊です。

北朝鮮関連の本を読んでいる人は、北朝鮮体制の残酷さや、政治指導者達の非人間性は百も承知だと思いますが、本書は金正日個人にスポットをあてています。  私にとっても、金正日個人に対しては、はじめて触れる情報が多く、興味深く読みました。

その生い立ちから描かれており、金日成の後継者の座に着くまでの権力闘争などは想像していたよりずっと激しいものでした。思想的な理想があるわけではなく権力と富を独占したいというだけの男として描かれています。

筆者が韓国で本書を出版したころ、タイミング最悪で、金大中政権の太陽政策が実施されていました。今の盧武鉉大統領も同様の太陽政策ですが、今回の核実験で大幅な政策転換があるんでしょうか。

筆者は、同じ太陽でも、北を焼いてしまうような、“太陽政策”を取らねばならないと主張します。確かに本書の内容が真実であれば、このような体制は一日も早く無くなるべきだと感じますが、残念なことにこの体制の存続に貢献しているのは、これまでは他ならぬ日本であったということを考えると複雑な気持ちです。



とりあえず核実験のニュースを受けて、予定外の記事UPでした。


P.S. 世界史受験生諸君!予定外でも、せっかくだから、勉強しよう!
太陽政策といえば、第二次世界大戦前のイギリスによる宥和政策です。チェンバレンやミュンヘン会談、大丈夫かな。確認を!

→『入試に出る!!時事ネタ日記


http://tokkun.net/jump.htm 


『マンガ金正日入門』 李友情(著) 李英和(訳)
飛鳥新社:342P:1260円

マンガ金正日入門-拉致国家北朝鮮の真実

飛鳥新社

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『エメラルドカウボーイ』 早田英志

2006年10月09日 | ノンフィクション

カウボーイ.jpg


筆者の早田氏は貿易商です。現筑波大学を卒業後、アメリカの航空会社でメカニックのライセンスを取り働いていましたが、30歳でコスタリカ国立大学の医学部に入学します。

しかし、ビジネスに興味を持ったことから、大学を中退、農園やレストラン、バーなどを経営。その後コロンビアに移ります。 本書はコロンビアに渡った後、彼の地の特産品であるエメラルドを扱って、成功を収めるまでの道のりを紹介したノンフィクションです。

コロンビアに対してどのようなイメージを持っていらっしゃるでしょうか。旅行でも簡単には行けないはずですが…。


コロンビアといえば麻薬組織が暗躍し、その力は大統領や軍上層部まで及ぶといわれています。誘拐、暗殺などは日常茶飯事で、本書で描かれる様子は、以前ご紹介した 『パブロを殺せ(マークボウデン)』 で読んだコロンビアの状況と酷似しています。

商売上の詐欺や、警察、役人に対するワイロは当たり前、闇の世界での商売敵やボスの逆鱗に触れた者には容赦なく、誘拐や死が待っています。

そういう世界で早田氏は類まれな闘争本能というか生存本能を発揮します。自らが命の危険にさらされたのは数知れず、妻や娘にまで危険が及び、ロスに移住もさせています。出社の時のボディーガード(5人くらい)は全員ショットガンを携えていて、まるで映画のワンシーンです(写真が載っています)。


230ページほどですが、おもしろくてすぐに読みきってしまいました。

また、映画化もされました。シネマトゥデイの記事によりますと、


コロンビアで“エメラルド王”として君臨する、早田英志の半生を描くセミ・ドキュメンタリー。危険な撮影に恐れをなしたハリウッドの監督や俳優が次々と降板する中、若手のアンドリュー・モリーナ監督が後を引き継ぐ。ゼロからスタートし、今ではエメラルドの鉱山を所有し、輸出会社や警備会社も経営する現在の早田を本人が熱演。まるで開拓時代のアメリカ西部を地でいく彼の波乱万丈の人生は、ワイルドでスリル満点!


