本を読もう!!VIVA読書!

【絵本から専門書まで】 塾講師が、生徒やご父母におすすめする書籍のご紹介です。

『日の名残り』カズオイシグロ

2006年03月30日 | 小説

私が高校生たちに薦める小説の中で、自分もとっても気に入っている一冊です。ディケンズやオーウェル同様の名文家で、英語が得意な生徒には本書の話をしたり、原書を見せたりしています。

カズオイシグロは日本生まれのイギリス育ちですが、今やイギリスを代表する大作家であり、その地位を築かせたのがこの小説だと言われています。

名家の「執事」(高校生には“執事”というのが死語ですね)の目を通して、失われつつある伝統的イギリスを語ります。非常に格調高い言葉で書かれており、逆に言えば堅いのですが、読み進めるうちに、英国調の婉曲的な表現が心地よくなるから不思議です。

原書の方も、しばらくの時間辛抱して手に取ってみますと、きっと自分の受験英語はなかなか“高級な読み物”に役立つようにできているのだなと実感できると思います。『読めた!』という、できれば物語と自分の英語力、二重の感動を味わってもらいたいのです。

上流階級の屋敷で催される、歴史に影響を与えるような様々な会議、打ち合わせ、それを取り仕切る執事の姿をイギリス人気質を見せる形で描かれています。そしてその執事は、屋敷がアメリカ人の主人に代わったところで、旅に出ます。その後のストーリーもすばらしい。

是非お読み下さい。

日の名残り

早川書房

詳細

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『日の名残り』カズオイシグロ
早川epi文庫:365p:756円

『東京アンダーワールド』ロバートホワイティング

2006年03月30日 | ノンフィクション


戦後の日本経済と政治を裏側から見たノンフィクションです。戦後生まれの我々にとって最も衝撃的な内容は、ついこの前までヤクザをはじめとする裏社会の支援なくしては日本の総理大臣には絶対なれなかったということではないでしょうか。 

戦後「反共」という戦いの中で、アメリカ(CIA、マフィア)、自民党、右翼、ヤクザ、財界ががっちりとつながっている様子が、一人のイタリア系アメリカ人ニックザペッティの生涯を紹介しながら語られています。

彼は戦後のどさくさのなかで来日した“チンピラガイジン”です。彼が裏、表両方のビジネスで大成功をし“六本木の帝王”“東京のマフィアボス”と呼ばれるような大物となり、やがて失意の中で亡くなっていく姿ですが、そこにかかわりを持つ人脈は目も疑うほどの大物ばかりです。 

このつながりの中で、ロッキード事件、リクルート事件他、数多くの贈収賄や自殺、殺人事件が語られています。調査になんと10年もかけたと言われていますが、なるほど膨大な資料と緻密な調査がなされている様子がわかり、貴重な歴史的証言が数多く含まれているように思います。

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東京アンダーワールド

角川書店

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『日韓大討論』金完燮、西尾幹二

2006年03月29日 | 外国関連
 

新しい歴史教科書をつくる会の内紛が終息し、どうも元のさやにおさまるらしいのですが、大功労者である西尾氏とは、会は距離を置くことになったとの報道でした。一体何をしているのでしょう?それはともかく…。

『親日派のための弁明』を書いて、日韓両国に衝撃を与えた金完燮(キムワンソプ) 氏と『新しい歴史教科書』の西尾氏との対談です。西尾氏の本は何冊か読んでいますが、その主張は本書でも同様です。一方、金氏の発言には驚かされます。

『親日派のための弁明』も瞠目に値する内容にあふれていますが、本書は明らかにそれ以上だと思われます。というのも今回は対談という形式であるため、「私の考えでは~」「正確に調べていませんが~」という断りを付けながらも、私にとっては、より斬新な歴史感を披見しているからなのです。悪い言い方をすれば、私のような素人には荒唐無稽です。

『親日派のための弁明』における驚きは、新しい歴史解釈にあるというよりも、それが韓国人の口から出てきたという点にあって、日本人学者の見解と重なる部分がありました。しかし本書では、西尾氏も何点か反論しながらも金氏に対して驚いている発言があるのですが、新しい主張をいくつもされています。実に好奇心を刺激する歴史対談です。

