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【絵本から専門書まで】 塾講師が、生徒やご父母におすすめする書籍のご紹介です。

『金正日への宣戦布告-黄長回顧録』 黄長(ファンジャンヨブ)著  萩原遼 訳 ★蓮池氏除名!

2010年03月31日 | 政治・経済・外交


金正日への宣戦布告.jpg


北朝鮮による日本人拉致問題の象徴でもあり、あの『奪還』 を書かれた蓮池透さんが、拉致被害者家族会から強制的に退会させられるという信じ難いニュースが流れました。どう思われますか?

民主党政権で拉致問題はどうなるのだろうとずっと思っておりましたが、中井拉致問題担当相は元気がよく、問題解決の進展を期待していましたが、元気がよすぎて女性問題を取り上げられる始末…。

それはともかく、本書の著者である黄氏が来日するかもしれないというニュースが流れました。どれほどの衝撃を与えるのか分かりませんが、個人的には注目しています。さらに金賢姫氏の来日も予定されているらしいので、そちらにも大注目です。

本書を読めば、黄氏が日本、韓国、北朝鮮にとって特別の存在であると理解できるのではないでしょうか。

以下は以前にご紹介した記事を手直ししたものですが、よろしければお読みください。

■■■

実は私の教え子のお母さんが、拉致被害者のお一人と同級生だったこともあり、間接的にいろいろお話を聞いておりまして、どうしても北朝鮮の拉致は許せないのです。

これまで、何冊も北朝鮮関連の本を取り上げました。その中でも 宿命-「よど号」亡命者たちの秘密工作(高沢皓司)』 はとうてい忘れられない一冊で、やはりそこで書かれている、日本人が深く拉致などに関わっていることが証明されたと思いました。


そしてもう一冊、『宿命』 に劣らず、深く心に残った一冊だと思われるのは 『
北朝鮮に消えた友と私の物語』 です。そう、本書の翻訳者である、萩原遼氏が日本共産党員のころに出した衝撃の一冊です。


萩原氏がはじめて北朝鮮の強制収容所の存在を暴いたと言われています。その萩原氏が必死になって翻訳の権利を取って出版されたのが本書です。(こういう英雄的活躍をした人をどうして 『
日本共産党』 は除名にしてしまうのか、理解に苦しみます。)


本書の著者は元北朝鮮の思想的リーダー、
主体思想を発展させてきた黄長(ファンジャンヨブ)氏です。戦前に日本の中央大学、その後モスクワ総合大学に留学。42歳の若さで金日成総合大学総長就任。さらに72年からは11年間、北朝鮮最高人民会議(国会)議長を務めるなど、多くの要職を歴任している北朝鮮の元大幹部です。

黄柱婪.jpg


金日成・金正日親子が、北朝鮮を宣伝する際に、思想的に最も頼りにしていた人物で、97年に韓国に亡命した時は大ニュースになりました。しかし…、今から考えると、残念なことにタイミングが非常に悪かったですね。

当時、
金大中韓国大統領が太陽政策で2000年には南北首脳会談をすることになり、北への批判はできず、韓国内でも軟禁状態。小泉首相の訪朝は2002年ですから、北朝鮮や日本人の拉致問題に対する関心は日本では低かったですね。

北朝鮮の実態に世界中が気付いた今であれば、氏の亡命はとてつもないインパクトがあったでしょう。が、同じく超太陽政策の盧武鉉大統領下の韓国では、とても自由な活動ができませんね。

金大中 金正日.jpg



黄長氏は、実に淡々とした書き方で自らの出生から北朝鮮で果たしてきた役割や、家族を捨ててまで、亡命を決断するに至る経緯を語ります。金正日の実態が明らかになった今でこそ、続編を望みたいのですが、韓国では出版させてもらえないようです。


父親である金日成は確かにそれなりの人物であったようですが、金正日はそれに比べて権力闘争には天才的なひらめきを見せるものの、凡庸な俗物であるようです。とにかく経済とか思想といったものにはまるで無知で、度々繰り返される、北朝鮮の飢餓は天災ではなく、完全に経済失政が招いた人災であると指摘します。『
餓鬼』で描かれた大躍進時代の中国そのままです。


氏が亡命を決断するのは、日々多くの人が飢え、あるいは拷問にかけられながら、自らは権力の維持しか考えていない金正日が許せないという気持ちからです。本気で南を攻めようとしている軍部に嫌気が差したのかもしれません。


すべてが金正日の一存で決まり、国全体を自分の奴隷のようにしか考えていないと指摘します。危険分子はそれと疑われるだけで次々と粛清され、でたらめの伝説をでっち上げることなどを通して、偶像崇拝を徹底させています。

それが貫徹しているため、他の国の独裁者のように人民の前に出て演説し、力を誇示したり、民衆を扇動する必要すらないというわけです。権力を完全に掌握した後は、父親の金日成さえ、金正日のご機嫌取りをしなければならないほどだったというのですから、驚きです。


金日成は晩年、自分が中心となって世界革命を起こすと妄想し、金正日はアメリカ・中国は自分の権威におびえていると吹聴し、高飛車な外交姿勢に周りが異を唱えることができず、後押ししている構図です。

さすがにソ連や東ドイツが崩壊した時には、言葉で表現できないほどの衝撃を受け、国内にも動揺が広がったそうですが、皮肉にも理論的裏付けでもって、その動揺を沈めたのが著者なわけです。とにかくけたはずれに頭が良いのですね。本書を読みますと、ものすごい学問的な修行をしているかのようです。


もちろん今では、金政権の権威付けに手を貸してしまったことで、良心の呵責にさいなまれるわけですが、当時、金正日にとって黄長氏は絶対に捨てられないコマだったわけです。


金親子を崇拝する自分の家族、最愛の妻にすら、何も告げずに亡命を実行します。亡命すれば、家族はもちろん、親戚など一族郎党が捕らえられるだけでなく、自分と一緒に仕事をした経歴を持つものまで疑われ、最悪、死を覚悟しなければなりません。しかし、家族や仲間よりも民族全体を救うという信念で亡命したそうです。


亡命者の意見をどこまで信用して良いかという疑問もあるでしょうが、萩原氏が信頼しているのであれば、ほぼ確実な情報ではないかという気がします。巻末に萩原氏が素朴な疑問をぶつけるインタビューが付いています。



P.S.今、ネットで黄長氏の論文を見つけました。ぜひご覧下さい。テレビ朝日が今年インタビューしたものに、氏が活動する“
コリア国際研究所” が手を加えたものです。新しいです(2007年2月)。


 ⇒6ヵ国協議合意をどう見るか 金正日政権に騙されるな 

                北朝鮮民主化同盟委員長 黄長

金正日への宣戦布告―黄長〓@57F6@回顧録

文藝春秋

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北朝鮮に消えた友と私の物語

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『金正日への宣戦布告-黄長回顧録』 黄長(ファンジャンヨブ)著  萩原遼 訳 文藝春秋:422P:859円

 

 


『小泉の勝利 メディアの敗北』 上杉隆

2007年07月12日 | 政治・経済・外交


小泉の勝利メディアの敗北.jpg



いよいよ参議院選挙の公示です。年金問題やら閣僚の失言やら事務所費問題で、あんなに高かった安倍首相に対する支持率がここのところ急低下。民主党などの野党にとっては絶好のタイミングで選挙をむかえて大チャンスでしょうが、さてどうなるでしょう。


選挙がある時には、定期テストの時事問題にも必ず出されますからね。生徒諸君も注目していろいろと覚えて下さいよ。ちょっと復習しましょうか。

参議院議員の被選挙権は30歳以上。任期は6年で、3年ごとに半数を改選する(衆議院は25歳。任期4年で途中解散もある)。全体の定数は242人で、選挙区146議席と比例代表96議席に分かれる。各都道府県を選挙区とする選挙区制(大選挙区制:選挙区ごとに1から5名) と非拘束名簿式で全国統一での比例代表制によって行われ、重複立候補はできない。(衆議院は定数480、小選挙区300人、比例代表11ブロックで180人。拘束式で重複立候補ができる)


大丈夫かな?


