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【絵本から専門書まで】 塾講師が、生徒やご父母におすすめする書籍のご紹介です。

『ナイフ』 重松清

2006年10月17日 | 小説


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いじめによる自殺が相次いで報道されました。20年ほど前になるでしょうか、『お葬式ごっこ』 をさせられ、「『生きジゴク』になっちゃうよ」という遺書を残してある生徒が自殺に追い込まれました。ご記憶でしょうか。

その時になんと、4人の教師も、その色紙に「追悼の言葉」を寄せ書きしていたという信じがたい事件でした。その4人は今どうなったのでしょうか。ご存知の方いらっしゃいますか。


今回の事件も、私にとってショッキングだったのは、自殺そのもの以上に、教師が主導していたことと、校長らの、なんとしても“いじめによる自殺” ということを否定したいという、あの対応振りです。

滝川市の女の子の自殺事件も同じですね。あの遺書は、どこからどう読んでも、いじめによる自殺ですが、教育委員会はどうしてもそれを認めたくないという態度です。

ここ数年、いじめによる自殺はゼロだと文部科学省は発表していて、それに沿った処理をしたいという教育委員会や学校の意向が透けて見えます。いったい彼らはどちらを向いて教育を考えているのでしょうか。


また昨年でしょうか、公立小中学校の校長先生の年金が、官僚のトップである国の事務次官よりも高いという報道が話題になりました。

ただでさえ、優秀な人材を確保するという名目で、教員の給与は他の公務員より高く設定されていますが、何万人もいる、一校長先生が、数十人しかいない国全体を背負うエリート中のエリートである次官以上の年金というのはどうなのかという声が上がりました。

はたから見れば、学校の先生は組合を作って、権力者に対抗するどころか、すでに自らが特権階級のようです。『学校が自由になる日』の中で、千葉県では教職員の6割近くがすでに世襲のような2世教師ばかりだと指摘がありました。つまり教師という身分が、既得権益化しているという意見です。


確かに、今回の自殺のあとの対応振りは、テレビを見ている限り、教育委員会や校長は、反省し、死を悼むどころか、自分たちの組織のメンツやしくみを維持したいとした行動であると映りました。

世間一般の常識から、かなり浮き上がってしまった、特権階級特有の振る舞い、官僚の国会答弁のようでした。許せない。


さて、本書で扱っているのも、いじめ問題です。表題作の『ナイフ』では、自分の子どもを守る、いじめた連中に報復しようと、父親がナイフをしのばせているところから、このタイトルが付いています。

それを、はじめとして、いじめを題材にした短編集ですが、大人から見たいじめの世界と、子供たちから見た世界のギャップが、描かれています。読んでいますと、いじめる生徒に対して、憤りを、そして現実社会のやるせなさを感じます。

親の立場、子の立場それぞれの思い、感じ方など、とても細やかに描写されており、私も塾講師として、毎日子どもに接しておりますし、それなりの“良くない情報”も集まりますが、正直、私の知らない世界を垣間見た気がしました。

ただ、いじめの問題自体を扱うというより、そういう事件を通じて、家族のあり方、親子関係などを題材にした一冊です。正直読んでいて、えげつないなという場面もありますし、解決策が見つかるわけでもありません。もう少し先生も登場させて欲しかったですね。


確かに、いじめは犯罪であり、卑劣で唾棄すべき行為ですが、なくそうというのは非常に難しいでしょう。本書に解決策が描かれないのもうなずけます。いじめをゼロにするなどというから、隠そうとするやからが出てきます。

それよりも、問題が起こっている場合に、学校や教育委員会が隠すことができないしくみを作ること、今回のようなひどい教員を早く見つけ出す制度を作ることが大切だと思います。



P.S. 今日は事件の衝撃が大きく、書評というより、コラムのようになってしまいました。すいません。中学受験にもよく出題される作家ですので、ぜひお読み下さい。



 
http://tokkun.net/jump.htm 


『ナイフ』 重松清
新潮社:403P:620円

ナイフ

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