『蚊トンボ白鬚の冒険』という藤原氏の著作は、600ページ近くある大作でしたが、氏の代表作『テロリストのパラソル』などに比べると、あまり評判は良くないようですね。ただ、私にとっては、その作品はファンタジーで、ミステリープラス、ハードボイルドの印象深い作品で充分楽しめた一冊でした。
本書はそれとは対照的に3作品あわせてわずか200ページ。表題作の『ダナエ』の他に、『まぼろしの虹』と『水母(くらげ)』 という作品がおさめられています。
ダナエというのはギリシャ神話に出てくる女性ですが、ここでは、それを17世紀のオランダ人画家レンブラントが書いた絵画の名前のことです。↓がその作品です。
この絵、実は1985年にエルミタージュ美術館(サンクト・ペテルブルク)で硫酸がかけられるという事件が起こりました。修復不可能なほどのダメージを負ってしまうのですが、その動機や事件の顛末などは明らかになっていないようです。
その事件をモチーフに書かれています。主人公の画家の代表作が、ある画廊で開催していた個展の最中に、ある者によって切り刻まれ、硫酸をかけられるという事件が起こります。とっさにダナエのことを想起し、犯人をさぐります。事件直後、犯人からの電話では、これはまだ予行演習だと…。
エルミタージュで起こった事件と、ギリシャ神話を組み合わせたミステリーです。大変興味深い進行で、予想外のラストまで一気に読めます。もっと読みたい、という気になりました。もっと長くして欲しいんです。
複雑な人間関係と興味深いエピソード、そこにギリシャ神話など、内容がたくさん詰まったスケールの大きな話でしたから、もう少しゆっくり読みたかった、絶対超大作になるのに、なんで短くしちゃったの?というのが正直な感想です。
実は2005年、藤原氏は食道ガンであることを公表しています。これまでのような大作を上梓する意欲が残されているのか、ちょっと心配になってしまいました。まだまだ読みたい作家です。病状が改善されることを願うばかりです。
三つめの『水母(くらげ)』。これがおもしろい。50ページの短編ですが、おもしろいストーリーと個性あふれる登場人物が、ぴたっと納まっている秀作だと思います。
すべての作品、いずれも過去、現在に人生の悲哀を持った青年、および中年男性が主人公です。それぞれが心の再生とでもいうのでしょうか、浄化されていくさまが描かれています。
P.S. で、中年男性の悲哀といえば…、“ふるさん” と私、よく話が合うんです(笑)。本書はふるさんが紹介してくれました。すばらしいレビューがありますので、ご覧になって下さい。
⇒ ふるさんのブログ(ダナエ書評)
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『ダナエ』藤原伊織
文藝春秋:217P:1300円