西尾氏の知識、勇気もすごいと思いますが、金氏の視点は何のバイアスもかかっていない不思議さ、奥深さのようなものがあります。同じく韓国人である呉善花氏は(私は好きですが)単に親日家という気もします。金氏はそれとは異なって真実の探求にエネルギーを注いでいる、さすが物理学者だなと思わせます。彼にとって、親日家、あるいは愛国者などというレッテルは誤解を招くだけなのですね。ぜひお読み下さい。歴史に詳しい方のご意見もうかがいたいと思った次第です。

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日韓大討論

扶桑社

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『センター試験英語リスニング合格の法則(基礎編)』木村達哉

2006年03月29日 | 英語リスニング
 

今年のセンター試験からリスニングテストが導入されました。こちらの教室でも本格的にリスニング講座をはじめましたが、その折に相当数の類書を買い込んで研究しました(赤字になりそうなくらい)(笑)。

それぞれ評判になったリスニング対策の本の書評というか感想を書きます。

まずはもっとも有名な灘高キムタツこと、木村達哉先生が出した本書です。リスニング用のテキストというのは、高校や予備校の先生が書いたものと、より専門的に音声学などを基本にした大学教授や研究書などが出したものがあります。本書は前者ですね。

灘高ということから、東大や一部私大レベルの受験生が期待すると、あまりの易しさに落胆しかねません。本書はあくまで『センター試験』のしかも基本問題中心の対策本です。例えばわざわざ

★heardは『ヒアードゥ』ではなく『ハードゥ』と発音する★とか
★May I ~?は『~してよろしいですか?』と許可を求める際の表現★

と記述してあり、高校入試レベルでの基本まで書いてあります。さすがに大学受験生なら大丈夫でしょう。灘高の授業とは思えません。従って本当の基礎からやりたい人には、かゆいところに手の届く一冊といえます。ただそれならば、覚えるべき会話表現などを一覧などにして、集中的に聞かせる、音読させるような構成の方が学習効果が高いと思います。

もちろんセンターレベルにまで高めようとしているのですから、さらに高度で、受験生が陥りそうな解説も満載されています。ただし、本書はDay1からDay14で構成されており、つまり2週間で仕上げようとしているのでしょうが、それはムリというものです。heardの読みレベルから学ばなければならない生徒は、一年間毎日やるくらいの量がなければ、センター試験の高得点は不可能だと私は思います。

良い点は本書は音読ができるようにCDが工夫されていることです。リスニングができるようになるためには、発音できなければならない。このことは多くの生徒、ひょっとしたら教師まで見落としている点です。その意味では高く評価できます。

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灘高キムタツのセンター試験英語リスニング合格の法則 (基礎編)

アルク

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『ノーザンライツ』 星野道夫

2006年03月29日 | エッセイ
 
 
野生の王国「アラスカ」に、核実験場を作る計画があったことを知っている方は、どれほどいらっしゃるのでしょうか。私もまったく知りませんでした。

米ソが核兵器配備をめぐり暗闘を繰り広げた1960年代、野生動物の宝庫「アラスカ」も、この戦いから無縁ではいられませんでした。

一時は実験場に決まりかけたアラスカを、放射能から守るために立ち上がったのは、自然を愛する名もなき市民運動家たちでした。小さな運動が、やがてエスキモーまで巻き込んだ一大ムーブメントとなり、極北の地を核から守りきるのです。本書は、随所に美しい自然の様子を盛り込みながら当時の経過を記しているため重たい内容を感じさせないものになっています。

筆者は、後にロシアで非業の死を遂げた動物写真家だけに、自然に対する愛情が行間からひしひしと感じられます。

世俗的な生活から抜け出せない私は、アラスカを訪れたことはもちろんありませんし、アラスカへ行くという考えすら浮かびません。ただ友人の一人が毎年のように何十万円というお金を払ってアラスカへ行くのです(決して裕福な生活を送っているわけではないのに、失礼!)。本書はその友人に紹介してもらいました。

なお、タイトル「ノーザンライツ」とは、オーロラのこと。読後に爽快感が残る一冊です。私の部屋にも星野氏のカレンダーがありますが、早過ぎる死を惜しむのは当然として、夢のような世界があるのだという活力を与えてくれる気がします。


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ノーザンライツ

新潮社

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『父の遺した言葉』 吉村作治

2006年03月28日 | エッセイ
 
驚いたことに、考古学者で早稲田大学教授の吉村氏が、来年開校予定の、日本サイバー大学の学長に就任されるというニュースがありました。氏がまだ早稲田の助教授の頃、テレビで、教授になれない理由を問われて、