こちらで↓映画の予告編が見られます。
http://www.uplink.co.jp/emerald/


P.S.  今日本書をご紹介したのは、アメリカへ命がけ(笑)で旅立つ、ふるさん(このブログは未成年入場禁止!) への餞別のつもりです。がっぽりもうけて、生きて帰って来てください(笑)! いってらっしゃーい!


P.S. 未成年、世界史受験生はこっち(笑)。 『独立後の南米』の暗記事項です。コロンビアのシモン=ボリバル知ってるかな?

→『試験に出る!!時事ネタ日記

エメラルド・カウボーイズ

太田出版

詳   細
エメラルド・カウボーイ

アップリンク

詳   細

http://tokkun.net/jump.htm 


『エメラルドカウボーイ』早田英志
太田出版:235P:1680円



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『わたしたちが孤児だったころ』 カズオイシグロ・著 入江真佐子・翻訳

2006年10月08日 | 小説

孤児だったころ.jpg

安倍首相が、中国で胡錦濤国家主席らと注目の首脳会談に臨みます。はじめての外遊が、問題山積の中国、そして韓国ということで、いやがうえにも注目が集まります。凍てついてしまった、それぞれの二国間関係を修復するきっかけになるのでしょうか。

今日はそれらがうまくいくことを願って、日中を題材にしたすばらしい小説を取り上げます。

最近、イギリスの文学界では日本や中国などアジアを舞台にした作品が多く出版されているそうで、その中でも際立った評価を受けているのが本書です。 カズオイシグロの作品は以前に、『日の名残り』 をご紹介しましたが。それとはおもむきの異なる一冊です。


アヘン戦争アロー戦争 当時に上海にいる一人のイギリス人少年は、両親が謎の失踪をとげ、孤児となってしまいます。イギリスに帰国後、親戚の家で成長し、やがて自分の夢であった探偵になり、若くして名士の地位を確立します。ここらは、イギリスならではの話の展開ですね。

やがて、日中戦争 のさなか、混乱の上海へまいもどり、むかしの親友アキラや両親をさがすのです。少し前に、『上海ベイビー』 をご紹介しましたが、本書も上海が舞台でした。


ミステリ-的な要素もありますので、ここまでしかご紹介できませんが、ぜひ多くの方に読んでいただきたいすばらしい作品です。 前半部分の落ち着いた格調高い上品な世界から、後半の徐々に緊迫した場面へのつながり、話の展開も見事で、悲しくも感動のラストまで実によくできた小説だと思います。


http://tokkun.net/jump.htm 

わたしたちが孤児だったころ

早川書房

詳   細



『わたしたちが孤児だったころ』 カズオイシグロ・著 入江真佐子・翻訳
早川書房:414P:1890円(文庫もあります)


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P.S. 生徒諸君!センター試験まで、あと100日くらいになってきました。これからはなるべく、genio先生にも協力してもらって、入試に必要な知識を復習していきましょう。

今日は、アヘン戦争です。→  『入試に出る!!時事ネタ日記

『親日派のための弁明2』 金完燮(キムワンソプ)

2006年10月07日 | 外国関連

 
安倍総理が中国、韓国を訪問し、首脳会談が実現するようです。不思議なのは、あれほど“小泉首相が、日中、日韓関係を悪くして、首脳会談もできなくなった” と強く批判していた人々が、安倍総理のこの決定を、よくやった!と褒めないことです(笑)。

いずれにせよ、どんな話になるのか、北朝鮮問題が中心だとは思いますが、靖国や教科書、歴史認識などを取り上げるのか、今後とも首脳会談を継続するように持っていけるのかがポイントでしょうか。

韓国では盧武鉉大統領とも会談します。いつの間にやら、対日強硬姿勢に転じてしまった感のある韓国政府ですが、しばらく前の新聞に“韓国で初めて、ソウル大学に日本研究所が設立”と出ていました。多くの反対を乗り越えて、やっとできたようです。

そうした動きを見ていますと、本当に日韓関係は大きな曲がり角を迎えているのだなと思います。

以前、『そして日本が勝つ(日下公人)』 の中でも、韓国民のアンケートをご紹介しましたが、友好に向かうのか、反日を強めるのか微妙な時期なのでしょう。その意味で今回の日韓首脳会談は日中に劣らず注目しています。