今回は242の半分、121議席を370人くらいの候補者で争うことになりそうです。各党のマニフェストはそれぞれHPでご覧下さい。

 自民党   民主党   公明党   共産党   社民党   国民新党   新党日本




さて、本書です。

安倍首相の支持率が低下しつつあるのとは対照的に、引退時でも 歴代内閣最高の 60%という支持率を維持した小泉政権というのはいったいなんだったのでしょうか。

総理総裁を辞めてからはほとんど表に出てきませんでしたが、選挙が近付いた今になって、マスコミにその人気振りが報じられたり、再登板の話題まで出たりするほどです。

ところが政治関係の書籍でもブログでも、小泉政治を評価する声はほとんど見聞きしません。どんな政権でも功と罪があると思うのですが、まるで罪ばかりの政権だったかの印象です。

このブログで取り上げた本の中では、『戦後政治家暴言録(保阪正康)』 や 『総理の値打ち(福田和也)』 『さらば外務省(天木直人)』 あたりが最も手厳しい批判を小泉氏に加えています。


印象としては、政治に詳しい人ほど小泉政権に対する評価が厳しい気がします。私は政治に詳しくないので、功の方もある程度、評価をしています。何といっても電撃的に訪朝し、北朝鮮に拉致を認めさせたことと、不良債権処理を強行し金融機関を再生させたことが最も大きな功績だと思うのですが、これ以上書くと詳しい人から攻撃を受けそうなのでここまで(笑)。

罪はどこでも言われているように、あらゆる分野で本当に格差が広がったと感じること。教育問題に関して言えば、“一内閣一閣僚” と言っていたはずが、文部科学大臣をコロコロと変えてしまい、政策にまったく一貫性がなかったことです。


戦後3番目の長期政権、5年以上に渡りましたから、いろいろなことがありました。拙ブログで、小泉首相だけを扱った書籍は 『官邸主導(清水真人)』 と 『小泉純一郎最後の賭け(大下英治)』 の二冊ですが、小泉政権周辺による道路公団問題、日中・日韓関係を扱ったものや、その政治姿勢をどう評価するかというものまで、知らないうちに数多く取り上げました。 ⇒ 『政治・経済関連』 


本書では、小泉政権がワイドショー型とか劇場型と言われながらも、メディアは最後までその政治姿勢の本質を読み違え、過小評価してきたのではないかという問題意識から書かれています。

ただし、小泉純一郎を不世出の政治家であるから、それをきちんと評価しようというよりも、なぜメディアは間違え続けたのか、そこのところを検証しようではないかという意図です。


小泉政権誕生直後の組閣人事から報道は間違えました。いやそもそも、総裁選で、最初から小泉氏が勝つという予想すらできなかったのですね。あの超不人気の森政権をつぶそうと起こった、“加藤の乱”。 それ自体は不発でしたが、収まった後、森氏のあとは橋本龍太郎氏に決まりという雰囲気でしたから。

その後もいろいろありました。小泉は必ずどこかで折れるはずだというメディアや政治評論家の予想をことごとく裏切って、妥協しない姿勢を貫きました。“丸投げ” とか “使い捨て” “パフォーマンス” “独裁者” という批判をずっと浴びてはいましたね。


終わってみると、多くの元自民党の実力者に刺客を向けてまで衆議院解散に打って出たあげくに、郵政の民営化をやり遂げ、中国・韓国の批判を承知の上で8月15日の靖国参拝まで実現してしまいました。


以下が目次です。

なぜジャーナリズムは敗北したのか
政権前夜―嵐の前の静けさ
政権発足―テレポリティックス
その人脈と側近たち
聖域なき構造改革―道路公団改革
小泉外交―北朝鮮
抵抗勢力の反撃
靖国参拝
重要法案
郵政選挙
後継者たち
兵どもが夢の跡
唯一の相談役
ジャーナリズムよ率直であれ


筆者自身が評論家ではなく、まさに記事を書いていた当事者。5年半にも渡って小泉政権をウォッチし、記事にしてきた側で、要するに小泉政権に対するすべての記事を検証することは物理的にも不可能なので、せめて自分が書いてしまった誤った憶測記事そのものやその背景を検証しているわけです。

筆者も言うように、確かにある意味、自殺行為ですね。人が忘れているであろう過去の自分の誤報のようなものを、あえて遡上に乗せるわけですから。


万国共通のメディアの使命であるとされる権力監視という機能において、ここまで間違えを繰り返していたのだから、やはりその問題点をあぶりだしたいという正義感というか使命感は読んでいて伝わってきます。

大胆な選挙予想をはじめ、経済見通しや政局分析、外交評論家など、本当にことごとく知識人といわれる人々が訳知り顔で断定的に予想をし、それが見事にはずれても、まったく悪びれる様子もなく、その後にマスコミに登場し続ける現象は辟易とします。

小泉氏の行動を “パフォーマンス” だと切って捨てるマスコミの方こそ、みずからの予想報道の結果を検証もせず、反省もしないまま、日々パフォーマンスを演じている気がしてなりません。

それに乗ってくれるいわゆる知識人や田中真紀子氏に代表されるような人気政治家をメディアに登場させていると感じますので、本書の意図には共感を覚えます。筆者の結論として、小泉氏は正直な政治家だったと。自民党はこの前の選挙では勝ちましたが、壊れてしまった部分も確かに大きいですね。


そういう意味においては、非常におもしろい一冊だと思います。これから選挙予想もどんどん出るでしょう。権力チェックも必要ですが、そもそもマスコミが権力になっているのですが、それをチェックするのは自分しかいないということを訴えているような一冊です。




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『戦争論争戦』 田原総一朗 VS 小林よしのり

2007年07月04日 | 政治・経済・外交


戦争論争戦.jpg


米国の原爆投下を「しょうがない」と発言し、厳しい批判を受けていた久間防衛相が辞任しましたね。被爆者だけでなく、国民感情を考えても、久間氏の発言が極めて不適切なのは自明です。しかも被爆地、長崎県選出の政治家だというのですから。


ただ、原爆は「しょうがない」どころか、断固「許せない」として…、日本政府がこれまでアメリカの原爆投下に対して謝罪や賠償をあらためて求めるとか、あるいは久間氏とは逆に、あからさまに原爆投下を非難するという行動を取った大臣がいるのでしょうか。

久間氏の発言は現役大臣でもあり大問題ですが、日本のこれまでの態度は、政府自体もそう考えていると思われても仕方ないのではないかという気がするのですが。

よく指摘されるように、広島の原爆記念碑には 「安らかに眠って下さい/過ちは繰返しませぬから」 とあります。インドのパール博士がこれを見て、「原爆を落としたのは日本ではない。アメリカだ」 と嘆いたというものです。


広島原爆記念碑.JPG



逆に日本軍の慰安婦問題では、当事国でもないのに、アメリカから日本政府に公式謝罪を求めた決議案が委員会で採択されましたね。どう見ても、日米が対等の関係とは言えない気がします。


さて、本書は著名なお二人の実に激しい戦争論です。少し前の本ですが、何度か読み返してみるたびに、新しい発見があります。

これまで田原総一朗氏の著作は、西部邁、姜尚中氏との共著 『愛国心』 を、小林よしのり氏の著作では 『いわゆるA級戦犯』 をご紹介しました。

田原氏は1934年生まれで、小学生時代に終戦を迎えた世代。小林氏は1953年生まれで、団塊の世代のすこし下。年齢に20歳の開きがあります。双方とも強烈な愛国者ですが、第二次世界大戦に関する捕らえ方は全く異なっています。

二人とも大変な知識と説得力があり(当然ですね)、片方の発言部分を読んでいる時は、そちらに分があるように感じ、発言が変わればこちらも変わるという緊迫したやりとりが魅力です。

ノーガードの打ち合いというより、老練な田原氏が繰り出す直球、変化球を、小林氏が真正面から打ち返している印象です。そしてお互い、まだ話すのかと思えるほど、へとへとになりながらの論争が繰り広げられています。

「サンデープロジェクト」や「朝まで生テレビ」 をご覧になっている方は田原氏の様子は想像できるかと思います。挑発したり、おだてたりですね。そういった番組が好きな人であれば、勉強になるしお互いの感情のぶつかり合いも楽しめます。お薦めの一冊です。


P.S.それにしても、今回の防衛相辞任のニュース、そして本書。これらに触れると、安倍政権の標榜する 「戦後レジームからの新たな船出」 はそうそう容易ではないように感じた次第です。



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『道路の権力-道路公団民営化の攻防1000日 』 猪瀬直樹

2007年06月19日 | 政治・経済・外交


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猪瀬直樹氏が東京都の副知事に就任するというニュースが流れました。石原慎太郎都知事から、知事として後継者指名されたのだと解説する向きもありましたね。驚きました。