“教授会が推薦してくれればなれるのですが、私のようにしょっちゅうテレビに出ている人間はダメ。早稲田の頭のかたい教授連中にはわからない。大学を批判したり、目立つ人間は絶対、教授になれません”
というような発言を聞き、感心したのを思い出すのですが、その後教授になられたのに、辞めてしまうそうです。3年後くらいに軌道に乗せたいというコメントが新聞に載っていました。すばらしいですね、チャレンジ精神が。

本書は、吉村氏が自分の父親について書いたエッセーです。親子関係というのがどうあるべきかというのは、それぞれの家庭の考え方次第ですが、吉村家の父子関係はきっとどこから見ても実に魅力的でしょう。

友禅染めの職人であった父親の言葉が、還暦を過ぎた自分によみがえっているようです。現在の自分は、知らず知らずのうちに父親の影響を強く受けていたということでしょう。文章が読みやすいためか、そのお父さんのお姿が私の頭にも浮かぶようです。とってもとっても優しくて、礼儀にだけうるさいお父さんなんです。ちょっと信じられないほどです。お母さんの話も印象深いです。

少し前に、本書の一部がラジオで朗読されたのを聞き、どうしても続きが読みたくて、すぐに購入して読みました。

本当に期待以上でした。お薦めします。

ちなみに、当教室にも浪人生が通ってくれていますが、みんな一浪です。
吉村氏、実は四浪しています。根性が違います(笑)?

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父の遺した言葉

ポプラ社

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『英語を子どもに教えるな』市川力

2006年03月28日 | 英語関連書籍
 

筆者は教育学博士ですが、アメリカで学習塾の出先機関として日本人子女の学習を見てきています。これだけ英語の重要性、有用性が語られる中で、自分が海外赴任ともなれば、自分の子どもをバイリンガルに育てたいというのは親の情です。子どもは子どもで、宇多田ヒカルのようになりたがります。

当然、早ければ早いほど良いだろうと考えるのが今や常識みたいになってしまい、英語早期教育論が活発になり、小学校での英語必修化も進みそうです。また、早期教育を売り物にしている教育機関は、その有効性を、大抵脳の仕組みに関連付けてもっともらしい理論を振りかざします。

ところが、筆者は実際にバイリンガルになろうとしても、それが失敗してしまう例をイヤというほど見せ付けられます。バイリンガルと呼べるまでになるには、本人や家族の不断の努力、さらにそれに適した環境がすべてそろわなければならないと主張し、それは極めてまれであると述べています。

成功例、失敗例を数多くあげています。本書は、一塾講師の単なる印象論ではなく、本来の国際教育、国際人とはどういうものかまでを考察し、多くの専門書などを引用し、説得力を持たせています。また、脳の仕組みについても解説し、早期教育の重要性をうたう宣伝のいかがわしさも指摘します。

最近、やっと『何よりもまず国語だ』『小学校の英語必修は国を滅ぼす』と主張されている、藤原正彦氏にも注目が集めはじめました。しかし、昨日の報道によれば、中教審が、全国一律小学校5年生から週一回程度の授業をする方向で答申をまとめました。

週一回ではおそらく何も効果はないでしょうし、教える側の問題も解決されていません。私は必ずしも小学校の英語導入に反対ではありませんが、英語習得の困難さをきちんと認識して欲しいと思っております。ですから現在のあまりにも安易に、世論に迎合した形での制度化は望ましくないと考えております。

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英語を子どもに教えるな

中央公論新社

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『英語を子どもに教えるな』市川力
中央公論新書(中公新書ラクレ):280p:798円

『合格パズル(1)~(4)』宮本哲也

2006年03月28日 | 中学受験関連【算数・国語参考書など】

 
私立中学受験の学習塾を主宰し、脅威の合格率で開成、麻布、栄光、駒東、筑駒、フェリスなどの一流中学に合格させてしまう算数のカリスマ教師、宮本氏。氏の教育観は『強育論』に記されています。ご父兄には強育論もお薦めですが、氏が出しているこの合格パズルシリーズは小学校中学年の訓練にピッタリです。

当教室でも小学生にやらせていますが、非常に反応が良く、お薦めです。宮本氏の塾では、小学校3年生にはパズルしかやらせないというのですから、徹底しています。 特に上位校を目指す生徒にとっては、計算力があるレベルに達した後の思考力が勝負で、我々塾講師も日々、過去問を参考にしながら、どのように思考力を発揮させるか、テキスト作りに腐心する点です。