本書は、『親日派のための弁明』 の続編に当たるものです。前書は、韓国では有害図書に指定され、日本では大きな反響を呼びました。正確をきすためか、細かく書かれていましたが、2の方はそれに比べて非常に読みやすく、刺激的でした。

日本、韓国、北朝鮮の関係がとてもわかりやすく解説されていますし、日本の人々に韓国の歴史の民主化を応援して欲しいと思っているようです。韓国政府が日本に突きつける歴史認識では、韓国は世界から相手にされなくなるという危機感があります。

いろいろな本を読みますと、まだまだ現実問題としては、あの韓国でさえ、言論の自由があるとは言い難いようです。実際に、“親日派” というだけでかなり危険なようですし、こんな本を書いてしまった筆者自身も身の危険を感じているようで、家族を出国させていると記憶しています。


そして、教育関係者には、巻末に注目して欲しいのです。教科書問題を取り上げています。

当教室 などでも、講師間でたびたび話題になる歴史教科書ですが、実際、韓国がどのように注文を付け、日本政府がどう回答しているのかということまでは知りませんでした。

本書には、日本の教科書の記述(主に扶桑社)・韓国政府の修正要求・日本政府の回答・そのやり取りの解説が付けられています。非常に参考になります。ぜひ多くの方にお読みいただきたい一冊です。


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親日派のための弁明2

扶桑社

詳  細


『親日派のための弁明2』金完燮(キムワンソプ)
(文庫も出ています)



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『輝ける闇』 開高健

2006年10月06日 | 小説

光の帝国(恩田陸)』に続いて、今日も、名作を取り上げましょう。どちらも“光” “輝ける” と書名がついておりますが、同じ名著と言ってもそのおもむきは異次元とでも表現すれば良いのでしょうか。

恩田氏の作品が、人の心の温かさや、子どもの無限の可能性を感じさせる前向きな光であるのに対して、本書で開高健氏が描く世界は闇の中で、鈍く、どす黒い不吉な光です。


本書は ベトナム戦争 の従軍記者として、アメリカ軍に同行取材した時の体験を元に書かれています。最初から、最後までベトナムの血と汗と汚物と狂気のにおいがするような作品で、重苦しく、陰鬱な雰囲気の漂う一冊ですが、なかなか途中ではやめられないような 本ではないでしょうか。

日本人で、取材に来ているという、完全な部外者でありながら、戦争の意味を、現実をとらえようと、哲学的に、文学的に、歴史的にさまざま思索をめぐらすも、いっこうに出口の見えない戦い。

銃を構え、遠くにいる人に狙いを付け、引き金に指をかけることだけで、殺人の実感を味わうとしますが、詮無いこと。アメリカ人将校に万一の場合に備え、銃を持つよう勧められても、結局断ってしまいます。

ベトナムのジャングルで、貧しく、無学で、いつ襲われるかも知れない村民たちを尻目に、自分は酒に浸り、現地の女を抱き、日本からの銀行振り込みで取材費を確実に手に入れるという現実で、何かの意味をひねり出そうと苦悶しているかのような生活です。

一作家が、やはり尽きることのない表現力で、百様の面を語っても、人々の心に何らの影響も及ぼさず、もちろん軍事においては、子ども扱いされています。


物語のクライマックスでは、いよいよジャングルでの作戦行動に従軍します。200人の部隊に同行したのですが、アメリカ軍とベトナム兵との意思疎通もうまく行かず、敵から待ち伏せを食らわされ、何と生き残ったのは筆者を含めて、わずか17名という壊滅的な敗北を喫します。 まさに命拾いです。

乱れ飛ぶ銃弾、飛び散る肉片、倒れた仲間に手をつかまれ、阿鼻叫喚の中、筆者も泣き叫びながら、逃げていくのでした。開高氏の、あの豪放磊落な雰囲気を知っている人には、よけいにショッキングでしょう。


