本を読もう!!VIVA読書!

【絵本から専門書まで】 塾講師が、生徒やご父母におすすめする書籍のご紹介です。

『四万十川 第一部 -あつよしの夏-』 笹山久三

2007年08月28日 | 小説


川.jpg

 
この夏休み、生徒諸君はそれぞれ楽しい思い出を作ったことでしょう。そして、子供に思い出作りをさせてやりたいと、お父さん、お母さんもきっと酷暑の中、海・山で楽しい非日常を過ごされたに違いありません。

疲れ果てた子供の寝顔に満足して…、で、気が付いてみると、あと○○日で夏休みも終わり、“あっ、宿題はどうなってる?”(笑)。

夏休みの宿題の定番は何といっても読書感想文。思いっきり遊んだ後に待っている原稿用紙ですね。受験生なら海や山とはもちろん、読書とも無縁の夏休みになりがちですが、感想文はできましたか。


少年・少女の夏は事件いっぱい!ですから、自分が体験したイメージからも感想文にしやすい作品はたくさんあります。夏の読書ということで、これまでも 『カカシの夏休み(重松清)』 や 『夏の庭(湯本香樹実)』 『峰雲へ(阿部夏丸)』 などをご紹介しました。


夏の終わりにもう一冊。『峰雲へ』 と同じで舞台は川、あの四万十川です。私も、ずっと以前から、一度行ってみたいと思い続けている場所です。


四国の山の中。「コロバシ」というシカケを沈めて、四万十川のエビ・うなぎを獲ります。鮎を獲らせたら玄人はだしの名人級。そんな小学生、篤義(あつよし)は、口数少なく、おひとよしです。

クラスで 「ごはんに塩をかけただけの弁当」 と千代子がばかにされるのを見て、自分と比べてしまい、ちょっとほっとする情けない一面を持っています。しかし、教室でその千代子が泥棒に仕立て上げあられた時には、それをとっさにかばう篤義。

この弱さとまっすぐの強さを持ったこの小学生の純粋さに大きな魅力を感じるのは、私だけではないでしょう。情景・心情描写が細やかなのも魅力です。やはり映画にもなっているそうです。


生徒諸君に夏休み最後のおすすめ作品です!


P.S. 宿題の残っている人は世界陸上見てる場合じゃない! ま、でも陸上を見ていると “ラストスパート” の大切さも分かりますね(笑)。ガンバレ~!



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川.jpg 四万十川―あつよしの夏 (河出文庫―BUNGEI Collection)
笹山 久三
河出書房新社

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『文科省が英語を壊す』 茂木弘道

2007年08月25日 | 受験関連書籍


文科省が英語を壊す.jpg


夏休みもいよいよ最後の週になりましたね。早いところでは30日くらいから学校が始まりますから、猛烈に宿題を片付けはじめているころでしょう(笑)。ただし、公立の特に小学校は以前よりずっと宿題も少なくなりましたので、それほど大変ではないかもしれませんが、どうでしょう。

私は大学生の頃から20年以上、当教室で、大学受験の英語教師をしておりますが、だいたい10年ほど前、その頃からずっと感じ続けているのは、生徒達の英語文法力の明らかな低下です。

グローバル化にともなった、英語に対する興味や関心、時代のニーズはむしろ高まっているにもかかわらず、なぜ英語の学力が下がるのか、最初は不思議な現象に当惑したというのが本音です。

当教室近くにあるトップレベルの進学校と呼ばれる高校に通っている生徒達を定点観測しながら、授業をしていますと、それまで難なくできた文法問題が年々できなくなっている。

一方、公立中学に通っている生徒に目を移しても、中一の生徒達の最初の難関、“3単現のS” に関する定着度がかなり落ちていました。逆に文法がこれまでのようにきちんと理解できている生徒が入塾してきた時に聞いてみますと、ほぼ例外なく、塾や予備校で勉強してきた経緯を持っていました。

素朴に “いったい学校で何が起こっているのだろう” という疑問から、それまでも英語学習に関する本はいろいろ読んでいましたが、その頃から “英語教育” に関する本を手にするようになりました。今となっては日本人の英語力低下は、TOEFLアジア最下位という結果でも明らかです。