受験学年でも、勉強の合間に利用すればその訓練になるはずです。 小学生の学力強化には百マス計算もいいのですが、あくまで計算力に主眼が置かれています。個人的には陰山英男先生の教育観はすばらしいと思っていますが、本屋さんの店頭から百マス計算の本が消えてしまったのは、やはり百マスは継続させるためには、親や教師にかなりの工夫が必要で、子どもだけでは難しいという欠点があります。その点が本書のパズルは勝れています。 じっくり考える、おもしろさという点ではこちらが上です。

ところで、アメリカ人はクロスワードパズルが大好きですが、今、そのアメリカでも日本生まれの数独(SUDOKU)というパズルが大流行。主要な新聞の多くがそれを載せているという報道がありました。もちろん合格パズルの方がよくできているのですけどね。

合格パズル (1)

東京出版

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『合格パズル(1)』宮本哲也

東京出版:80p:500円


『分断されるアメリカ』サミュエル・ハンチントン

2006年03月28日 | 外国関連

移民の国アメリカでは、“不法”だけで毎年85万人もの移民がいるそうです。

日本人の感覚であれば『不法』移民の取締であれば、何の問題もないはずですが、人口の半分をヒスパニックが占めるロサンゼルスでは25日、デモ隊が「米国は移民でできている」「我々はテロリストではない」といったプラカードが目立った。

これまで異常なほど移民に寛容であったアメリカ。世界中から疲れきった人々が安住の地を求めて、メルティングポット、サラダボールと言われながら、覇権を握ってきたアメリカに、とうとう限界が見え始めたのかという気がしました。

その流れをはっきり予感させてくれたのが本書です。『文明の衝突』で世界を驚かせたハンチントンが“自分の国”アメリカを分析、憂いをこめた一冊です。文明の衝突も衝撃的な本で、日本人はこの大歴史学者の『日本文明は中華文明とは明確に異なる』という指摘に意を強くしました。911テロ以前にイスラム教とキリスト教の対立をはっきり予見しました。

デモのニュースは、またまた本書の予見が当たるような気にさせました。文明の衝突よりも平易な言葉で書かれています。

“アメリカは理想の国ではないが、建国の理念は理想的だ”そして“その民主主義国家アメリカを維持しようとすれば、どうしてもプロテスタント(白人)中心の秩序が必要だ”というようなジレンマを表明します。そうしなければアメリカは白人、黒人、ヒスパニック、アジア系に別れてしまし、学校教育すらばらばらに分断されてしまうということです。

人種差別主義者という批判を甘受してでも書くのだという危機感があるのでしょう。私は、アメリカという国は、まだまだできたばかりで、今後変化の余地がかなりあるのだと思わされました。

原題は『Who are we?』。私たちは何者なのか、というのが氏の問いかけです。

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分断されるアメリカ

集英社

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『分断されるアメリカ』サミュエル・ハンチントン
集英社:586p:2940円

『ゲーム理論トレーニング』逢沢明

2006年03月27日 | ビジネス書・マスコミ関連
ゲーム理論という言葉は少し前から知っていて、テレビゲームが好きな私は、おもしろそうなものがあるなぁと思っていた程度のですが、その新しい理論でノーベル賞(経済学)を取ったと聞いて“あれ?学問かい?”と認識を改めました。

難しそうだったので、敬遠していましたが、別の本で「ゲーム理論をここであてはめると~」などという記述に何回か出くわして、易しそうな本で勉強してみようと思い本書を読んでみました。 

非常におもしろかったです。著者の逢沢氏はクイズの大家でもあるらしく、氏の工夫がところどころに感じられ確かに素人でも楽に読み進められます。ただし頭は使います(当然か)。

ジャンケンの必勝方法は?囚人のジレンマ。野球でバッターは何の球種を待つか、ピッチャーはどうねらいをはずすか、好きな子に告白すべきか、待つべきか。大企業が独占している市場にどのように割り込むか。

戦争、スポーツ、ビジネス、恋愛など様々なかけひきや勝負を扱います。本格的なゲーム理論では確率などもっともっと数学的な計算が必要らしいのですが、本書はそのあたりを簡単な数に置き換え考え方だけに的を絞った解説をほどこしています。