イラク戦争で、日本の記者かアナウンサーが従軍した折の、“安全な戦争の生中継” を見てしまっている今の私にも、予想だにしない世界でした。


本書の最後に、秋山駿氏の解説があります。

『作家が、その持てる力のすべてを賭けた、というような作品がある。開高氏にとっては、この『輝ける闇』がそれである。出来上がったものが傑作であるか愚作であるか、そんな問いを作家は許さない。作家の生の全体が予感している一種の絶対的なものが、その作品を書け、と強制するからである』 とあります。

なるほどという気がしました。本書には、読者に対するサービスのようなものがまったく感じられず、読みやすいとも言えません。もう一度読みたいかといわれたら、しばらくたってから、と答えたくなります。

物語りも、書き方もまったく異なりますが、ジョージオーウェルの『1984年』を読んだ時の感覚に近いかもしれません。“喜び”の要素など、ほとんど見られない作品ですが、若い世代に、どこかで一度は読んでおいて欲しいなと思う一冊です。



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輝ける闇

新潮社

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『光の帝国-常野物語』 恩田陸

2006年10月05日 | 小説

  
生徒が 『センセーこれ読みました~?』 と、興奮気味に持ってきてくれた一冊です(笑)。恥かしながら、ネット上ではよく目にする、恩田陸氏、読んだことがありません。

あらためて、アマゾンで確認すると、著作が80ほどもあるし、本書 『光の帝国』 には、なんと50近い書評があり、びっくり。しかも…、正直に申し上げれば、男性だと思っておりましたので二度びっくり…。

で、さらに調べてみると、恩田氏の作品は、高校入試にも出題されているではないか!というわけで、さっそく読みました。


生徒が興奮するのもわかる気がする、出色の作品でした。短編連作集というのですね。短い話が10あるのですが、何の予備知識もないまま読み始めましたので、正直、半分読むくらいまでは、なぜこれが連作なのかわからず、確かにひとつひとつの短編も読ませるのですが、どことなく落ち着かない読み物のように感じていました。

ところが、表題作の『光の帝国』が出てきて、そこから一気に引き込まれました。徐々に、これまでの物語がつながっているということがわかります。ひとつひとつのお話は、かつて、常野(とこの)にいた一族の血縁者に起こったできごとだったと…。

その一族とは、みなそれぞれに、不思議な能力が与えられており、ひっそりと集落を形成して普通に暮らしていましたが、ある不幸な事件によって、一族は離散、おのおのが一般の社会で暮らしていくことになります。

しかし、その能力ゆえに、世間からあやしまれたり、数奇な人生を送らざるを得ない状況になったりしていました。 ひとつひとつの話はそのエピソードだったのですが、そこには、ファンタジーもあり、ミステリーあり、ぞっとするような話、涙を誘うような感動もの、戦争があったり、学校や会社が出てきて、現代人を風刺したように感じるものもあります。読み方はいろいろでしょうが…。

それらが、ラストに向けてつながっていく、暖かいお話でした。 こういう一冊に仕上げる構想力自体に舌を巻きます。実に見事です。枯れることのないイマジネーション、教養の豊かさもうかがえます。

言葉遣いも難しくなく、中学生以上ならお薦めできます。まだまだここから発展した物語があるようですから、さがして読んでみたいと思います。良い本を教えてくれました。本当にありがとう。


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光の帝国―常野物語

集英社

詳   細


『光の帝国-常野物語』恩田陸
集英社:283P:520円


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『新・アメリカ合州国』 本多勝一

2006年10月04日 | エッセイ

  



昨日、保守の大物を取り上げましたので、今日は本多勝一氏です。

本当に昔からたくさんの方に、本多氏の著作を薦められました。ベトナムに関する著作で国際的にも名を知られた存在になるも、『中国の旅』では、中国政府の言いなりだと激しく批判されました。