猪瀬氏といえば、世間の注目、期待を一身に背負って取り組んだ道路公団改革です。小泉内閣の目玉で、当時、官僚を問い詰めていくさまは爽快感すらもってニュースを見ており、成果が上がったと思っていましたが、次々に骨抜きだの、仲間割れだと批判されました。


その急先鋒は櫻井よしこ氏でしょうか。正直、当時テレビでお二人の議論を聞いていても、やはりあまりにテクニカルで、どちらに分があるのか判断できませんでした。お二人とも反官僚政治でしょうし…。やり方が生ぬるいということなんでしょうか。櫻井氏も 『権力の道化』 という本で説明しているようですが、私はまだ読んでおりません。


以前ご紹介した、佐藤優氏の『国家の罠』に対する評価で、【櫻井よしこ VS 藤原正彦】 を取り上げた時は、櫻井さんの真意がわからず、また佐藤氏の著作を好意的に読んでいる私には、藤原氏に分があると思いましたが、道路は難しいです。


さて、本書は、行革断行評議会委員、民営化委員会委員として道路公団民営化に取り組んだ猪瀬直樹氏の活動を描いた書き下ろしです。本書は抵抗勢力の活動を記録に残すという、明確な意図があるように思います。

とにかく税金を入れずに道路公団をはじめ、4つの団体を同時に民営化すること、それに巣食っている役人、政治家、ファミリー企業の実態を白日の下にさらすことが、猪瀬氏の目指す改革ですが、当時の藤井総裁解任劇、覚えておられるでしょうか。あれに象徴されるように、その抵抗はすさまじく、極めて陰湿です。 

いや、むしろ藤井問題などは、ことの本質から国民の目をそらすために利用されている印象すら持ちます。ものすごい芝居だなと。


確かに、藤井総裁解任劇は見た目は華々しかったのですが、それ以外にも民営化委員長の解任問題、文春での裏財務諸表暴露問題、そして桜井よし子氏による猪瀬氏名指しの批判論文などなど、多くのことが同時進行で起こってきます。それが出てくる経緯というのは、見てすぐわかるというものではありません。

櫻井氏はともかく、そうした問題の裏側で進行しているのは激しい権力闘争や、利権確保だったということが本書を読むとよく分かります。妨害工作は実に巧みに行なわれ、テレビや新聞などの報道だけでは全体像はつかめません、というより普通なら猪瀬氏らに批判的な考えを持つでしょう。本書を読んでいなければ。

目次です。


第1部 行革断行評議会篇(聖域に挑む;実力者たち;九三四二キロという旗;変人の戦術)

第2部 道路公団民営化委員会篇(民営化委員会発足;総裁たちの弁明;「凍結」の道路;論破;最終答申;国民の選択)


そのあと、新しい道路公団総裁が決まった時に「命をかけるつもり…」と新総裁は自らの意欲を語ったのですが、それを受けて、猪瀬氏はテレビで 「つもりじゃダメなんだ。命をかけないと。私は命をかけてやっていますから」 と言い切りました。本書を読むとなるほどそれくらいの意気込みだと納得できます。

また、佐高信氏も最近の著作の中で猪瀬氏を痛烈に批判しているそうです。また、自民党道路族からは、何とか猪瀬氏の民営化委員就任を止めようとして 「ヘンな作家」 とか 「しろうと」 などぼろくそに言われていました。


まぁ、確かに妥協もしていますが、守るべきところは守ったと思っていましたが、そういえば、前後しますが、これまた、よくわからないのは、同じ改革派でも、道路公団民営化法案が出されると、「骨抜きだ」 ということで、さらに二人の改革派と目されていた委員が辞任したということもありましたね。あ~あ、みんないなくなっちゃったという感じがしたものです。

本書を読んで、猪瀬氏の主張は筋が通っていると思いますし、それを実現するためのエネルギーや行動力もけた外れだとわかります。とうとう敗北してしまったのか、何とか改革の道筋を付けたのか議論が分かれていますが、おもしろい上に官僚の世界、政治の世界のしくみを知る上で、大変勉強になる一冊でした。



P.S.個人的には、四面楚歌、孤軍奮闘、満身創痍、そんな状況に見えてしまう中でがんばっている猪瀬氏にやや同情的になっていることも事実ですが…。石原都知事は猪瀬氏の何を評価したのでしょうね。また櫻井氏の著作も早めに読んでみようと思っているところです。


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道路の権力 道路公団民営化の攻防1000日

文藝春秋

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道路の権力

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権力の道化

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『外務省 外交力強化への道』 薬師寺克行

2007年06月06日 | 政治・経済・外交


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昨日取り上げた 『さらば外務省(天木直人)』 とほぼ同時期に発売されましたが、センセーショナルだった『さらば~』 の陰に隠れてしまった感のあるのが本書です。『さらば~』 に比べますと大変地味なのですが、良書だと思いますのでご紹介します。

ちょうど、宮崎哲弥氏の 『 新書365冊 』 にも取り上げられており、宮崎氏の評価では、Best の 一つ下 Better になっていました。(ちなみに外交分野の Best の中の一冊は、以前取り上げました 『日本の「ミドルパワー」外交(添谷芳秀)』でした。よろしければご覧下さい。) 


本書は朝日新聞の論説委員による外務省に対する考察です。この当時は2001年に9.11テロですぐにアフガン空爆。日朝首脳会談で拉致を認めさせたのが2002年、翌2003年にはイラク戦争という忙しい時代でした。不幸なことにこの間、外務大臣が田中真紀子氏だったり(笑)、ムネオハウスやNGO問題も2002年に起こり大混乱。そこに機密費や裏金問題のオンパレード。

機能不全に陥っていた感のある2003年に、天木氏の著作も本書も出版されています。まず本書では、一体日本外交の何が問題なのか、外務省の組織や、行動はどういう経緯で決定されるのかということについて整理しています。

例えば、2002年に行われた日朝首脳会談は、さまざまな点でいまだに謎が多いようです。どうして会談が実現できたのかとか、交渉の実態などですが、それを事実に基づいて検証していきます。交渉が進展しないままになっていることについて、宮崎氏は例の田中均氏に批判的ですが、薬師寺氏は同情的です。


そんな第1章から始まり、続きは以下のようなものです。



第1章
 日朝交渉の挫折

第2章
 変貌する日米同盟

第3章
 問われた外務省の体質

第4章
 新外交を阻む冷戦の残滓

第5章
 内交の時代

第6章
 外交力強化への道


機密費の問題だけでなく、全省あげてのプール金の問題、鈴木宗男に牛耳られたODA関係の決定の不明朗さ、北朝鮮との問題は一向に先に進まないし、国連中心といいながら、アメリカのイラク戦争にはいち早く賛意を示すなど、どれをとっても日本の外交は問題だらけで一貫性もないと指摘します。 

小泉政権当時、なんとか選挙前に拉致家族の帰国だけは真剣に取り組もうとしていました。国民のためというより、選挙で勝つためというのが見えてしまいます。そういったさまざまな報道から漏れ聞く外務省の組織を分かりやすく、問題点などを整理してくれます。


最後には“外交力強化のために”として前向きな提言もしています。『さらば外務省』の方が(ほぼ)現役が書いた告発の書だけに、インパクト、おもしろさの点で軍配が上がります。

ただし、ではどうするかということについては、『さらば~』の方は「政権交代しかない」と突き放しますが、本書は今問題となっているようなシステムを作り変える提案をしています。

宮崎氏も本書は「読むべきところが多い」と述べていましたが、その通りだと思います。


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外務省-外交力強化への道-

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『さらば外務省 - 私は小泉首相と売国官僚を許さない』 天木直人

2007年06月05日 | 政治・経済・外交


さらば外務省.jpg


安倍政権の支持率が大きく下がったと、新聞、テレビなどで連日報道されています。さすがに、社会保険庁の宙に浮いた年金記録が5千万件というとんでもない数になっているのには驚きました。そのこと自体は安部首相の責任ではないでしょうが、納得できる解決策を出さないとそっぽを向かれますよね。

また、現役大臣の自殺という事件も、その任命権者であり、松岡氏をかばっていた印象のある総理大臣には大きなマイナスでしょう。これで何も解明されないのではないかという雰囲気です。もともと小泉内閣の高い支持率の余禄で、飛んでいた感がありましたから、ここから自律回復できるかどうか、大きな注目です。