ポイントは常に“相手”がいるということです。相手にも勝負に勝とうとする意図があるということ。昔あった水平思考とかいうものに似ているのかなと思いました。副題は「あなたの脳を勝負脳に変える」、私の頭が勝負脳に変わったかどうかは別にして、非常に興味を持たせてくれましたので、別の本でも勉強してみたいと思います。

またどなたか、良い本をご存知でしたらご紹介いただければありがたいです。

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ゲーム理論トレーニング

かんき出版

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『急がされる子どもたち』ディヴィッドエルカインド

2006年03月27日 | 教育関連書籍
 
大人が気が付かないうちに子供に与えているストレスやその対処を解説したものです。例えば、親の愛情からとはいえ、年齢不相応に大人びた服装をさせるとどうなるか。また高級品を与える(特に時計)というような行為は、たとえ本人が喜んでいようとも精神的なストレッサーとなるというのです。大人のような行動をしなければならないという感覚だそうです。

またテレビで暴力シーンや性描写を見てしまうというのも、単に未成熟な子供が真似をするという次元ではなく、自分、大人、あるいは社会に対する得体の知れぬ恐怖感を与える、というようなことを説明してくれます。他にも様々な分かりやすい例を数多くあげています。

筆者は著名な心理学者で本書は第三版に当たりますが、第一、ニ版はアメリカでもベストセラーになりました。アメリカでは依然として離婚、校内暴力そして過度の商業主義などの問題が子どもたちに深刻な影響を与えていると考えられています。アメリカほど深刻ではないとしても同様の傾向が日本にも見られます。

低俗なテレビ番組や過激描写をするゲーム、高い離婚率、子どもに株式投資をさせるなどが話題になっています。やはり子どもは子どもらしく過ごさせるというのは、健全な子どもを育てるための大人の知恵だったのだという気がしてきます。

ゆとり教育の狙いは本来、本書に書いてあるような思想のもとに行われたのでしょうが、授業を減らしたり、宿題を無くしてしまったら、子どもたちの興味はますます大人の期待と反対方向へ行ってしまう気がしました。

急がされる子どもたち

紀伊國屋書店

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http://blog.goo.ne.jp/tokkun-book/

『急がされる子どもたち』ディヴィッドエルカインド
紀伊国屋書店:321p 2415円 

『教育改革の幻想』苅谷剛彦

2006年03月27日 | 教育関連書籍

前回の報道2001のアンケートで、驚いたことに70%以上の人が、所得の格差が、子どもの受ける教育に差をつけてしまうと答えたそうです。一億総中流意識はすでに過去のものになってしまって、格差社会という意識がここまで浸透しているということですね。

このことを分かりやすく警告したのが、苅谷氏ではないでしょうか。日本の教育改革のキーワードとなる、みんながハッピーになれるかのような、「ゆとり」「新しい学力観」「生きる力」「総合的な学習の時間」などに対し、本書で豊富なデータ、外国の失敗例をもとに、大いなる疑問、警句を発しています。

文部科学省の掲げる教育論は、情緒的な理想論、感情的な空論に過ぎないことが明確に指摘されています。美辞麗句で彩られた「理想の教育」というものに惑わされてはいけないことを読者に痛感させ、いまさらながら文部科学省の教育改革案の杜撰さ、洞察力の欠如が見事に浮き彫りにされています。

小中高生の子供を持つご父兄方がお読みになれば、現在の公教育を注意深く見守り、学校で何を学習してきたのか、基礎は出来ているかなど家庭でのチェックが必要になってくることを実感されるでしょう。場合によっては、足りない部分を家庭で補うといった事も現実味を帯びてきます。もはや学校では、単純に知識としての学力を付けさせることは出来なくなるという現実が突きつけられています。

本書が、親として我が子の教育環境をどのように与えるべきか、目指すべき理想の教育とは何か、そして公教育がどうあるべきかを考えるきっかけとなって欲しいという筆者の願いが多分に含まれているのではないでしょうか。たとえ子供の学力評価が多種多様になっていく時代であっても、純粋に学問、知識としての学力を正確に把握していかなければ、取り返しのつかない事態に発展してしまうであろうことが容易に想像できます。

本書はゆとり教育導入直前あたりに書かれたのですが、その目の確かさに驚かされます。すでに東大の親の収入がかなり高いということを知らしめたのも苅谷氏でした。いずれにしろ、結果の平等でなく、教育の機会の平等がしっかりと保たれるように、進める必要がますます高まっていると言えそうです。