信奉者も多い一方で、余りにも反米親中で、日本のジャーナリストとは思えない、などと糾弾される本多氏ですが、私はこれまで、氏の意見を雑誌などでは見ていたのですが、勉強不足で氏の本を読むのははじめてでした。


本書は32年前に訪れた同じ土地、同じ人々に会いに行くいわゆる定点観測的エッセー、紀行文で、アメリカの変化を見、後半は対談集という形式になっていました。

2003年に出された一冊ですが、アメリカの悪いとされる部分の分析に関して、氏の指摘はほぼ的を射ているように思いますし、マイノリティーに向けられる優しい視点やそこで語られる正義は好感が持てます。

ただ、個人的には、もう少し、アメリカに対する嫌悪感を押さえ、社会科学的で論理的な分析をして欲しかったと思います。「史上最悪の帝国」など、表現が誇張されていて、良い面はあえて取り上げていないような印象を受けました。人権抑圧ならば、中国の方が、問題がありそうですし…。

また、強度のアメリカ(文化)嫌いなのでしょう、マクドナルドの食事を『早食いエサ』とののしったり、肥満が多いことをあざ笑って表紙の写真↑にまで使っていたりすることはやり過ぎでしょう。

扇動政治家やテロ組織ならいざ知らず、多くの読者を持つ言論人がやるべきことではないと思うのですが、いつもこうなのでしょうか。この過激さゆえの人気なのでしょうか。 ちなみに中国に関する記述は対談の中の一度だけ、対談相手の批判的コメントに同調していました。

確かにおもしろかったです。ただし、ちまたで言われている本多氏の評判が、好悪ありますが、本書だけでは、その真意はわかりませんでした。また、機会があれば読んでみたいと思います。

氏の著作でなくとも、その系譜につながるような方のものでも、お薦めの本があれば教えてください。お願いします。


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『新・アメリカ合州国』本多勝一
朝日新聞社:334P:735円



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新・アメリカ合州国 朝日文芸文庫 ほ 1-40

朝日新聞社

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『いま魂の教育』石原慎太郎

2006年10月03日 | 教育関連書籍
 

安倍首相は、公立校の再生をはっきりとした政策の課題にしました。ひとつの大きな問題で、方向としては大賛成ですが、具体的政策を実施して、目に見える効果を上げるのは、難しいでしょうね。

教育問題が難しいのは、学校もあれば、地域もあるし、親の問題もある、すなわち日本社会全体の問題になってしまって、的が絞りきれないまま論じていることがとても多いということです。


本書の著者、石原慎太郎氏は、30年ほど前に書かれた、『スパルタ教育』 の中で、すでに当時の親はしつけができていないと指摘していました。ということは今の60歳や70歳くらいの方々を指していたわけですね。どう思われますか。

本書は、副題に “日本の崩壊を救う唯一の手立て” とあります。書名、副題ともかなりセンセーショナルなものになっており、石原氏も最後に “かなり難しい内容なのだな” と述べています。やはり議論の進め方が難しい、的が絞りにくいという告白だと私は感じました。

この著作の中では、決して教育の荒廃について深い原因探求にページを割いているわけでもなければ、極端な教育観を振りかざしているわけでもなく、国の教育制度や文部省批判を展開しているものでもありません。

最初から最後までごく常識的な教育論を、普通の親を対象にわかりやすく説明しています。

たとえば

“トマトやキュウリの固有の味を味わい知らせよう”
“親は子供に自分の愛読書を一冊与えよう”
“本を足で踏まない”
“約束を破ればかけがいの無い信頼を失うことを教えよう”
“子供のうそを咎めない”
“あいさつは人間関係の入り口であると教えよう”
“時代を越えて変わらぬ価値があることを教えよう”
“子供に意味の無い買い物をするな”
“子供が病気のときに健康のありがたさを説こう” などなど…、