その結果が出るのは当然、次の参議院議員選挙ですが、それに立候補を表明したのが本書の著者、天木直人氏です。少し前のベストセラーで恐縮ですが、取り上げてみたいと思います。


天木氏はイラク戦争に反対意見を “具申” したことで実質的には解雇されてしまった元レバノン大使です。本書は出版当時かなり話題になりましたし、精力的にテレビなどに出演されていましたので、ご存知の方も多いでしょう。

読んだ時の感想は、“これ本当ならとんでもない”。普通の感覚の人なら、にわかには信じられないほどの内容ですね。当時の小泉首相や川口外務大臣、鈴木宗男、田中真紀子らの政治家や田中均氏、小和田亘氏、野上元次官や竹内現次官などが次々と実名でその行状が紹介されます。

佐藤優氏の著作、『国家の罠』 も、政治家や外務官僚ほとんどすべてが実名で登場し、官僚としての行動原理を明らかにしたすばらしいノンフィクションだと感じました。本書はそうした人物の人間性にまではっきり疑問を投げかけています。どちらもよくここまで書けたものです。 


これが日本の代表的官庁の話だとは信じたくないようなひどさですが、なぜそういう組織になるのかということも本書で解説されています。天木氏の勇気もさることながら、これほど異常な世界に身をおきながら、よく正常な精神状態でいられたものだと感心するほどでした。

本当にここまで腐っているのなら政権交代しかないなと思って読んでいましたら、天木氏も、“自民党以外” の党が政権につかなければ、ずっとこのまま日本の外交は死んだままになってしまうと危惧しています。つまりとてもとても自浄作用なんか期待できないというわけです。


以下が目次です。


第1章
 無視された意見具申

第2章
 私はけっして小泉純一郎を許さない

第3章
 外務官僚と政治家たちの恥ずべき行状

第4章
 封印された外務省の犯罪

第5章
 恐るべき外務官僚の世界

第6章
 こんな外務省はいらない

第7章
 さらば外務省


天木氏がここで暴露した内容以上に驚いたのは、氏がその後、小泉首相の地元で衆議院議員選挙に立候補したことでした。結果は惨敗でしたが、ものすごい執念だなぁと感心し、同時にちょっとかわった方だなぁ~と思った次第です。

つい先日、すばらしい官僚、小松正之氏の 『クジラは食べていい』 をご紹介したばかりですし、私の知っている官僚の方々の働きぶりは本当に猛烈です。誇張でなく、死に物狂いといった様子です。


それでも、今回の社会保険庁の怠慢に、農林水産省の官製談合。もういい加減にしてくれというのが本音ではないでしょうか。

一度すべての官僚の上層部を総入れ替えするくらいの改革がなければ、本当にこの国は滅びてしまうのではないかというような気がして来ます。これまで封印されてきた官僚内部の権力闘争の実態や、政治家と官僚との癒着が想像以上だということがいやというほど分かり、外務省のデタラメぶりにうんざりさせられました。

参議院選挙の結果に関わらず、官僚は残ります。アメリカでは、政権が変われば官僚も入れ替えになるそうですが、そういうような制度を部分的にでも入れられないものでしょうか。


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さらば外務省!―私は小泉首相と売国官僚を許さない

講談社

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さらば外務省!――私は小泉首相と売国官僚を許さない

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(↑文庫もありました)

 


『プロフェッショナル 広報戦略』 世耕弘成

2007年05月21日 | 政治・経済・外交

 


プロフェッショナル広報戦略.jpg


テレビ朝日のサンデープロジェクトでは、7月に行われる参議院選挙はもう終盤戦だという見方を紹介していました。確かに6年前から選挙があることはわかっているわけですから、各政党は長期戦略を立て、それなりに怠りなく準備をしているはず。

(入試があることもわかっていると受験生にも聞かせたい!と強く思いましたよ(笑)。)

とは言うものの、突然、東京選挙区にアナウンサーの丸川珠代さんのような有名人が出馬ということになれば、あわてる陣営もあるでしょう。サッカーのカズ選手にまで声をかけていたんですね。

とにかく改選議員や政党にとっては、選挙結果がすべてですから、国政選挙ともなれば、党をあげて、あらん限りの資金と知恵を絞って必死の戦いが繰り広げられるわけです。言うまでもなく、広報はそのカギを握っていますね。


どなたかが本書を読み、“ここまで自民党の選挙戦略をあからさまに書いてしまっていいのだろうか” と感想を述べていました。つまり手の内を明かしてしまえば、民主党をはじめ野党を利するだけという心配をしたものですが、確かに、郵政解散前後の広報戦略が事細かに書かれています。

著者である世耕氏は自民党の参議院議員。前回の総選挙で自民党大勝利へ貢献したと話題になりました。今回は非改選ですが、総裁派閥に所属していますし、広報としてたびたびテレビに出ていましたので、ご存知の方も多いでしょう。


世耕氏.jpg



もともとNTTのサラリーマンとして広報を担当していましたし、米国ボストン大学でもコミュニケーション学部で、企業広報論の修士号を得ているくらいですから、広報に関しては、知識も現場経験もあるプロ中のプロですね。

まだ当選は2回という若手ですが、現在も、自民党と政府、両方の広報を担当するという重責を担っているようです。どのようにして、自民党の選挙対策を立て実行し、選挙での大勝に結び付けたのかがわかります。


まことに失礼ながら、あの童顔からは想像できないほど、緻密な計算、冷徹な判断の元で選挙戦略が練られていたんですね。ニセメールにひっかかってしまった民主党とは対照的です。


よく、企業では当たり前のことが、役所ではまったくできていないと言われますが、政党の広報も、NTTなどの大企業に比べればとんでもなく無防備で、世耕氏によれば、それこそ国益すら失いかねない状況だったそうです。特に記者会見など…。

小泉総理はその天才的なコミュニケーション能力と、支持率の高さがあってこそ自民党は何とかなっていたというような分析です。森総理時代は大失敗(笑)。政党職員や政治家の長年のカンなどを頼りにしてこれまで広報戦略を立てていたところに、学問的な知見や詳しいデータ分析などの手法を取り入れて、ひとつひとつ実行していくさまが描かれています。


確かにすべてがケーススタディーのように具体的に書かれており、上でご紹介したような心配も的外れだとは思いませんが、世耕氏は本書をビジネス書ととらえ、なるべく多くの人に役立つような一冊にしたかったという印象です。

政治的な読み物としても楽しめますし、広報というものを知りたいという人にも、ヒントになりそうな事例がたくさんあります。平易な言葉で書かれていますので、興味があれば高校生でも十分に読めます。選挙権が18歳以上となる前に手にとってみてはどうでしょう。



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『破綻国家の内幕ー公共事業、票とカネ、天下り 利権の構造』 東京新聞取材班

2007年04月24日 | 政治・経済・外交


破綻国家の内幕.jpg


破綻国家とはもちろん日本のことです。公共事業、票と金、天下りなどの問題を、東京新聞の取材班が徹底的に調査し告発した一冊です。櫻井よしこ氏が帯で、“日本を蝕む巨悪を暴く力作” と推薦していますが、確かに衝撃的でした。

本書を読むと、官僚組織というものが、一筋縄ではいかない巧妙さ、しぶとさを持っていることがよく分かります。調査報道という形をとるものは新聞社にとっては割に合わないそうですが、本書は実に丹念な取材に基づいて書かれ、政治家、官僚なども実名でどんどん登場します。


統一地方選挙が終わり、いよいよ夏には参議院選挙があります。今、話題になっている公務員制度改革。官僚たちだけではなく、自民党や公明党内にも強い反対があるというではないですか。省庁による天下りあっせんを全面禁止できるのでしょうか。

すぐに国会に法案を提出するということで、テレビやラジオで渡辺喜美行政改革担当相が盛んにアピールしていますが、先送り、骨抜きにならなければ良いのですが、心配ですね。さらに政治資金規正法の改正案まで出すということですが、参議院選挙対策じゃないことを祈るばかりです。


「ナントカ還元水」の人が、日本政府の重要閣僚だというだけで私はうんざりなんですが、先日も、農林水産省の独立行政法人、要するに天下り先の「緑資源機構」に対し、独占禁止法違反容疑で強制調査が行われました。これもあきれるほど露骨な官製談合で、税金の無駄遣いもはななだしいわけです。