結論として、私が学力低下を肌で感じはじめたよりさらにずっと前、1977年に当時の文部省の肝煎りでスタートした 「会話重視」 の英語教育がその元凶だとわかりました。本書の指摘通りです。それが世間に知れわたったのは、2002年に始まった “ゆとり教育” の論争があったおかげです。

“学力低下”問題は英語だけの話ではなかったわけです。講師仲間によく聞いてみると、数学の計算力や国語の漢字の定着度に同様の事態が起きており、当時出版された、『分数ができない大学生』 などの著作に大いに賛同したものです。


そうした学力低下に関する書籍の中で、本書はもっとも痛烈に英語の教育政策を批判した一冊です。刺激的なタイトルそのままに、会話重視、そして文法軽視の英語教育を鋭く糾弾し、同時にその背景にある「ゆとり教育」を「愚民化政策」とまで断罪します。

目次です。

第1章 英語力低下の実態と英語教育改革
第2章 英語に対する三つの錯覚
第3章 求められている英語力
第4章 使える英語への道
第5章 受験英語の意味と役立つ証明
第6章 ポスト受験英語


筆者は決して英会話が無価値であるとか、日本人には無理だなどと考えているわけではありません。発音やリスニングを日本人が本格的に身につけることは十分可能であるとし、その方法論もしっかりと提示しています。

ただしそのためには「運動部としての英会話トレーニング部」が必要だそうです。楽しく英語を身に付ける、という考えは甘いと。 『英語耳(松沢喜好)』 や 『英文快読術(生方昭夫)』 に通ずる指摘で、当然だと思います。学問ですからね。


オーラルコミュニケーションの重要性は理解できますが、どう考えても、週一回程度、学校に外国人を招いて英会話の授業をしてもらえば解決するという問題ではありません。

舌鋒鋭いので、本書には賛否両論あるかもしれませんが、現場の人間としては、「よく言ってくれた」 というところです。英語教育に関心のある方にお薦めします。



P.S. 実は、灘高キムタツこと、木村達哉先生の 『灘高キムタツの国立大学英語リーディング超難関大学編 』 に私が書かせていただいたコラムは、まさにこの問題意識からです。それに対して、木村先生のご著書の書評に、拙文に対するありがたい言及がアマゾンに載っていました。よろしれけばご覧下さい。




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文科省が英語を壊す (中公新書ラクレ)
茂木 弘道
中央公論新社

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『最後の相場師』 津本陽

2007年08月17日 | 小説


最後の相場師2.jpg


アメリカのサブプライムローン、低所得者向けの融資だそうですが、その問題で、世界経済が不安定な方向へ行っているようですね。アメリカでも日本でも、株価が急落し、景気全体にも影響しかねないとなると大変心配です。

上海やアメリカの景気はバブルだという声は以前からありましたが、やはり調整の局面に入ったのでしょう。日本は依然としてデフレから抜け出していないと言われるだけに、今回うまく軟着陸できると良いのですが…。


以前ご紹介した 『黒字亡国ー対米黒字が日本経済を殺す(三國陽夫)』 も現在、景気が良いとされる日本の経済構造の問題点を指摘した非常に興味深い一冊ですが、だからといって一般国民はどう行動すれば良いのかまでは書いていませんでした。

まぁ、経済構造、特にマネーの世界は、ヘッジファンドなどに代表されるように複雑になりすぎて、専門家でも経済予測や市場の動きを堂々と間違えるくらいです(笑)。ですから、素人には完全にお手上げで、じっと見守るしかないのでしょう。


さて、本書は戦後最強の相場師と言われた是川銀蔵をモデルにして書かかれた小説です。現代の相場師が村上ファンドの村上世彰氏だとすれば、かなりおもむきの異なる人物像ですね。 『異形の将軍-田中角栄の生涯』 を書いて話題になった直木賞作家の津本陽氏の作品で、大変おもしろい一冊でした。