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『バカのための読書術』小谷野敦

2006年03月26日 | 新書教養
 
“バカの壁”の影響でしょうが、あまりタ好きなタイトルではありません。でもおもしろかったです。

書名が言いたいのは、小難しい言葉を操り、内容のない本をありがたがって読むようなことはやめて、専門家の難解な言葉が分からなくても、良書はたくさんあるのだから、それを読んで自分を高めればよろしいということだと思います。

筆者もご自分のことをー 「難しい本」がわからない「バカ」ーと語っています。まぁおもしろいことがいろいろ書かれているのですが、本書で、“有名で人が薦めるだろうけれどバカが読んではいけない本”として、いくつかのリストが挙がっていますのでご紹介します。

パスカル『パンセ』:ほんの一部知っておけば良い内容。
山本常朝『葉隠』:忌むべき死の美化をした。
夏目漱石『文学論』:壮大なエネルギーの無駄。
小林秀雄のほとんどすべて:評論文を非論理的にした元凶。
折口信夫『古代研究』:日本語の体をなしていない。
吉本隆明『言語にとって美とはなにか』:読解不能。
バタイユ『エロティシズム』:意味不明。
フロイト『モーゼと一神教』:ユダヤ教以外無意味。
ユングのすべて:オカルト。
河合隼雄『昔話と日本人のこころ』:学問的意味のない思いつき。
中沢新一のすべて:いんちき。

小谷野氏は、本当に論壇や文壇のもたれあいに容赦のない批判を浴びせます。なるほどと思った指摘は、学者などがある本の書評などを頼まれた場合、著者が知っている人であれば『くだらない』とは書けない。とりあえずほめておくことで貸しもできる、というような内容です。

このブログでも『禁煙ファシズムと闘う』をご紹介しましたが、出てきて正々堂々論争しよう、という態度は一貫していますね。私が読んで面白いと思った本も、読んではいけないリストに入っていたのは残念ですが(笑)。
バカのための読書術

筑摩書房

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『「不自由」論』 仲正昌樹

2006年03月26日 | 教育関連書籍
 

これだけ自由で無限とも思える選択肢を与えられている日本の高校生たちにも、なりたいものがない、したいことが見つからないという状況が蔓延しています。フリーター、ニートの激増は申し上げるまでもありません。

自主性を尊重するゆとり教育、何でも自己責任、自己決定というグローバリズム的な風潮。いったい本当に人は自由に意思決定をするものなのかがテーマです。

大学の教育学では、ほぼ確実に取り上げられ、先生たちにとても人気の高いルソーの『エミール』。ルソーの自然人に対して考察を加え、その取り上げ方を批判します。他に教育界で発言の目立つ、苅谷剛彦氏や林道義氏、宮台真司氏、佐藤学氏らの考えを哲学的、論理的に論評します(宮台氏とは別書で対談を収録したものも
あります)。

我々学習塾の現場では、志望校や進路決定はどこまでが、自分で決めたとはいっても、自分の属する共同体の脈絡の中で決めている、とか、医療現場におけるインフォームドコンセントと言っても、患者には高度な専門知識はなく、形だけの自己決定とか。他にも多くの例が挙がります。

ただし、本書を読んで、すぐに何かが分かるというのはない、あるいは分かったからといって、すぐに行動すべきだと扇動する気もないというスタンスです。私が読んだ昨今の教育関連の本の中では出色だと思います。


「不自由」論―「何でも自己決定」の限界

筑摩書房

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『バカなおとなにならない脳』養老孟司

2006年03月26日 | 絵本
 
『バカの壁』がそれこそバカ売れ、以来あまりにも次々と著作が出されて、とても読んでいられません。いくら良く売れるからといっても、こう立て続けに出されると、付いていけません。が、子ども用に良い本を見つけました。子どもの質問に答える形で書かれているのですが、子どものナイーブさにも、おもねることのない明確な答え方が印象的です。

彼らに対して、“それは君の考えが足りない”“屁理屈ばっかり並べても…”“そんなぜいたく言って…”など。『なぜまわりの大人はこんなことも教えないんだ』といういらだちも感じます。

実際に、あとがきで“子どもの質問の半分は笑って答え、半分は怒りながら答えていた。子どもにではなく、子どもをそうしちゃった大人に怒っている。まったく、なんていう常識を付けてんだって。”いうようなことが書かれています。

脳のしくみにからませての話もおもしろく、感心することしきりでした。

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バカなおとなにならない脳

理論社

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