ところが、仮にこのように報道機関などの調査が成果を上げ、実際に事件として告発されるところまでたどり着いたとしても、逮捕されるのはせいぜい業者やノンキャリアの方で、結局本当の責任者である政治家や高級官僚は逮捕されることはめったにない、どころか、それを受けてより手口が巧妙になるだけの実態が描かれているのです。


自民党をぶっこわすと言って登場した、小泉政権の構造改革と呼ばれるもの、道路公団や郵政の民営化、“すごいぞ”と思って見ておりましたが、実際に成果があがっているのか、正直よく分かりません。道路の方は骨抜きだという報道もかなりありますね。

本書は、小泉政権初期に出された本ですから、現在と状況は違っているかもしれません。ここで取り上げられているのは郵政省、農林水産省、国土交通省、財務省、総務省などで、どれも読んでいるうちに怒りがこみ上げてくるのを押えられません。

目次です。



第1章 私利私欲の謳歌―天下り官僚の聖域(土地改良事業をめぐる利権構造;林業土木事業をめぐる利権構造;建設業保証会社をめぐる権益;諌早湾干拓のその後と違法献金事件)

第2章 環流する票とカネ―集票運動の真相(特定郵便局長会の票とカネ;改革を阻む郵政コンツェルン;迷走する郵政改革;日本医師会と自民党との蜜月)

第3章 むさぼられる税―公共事業の闇(口利きビジネスの台頭;高速道路の利権構造;骨抜きの道路公団改革)

第4章 露骨な利権争奪合戦―省庁再編の舞台裏(農水省改革の舞台裏;巨大官庁・総務省)


道路公団、郵政、医療改革、この時点では、小泉政権のどれ一つ満足のいく成果が上げられない根本的な構造が明らかにされています。やはり政権交代する以外にこの癒着の問題は解決の糸口すら見つからないと感じました。が、果たして民主党なら大丈夫かといわれると…、複雑です。


無駄遣いの実態を、興味深い切り口から、見事に暴いてくれた、『癒しの楽器パイプオルガンと政治(草野厚)』 や、そもそも国全体の体質だと割り切ってしまっている感のある 『官僚病の起源(岸田秀)』などをこれまで取り上げました。


本書も “絶望的な気分にさせられそうな良書” ですが、やはり諦めずに声を上げていくしかないのでしょう。



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破綻国家の内幕 公共事業、票とカネ、天下り 利権の構造

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『脱グローバリズム宣言 パクスアメリカーナを越えて』 Rボワイエ 榊原英資 佐々木かをり他

2007年03月25日 | 政治・経済・外交


脱グローバリズム宣言.jpg


今日から 当教室 では、春期講習です。新受験生諸君!がんばろう!


さて…

日本にいるとどうしても海外のニュースはアメリカ・アジアが中心で、ヨーロッパ諸国の特に経済に関するものは非常に少ないですね。今日は欧州統合の基盤となったローマ条約が調印されてから50周年にあたります。


EU加盟27カ国、域内人口約5億人(アメリカの人口3億人)にも膨れ上がり、域内のGDPはアメリカと同レベルで、通貨のユーロは強くなっています。昨日・今日は50周年を祝い、その首脳がベルリンに一堂に会し盛大な式典が催されるそうです。


 ⇒ 駐日欧州委員会代表部


ただ、やはりここでも宗教の問題などが出てきます。政教分離とはいうものの、いろいろの国をキリスト教の価値観で統一を強めるのか、トルコなどの加盟を認め、さらに市場規模を拡大させるのかなどで意見が割れているようですね。

暗礁に乗り上げた欧州憲法批准作業が象徴するように、またイラク戦争の対応が国によって分かれたように、ここからの舵取りは本当に難しいだろうと思います。


それでも、環境・エネルギー問題などでEU市場の種種の基準を統一したり、強力な独占禁止法を背景に、米大手企業の合併を阻んだ例もあるそうで、「EU基準」が世界を動かす局面が増えていきそうです。


本書は、そんなヨーロッパ社会と日本がこれから先、どういう方向を目指すべきかというシンポジウムが元になって出来上がっているものです。2002年に出されました。

著者はRボワイエ(フランス経済学者)、オブユールヨーゲンゼン(デンマーク元農相)、ケネスカーチス(カナダ政治学者)、クリスチャンソテール(フランス元大蔵大臣)、モレノブルトルディ(イタリア経済学者)、榊原英資佐々木かをり青木昌彦藤本隆宏 他数名の経済学者です。

本書の原題(フランス語)を直訳すると 『世界化と諸調整ーアメリカ的特殊性に直面したヨーロッパと日本』 となるそうです。


全体的な主張をまとめると…

ITなどの進化もあり、情報を瞬時に共有することによって、国家間の依存関係は確かに深まったものの、それがある一つの形に収斂していくのではなく、その事態に対処する方法はむしろ個性化、多様化している” というような感じでしょうか。


すでに経済だけでなくさまざまフィールドで用いられる「グローバリズム」という言葉ですが、怪しげな解説、アメリカイズムとの混同、普遍的なものととらえてしまう過ちが見られると一様に指摘します。

著者たちはそのことに対してそれぞれの立場から警告を発しています。歴史のない国(アメリカ)でできたモデルが様々な長い歴史を持つヨーロッパ、日本でそれほど簡単に根を下ろすはずはないし、これまでのモデルも同様であったと。


世界にはアメリカ型の金融資本主義だけではなく、様々な資本主義があり、実際にアメリカ以外では金融資本主義ではない資本主義が成功しているとして、いくつかのモデルを紹介します。大前健一氏などが主張している「グローバリゼイションによって国民国家の行動能力は解体される」という見込みは、的外れであるという訳です。


既にアメリカ型金融資本主義は貧富の差の拡大など、馬脚を現しているのであり、それに気付かずにグローバリズムをとらえてしまうと、とんでもない過ちを犯すと主張しています。


専門用語もいくつか出てきて少々難解ですが、知らず知らず私自身アメリカの学者の意見ばかりを受け入れてきたことに気付かされ、驚き、反省しました。


指摘されれば当然のことなのですが、既に日本と同じような問題に直面し、それを克服しつつあるヨーロッパ人の持つ冷静な意見に耳を傾けない手はないかなと感じた次第です。

もう一つ、現在のEUを見ていて、アジアではとてもこのような市場統合は難しそうだということです。トルコ加盟の件を見ても分かりますが、やはりある程度共通の政治経済などの社会制度、価値観、あるいは宗教がなければ無理かなと思います。




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『脱グローバリズム宣言』 パクスアメリカーナを越えて』 Rボワイエ 榊原英資 佐々木かをり他
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『インテリジェンス 武器なき戦争』 手嶋龍一 佐藤優

2007年03月19日 | 政治・経済・外交


インテリジェンス 武器なき戦争.jpg


手嶋龍一氏はNHKから独立したあとに書いた、インテリジェンス(スパイ)小説 『ウルトラダラー』 が話題になりました。私は未読ですが…。

本書の対談の相手、佐藤氏の見立てによると、うそっぽく書かれているところが本当の話しで、まことしやかな部分は虚構だそうですよ。情報源など突っ込まれて、手嶋氏が困っていました(笑)。


佐藤優氏の著作はこのブログでも、すでに三冊取り上げております。『自壊する帝国』 『国家の罠』 『国家の自縛』 です。どれも大変印象深いものでした。よろしければレビューをご覧下さい。


“インテリジェンス” とは、真贋含めたさまざまな情報、つまり“インフォメーション”をあらゆる手段を使って徹底的に拾い集め、その中から、本当に役立つものだけを拾い出し、結び付け、相手国の意図や実体を推し測り、外交や他の政策に活かすための活動、とでも定義するのでしょうか。

印象的だったのは、裏の情報というより、誰もが手に入れることのできる表の情報を綿密に分析するだけで、必要なことの90%近くは入手できるのだという佐藤氏の指摘です。私は“あっ、田中宇氏がやっていることだ” と感じましたが、どうでしょうか。


アメリカのCIA=Central Intelligence Agency 【中央情報局】 ですね。

CIAは何をしていた』 にも生々しく描かれていますが、佐藤氏の“自壊する帝国” を読まれた方は、氏の活動ですぐにイメージできるでしょう。ありとあらゆる人脈や方法を駆使して、情報収集、分析する仕事ですが、時には相手国の国家機密に近い部分にまで迫るわけです。


そのためにはどういう形であれ、エージェント(情報提供者)と接触しなければなりません。変装することもありますし、怪しいと思われれば、尾行はもちろんのこと、電話の盗聴など日常茶飯事で、スパイ活動の証拠をつかまれれば逮捕、状況や活動する国によっては命さえ危険にさらすわけです。


今、なんと世界中でアメリカ以外、ほとんどの要人の電話は盗聴されているそうです。アメリカだけは盗聴を仕掛けると危ないと、二人とも指摘します。しかし、アメリカの現在のCIAを中心としたインテリジェンスは非常に弱体化してしまい、イラク戦争などを引き合いに出して説明しています。


その点、イギリスは伝統的にインテリジェンスに強く、イスラエルは常に狡猾だし、佐藤氏の専門、ロシアはプーチン自身がKGB出身ですね。今、ロシアは日本の知力と、アメリカとの連携が弱まっていることを見て取って、領土問題でも何でも日本を小ばかにしているそうですよ!