主人公はこれまで波乱の人生を送り、すでにはたから見れば、隠居生活に入っているのですが、79歳を迎えた時につぶやきます。「いよいよ、儂のこの世で仕残した勝負をはじめるか」 。 

妻と二人で質素な暮らしをし、もちろん大変な資産家となって、なに不自由なく暮らせるのですが、それを全部失ってしまうような無謀な勝負に出ます。株を通して大企業や証券会社、他の仕手筋との駆け引き、死闘が繰り広げられます。


相場師でありながら、金のためではなく、自分の存在証明をさがしているかのように戦い続けるのです。 株式相場というものにほとんど知識がない私でも、本書で描かれる戦いに引き込まれました。

ただし、あくまで小説ですから実話に基づいているとはいえ、投資に役立つというような類の本ではありません。スケールも違いすぎますし。

本書を読む前から、是川銀蔵という人物の名前は、どういうわけだか何度も聞いたことがあるのですが、読了してあらためて、Wikipedia を見て驚きました。波乱万丈というのは、まさにこの人の人生を言うのだと。

このプロフィール、小説家であれば書いてみたいと思うのではないでしょうか。私もその人柄と人生に関して詳しく読んでみたいと思いました。


津本氏の他の作品もまだまだ読んでみたいものがたくさんあります。何かお薦めのものがありましたら教えて下さいね。


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最後の相場師 新装版 (角川文庫 つ 4-1)
津本 陽
角川書店

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『たった一人の30年戦争』 小野田寛郎

2007年08月15日 | ノンフィクション

 

たった一人の30年戦争.jpg

 
62回目の終戦記念日です。

日本の夏は広島・長崎への原爆投下、そして終戦の時期にあたりますから、先祖が帰ってくるといわれるお盆前後は平和や戦争について考えさせられる季節です。

まったく出口の見えないイラク戦争。自民党が参議院選挙に大敗しましたので、外交・防衛政策が大きく変わることがあるのでしょうか。護憲を強く主張していた勢力は選挙で支持を得られませんでしたが、イラク特措法の延長に反対していた民主党は大躍進です。


靖国の問題もありますね。拙ブログでも、『靖国問題の原点(三土修平)』 などを取り上げました。昨年、当時の小泉首相が公約としていた8月15日の靖国神社参拝をしてから一年、今年、安倍首相はどうするのか注目していましたが、どうも見送りのようです。

参拝すれば、せっかく好転し始めた日中関係がぎくしゃくしますが、何もしなければ首相の支持層である保守的なグループからも批判が出る。板ばさみでしょうが、それにしても曖昧戦略というのは、どうなんでしょう。どういう立場の人にもあまり良い印象を与えないように感じます。

さらに先日は慰安婦問題で日本に公式謝罪を求める決議案が、“同盟国” と思っていたアメリカの国会で可決されてしまいました。日本の大臣が、“原爆投下はしょうがない” と発言し辞任。戦争の傷跡は何年たっても癒えることはありません。


さて、本書です。

終戦が昭和20年で、その約30年後、昭和48年にフィリピンのルバング島で発見された小野田寛郎氏の著作です。敬愛する tani 先輩 が、読んで泣けたという一冊です。

小野田氏はジャングルから出て、身柄を当局に確保された後でさえ、「上官の命令解除がなければ帰国しない」 と語り、わざわざかつての上官がフィリピンに飛んで直接命令解除を伝えました。

小野田 敬礼.jpg



 「美談」 ととらえるのか、究極の 「悲劇」 と感ずるか…。それこそ当時は大ニュースで、子供だった私もよく記憶しています。小野田氏の敬礼した写真は今でも頭に焼き付いています。

戦争を知らない当時の子どもには、それがどういうことか理解できるわけもなく、単によく30年も、ジャングルで逃げ回っていたものだと感心しただけですが、本書を読むとそれがまったく考え違いだとわかります。

小野田氏は30年の間、人目に付かないように、必死で食料だけを集めて逃げていたのだと思い込んでいましたが、とんでもない誤り。実はひたすら日本軍の勝利を信じて、時に人里へ降りて、攻撃すら仕掛けながら生き延びていたということがわかります。