昔ならどの家庭でも教えていたであろうことを、なぜそれらのことが現代において重要なのか、自分の体験だけでなく、さまざまな歴史的具体例にもとづいて主張しています。 

ルーズベネディクト、西田幾多郎、論語、川端康成、武田信玄、織田信長、ヘミングウェイ、ファーブル昆虫記、アインシュタイン、エジソンなど歴史的人物、事件からイチロー、タイガーウッズ、警備会社の社員、近所の知り合い、そして“葉っぱのフレディー”にいたるまで、実にさまざまな人、書物、事柄が取り上げられていますから展開に無限の広がりが感じられ倦怠感なく読みすすめることができます。


ただし、文体も常体があったり敬体があったりして、思いつくままに羅列している印象はぬぐえず、教育論というより、エッセーに近いのですが、全編を通じたテーマは一貫しています。教育は機関よりもまず、親が責任を持つということでしょうか。

さらに、この国の教育をあるべき姿にしなければ『自立性を欠いた日本という国家社会の蛇行はこのままいけば、日本に関わるすべてのアイデンティティを喪失し、民族の消滅に繋がっていくに違いない。』という認識を持ち、子供に知識や物を越えた世界の存在を知らせる、人間の存在はかけがえの無いものであることを説くというものです。


“極右”と呼ばれることがあり、石原慎太郎という名前だけで、ちょっと…という方もおられるでしょうが、本書には、親が利用できる、実践的具体例がいっぱいに詰まっています。 親だけでなく、先生も、社会に興味のある生徒も読んだら良いと思います。非常に読みやすい一冊で、お薦めできます。

いま魂の教育

光文社

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『いま魂の教育』石原慎太郎
光文社:283P:1260円



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『シービスケット』ローラ・ヒレンブランド(著) 奥田祐士(訳)

2006年10月02日 | ノンフィクション
競馬というのは、実に不思議な競技です。

というのも、ギャンブルとして忌み嫌われる一面と、まったく逆の、キングオブスポーツと呼ばれ、天皇賞やエリザベス女王杯といった名が表わすように、国の最高の栄誉が与えられるという一面があるからです。

凱旋門賞、ディープインパクトの場合は、まさに後者で、NHKの生放送というのは、史上初だそうですね。フランスの上流階級らしき、きれいに着飾った紳士淑女がたくさん観戦していました。日本からの応援団は普段着が多かったように見えましたが…。

3着、残念でした。もちろん勝って欲しかったのですが、これこそ良い夢を見させてもらったという気がします。オリンピックやワールドカップで負けるのは悔しくて、その気持ちが尾を引くのですが、競馬だと“夢”だったんだと感じます。みなさんはいかがでしょう。


さて、本書です。

1938年(昭和13年)、
世界恐慌 を経て、戦争の足音が近付くアメリカ…。

この年、新聞を最もにぎわしたのは、第4位、
ムッソリーニ、第3位、ヒットラー、第2位がルーズベルト大統領。そして何と第1位は、政治家でも、大リーガーでも映画俳優でもなく、シービスケットという足の曲がった小さなサラブレッドでした。

まだラジオしか普及していない時代に、これほど人々の心をとらえた一頭のサラブレッド。本書はその馬をめぐるノンフィクションです。 


自転車修理工から車社会の波にうまく乗ったオーナーのハワード、ほとんどしゃべらず馬のことしか知らない無名の調教師スミス、ボクシングの試合に出ることによって日銭を稼ぎ、そのために片目を失明しながらも、この馬にかける騎手のポラード。

この3人が地方の競馬でもほとんど勝てなかった一頭の馬を奇跡の名馬へと変貌させます。荒らくれだっていた時代の残酷な競馬社会で起こった実際の感動物語です。

冒頭で述べました、競馬に対するマイナスイメージの典型のような状況から、ディープインパクトのように、いや、それ以上に、国中が注目するヒーローになってしまうわけです。


競馬の知識に関係なく楽しめる内容で、後半の大勝負の場面などは本当に手に汗握ります。ノンフィクションではありながら、よくできた小説のようでもあり、アメリカではベストセラーの上位にランクされ、映画化もされました。