日本はスパイ天国と言われますが、何も北朝鮮の工作員だけでなく、世界の二十数カ国が諜報員を東京に置いているのだそうです。東京はそれだけ世界中の良質のインテリジェンスを集めるだけの価値がある場所だと。

東京に一人インテリジェンス要員を置くだけで、少なくとも年間5千万円の経費がかかるそうです。一流マンションに住み、豪華なパーティーも開きますからね。それを補ってあまりまるほどの諜報活動をしているというのに、日本政府はどうも気付いていないらしい。


なぜ二人はそれを指摘できるかというと、そういう人たちが二人に接触を図ってくるからだというわけです。インテリジェンスは当然、裏の活動ですが、一方で独特のネットワークやおきてのようなものもできており、そこで信頼をされれば、情報交換ができるようですね。

情報を得るため、あるいはその確証を得るために、危険を冒して、けもの道を分け入っていくと、同じ人物に出くわすことが多いようで、お二人はけもの道で知り合ったような間柄のようです。おもしろいですね。


日本のインテリジェンスの問題点は、ここでもやはり縦割りの行政システムなんです。警察と防衛庁が不仲であったり、官邸と外務省とか、外務省のロシアスクールと○○派などといった具合ですね。情報がバラバラのまま活かされず、そのことに強い懸念を二人とも繰り返し表明しています。


ただし、日本が情報大国になることが無理かと言えば、そんなことはない。日本の情報収集能力自体は非常に高いし、歴史で何度もそれが証明されているという意見です。情報を統合するようなシステムや、人材育成の不備が問題だそうです。


目次は以下の通りです。


序章
 インテリジェンス・オフィサーの誕生(インテリジェンスは獣道にあり;情報のプロは「知っていた」と言わない ほか)

第1章
 インテリジェンス大国の条件(イスラエルにおける佐藤ラスプーチン;外務省の禁じ手リーク発端となった「国策捜査」 ほか)

第2章
 ニッポン・インテリジェンスその三大事件(TOKYOは魅惑のインテリジェンス都市;七通のモスクワ発緊急電 ほか)

第3章
 日本は外交大国たりえるか(チェチェン紛争―ラスプーチン事件の発端;すたれゆく「官僚道」 ほか)

第4章
 ニッポン・インテリジェンス大国への道(情報評価スタッフ―情報機関の要;イスラエルで生まれた「悪魔の弁護人」 ほか)



スパイというと良いイメージはわきませんが、インテリジェンス活動で満足のいく仕事をやり遂げるには、並外れた知力と体力に度胸、それに国家に対する忠誠心がなければとても勤まりそうにありません。自分の家族にすら明かせないようなものを扱うわけですからね。

イラク戦争は石油が目的ではない、ロシアはイスラエルとドイツに接近している、アメリカのキリスト教右派とイスラエルが繋がっているなどなど、他にも興味深い意見が聞かれました。

現実に今も、慰安婦問題や北朝鮮に対するアメリカの出方など、情報を見誤ると、確かに大きく国益を損ねる気がします。




P.S. 日本ではあまり大きく報道されませんが、アメリカの議会の公聴会で、元CIA工作員(スパイ)の女性が証言しました(ysbeeさんのブログ に詳報されています。ご覧下さい)。インテリジェンスの世界の複雑さを垣間見る思いがします。


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『アイドル政治家症候群 - 慎太郎、真紀子、康夫、純一郎に惹かれる心理』矢幡洋

2007年02月28日 | 政治・経済・外交

 

アイドル政。家症候群.jpg


今度の東京都知事選、何と朝日新聞が社説まで使って、民主党の菅直人氏にラブコール、立候補を促したそうですが、どうもご本人は出たくないようですね。出馬してくれれば生徒たちの政治に対する関心も一気に高まるでしょうに。

NEWS23の司会者、筑紫哲也氏も民主党に出馬を打診されたと報道されていましたが、こちらも難しそう。TBSなんかさっさとやめて、そのまんま東の決断力を見習って、あとは、みのもんたに任せて出ればいいのに(笑)。


他にも名前が出ているのが、田中康夫海江田万里小宮山洋子蓮舫と、みんな政治以外で活躍した有名人ばかり。やはり現職の石原都知事に勝つには、相当な知名度と、プラス、アイドル性のようなものが必要なんでしょう。


出馬表明した建築家の黒川紀章さんの決意はあっぱれ、奥さんは若尾文子さん。私は著作も読んで共感を覚えましたし、大物であることは確かですが、どうなんでしょう、黒川さんをもってしても、まだインパクトが少し弱いような気がしますが…。


本書は日本中をわかせたアイドル(偶像)政治家として石原慎太郎、田中真紀子、田中康夫、小泉純一郎、プラス鈴木宗男を取り上げて、それぞれ心理学の側面から各氏の行動や性格を分析します。


例えば、田中康夫は “演技性パーソナリティー” といって、簡単に言えば「目立ちたい」人。田中真紀子はちょっと難しくて、“否定性パーソナリティー” “攻撃的パーソナリティー” “すね者パーソナリティー” がからむそうです。不機嫌で扱いづらい人。

石原慎太郎は“反社会性パーソナリティー” “加虐性パーソナリティー” で、小泉元首相は“中心気質” というように分類しています。


以前ご紹介した大御所、大嶽秀夫氏の『日本型ポピュリズム』は、政治学者だけあって、やや専門的な一冊でしたが、こちらは非常に分かりやすい内容です。

また元衆議院議員の水島広子氏が書いた『国会議員を精神分析する』では、石原慎太郎や田中真紀子は“自己愛性パーソナリティー”といって、ちょっとした人格障害に分類していましたが、政治色が出ていたので、それより信頼が置ける一冊ではないかと…(笑)。


石原氏らを、ある心理学の世界的権威がまとめた分類にはめ込んでいるだけですが、心理学というものは実社会でも役立つなぁと感じます。このアプローチによって彼らの一見不可解な行動の意味が分かりますから。

難しい用語はなく、しろうとでも政治家の行動パターンをマスコミで作り上げられる虚像に左右されることなく、分析することを可能にしてくれています。政治家を批判するのではなく、あくまで有権者が彼らのことを誤解しないようにという意図で書かれていると思います。


現代の国政選挙では、大勢の人前で、感情を込めてわめいたり、どなったり、土下座したりといろいろ大変です。目立たなければ話になりませんから、確かに普通の神経の人では政治家は務まらないでしょう。

じゃあどういう人に託すのか、政策も重要でしょうが、性格も見極めないとだまされちゃいますね。

 

アイドル政治家症候群―慎太郎、真紀子、康夫、純一郎に惹かれる心理

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 『アイドル政治家症候群 - 慎太郎、真紀子、康夫、純一郎に惹かれる心理』矢幡洋
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『戦後政治家暴言録』 保阪正康

2007年02月07日 | 政治・経済・外交

 

言録.jpg



柳沢伯夫厚生労働大臣の “女は子どもを産む機械” という発言が大騒ぎになって、国会の与野党での予算審議を止めてしまいました。いくらなんでも “機械” はないだろうという気がします。当教室の女子生徒もかなり怒っていましたねぇ。


本書は、戦後の “バカヤロー解散” から、小泉首相までの政治家の暴言、失言をいくつかの種類に分析。どこがどう問題で、なぜそうした発言が出てくるのかを見てみようという興味深い一冊でした。


ところで、まず今回の “子どもを産む機械” と発言したという報道は、生徒たちにも分かりやすい形で、それこそ、言葉や社会を考える絶好の “機会” を与えてくれたと思います。