書名の通り、本当に氏は30年間一人(途中まで二人) で闘っていたのです。以前にご紹介した 『還ってきた台湾人日本兵(河崎真澄)』 で、その身柄を確保した際の話しにも大変驚きましたが、本書の記述にも同様で、戦争を知らない世代には衝撃的です。


以下が目次です。

ブラジルの日々
30年目の投降命令
フィリピン戦線へ
ルバング島での戦闘
密林の「残置諜者」
「救出」は米軍の謀略工作だ
終戦28年目、小塚一等兵の“戦死”
たった一人の任務遂行
帰還、狂騒と虚脱と
生きる


ジャングルでの生活の描写も想像を絶するものだったのですが、さらに印象的なのは、氏が日本の変わりようを嘆いているくだりです。戦争に負けてしまったことはともかく、なぜ日本がこうも変わってしまったのかという戸惑いと無念と怒りでしょうか。

こんな日本にいるくらいなら、という思いでブラジルに渡ってしまいます。そのニュースを聞いた当時は、どうも腑に落ちない気がしたものですが、本書を読んでその真意がわかりました。


日本のために戦い続けた人がなぜそんな決断をせざるを得ないのか、戦争だけでなく、現在の日本社会を考える機会を与えてくれる絶好の一冊だと思います。多くの人に読んでいただきたいと思います。



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P.S.また、小野田氏は慰安婦の問題に関して、数年前に雑誌「正論」に論文を掲載しております。よろしければご覧下さい

 ⇒ 『私が見た従軍慰安婦の正体



たった一人の30年戦争
小野田 寛郎
東京新聞出版局

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『峰雲へ』 阿部夏丸

2007年08月14日 | 小説

 

峰雲へ.jpg


本書も夏休みに生徒たちに読んで欲しい感動物語です。読書感想文を書くのにもうってつけの一冊です。

重松清氏とは対照的に、あまり売れていないようですが(笑)、読みやすく、すばらしい一冊で、しかも中学入試や公立高校入試によく出題されます。2001~6年の集計では何と第3位でした。

    ⇒ 公立高校に出題される本・作家ランキング


これまでもいくつか子どもたちの成長を描いた感動物語を取り上げましたが、本書もそのもっとも典型的な内容です。『カカシの夏休み(重松清)』 や 『夏の庭(湯本香樹実)』 のように、“夏” という言葉こそ書名にありませんが、表紙には “Boys’ summer story” とあります。


舞台は愛知県に流れる矢作(やはぎ)川。実は愛知県は私の故郷で、私の卒業した学校の校歌にも “矢作川” が出てくるくらいですので、親近感をもたざるを得ません(笑)。


主人公は少年3人。彼らの住む町でただ一人残る、川漁師のおじいさん、源さんと、その孫を含む少年3人組みとの交流が物語のはじまりです。少年たちの目的は川にある小島に自分たちの基地を作ること。

友情と冒険物語というわけです。エピソードやストーリーはまったく異なりますが、”少年たちと川” という設定は、ミズーリ川を舞台にした、マークトウェインの “トムソーヤの冒険” を彷彿させます。

もちろん彼の国とは、自然のスケールやら、社会問題などの深刻さなどは比較になりませんが、どちらも少年達の持つ純粋さが素直に表現されていると感じます。


帯には “少年の心があると3回泣けます” とよくわからない宣伝文句がありますが、『夏の庭』 同様に、次々とさまざまなできごとがあり、まったく飽きません。学校や地域社会のあり方、障害者の存在や初恋まで…、一気に読んでしまった一冊です。

水の事故が連日報道されますので、本書を読んで、冒険をマネされると困るのですが、この夏休みの間に川に行って泳いだり、釣りをしてみたいと強く感じるのではないでしょうか。




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峰雲へ

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『カカシの夏休み』 重松清

2007年08月12日 | 小説

 

カカシの夏休み.jpg



あっという間に夏休みも半分が過ぎましたね。東京も36度と、夏らしい日差しが照りつける昨日、今日です。


夏期講習期間中、私たちのような塾講師は海、山へ出かけられませんので、本音では、“冷夏大歓迎” ですが(笑)、暑くないと気分が出ないのも事実でして…。お盆に帰省している人はたっぷり夏のふるさとを満喫していることでしょうね。