500ページを超える大作ですが、時間を忘れて読める作品でした。


シービスケット―あるアメリカ競走馬の伝説

ソニーマガジンズ

詳  細
シービスケット プレミアム・エディション

ポニーキャニオン

詳    細

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『シービスケット』ローラ・ヒレンブランド(著) 奥田祐士(訳)
ソニーマガジンズ:521P:1890円(文庫もあります)



■■  名馬の影に  ■■

こうして、人々の記憶に残るような名馬というのは奇跡に近いわけで、その影には無数の普通の馬たちの、時には悲惨な現実があります。以前ご紹介した 『
馬の瞳を見つめて(渡辺はるみ・著』 は、それを取り上げた、本書に劣らぬ、逆の感動物語です。よろしければご覧下さい。ランキングです。ちょっと停滞気味です(笑)。

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個人的にちょっとうれしいニュース:ガンメタルブラック3勝目!クラシカルウィーク3着。

『ダーウィンの足跡を訪ねて』長谷川眞理子

2006年10月01日 | 新書教養
 
今、アメリカの教育界でホットな論争の一つが、『天地創造論VS進化論』、言い換えますと、『神VSダーウィン』ですね。

学校の理科の授業で、どちらを教えるべきかということですが、ブッシュ大統領でさえ、“両方教えるべき” と語っています!

現代アメリカにおける象徴的なできごとで、日本ではちょっと考えられないことではないでしょうか。21世紀をむかえた今になって、ダーウィンも“ホントかいな” と苦笑いしているでしょう。

科学が進歩した現代ですら、こうなのですから、ダーウィンが進化論を発表した当時、学会や教会だけでなく、世間すべてを敵に回すほどの覚悟が要求されたでしょう。コペルニクス やガリレオ もしかりでしょう。


本書では、そういったことも含め、ダーウィンに魅せられた筆者が、ダーウィンの生涯を写真なども使って伝記的に紹介しつつ、故郷やそのゆかりの地に足を運んだ、旅行記、エッセーです。長谷川氏自身も生物学者、大学教授です。

当然というべきか…、ダーウィンの人生は、ごく普通の学者のそれとは、かなり違った印象です。

母方があのウエッジウッド の家系の出、自らも上流階級に属し、いっさい金銭の心配はなかったこと。双方の家庭が、非常に進歩的な思想を持っていたこと。学問的には何度も挫折を味わっていること。死に至るまで長期に渡って原因不明の奇病に悩まされ続けたこと。友人の自殺や、何人も最愛の子どもを失っていること。


歴史に名を残す大天才も、研究に捧げる情熱や使命感は並外れていても、感情にスポットを当てると、ごく普通の人間だと改めて感じます。

その時代、その当時の人々から見れば、変人に過ぎない、数少ない天才の発想や努力のおかげで、現代科学の恩恵を我々がこうむっているわけです。

そういうことを、美しい本にして私たちに紹介してくれる一冊です。ダーウィンゆかりの地を訪れる、筆者のリラックスした書き方も印象的で、筆者がうらやましく感じます。読む方も、休みの日に日常からはなれ、想像力を膨らませながら読むには最適の一冊でした。

本文中にふんだんに使われている写真も非常にきれいで、見ていると、イギリスやガラパゴス諸島 に行ってみたくなります。環境問題に関心のある方もぜひ。



P.S. 外見も中身も、こんな美しい新書(集英社新書ヴィジュアル版) があるのだということすら知りませんでした。高校時代、生物のテストで100点満点で8点を取った実績のある私は、こういう本を、自分で手に取ることは絶対ありません(笑)。

相互リンクにある buckyさんのブログ 『 40台真面目気分 』 で、紹介されていた本書を、記事にさせていただきました。

読書家できっと年齢が近く(余計かな?)居心地が良いので、私はbucky島に住み着いております(笑)。


ダーウィンの足跡を訪ねて

集英社

詳  細


http://tokkun.net/jump.htm 





■■ 進化 ■■

社会が前進したり、科学が進歩したといっても、人間の感情は “進歩” や “進化” とは関係していないのかなぁ~。できましたら応援のクリックお願いします。

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