失言や暴言にはいろいろな種類があって、常に一部だけが抜き出されますが、その脈絡を見ることが必要ですね。今回の場合、発言の前後はこうだったそうです。



なかなか今の女性は、一生の間にたくさん子どもを産んでくれない。人口統計学では、女性は15才から50才が出産する年齢で、その数を勘定すると大体分かる。他からは産まれようがない。産む機械と言ってはなんだが、装置の数が決まったとなると、機械と言っては申し訳ないが、機械と言ってごめんなさいね、後は産む役目の人が1人頭でがんばってもらうしかない。(女性)1人当たりどのぐらい産んでくれるかという合計特殊出生率が今、日本では1.26。2055年まで推計したら、くしくも同じ1.26だった。それを上げなければいけない。


こ~んなに謝るのなら機械なんて言わなきゃいいとも思いますが(笑)、ただ、これが国会の大切な予算審議をすべて拒否、世界中に女性蔑視と報道される価値がありますかね。

彼や自民党をかばうつもりはまったくありませんが、誇張した報道とこれを利用した野党の反応にはちょっとうんざり。まぁ少なくとも報道ではかなり短く、“女性は産む機械” のところだけを取り出していたことは分かります。


この発言が大きな問題となるもう一つの原因は、柳沢氏の立場。厚生労働大臣で、まさに少子化対策に関わるわけですが、女性を統計上の数字としてしか見ていないのではないか。

機械ということは、子どもを産まない女性は不良品だといわれたようだと誰かが言っていましたが、もっともな感想で、そんな人が責任者であるのは許せないという理屈です。


今度は本書にも登場する小泉首相。かつて 「人生いろいろ」 と発言して問題になりました。でも、人生っていろいろですよね(笑)。柳沢発言と逆で、このケースでは、この部分だけを切り取ってみても、暴言にも何にもなりません。

しかし、筆者はこれを戦後最悪の暴言ではないかと指摘します。どうしてでしょう。日本国総理大臣としての立場、品格の問題、さらにはその発言の前後関係を見なければわかりませんから、それを紹介し筆者の意見が述べられます。


次に、故渡辺美智雄氏。彼はいくつもやっていますが…、例えば 

「日本人だと破産は重大に考えるが、クレジットカードが盛んな向こう(米国)の連中は、黒人だとかいっぱいいて、『家はもう破産だ。明日から何も払わなくてもいい』。それだけなんだ。ケロケロケロ、アッケラカーのカーだよ」

これはひどい。政治家であろうとなかろうと、明らかな差別発言ですね。でもこういう人を日本人は政治家、しかも与党の大物議員の一人に選んできたということは知っておいた方がよいですね。


与党、野党で言えば、かつての日本社会党は、村山総理が誕生する前は、非武装中立でしたが総理大臣になるやいなや、安保肯定、自衛隊は憲法違反ではない、とまるっきりこれまでと逆のことを言い出して、その後の選挙では大敗北します。これまでの支持者にとっては許せない暴言だったわけです。

野党ならしても良い発言が、総理大臣としてはできない発言があることを端的に表しています。つまりウラでは正論だったものが、オモテでは暴言となるということですし、その逆もあります。

その人の立場が変わると、発言の表と裏を変えなければいけないとも言えそうです。


上の区分けは私が勝手にやったものですが、本書では6種類に分けて分析しています。 目次を紹介しておきましょう。



■■■

第1章 戦後日本のオモテの言論、ウラの言論

第2章 戦前の官僚体質の残る暴言(吉田茂―バカヤロー発言の内と外;池田勇人―中小企業の倒産などやむを得ない;清瀬一郎―男女共学は廃止すべきだ;岸信介―野球場や映画館は満員だよ;佐藤栄作―私はテレビと話す。新聞記者諸君は帰ってください)

第3章 田中角栄以後、森喜朗以前(田中角栄―隣りで毎日毎日、ガンガンと製カン工事をやるよ;中曽根康弘―日本列島を不沈空母にする;藤尾正行―日韓併合は韓国にも責任がある;渡辺美智雄―日本人は破産というと重大に考えるが米国の連中は黒人だとかいっぱいいて、ケロケロケロ、アッケラカンだよ;森喜朗―日本は天皇を中心とする神の国)

第4章 小泉政権下の暴言・失言の怖さ


■■■


暴言・失言の類は、発言する人の立場、状況、聞く人の立場によって入れ替わるということがわかります。つまり個人によって大きく異なるということです。

正直、私も本書を読んで、筆者の主張すべてに共感するわけではありませんが、こうして暴言、または、そう呼ばれたものを分析し、そこから社会や時代を見てみるという試みは大変おもしろいし、有益だと思います。


戦後政治家暴言録

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『戦後政治家暴言録』 保阪正康
中央公論新社:237P:798円


 

 


『日本型ポピュリズム』 大嶽秀夫

2007年01月22日 | 政治・経済・外交



センター試験をしている間に、そのまんま東さんが知事ですよ。失礼ながら、勝手に泡沫候補だと思っておりましたので驚きました。

これまで不祥事も起こしましたが、早稲田に再入学して勉強もしていました。談合事件で嫌気がさしていた宮崎県民の心を見事につかんだようです。すごいなぁ~。


宮崎出身ですし、知名度は確かに抜群でしょう。これまで多くのタレント、有名人政治家が登場しましたが、なかなか理想通りに活躍できません。私は彼の政策などは何も勉強しておりませんので、何とも申し上げられませんが、少なくともかつての大阪府知事のようにはなってもらいたくないですね。


トップだけ一時的に変わっても、談合体質はそれこそ、“そのまんま” になるという現象もよく見られます。県民の期待に応えるように、しっかりとした政治をぜひお願いしたい。


さて、本書は、大衆迎合政治や衆愚政治などをイメージさせる、『日本型ポピュリズム』が目に付くようになった90年代から丁寧に振り返り分析します。政治学科を志す高校生に読んでもらいたい一冊です。以前、取り上げましたがもう一度紹介させていただきます。


著者の大嶽氏は『現代日本の政治権力経済権力』でサントリー学芸賞を受賞、2001年には紫綬褒章まで受章されている大物学者ですが、久しぶりの著作だと思ったら、鬱病を患っていらしたそうで、回復しつつある時に本書を書き上げたそうです。 


非常に膨大な量の資料や文献にあたり、細川護煕や石原慎太郎、田中真紀子、加藤紘一、小泉純一郎などが繰り広げた政治現象を、日本型ポピュリズムという観点から説明します。


アメリカとの比較や、小沢一郎などとの対照、報道番組やワイドショーの果たした功罪両面の役割など多角的に分析します。 


高校生が新聞の政治記事をよく読んでいても、やはり一日の分量はたかが知れていてなかなか全体像が頭に入りません。彼らは細川首相の時代はまだ少年少女ですから、実感がないのも当然です。 


逆にテレビというのは、あることがらの経緯を簡略にまとめた上、映像やBGMを用いて分かりやすく情報を提供してくれますが、視聴率や不偏不党を意識するためか、どうしても紋切り型になってしまいます。


また、人気キャスターだからといって筑紫哲也やかつての久米宏などのフィルターを通してできごとを理解してしまうとニュースが違った物語になってしまいます。 


本書はそういう点を指摘し、主に小選挙区導入以降のポピュリズムに焦点を当て、日本の政治風土とその変化を明らかにしてくれます。非常に読みやすくなっていますし、様々な新情報を得ることができます。


筆者は奥さんと一緒の闘病生活を乗り切ったあと、充実した気合が感じられる重厚な一冊でしたが、後半は息切れでしょうか、大嶽氏らしからぬやや雑な印象も受けました。



P.S.受験生の諸君には、そのまんま東というタレントはそれほど、強烈な印象はないかな。まぁ、さまざま話題になった人物です。それにしてもいろんな人生があるもんです。受験も人生の通過点に過ぎないけれど、その時々、全力で頑張っていないと、次のチャンスは来ない。がんばろう!