当然、受験生は勉強一本!ですが、そうでない生徒にはたくさん、本当にたくさん本を読んで欲しい。

子どもが読んで感動できて、しかも中学入試にも、公立高校入試にも出る、そんな作家のナンバー1はやっぱり、重松清氏でしょうか。氏の作品は、小説では 『ナイフ』 と、教育論では 『みんなのなやみ』 をこのブログで取り上げました。


参考までに…

        公立高校で出される作家・作品ランキング



氏は私と同年代なので、きっと問題意識が似ているのでしょう、特に教育問題に関しては、本質を突いてくる、そんな印象の作品が多いと感じます。


なぜ入試に出るのか。また、なぜ入試に出る作品や作家が集中する傾向にあるのか。それは 『秘伝 中学入試読解法 (石原千秋 著)』 を読むとはっきりわかります。やはり、学校というものの求める生徒像、とその思考回路は案外一定です。


さて、その重松氏の夏らしい一冊です。本書は三編を収録しています。


まず表題作である、“カカシの夏休み”。故郷をダム建設のためになくした同級生が、一人の死によって再会し、家庭、仕事、人生を考える話です。主人公は37歳、職業は教師です。

そして、次の “ライオン先生” も高校の教員の話。ドラマになっていますので、ご存知の方も多いでしょう。ユーモアもあり、印象的です。

最後の “未来” はいじめと自殺に関する切ないストーリー。きっと重松氏がもっとも心を砕いて描いたのだと思います。自殺した生徒の遺書により、その加害者とされてしまった生徒の家庭、その葛藤について描いた内容です。


いずれも教育、家族、生きることをテーマにしたものですが、重苦しい感じではなく、むしろすがすがしさを感じます。日常から離れた夏休み、生徒たちに味わって読んでもらいたい一冊です。

読書感想文にもしやすいと思います。



P.S. 受験生諸君は先生たちと教室にこもって勉強!休み中のいろいろな体験が子どもを成長させますが、何年かに一度だけ、勉強漬けの夏、読書漬けの夏も、子どもを大きく、とっても大きく成長させます。



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カカシの夏休み (文春文庫)
重松 清
文藝春秋

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『謎の哲学者ピュタゴラス』 左近司祥子

2007年08月11日 | 教養

 

謎の哲学メピュタゴラス.jpg


三平方の定理で知られる数学者 “ピタゴラス(本書ではピュタゴラス)” ですが、本当に三平方の定理を生み出したのが彼であるという文献は全く残っていません。自分では何も書物を残していないのです。

ピュタゴラスだけでなく、そもそも歴史上の偉人といわれる、同じギリシャのソクラテス、中国の孔子や孟子、さらにキリストや釈迦も弟子の書いたものしか残っていません。

書けなかったわけではありません。同時代やその前の時代の書物は残っていますから、謎です。 

とりわけピュタゴラスは紀元前6世紀という大昔であることと、謎の新興宗教のようなものを作って活動を続け、最後は焼き殺されてしまうという事態に追い込まれてしまったため、いっそう不可解な人物と言えます。『万物は数字である』という思想を持って活動をしたことはわかっています。   

筆者は乏しい文献にあたりながら、ピュタゴラスがその後の哲学者達に与えた影響などについて考察をします。ピュタゴラスはその後の思想の“地下水脈”とまで言っています。

他にもソクラテス、プラトンアリストテレスプロティノスの思想を紹介します。


目次は以下のとおりです。


第1章 ギリシャでいちばんユニークだった哲学者(古代ギリシャの哲学者群;エンペドクレスの活躍 ほか)

第2章
 同時代人の見たピュタゴラス(ピュタゴラスと「ピュタゴラスの定理」;同時代人の証言 ほか)

第3章
 ピュタゴラスをソクラテスに語らせるプラトン(プラトンの描くソクラテスの変節;ピュタゴラス的言葉を使って語るソクラテス ほか)

第4章
 アリストテレスが映した奇行と奇妙な戒律(アリストテレスとピュタゴラス;プラトン説に反論するアリストテレス ほか)

第5章
 思考の地下水脈となったピュタゴラス(プラトンからプロティノスへ;プロティノスの魂論 ほか)


数学と哲学と宗教が一つになっていた時代。学問はやはり命がけですね。受験生諸君!命がけの勉強、読んでみて下さい。



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謎の哲学者ピュタゴラス (講談社選書メチエ)
左近司 祥子
講談社

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『半落ち』 横山秀夫

2007年08月07日 | 小説

 

半落ち.jpg


いまさらですが…、ミステリーついでに『半落ち』です。だいぶ前に読みました。

ミステリー作品に対して贈られる何か大きな2つの賞(名前を忘れました)を同一作品で独占したのは本書が初、とか何とか新聞に書いてあり、実際に長期にわたり、あまりにもよく売れているので読んでみました。

警官の妻殺し、そしてその後、自首するまでの空白の2日間のなぞをめぐり、事件にかかわる6人の男、警官、検察官、裁判官、弁護士、新聞記者、看守の視点が描かれています。各々の立場や、仕事などの微妙な関係がうまく描かれており、飽きさせませんね。

ほどよい緊張感を保ちながら、読者を最後まで引き付けておく力はすごいと思います。そういう良質なミステリーですが、あまりにも騒ぎが大きく期待しすぎたために正直、もうちょっと何かほしい気がしました。


最後の謎も “すごい!” というような驚きではなく、“な~るほど” という感じだと私は思いましたが、どうでしょう。

登場する6人も各々魅力的ではありますが、同タイプですね。家庭や職場に問題を抱えながらも、この事件には自分の信念なり夢をかけて取り組むというスタイルです。

それが物語全体に広がりを持たせるようにはあまりなっていないと思うのですが…。それにしても、なぜこんなに売れるんだろう、とず~っと思っていたのですが急に、『あっ、プロジェクトXに雰囲気が似てる』 なんて勝手に思いつきました(笑)。


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半落ち
横山 秀夫
講談社

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『記憶を埋める女』ベトラ・ハメスファール 畔上司(訳)

2007年08月06日 | 小説

 

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夏の夜の怪談ではありませんが、ミステリー好きの高校生が夏休みにいどむ長編というにはぴったりの本をご紹介しましょう。ドイツのミステリー小説です。女性作家ベトラ・ハメスファールの最高傑作と評されている一冊です。


ある夏の日の午後に事件が起こります。

主人公である二十代の主婦コーラ・ベンダーは、夫と幼い息子とともに湖畔に遊びに出かけます。隣では二組のカップルがラジカセで音楽を聴いています。

その時、ラジカセの音楽が変わると、突然コーラは二組のカップルのうち、女と抱き合っていた男に向かって絶叫し、もっていた果物ナイフで男をめった刺しにしてしまうのです。

男性は即死、コーラはその場で逮捕、連行され取調べを受けるのですが、その中で自分の記憶の中に閉じ込めておいたものが噴出します。その供述は妄想と虚偽だらけ、ときおり錯乱状態に陥り意味不明の話を始める有様で殺人の動機はまったく見えてきません。

おそろしく残酷な話ですが、結婚、家族、宗教、暴力、児童虐待、性、、身障者の問題を投げかけてきます。狂信的な母、臆病な父、いつ死んでもおかしくない重病の妹、児童虐待、麻薬、近親相姦、売春、キリスト教、地下室…。


何が真実で何が虚偽?殺意の真相とは…。主人公の家族、恋人、警部、弁護士、精神鑑定医、隣人などがさまざまな思惑を持って登場してきますが、取調べや精神鑑定、夢の中で次々と前の証言と矛盾する出来事が飛び出します。


実はヒントはいろんなところにばらまかれているのに、知らずに読み進めて通り過ぎていることをあとから気付かされます。(というか普通気付かないよなと思いますが、どうでしょう(笑)。)


600ページを超える長編ですが、きっとミステリー好きなら、夢中になって読み進められる作品でしょう。いったい真相がどうなっているのか、読者の頭をぐらぐらゆすっておいて、最後には一つの見事なストーリーとなっています。