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日本型ポピュリズム―政治への期待と幻滅

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P.S. 私事ですが、以前、愚息に関して記事をUPしてしまい、励ましのメッセージを入れてくださった方もおられますので、謹んでご報告です。おかげさまで、最初の受験校、千葉の市川中学に合格しました。第一志望はこれからですので受験は続きます。塾講師としては、結果がすべてという姿勢ですが、親としては、受験を通して学問の奥深さを感じ、知識を習得すること、そのために努力をすることが重要で、合格という結果はほんの少しだけあれば良いと思っております。ですから、この合格で、うそではなく(笑)大満足です。教室の先生方、ブログでコメントまで下さったみなさん、ありがとうございました。


『癒しの楽器パイプオルガンと政治 -クラシック音楽もあぶない』 草野厚

2006年11月23日 | 政治・経済・外交
 

『癒しの楽器パイプオルガンと政。』草野厚.jpg


税金の使われ方が本当におかしい。ずっと昔から指摘されていることですが、安倍政権になってからも、また次々と出てきますね。郵政造反組の復党も、政党交付金目当てだともささやかれています。


それに何ですか、あのタウンミーティングの“やらせ問題”。それに関連して、民主党の蓮舫さんが、政府が代理店と結んだ契約の単価内訳表に 「エレベーター手動 単価1万5000円」 と記載されていると指摘した問題。


エレベーターを操作するだけで、15000円の手当てが出ていた!?やりたい人一杯いますね。


また、5年9カ月間に、わずか8日の出勤で、2500万円近くの給与などを得ていた奈良の県職員の問題。同和問題解放運動とからんでいたそうですが、誰はばかることなく、高級外車を乗り回していて、どうして今まで発覚しなかったのでしょうか。知っていて何も言わなかった人はどれくらいいるのでしょう。


日本の行政システム、公務員の異常なモラル欠如は、一つの事件など、通り過ぎたら、何もなかったかのように、またすぐに増殖をはじめて、権限拡大に向かう。そのための無駄遣いの事件が、まるで本能のように繰り返されます。先日ご紹介した、『官僚病の起源(岸田秀)』 の説、またかつて読んだ会田雄次氏の主張(書名は失念) もそれを指摘していたように感じます。


さて、本書も税金の話です。テレビでおなじみの政治学者、草野氏の著書です。氏の著作は、以前に、『テレビ報道の正しい見方』 を取り上げました。


「なぜパイプオルガン?」 と思いますよね。草野氏の両親は音楽の教師で、草野氏自身も東京芸大の指揮科を受験し、2回目では最後の二人まで選考に残ったそうです。そこから政治学者とは不思議な経歴ですね。

オルガン愛好家でもある草野氏が日本にある一定規模以上のパイプオルガンについて、日本中を歩き回り調べ上げたものです。外国の大学では一般的らしいのですが、慶応大学でもある程度の期間、大学に勤務していると、長期の自由な時間が与えられ、好きなことを研究してよいのだそうです。


パイプオルガンというのは大きなものになると、2~4億円、重さはなんと70トンを超えるものまであるそうです。しかも製造には年単位の時間がかかり、木工からの手作業で作りはじめるのだそうです。

バブル期を中心に地方自治体が音楽専用ホールを建設し、そこにパイプオルガンを設置したのですが、その購入動機、ビルダー(オルガンメーカー)、商社の選定、入札経緯と結果、利用状況などを丹念に調査したわけです。


オルガン購入も当然税金でまかなわれる公共事業ですが、案の定次々と問題点や疑惑が出て来ます。つまり、政治とは対極にありそうな芸術という分野でさえ、公共事業の構図がすっかり定着している、そのことに驚かされます。 


小泉内閣当時、道路特定財源に手を付けようとして、「熊しか通らないような道路」 とか、「身内企業が独占する道路管理業務」 など、道路公団がらみの税金の無駄遣いが話題になりましたが、それと似たようなしくみが働いてしまいます。


登場するのが、政治家ではなく、東京芸大の教授などということの違いしかありません。ホント、いやになっちゃいます。誰も満足に使えないような高級パイプオルガン、買ったあとのメンテナンスだけでも途方もない額の税金が使われていて、これまた、誰も責任を取らない。


こうなると、当然パイプオルガンだけでなく、ありとあらゆる物に、この構図があると容易に想像できますね。自分の金でなく、他人のお金、税金だからこそ、鉛筆一本に至るまで無駄にしない。基本的にはそう考えてほしいんですが…。


先日取り上げた『UFJ三菱東京統合』 で見ましたように、銀行はバブル期の不良債権処理をしたと言いますが、地方にはこうしてまだまだその頃のつけが、処理されないまま重くのしかかっているだろうと思わざるを得ません。


こんな状態で、消費税を上げられたら、暴動が起こっても不思議じゃないと思うのですが、 世論調査でも消費税UPは仕方ないと思っている、話のわかる人がかなりいます。確かに、金利が上がる前に、たくさん借金を返しておかないと大変でしょうが、“それにしても…、ひどすぎる”、そう感じる一冊でした。




http://tokkun.net/jump.htm (当教室HPへ)



 P.S. 税金とはあまり関係のない、未履修問題にしても、役所仕事というのは、本当にいつも権限が曖昧で、チェックが甘い。結局、明確な責任を取らないまま、あるいは大きな騒ぎになった時だけ、人身御供が差し出され、しばらくたつと同じような事件が繰り返される。そして組織や仕組みが温存される。何とかしたい!

癒しの楽器 パイプオルガンと政治

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『癒しの楽器パイプオルガンと政治』 草野厚
文藝春秋:190P:714円


『日本共産党』 筆坂秀世

2006年10月22日 | 政治・経済・外交

 

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安倍政権発足後、初の国政選挙が行われ、自民・民主両党が力を入れるのは当然として、両選挙区とも毎度のことながら、共産党候補も立候補しています。 候補者本人も含め、共産党が勝てると思っている人はどれほどいるのでしょうか。また、負けると分かっていても、常に候補者を立てるのが共産党ですね。

少し前に、共産党の最高幹部の一人である筆坂氏が、セクハラ事件で、離党、議員辞職をしたのには驚きました。本書はその筆坂氏が、自分の人生と共産党を語ったものです。

かつての、日本共産党で、私が印象的なのは、テレビに出てくる誰も彼も、リーダーの不破元委員長と同じしゃべり方をするということでした。筆坂さんもそうでしたし、現委員長の志位さんも似ています。そっくりと言っても良いほど。

それだけ、不破さんのカリスマ性が高いのだろうと思っていましたが、本書を読んでみて、確信しました。不破さん自体が、日本共産党そのものだと。


筆坂氏が、逆らうことを許されない組織の中で、不名誉極まりない事件で身を引かざるを得ない無念さと、恨み。また自分の青春を捧げてしまった、愛着ある党が今や、かつての輝きを失っていることへの寂寥とした思いも読み取れます。

これからどうすれば良いのか、自分でもよくわからないそうです。そんな状態で書かれた本です。


日本共産党は1922年結党という長い歴史のある政党です。戦後合法化されましたが、今だに、公安警察の監視対象。でも今の日本に社会主義や共産主義の実現を願っている人はどのくらいいるのでしょうか。

ソ連、東ドイツの崩壊や、中国の市場経済化、そして北朝鮮の実態を知るに付け、いくら自民党や民主党が気に入らなくても、資本主義を捨てるという選択肢はあるのでしょうか。共産党の支持低迷は覆い隠すことはできませんね。

共産党は、これまで立派な告発をした実績があります。食肉業者のハンナンの不正を指摘しましたし(『食肉の帝王』)、何と言っても、北朝鮮の拉致疑惑を、荻原遼氏は執念の著作『北朝鮮に消えた友と私の物語』で、いち早く訴えました。(感動的な一冊ですでお薦めです)

ところが、はたから見れば、萩原氏は共産党のヒーローなのに、その英雄を、党を批判したとして、除名してしまいました。ここらあたりがやはり…。

共産主義や社会主義の世界はみな平等だといいながら、権力者だけはみな強権を持っていますね。まるで宗教団体のように、トップは神様扱いですから、批判は許されない。筆坂氏はナンバー4だったそうですが、本書を読む限り、結局はナンバー1しかいないんだなとわかります。


先日ご紹介した、『日経新聞の黒い霧(大塚将司)』でも、経営者の批判をすることが許されないゆえの組織の腐敗です。政党であれ、株式会社であれ、宗教団体、カルトはもちろん、そういう形になると、必ずどこかで亀裂が生じます。

まして、共産党は資金面でも苦しいと書いてあります。詳しいデータが載っているわけではないので、どの程度の信憑性があるかわかりませんが、地方議員は離党したがっているとか、政党助成金を拒否しているため、職員の給与の遅配があるなどと指摘しています。

共産党のHPや新聞『赤旗』では、筆坂氏の指摘に強く抗議しているそうですが、党勢拡大を果たすのは、相当厳しそうだという印象を持ちました。


http://tokkun.net/jump.htm
 


日本共産党

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