と、偉そうに書きましたが、正直に申し上げると、私の場合も、一度読んだ時にはどうもすっきりしなかったので、しばらくたって、二度目を読むと上述したことに気付いた次第です。

読む側にも訓練の覚悟が必要な一冊でしょうか(笑)。それにしても、こういうストーリーをよく思いつくものだと感心させられた一冊です。



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記憶を埋める女
ペトラ ハメスファール,Petra Hammesfahr,畔上 司
学習研究社

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『「みんな」のバカ - 無責任になる構造』 仲正昌樹

2007年08月02日 | 新書教養

 

みんなのばか.jpg



きっと安倍首相の現在の気持ちが、この書名ではないでしょうか。

それにしても今回の参議院の選挙結果。ついこの前、衆議院選挙で歴史的大勝利をした自民党が、今度は歴史的大敗北…。

安倍自民党が負けた要因を挙げるのには苦労しませんが、社会が短期間に変わったわけではないのですから政治の厳しさを痛感します。


小泉首相時代の、衆議院選での大勝利の立役者、今回も見事一人区で当選を果たした世耕弘成氏の『プロフェッショナル広報戦略』をご紹介しましたが、今回はどうにもならなかった、広報がどう戦略をねろうとも手に負えない事件が次々とあったということでしょう。


さて、今回もタレントを含め、さまざまな経歴の方が出馬されましたが、 「みんな」 の代表として選ぶのが選挙ですが、選ばれるのはもっとも「みんな」とかけ離れたような性格の人ばかり だと思いませんか。


本書の副題は 「無責任になる構造」です。ヘンな題名で、筆者も認めているように、ややとりとめのないエッセーのような、現代思想入門のような一冊ですが、おもしろく読めました。

私たちが頻繁に用いる「みんな」という言葉についての考察です。

どうご紹介したら良いのか迷ってしまいますが…、 「みんな」という言葉は、社会における無責任体性をもっとも象徴的に表している言葉という認識でしょう。みんなで首相に推薦したけど、流れが変わればみんなで降ろそうとする。

「みんなで決めようよ」 とか 「赤信号みんなで渡れば~」 と言う時は、当然、自分もみんなに入りますが、「みんなが私をいじめる」とか 「みんな分かってくれない」 の時は自分はみんなには入っていません。

その都合によって “We” にも “They” にもなる言葉を日本人は使い分けているのですが、いつも変わらずに存在する 「私」 は 「みんな」 なるものをどのように意識しているのか、あるいは無意識に影響を受けるのでしょうか。


例えば、「みんな」とは違うんだというところを見せたくて、ファッションでも、情報でも競って手に入れようとする時、それこそまさに「みんな」に向かって自分を受け入れるように働きかけているという矛盾が起きます。わかりますかね

以下が目次です。


1章 「みんな」って誰?(「みんなやっていることやないか!」;「赤信号」の法則 ほか)

2章
 「みんな」の西欧思想史(法とは「みんな」の意志である;「みんな」による「みんな」の支配・全体主義 ほか)

3章
 「みんなの責任」をどうするか?(「みんなの責任」の範囲;「自分で語ることのできない他者」への「責任」 ほか)

4章
 「みんな」と「わたし」の物語(「みんな」から押し出された「わたし」;「わたし」が「みんな」から目覚める時 ほか)

5章
 そして、「みんな」いなくなった!(「みんな」はいつまでも「みんな」なのか?;危ない時に出てくる「みんな」 ほか)


私は仲正氏の本が結構好きなのですが、本書はあまり評判がよくないようです(笑)。先日ご紹介した、『新書365冊』 の中で、宮崎哲弥氏が評価していた程度でしょうか。

ただ、選挙のたびに、投票率を聞くたびに思い出す一冊です。この紹介文こそ“とりとめのない”ものになってしまいましたが、目次がおもしろそうだと思われましたら、手に取ってくださいね。


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「みんな」のバカ! 無責任になる構造 (光文社新書)
仲正 昌樹
光文社

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